ヘイ!タクシー!   作:4m

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W-Day07

「ん〜、はぁ・・・」

 

ボーッとテレビを流しながら、大きく上に伸びる

ダメだ、やる気が起きない

ひな先輩が買ってきたレトルトのお粥は昼に食べてしまったし、晩御飯になりそうな食材が本当にない

風邪は良くはなったが、外に買い出しにいくとなるとまた一手間かかる、病み上がりだしな

さすがにみかんゼリーが夕食というのもいただけない

 

窓から差し込む夕陽に照らされながら、俺はまたボーッと考えを巡らせていた

行くとなるととりあえず寝巻から着替えて、外に出て、下まで降りて、車に乗ってと、考えるだけで体がダルくなりそうだ

こんな時、誰かが家に居てくれれば・・・なんて

普段がどれだけ恵まれているかがよくわかる・・・が、考えても仕方がない、やらなくては始まらないのだ

 

適当な服をクローゼットにポツンと存在している三段ボックスから引っ張り出して着替え、何もない寝室の真ん中のテーブルの上にポツンと置いてある車の鍵を持って、玄関に続く廊下へと出る

 

さて、玄関の扉を開けようとしたその時、ピンポーンとインターホンが鳴った

俺は反射的に携帯を取り出して時刻を確認する

もう夕食時、いい時間帯だ

しかしまだ勧誘等がギリギリ活動している、テレビ関係とか新聞か?

たしかにいつも部屋にいないからその可能性は十分にある

めざとく俺の車があるのを見て来たのか、まったく、契約しないって前にも言ったのに

 

まぁいい、とりあえず断ればいいだけの話だ

俺は玄関の扉をガチャッと開けた

 

「はーい、どちらさm」

「・・・ハロー」

 

バタン

なんてこった、OLさんが部屋を間違えたようだ

それに女子高生の制服まで着ている幻覚まで見えた、今回の風邪は相当厄介だな

なに、しばらく待っていれば自分の部屋に帰るさ

 

ピンポーン

 

・・・またインターホンが鳴った

俺は恐る恐る扉を開ける

そこにはまぁそれはそれは青髪の似合う整った顔つきの美人なOLらしきお姉さんがこちらを睨みながら立っていた

 

「いきなりドアを閉めるなんて酷いじゃない」

「あー・・・保険ならもう職場ので間に合ってるんで」

「誰が保険のお姉さんよ」

 

奏がそう言った瞬間に俺はドアノブを引っ張り扉を閉じようとしたが、それよりも一瞬早く奏が足を扉と壁の間に挟み、扉が止まると同時に指を扉に引っ掛けて無理やり開けようとしてきた

 

「開・け・な・さ・い!」

「ダメだ・・・!お前こそ、とっととお家に帰りなさい!」

「ここまで来てそのまま帰ったら私の面目丸潰れなのよ!」

 

ギギギッと扉が開いたり閉まったりの攻防が続く

 

「何でそこまで強情なんだ・・・!」

「あなたの事が心配なのよ!」

「大丈夫だって言っただろ・・・!」

「そんな言葉だけなら誰でも書けるわ!」

 

隙間から奏がヌッと中を覗き込んでくる

 

「私も一人暮らしだからわかるのよ・・・!こういう時不安だっていうのが!」

「・・・ダメだ、お前に迷惑が掛かる」

「普段私たちの方が迷惑掛けてるんだから、こんな時くらい頼りなさい。ご飯とかないんでしょ?」

 

徐々に扉を掴む力が弱まっていき、最後にはお互い扉に手を掛けるだけになった

 

「ね?お願いだから。あなたが弱ってるのを見ると、何だか嫌な気分になるの」

「・・・」

 

完全に根負けした俺は、渋々扉を開いたのだった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ふぅーん、へぇ〜。なるほどなるほど・・・」

「おい、あまりジロジロ見ないでくれよ」

 

玄関に入るなりしゃがみ込み、壁の扉を開いて靴箱を確認し始める奏

 

「これならスペースが沢山あるから、色々な靴置いといても問題無さそうね」

「何企んでる」

「いいえ別に。お邪魔しまーす」

 

壁に手をついて片手で靴を脱ぎ、玄関の廊下へと奏は上がってくる

 

「ここが洗面所でお風呂・・・こっちは空き部屋なのね。綺麗に何もない・・・」

 

洗面所を覗き、次にお風呂と空き部屋の扉を開けてと熱心に中を覗き込む奏

まるで借りる前に部屋を下見する時のように、間取りなどを細かく確認していたのだった

 

「男の一人暮らしってこんなものじゃないのか?中々帰らないわけだし」

「それにしても物が無さすぎよ、不気味なくらいにね」

 

そう言いながら奏はトコトコと後ろをついてくる

リビングの扉を開けて中に入ると、上、下、左右と首を動かしながら、奏は興味深そうに眺めていた

 

「どうだ?面白味も何にもないだろ?女の子が興味ありそうな物は無いと思うけど」

「必要最低限のものは揃ってるのね、キッチン見てもいい?」

「だから何も無いって」

「そういうことじゃなくて、水廻りって結構大事よ。あんまり他の人のお家って見たことないから」

 

そう言う奏に許可を出すと、奏はバッグをリビングへ置いてキッチン、収納棚、冷蔵庫と順番に調べ始める

ゆかりの時もそうだけど、やっぱり女の子はそういうところが気になるんだろうか

コンロの数や、調理器具の種類、流し下の収納まで詳しく眺めていた

 

「調理器具は一式あるみたいだけど、調味料が一切無いなんて・・・」

「あっても帰ってこないからダメにするだけだ。ちなみにオレンジジュースも品切れ中だから」

「何でオレンジジュースが出てくるのよ・・・」

 

奏は呆れた様子でリビングへ戻り、俺の隣にストンと座り込む

 

「このリビングも中々広いからソファーでも置いたらいいのに」

「だから使う機会がないんだって」

「そういう機会が来たらどうするのよ、そのほら・・・彼女とか」

 

そう言う奏は自分の髪を少しイジりながら、恥ずかしそうに俺から視線を逸らす

心なしか耳が少し赤くなっているような、そんな気がした

 

「一緒に映画観たりするんでしょそういう時って。だからその時とかに・・・寄り添いながら、とか」

「・・・ふふっ、はっはっは」

「ちょっと!何で笑うのよ!しょうがないじゃない!経験無いんだから想像しかないのよ!あなたという人は!」

 

腕を振りかぶり歯を食いしばりながら俺の頭をバシバシ叩いてくる奏を押さえ、風邪引いてるからとひっつかないように離す

しぶしぶ奏も了承し、もう・・・と少し不機嫌そうに顔を逸らした

悪かったってと謝ると、一瞬こっちを向くがすぐ視線を逸らし奏は目の前のテーブルの上に頬杖をつく

 

「たぶんしばらくはそんな予定はないだろうから安心してくれ」

「・・・あなたそれ本気で言ってるの?」

 

奏はジト目でこちらを睨んできた

 

「先輩方はいつも会ってるし。お前たちくらいなもんだ、女の子で俺にちょっかい掛けてくる奴なんて」

「・・・は?''ちょっかい''?」

 

俺が奏に何か発言するたびに段々と奏は不機嫌になっていく

そんな奏はしばらく黙っていると、はぁ・・・とため息をつくとおもむろに立ち上がって自分のバッグから財布を取り出した

 

「・・・まぁいいわ、今はそういうことにしておいてあげる。で、まだ夕食は食べてないんでしょ?」

「よくわかったな」

「キッチンの様子でわかるわよ、食材は一切無いし、料理した跡もないし、それらしいゴミも無かったもの」

 

さすが女の子だ、そういうところもよく見てる

 

「何か作ってあげるわ、私もお腹空いたし。その為に押し掛け女房しに来たわけだしね。まずは買い出しだけど・・・」

 

押し掛け女房ってお前、久しぶりに聞いたぞ

 

「さすがにそれは悪い、買い物なら俺が」

「ダーメ、あなた病人なのよ。大人しく寝てなさい。ぶり返したらどうするの、私一人で大丈夫だから」

「もうほとんど治ってるし」

「いいから、じゃあ行ってくるわね。帰って来た時ベッドで寝てなかったら、私怒るから」

 

それだけ言い残すと、奏は玄関を開けて出て行ってしまった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ううぅ・・・」

「大丈夫だ蘭子、ボクたちは頑張ったんだ。それに風邪くらいでどうにかなってしまう人ではないだろう?またきっと元気に会社にやってくるさ」

「でも・・・沢山お世話になってるから、こんな時くらいご飯でも作ってあげようと思ったのに・・・」

 

女子寮へ続く道をボクと蘭子は二人でトボトボと歩いていた

結局あの後何度かHinaという人に挑んでみたが結果は惨敗、一度も勝つことなく終わってしまった

それどころか、たまたま来ていたみりあのほうが上手だという事実に二人驚愕していた

一緒に見ていたマキノも驚きの声をあげていたくらいだったし

 

「そうだ、今日はボクが何か奢ってあげよう!何がいい蘭子、お菓子かい?スイーツかい?今日の夜は楽しく語り明かそうじゃないか!世界の在り方について!」

 

いまだ落ち込んでいる蘭子を何とか励まそうとイチかバチかで言ってみたが、少し反応してくれた

ゆっくりと顔を上げて、こちらに微笑み始める

 

「・・・?」

 

しかし、ふと蘭子が前を向き立ち止まる

 

「どうしたんだい?」

「あれ・・・」

 

そう言って蘭子が指差したのは道の角にあるスーパーだった

 

「・・・おや?」

 

見覚えのある制服姿の女性がビニール袋を持ってスーパーの出入り口から出てくる

特にそれ自体には問題のない行為だが、違和感を感じていた

何故わざわざここまで買いに来るんだ?奏さんの家はまるっきし反対方向のはずだろう

 

「あのお買い物の量・・・ハッ、まさか!」

「蘭子?お、おい・・・蘭子」

 

突然蘭子に腕を引かれ、道路脇の電柱の影へと隠れる

 

「一体どうしたというのさ。隠れる必要など・・・」

 

そう蘭子に諭すが、蘭子は奏さんから目を離さない

懐から携帯を取り出して、スーパーの前で周りを確認するようにキョロキョロしている奏さんをカメラで撮っていた

 

「ふむ、深追いは禁物か」

「蘭子・・・?」

「然るべきところへ報告する!」

 

すると蘭子はどこかへと連絡を始めた

 

「飛鳥ちゃん!今日はスイーツ食べよう!」

「あ、あぁ。そうしようか」

 

ともかく、蘭子が元気になったようでよかった

何をしたかはいささか気にはなるが・・・

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