ヘイ!タクシー!   作:4m

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シルヴィア02

私はテーブルの上の資料を手に取り、次々と目を通していく

ジャパンプレミアは二週間後、都内の有名な劇場を貸し切って行われる

そこに主演キャストたちが集結し、様々なテレビ局、雑誌、新聞社等の記者達が集まって、試写会、インタビュー等が行われるのだそうだ

私もその試写会での挨拶、そして主演のリサ本人へのインタビューまでこなさなくてはならない

 

「ありす、映画は好きか?」

「ええ、好きですよ。邦画洋画問わず、演技の勉強にもなりますし。この前も、奏さんと文香さんと一緒に、巨大なゴリラが戦う怪獣映画と、告白させようとする邦画を見に行きましたが」

 

奏さんもその時の予告で流れていたこの映画が観たいと言っていた

あの映画通の奏さんがそう言うのだから人気は相当な物だろう

誰かと観に行く予定なのだそうだ

 

「そうか、それなら良かったんだが。この映画のことは知っていたか?」

「はい。とても有名なカーアクション映画ということは知っていましたが、そこまで入れ込んで知っているわけでは・・・主演のリサさんは知っています」

「そうか・・・。ありす、車は好きか?」

「まったく興味ありません」

「だよな・・・」

 

プロデューサーがそう言って額に手を当てるのと同時に、私も考え込む

リサ本人へのインタビューがあるということは、''そういう話題''も増やしていかなくてはならない

ファンの間では自他共に認める車好きで、この作品にも特別な想いを持って臨んでいると、プロデューサーが集めた資料にも書いてあった

なんと、自分がプライベートで持っている車を撮影に使うなど、まるでその映画が自分の人生のように演じているのも人気の一つなのだとか

 

「今回ありすが選ばれた理由っていうのも・・・」

「さすが''自由の国''、ですね」

 

選任理由も一文だけ、''名前が役名と一緒で、とてもキュートだったから''としか書かれていなかった

少なからずあちら側は私のことを知っている

 

「というわけで、二週間後と急な話だが、これから準備していかなくちゃいけない。俺も色々とこれから調べてみるが、ありすも何か対策を考えておいてくれ。詳しい人に聞くなり何なりな」

「わかりました」

 

そう言うとプロデューサーは資料をまとめて自分のデスクに座り、パソコンとにらめっこを始める

しかしそれでもなお、頭を抱えている様子から相当悩んでいる様子だった

私は少し自分の頭を落ち着かせるために、懐に置いたタブレットを手に取って廊下の休憩スペースへと赴いた

自分が腰掛けられそうな場所を無事見つけると、自販機の前へ立って、いつもの飲み物のボタンを押す

機械によって透明な扉の中で、コップの中へと飲み物が注がれていった

 

『・・・そうしてアリスは仲間たちと共に不可能とも言えるミッションをこなしていくのであった。ではここで''もう一人の主人公たち''とも言える車たちを紹介して行きましょう!まずはアリスといえばこの黒いスポーツカー、何とアリスはシリーズ第一作目から日本の・・・』

 

壁際に設置されているテレビからは、朝のニュース番組のエンタメコーナーで組まれているファイナル・スピードの特集が流れていた。

アナウンサーの人によって車の名前が読み上げられていくが、まったくちんぷんかんぷんである

 

自分の家の車の名前くらいはわかる、後は有名なスーパーカーの会社とか

でも流れてくる名前は聞いたこともないものばかり、なんで''180SX''と書いて''わんえいてぃー''なのだろう、''ひゃくはちじゅう''ではダメなのか?

それにその後に書いてある''RPS13''とは何なんだろう、別の名前があるのだろうか?どっちが名前なんだろう?

そうこう考えている内に飲み物が出来上がった

 

知らない事が沢山あり過ぎる。この自販機の仕組みすら分からないのに、私に車のことなんか理解できるのだろうか

 

「ダメダメ全然分かってない。ほんっっと分かってない、全くダメだよそんなこと言ったらまったく。付け焼き刃もいいところだよ怒られちゃうよそれじゃあ」

 

自販機から飲み物を取り出して扉を閉めると、そんなぼやきが一角から聞こえてきた

その女性は不機嫌そうにソファーの背もたれに寄りかかり、テレビを観ながらその背もたれに乗せている手の人差し指を上下にトントンと動かす

 

ショートカットのヘアスタイルに、一張羅なのかよく見る深緑色のジャケット、そして少し張りのある可愛らしい声でボソボソと一人文句を呟いていた

私は極力巻き込まれないようにそのソファーからは少し離れた丸テーブルの小さな椅子に腰掛けて、タブレットを開く

 

「年齢・・・27歳、好きな車、スポーツカー・・・、主な出演作品は・・・」

 

私も私でぼやきながら、タブレットのページを進める

しかし、出てくるのはそんな''外面''の情報ばかりで、私の知りたい内面的なものはウィキにも載っていなかった

そんなありきたりな質問だったら誰でも出来る、他のインタビューの人達もそういう質問は投げかけてくるだろう

でも私は、せっかく選ばれたのだからもっと、上手く言えないが意味のある事を聞いてみたい、そうは思っているのだが中々いい言葉が思いつかなかった

 

『そしてなんと今回のジャパンプレミアのアンバサダーに抜擢されたのは、346プロダクションに所属する今をときめく人気アイドル・・・橘ありすさん!主演リサさん演じる主人公、アリスと同じ名前を持つ彼女にハリウッドから直々にオファーが掛かったという噂で・・・』

 

既に会社がこの一件に返事を返したのか、テレビ局にもこの事は広まっているようだ

それはそうだろう、こんな大きなチャンスを逃すはずがない、アイドル事業を拡大しようとしているなら尚更だ

チラッとテレビを見ると、私のソロ曲がかかっている中で私の簡単な紹介がされていた

日本のドラマや、前にクローネのみんなと一緒に映画に出た事も映像と共に流れていて、その後にアナウンサーの人が、いずれは共演の可能性もあるかもしれませんよ〜?と息巻いていたが、まだ何もコネクションもない状態なのだ、まだまだ現実的ではない

 

興味はあるけど・・・

 

その私の紹介を最後に特集は終わり、いつものニュース画面へと戻った

私は再び自分のタブレットで調べ物をしようと視線を戻そうとしたその時、ソファーの女性と目が合った

私に気づいたのか、そしてそれは尊敬の眼差しと言うべきなのか、その目をキラッキラと輝かせて私の事をジッと見つめてくる

私はどうしていいか分からず、視線を逸らして適当にあてもなく検索結果の一覧を上下にスライドさせていた

 

そして再びその女性の方をタブレットの端から覗き見るように確認してみたが、その女性の姿がない

私は少し、テレビが設置されている辺りを見回してみたが、どこにも見つからなかった

 

「ふっふっふ・・・お困りのようですね、ありすちゃん」

 

すると、私の左肩あたり、すぐ横からその女性の声が突然聞こえる

ひゃっと自分が驚く声と同時にとっさに私は身を引いて、タブレットを胸元に抱き締めながらその女性を凝視した

 

「ああ、ごめんごめんありすちゃん。驚かせるつもりはなかったんだけど」

「た、た、た、・・・橘です」

 

自分でもよくわからない返事を返してしまった

 

「で、何やらお悩みのようだったみたいなんだけど・・・違った?何かクーラント飲みながら渋い顔してたから」

「いえ、あの、美世さん。これメロンソーダです。''くーらんと''という飲み物ではなく」

「ごめん!ネタで言っただけだから深く考えないで!いや聞いたよー!凄いじゃない!リサに会えるなんて!」

 

興奮冷め止まぬ様子でまくしたててくるのは、原田美世さん

プロデューサーの車がエンストし助けてもらった際にスカウトされたと聞いている

お姉さんのようにみんなの面倒を見てもらったり、と思ったらみんなと一緒に遊んだりと友達のように可愛がってもらっている事が多いのだそうだ

私は最初あまり面識が無かったが、バラエティー番組に共演した際に話すようになった

その時に車のエンジンのモノマネをしたくらい車のことが好きみたい

 

「それはそうなんですが・・・何を聞いたらいいかわからなくて」

「というと?」

 

私は経緯を説明した

 

「意味のある質問ねぇ・・・たしかにこんな機会は滅多にないし」

「車は人生の一部と考えているみたいなので、きっとそういう話になるのは目に見えて分かるんですが・・・調べても全然分からなくて」

「・・・ふん、私を誰だと思ってるのありすちゃん!」

「橘です」

 

美世さんは腰に手を当てて、大きく胸を張った

 

「分からないことがあったらこの私に聞いてよ!車のことなら私が教えてあげる!」

「お、おぉ〜・・・」

 

なんと頼もしい、もしかしたら糸口が掴めるかも

 

「あのね、車っていうのはね・・・」

「はい!」

 

そうして美世さんによるレクチャーが始まった

 

まったくちんぷんかんぷんだった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「おお、ありす。何か思いついたか?」

「・・・いえ、全然」

 

お昼ごろまで考えてはみたが、やはりいい案は思いつかなかった

それよりも、廊下で考えていると色んな人が声を掛けてきて、よりプレッシャーを感じてしまい、考えがまとまらない

 

・・・はぁ

頼りたくはありませんでしたが・・・

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