ヘイ!タクシー!   作:4m

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W-Day08

ガチャッと玄関の扉が開く音が聴こえた

続けてガサガサというビニール袋の音と共に靴を脱ぐ音が聴こえ、廊下を歩く音が聴こえる

普段聴き慣れない音に、ベッドから体を起こして、そのすぐ側の小さな台に乗っているテレビのスイッチを切り、その人物が入ってくるのを待った

 

「ふー・・・ただいま」

 

リビングの扉が開き、奏が姿を見せる

 

「おかえり・・・何だか慣れない」

「慣れてちょうだい。じゃないと調子狂っちゃうわ」

「俺の家に女子高生が帰ってくるっていう状況が既に狂ってるんだよ」

 

俺がそう言うと奏はふふっと鼻で笑い、ビニール袋をリビングのテーブルの上に置き、上着を脱いで自分のバッグの上に置いた

 

「色々買って来たわ。今ご飯作るから、もう少し待ってね」

「・・・ああ」

 

そして俺は完全に体を起こすと、頭の後ろをポリポリと掻く

 

「ねぇちょっと、すっごい髪型してるんだけど。シャワーでも浴びて来たら?」

 

近くにあった立てかけ式の小さな鏡で確認してみると、元々癖っ毛だった髪の毛がバクハツし更に凄いことになっていた

 

「あまり長く入っちゃダメよ、余計のぼせちゃうわ」

「わかってるって」

 

ベッドから降りてクローゼットの中にポツンとある三段になってるプラスチックの衣装ケースの引き出しを開け、下着と別のスウェットを取り出して、リビングへと向かう

奏はキッチンの調理台の上に買って来た物を並べて整理していた

今必要のない物は冷蔵庫へとしまい、調理器具を取り出して準備を始める

 

「携帯用のガスコンロってあるの?」

「ああ、キッチン下の一番右端の戸を開けたら入ってないか?」

「ええっと・・・あぁ、あったわ」

 

ゴソゴソという音と共にガスコンロを取り出してリビングのテーブルの上へと運んでくる

 

「もしかして・・・鍋か何かか?」

「当たり。棚の中に鍋見つけたから、これならお野菜も柔らかくなって食べやすいし、栄養も取れるかなって」

「ガスボンベあったっけか・・・前に姉さんたちが来た時に使ったのが残ってたような」

「それならガスコンロの隣に置いてあったわ。使用期限もギリギリ大丈夫よ」

 

オレンジジュースといい結構色んな物ギリギリだな・・・今度から考えて買わないと

 

「とにかく、早くシャワー浴びてきて。その間に出来るだけ進めておくわ」

「・・・ああ」

 

奏はそう言うとキッチンに戻り、野菜を洗い始める

そんな奏を見ながら廊下へと繋がる扉へ向かいドアノブに手を掛けると、ふと奏と目が合った

奏はこちらに向かってほんの少し微笑むと、顔を下に向け作業に戻るのだった

浴室へ行き、入り口の前で色々と考え始める

 

他人がこの部屋に居るっていうのは、何だか違和感だ

だが、みりあが帰った後のような喪失感はいつの間にか消えてしまっていた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

目の前でグツグツと美味しそうな出汁の香りを漂わせながら、鍋が煮立つ

外はすっかり暗くなり、カーテンを閉める

 

「今食材持っていくわ。悪いのだけど、ご飯を温めておいてもらえるかしら」

「ああ、わかった」

「レトルトでごめんなさいね」

 

俺は奏とすれ違うようにキッチンへ入り、パックに入ったご飯をレンジへと入れる

奏はテーブルの前に座るとトレーを置き、その上に乗せられていた食材を鍋へと入れるのだった

入れやすいように綺麗に切り揃えられている

 

「お肉がここで・・・白菜はここかしら。椎茸はここね・・・」

「俺きのこ苦手なんだよな・・・」

「好き嫌い言わないの」

 

仕切り板で仕切られたスペースへと色々な食材を投入していく奏

どれも出汁が染み込んでいき、美味しそうな湯気を立てていた

 

「それにしても、お前結構料理できるんだ」

「失礼な人ね、私も一人暮らしなんだから色々勉強したのよ。ある程度はね」

「ふーん」

 

そんな事を話しているとレンジが止まる

温められたご飯を持ってテーブルへと戻ると、奏は菜箸を使って鍋の中の食材を動かして取り分けやすいように面倒を見ていた

 

「一つ聞きたいんだけどさ」

「何?」

 

奏が食材を入れてる間、俺は食器を準備しながら奏に問い掛けた

 

「・・・あいつら、どんな感じだった?」

「大体あなたのご想像通りよ、デレぽをそのまんま表現したって感じ」

 

・・・あいつらに会うのが少し恐くなってきた

 

「あまり関わらないようにしよう」

「それは無理なんじゃないかしら。あなた、愛されてるもの」

 

淡々と答える奏だったが、ここに来たことがバレたらヤバいんじゃなかろうか

 

「そうね・・・私がここに来たことがバレたら、あの子たちとみっちり''お話''させられるんじゃないかしら」

「そうなったら言え、俺が言っておいてやるから」

「あら嬉しい、守ってくれるのね。うっかり惚れちゃいそうだわ」

 

会話を続けていると、鍋がいい具合に煮立ってきた

奏も菜箸で混ぜながら、納得する出来なのか小さく頷く

 

「さて、そろそろいただきましょうか」

「ああ、凄く美味そうだ」

「うふふっ、どうぞ、召し上がれ」

「いただきます」

 

そして俺はありがたく、奏が作った料理に手をつけるのだった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

『さて、最後の問題は・・・』

 

テレビのクイズ番組を横目で見ながら、俺は箸を進める

奏の鍋は味も丁度良く、とても食べやすかった

俺のために色々工夫してくれたのかもしれない

 

「やっぱり美味いわ、センスあるぞこれ」

「本当?嬉しいわ。椎茸はどうかしら・・・うん、自分でも中々に上手く出来たなんて思ってたの」

 

奏も箸を進めながら、美味しそうに食べている

 

「普段も集まって飯食ったりするのか?」

「ええ、よくご飯食べに行ったり、誰かの家に集まったりね。ホラ、私たちって出掛けの仕事が多いから、遅くに帰って来たりするのよ。終電逃しちゃったりした子を泊めてあげたり、その時に料理したりね。次の日が休みとかオフだったら、遅くまでお喋りしたりするの凄く楽しいわよ?」

「凄いな、まさに学生って感じ」

「でも、男の人に作ってあげたのって初めて。男っ気無いから、私たちって。だからアナタに興味津々なのかも」

 

そう言いながらイタズラっぽく笑うと、奏はコップに入ったお茶を一口飲む

 

「終電といえばさ、そろそろ時間マズイんじゃないのか?送ってくならそろそろ出ないと」

 

テレビのクイズ番組も終盤の雰囲気に差し掛かり、そろそろ夜の番組がスタートする頃合いになっていた

おかげで体調も大分良くなり、少し外に出るくらいなら問題ない

壁に掛けられている時計を確認していたが、奏はそれを全く気にすることなく鍋から自分の皿に取り分けてモグモグと食事を進める

年齢的に帰らないといけないのでは?

 

「・・・私、一人暮らしなの」

「いや、それはさっき聞いたけど」

 

すると奏は一旦箸を置いて、澄ました顔で答え始めた

 

「だから家に帰っても誰もいないのよ。多分帰って、お風呂に入って、一人で映画か何かを観て、そのまま黙って寝るだけだわ」

「一人暮らしってそういうものだろ?」

「それに、夜道を一人で帰るのは何だか心細い」

「いや、だから送ってくって・・・」

「病人にそんなことさせられないでしょう」

「もうほとんど治ってるし」

 

ここまでくると、奏が何を考えているのか大体予想がつき始める

奏もそれを察しているのか、薄らと笑みを浮かべていた

 

「・・・ダメだ」

「まだ何も言ってないじゃない」

「何を言うのか大体想像がつく」

 

そこまで言うと奏は顔の前で手を合わせ、口もとを指先で隠しながらボソッと呟いた

 

「泊めて」「ダメだ」

 

ほぼ同時だった

 

「前だって泊めてくれたじゃない」

「あれは不可抗力だったやつだろ。ガレージ

には他に大勢いたし、みんな親御さんに連絡してたしさ」

「ああ、それなら問題ないわ」

 

奏は懐から携帯を取り出すと、トーク画面を開いて俺に見せてくる

画面の上側には''お母さん''と相手側の名前が表示されており、そこにはズラっとトークが並んでいた

 

「お母さんも、あなたによろしくって」

「それは・・・相手が誰かを濁したってわけじゃないんだよな」

「ええ、前にガレージに泊まった話をしてから、あなたのことが気になってるみたい。よく私が話題に出してるからかしら」

 

それでいいのか速水母、その親にしてこの子ありってことなのか、中々に突っ込んだ母親だな

 

「そんなに俺の話してるのか、変なこと言ってないだろうな」

「あ、ああダメよ・・・!」

 

画面を少しスクロールしようと指が触れた瞬間、予想以上にトークが遡り、そこには鍋のレシピがズラッと並んでいた

ネットで調べたものをそのまま貼り付けたわけではない、奏のお母さんの言葉で細かく指示が並んでいた

奏は慌てて携帯を俺から遠ざけて、画面を自分の胸元に隠した

 

「お前、もしかして・・・」

「・・・そうよ。私だって細かい作り方なんて知らなかったわ。だから昔からの記憶を辿って・・・こんな感じかなって。だからこれは・・・速水家の家族の味っていうか。・・・何よ、笑いなさいよ。知らなかったわよ、ええ、笑いなさいよ」

「・・・」

 

俺は再びテーブルに向かうと、さっきの奏のように顔の前で手を合わせて一言言った

 

「ご馳走さま、すごく美味かった。また食わせてくれ」

「何よ、急に素直になって。何だか気持ち悪いわ」

「本当だ、俺は飯の事なら正直に言うって決めてる。味もそうだけど、作ってくれた事も、それまでに色々準備してくれたことも、一人で暮らすと余計感じる。どれだけ手間暇かかってるか、本当にありがとうな」

「ちょっ、や、やめてよ。恥ずかしくなるじゃない」

「将来いい嫁さんになるわ、お前」

「やめてってばっ・・・!」

 

奏は携帯を床に放り投げると、バシバシと俺の頭を叩いてくる

でもその顔は何だかニヤけていて、耳まで真っ赤になっていた

 

「それと、好きにしろ。帰るなり帰らないなり」

「・・・いいの?」

「ここまでしてくれたならな」

「寝巻き・・・借りるわね」

「ああ。さて、肉まだあったかな」

「さっきご馳走さまって言わなかった?」

「美味いからまた食う。いただきます」

「・・・もうっ」

 

奏は呆れたように、俺が食べ始めるのを見守るのだった

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