狩人は竜となりて   作:プラトン

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1.神の悪戯

「ほう、ではたった一人でその古龍を相手取ったのか」

「それだけじゃねぇ。他にも新種の古龍を見つけては狩り、見つけては狩り……果ては異世界の化物まで倒しちまった!」

 

 聞いているだけでも震えてしまうのはやはり、ハンターとしての運命だろうか。

 交易船の船長とは交渉もそこそこに盛り上がってしまったが、彼も楽しそうだし、問題はないだろう。

 

 

 

 ーー新大陸。

 

 この地には見られぬ環境、生物、そしてモンスターが生を描く新たな楽園。

 

 その名が私の耳に届いたのは数年前、丁度四度目の渡航が成功した時だった。

 そしてつい先日、五回目の渡航に成功……と思いきや、何体もの新種、果てには古龍が確認され、討伐にすら及んでいるという。

 

 なんと、なんと心踊ることか!

 

「私も五期団に志願すれば良かったな……」

「ハンターに迷いは禁物だぜ?次のチャンスを逃がさないようにな!」

「フフッ、肝に命じよう」

 

 最後に船長から交易品の手取金を受け取り、私はその場を後にした。

 

 

 

 

 ……ここ数年で、この世界は大きくその姿を変えたと思う。

 

 古龍とは名の通り、古の龍。数多の環境変化に耐え、自然と共に生きてきた。いや、彼らは自然そのものと言っていい。

 その存在は気候すらも変える、正に大自然の使徒。

 数年前は姿すら朧気で、討伐など夢物語だった。

 

 今でこそ目撃数も増え、討伐や撃退も聞く話。

 

 しかし、彼らは古龍。その希少性も、人が決して及ばぬ位階に鎮座している事実は覆らない。

 

 それが新大陸では、日常のように現れ……あまつさえ縄張りを争うときた。

 

 

 ……ああ、昂る!自然の衝突とは、如何ほどか!!

 

 

「次の渡航を逃す訳にはいかないな」

「ニャ!その時は当然オイラも着いていくニャ!」

「お前のようなわんぱくアイルーにそれは務まらんニャ。旦那さん、ぜひ私を」

 

 荷車に戻る途中、聞き慣れた声が思考を反らす。足元には二匹のアイルー……お供が引っ付いていた。

 

「そうだな。当然、どちらも連れていきたいさ。だがその前に……頼んでいた荷車の整備はどうした?ツキミ、カゲロウ」

「ニャニャ!?今からやるとこだったニャ!」

「私はもう餌やりを終えてるニャ」

「ニャア!?裏切り者~!」

 

 相変わらずだなぁ……。いくら実力が向上しても、根本は変わらない点、ツキミもまだまだ伸び代がありそうだ。

 

「さて、運び込みといこうか。カゲロウ、すまんが手伝い頼めるか?」

「もちろんニャ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 景色は、獣道。

 

 ガーグァが先導する荷馬車はゴトゴトと音を鳴らし、上下に揺れるが、ハンターにとってはそれも馴れたらものだ。

 

「それにしても、新大陸か……」

「古龍がわんさか……お昼寝して起きたら、景色が変わってたりもするニャア?」

「ははっ、存外冗談で済まないかもな」

 

 何気なしに、背もたれ代わりになっていたアイテムボックスを開く。そこは私たちの生き様を写した、数多のモンスターの素材やアイテム、装備が所狭しと詰まっていた。

 

 その一つ、嵐龍の角に触れる。

 秘境と詠われるユクモ村で相対した古龍……嵐龍アマツマガツチ。

 嵐の権化たる奴との死闘もまた、私の生き様の一つ。その角は主の元を離れても尚、荒ぶる生命力を示しているように思えた。

 

 こうした移動の際、全ての所持品を運び出さねばならないのは手間ではあるが……回顧の念に浸れるこの時間は嫌いではない。

 

「あとは異世界の化物も、興味あるニャ!一体どんな奴らかニャ~……」

「何を今更。今までも常軌を逸した輩を倒してきたではニャいか」

「ニャ?そうだったかニャ?」

 

 自らの武器を器用に手入れしながら、カゲロウは言う。

 確かにこれまでも明らかに"普通ではない"狩猟は何度か経験していた。

 

 

 赤と白の妙なキノコを持ち、それを食らった瞬間異常な大きさとなったババコンガとその亜種。

 赤黒いオーラを纏い、たった一度の突進でハンターを葬ったモス。

 

 依頼主も異風というか……異次元な者があった。

 ブレード?とか言う双剣を報酬にした少女。自称をカエル型の宇宙人とする者。緑の勇者になれるとかで依頼を出した者。見た目が渋いバンダナを着けた男や、厳めしい女になれる装備を提供した依頼主などなど……。

 

 ……あれは本当に驚いた。まさか声まで変わるとは。

 

 

 思い返すと、確かに。

 もしかすると、異次元や異世界とやらは近場にあるのかもしれないと思ってしまう。

 

 この世界とは異なる。それはつまり異世界。そこは何が異なるのか。

 そもそもそこは一つなのか?生命の概念があるのか?宇宙に輝く星々一つがそれか?何が在って何が無い?

 

 ……私はどの宗派にも属していないが、思ってしまう。

 

 

 

 この世界も、神々に作られた箱庭の一つなのかもしれない。

 

 

 

「異世界か……私たちがそこに行くことも、あるやもしれないな」

「その前に、新大陸ですニャ」

「そうだな。色々と準備もある……お前たちにも手伝ってもらうぞ?ツキミ、カゲロウ」

 

 ツキミは元気に、カゲロウは武器を軽く掲げて賛同の意を示す。それを見るだけで士気が上がるのは不思議か、当然か。

 

 異世界にしろ、新大陸にしろ……私はこれまでに得た全てを持って、彼らに挑むだろう。

 ……これだから、この生業は辞められない。

 

「次の村に着いたら、一狩行くとするか」

 

 

 

 

 

 そう。覚悟新たに、呟いた時だった。

 

 

 

 

 世界が、揺れた。

 

 

 

 

「ニャアッ!!?」

「な、何だっ!?」

 

 ギシリ!バキリ!と、聞きたくもないような不快音がそこかしこから響く。

 これまでの揺れの比ではない。まるで絶壁を転げ落ちているような衝撃。カゲロウは耐えているが、ツキミは跳ねたボールのように荷車内を飛び交う。

 

 ……尋常ではない……!!

 モンスターの奇襲でも受けたか!?まだあの港からそう離れていないだろう!?

 

「おい先導!一体何が……っ!?」

 

 どうにか身体を動かし、ガーグァを牽引している先導のアイルーに何事かと訊ねた時……

 

 私は、その光景が信じられなかった。

 

 

「いない、だと……!?何だこの空間は……っ!?」

 

 

 いないのだ。

 

 比喩でも何でもない。そこにいるべきガーグァもアイルーすらもいない。荷車と彼らを繋いでいた縄は、情けなく靡いているだけ。

 そしてもう一つ。

 

 景色が、消えている。

 

 何もない、真っ白な世界に囲われている……!?

 

「何だこれは……俺たちは今、どこを走って……!?」

「旦那さん、前!前方に裂目のような……外が見えますニャ!」

 

 いつの間にか肩に張り付いていたカゲロウ。その言葉で反射的に顔を上げる。ここが中で何処が外なんてどうでもいい!

 

 確かに、外……!

 ガーグァに股がったアイルーも、全く状況を掴めていない表情でこちらを見て、何か叫んでいる。

 この現象が何なのか、私にも分かるはずがない。

 しかしハンターとして……いや、一つの生物としての本能が最大限の警鐘を鳴らしている。

 

 抜け出さねば……せめて、こいつらだけでも……!!

 

「ンニャアッ!?」

「だ、旦那さん!?」

「手荒くてすまんなっ……跳べぇっ!!」

 

 幾度となく死線を駈けてきた私の判断は、こんな非常時でさえ確実な手を取った。

 最早私があの縮小する裂目に辿り着くのは不可能。ならば、彼らの首根っこを掴んで力任せに投げ飛ばすだけ!

 

「がっ……!!」

 

 荷車の揺れは世界の終わりを思わせる程に激しさを増し、私は身体ごと荷車の後方へと投げ飛ばされる。

 その背には、アイテムボックス。手には嵐龍の角。偶然にも先程と同じ姿勢に戻っていた。

 

「時間も、戻ってくれると有難いのだかな……っ」

 

 何の宗派にも属さず。神を信仰していない凡人がこんな時ばかり願いを使うとは……我ながら可笑しいものだ。

 

 揺れが、震えがいよいよ極まる。

 

 

 

 最早喧しいとすら分からない。脳が揺れる。弾ける。意識が、希薄と……。

 

 

 

 

 目蓋が、落ちる。

 

 

 

 

 

 

 最後に、見えた、のは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       「さいこ、ろ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神々の悪戯は

 

 異界の狩人と、小鬼の狩人を引き合わせ

 

 

 彼らの余興を満たす駒は、人成らざる化生となった

 

 

 

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