狩人は竜となりて   作:プラトン

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4.狩人の思索

 ー◯日目ー

 

 唐突だが、今日から日記をしたためることにした。

 正確な日付は分からないが……この際だ。書き始め初日の今日を一日目にするとしよう。

 これを記す理由としては、純粋に私の頭一つでは整理が追い付かないからである。

 

 ……結論から述べよう。

 

 

 どうやらここは、私の居た世界とは異なるらしい。

 

 

 ……頭が可笑しくなったのか?そんな問答は既に幾度となく繰り返した。今更何と言うまい。

 

 再度記そう。

 私は異世界に迷い混んだ。

 

 

 

 その根拠は、大きく二つ。

 

 一つは、得体の知れないモンスターが此処彼処に闊歩していること。対して既知のモンスターが一匹どころか痕跡も無いことだ。

 形状こそ似ている竜らしきモンスターや石のように硬質な殻を持つであろう節足生物などは何度か見かけたが……どれも私の知らないモンスターだった。

 

 特にあの緑色の小人。

 みすぼらしい腰巻きをして、異臭を放つ人型のモンスター。言語らしき鳴き声をしていたが……私はあんなモンスターを知らない。

 ガジャブーやアイルーと言った獣人族の類いも疑ったが、どれの特徴とも異なっているのだ(地方特有の固有種の可能性あり……?)。

 

 とにかく、未知の生物が散見されることが一つ。

 ……まあこれだけなら、根拠としては薄い。私の知識の偏りや見識の狭さが原因で片付いたのだ。

 

 

 

 二つ目……これが決定的だ。

 正直、自身の目を疑った。疲れているのかと元気ドリンコを飲んだり古の秘薬を使ったりもした(眠れなくなった)。

 

 私はその日、人を見たのだ。先日の小人などではなく、人語を話す文明人だ。

 そこまでは良かった。問題はその後だ。

 

 ……手から火を吹いたのだ。

 

 一瞬、覗いていた双眼鏡に太陽光でも反射したか?なんて思って、もう一度覗いて見た。

 

 ……今度は岩を浮かせて放っていた。

 

 ……本当に驚いた。双眼鏡を握り潰す位には驚いた。からくりがあると最初こそ疑ったが、それからと言うもの、見つけた人は説明出来ない事象を引き起こす者ばかり。

 

 そして今日ついに、"魔術"とか"魔法"とか言う単語を聞いてしまった。

 

 

 ……そろそろ認めるべきだろう。

 ここは少なくとも、私の知っている世界とは異なるのだ。

 

 

 ……今日はこれ位にしよう。他にも書くべきことは山とあるが、何というか……疲れた。

 

 

 睡眠袋を被って寝ようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー△日目ー

 

 今の心境をどう文字にすれば良いのか、小一時間は悩んだが……書かねば始まらないだろう。

 

 この世界に迷い込み、数週間。

 私はあの洞穴から出ていない。 

 いや……勿論日の光を浴びねば身体に毒であるし、健康面も考慮して外に出てはいるのだが……基本的に洞穴で過ごしている。

 

 その理由としては……。

 

 ……。

 

 私はこの世界に来てから。何度か急な激痛に襲われることがあった。そこで意識は途切れ、目が覚めればまた倒れ伏している。

 

 何か妙な病に侵されているのか?

 その予想は、想像も出来なかった事実に破られた。

 

 

 先日、最早習慣のように激痛にみまわれ、同じ様に覚醒した時のこと。

 そこで、異変に気が付いた。気付かされた。

 視線が低い。視界がおかしい。いや、思い返せば起き上がる時の動作も異常だったな……。腕も足も見えない。

 

 そこで壁に立て掛けていた、装備の点検のために使用する縦鏡を覗き込んだ。

 

 

 『ギィアァ?』

 

 

 ……ドスランポスがいた。

 

 叫ばなかった私を誉めたい。今こうして落ち着きを取り戻し、日記にツラツラと書ける精神を称賛したい。

 ああ……鳥竜種竜盤目、鳥脚亜目、走竜下目、ランポス科。

 

 ドスランポス。

 

 ……私は何を書いているんだ。

 

 

 信じ難いが、それは間違う事なき私だった。私の意志で自由自在に動く。

 嫌な予感はしていたんだ……足跡だけは残っていたのだから。

 

 ……私はドスランポスになる呪いにかかったようだ。

 

 だが不幸中の幸いか、こうして日記を書いている通り、今の私は元の姿に戻れている。

 ……意識があった分、戻る時には変化時と同等の激痛だったが。

 

 ……。

 

 残りの事は後日記そう。不確定なことも多い。

 激痛により疲弊が限界だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー□日目ー

 

 今日はドスファンゴになっていたが、それは置いておこう。

 

 

 未だ現象の起因については不明だが、恐らくあの"声"が引き起こしていると考えられる。

 狩人を呼ぶ、あの声。あれが兆候も無く脳内に響き、その後に激痛が発生している。そしてあの変化が現れるのだ。

 

 発動条件は判明したが……だから止められる訳でもない。

 

 しかしあの激痛も、変化の回数を重ねる度に収まっているのは確かだ。意識を奪われることも無くなった。

 

 そして先に記したように、私の変化するモンスターは定まっていない。

 ドスランポス、ドスファンゴ、アオアシラ……多種多様だ。

 

 

 しかしこの変化を制御出来ないことには、外の人との会話すら出来ない。目の前で変化など起これば……考えただけでも悪寒が走る。

 

 まだ様子を見るしかないようだ。

 

 ……ツキミとカゲロウは無事だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー◎日目ー

 

 洞穴での生活も悪くない。

 農作業の経験から、洞穴を最低限以上の生活様式にまで向上させることが出来ている。

 

 雷光虫のランプや、交易で手に入れた装飾品で内装も十分。食材を使って、キッチンアイルーの見様見真似だが料理で栄養摂取も問題ない。

 アイテムは溜め込んでいたこともあり、残量を気にする時はまだまだ先だろう。

 

 衛生面の向上だけは中々難しいが……人としての尊厳を保てる程度にはなっている。

 

 こんな生活も悪くはないな……。

 

 

 

 そして相変わらず、人との接触は果たせていない。

 変化自体は大分慣れた。今や痛みは皆無であるし、気絶も無い。あのモンスターの身体に飲み込まれる感覚は……まぁ。

 

 何より、あの声がなくとも意識的に変化を起こせるようになった。これを完璧に出来れば、漸く外に出られるというものだ。

 

 楽しみである。

 

 

 

 

 

 ……空も飛べたり、するのか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー◇日目ー

 

 やらかした。

 

 ……こ、後悔だ。

 私は馬鹿なのか?馬鹿なのだろう。

 

 空も飛べるかな、なんて童心に帰ったのが終わりの始まりだった。

 おい私よ、今これを読んでいるか?ならば考えろ。

 

 

 人一人が生活を営む大きさの洞穴。

 そこであの火竜の変化を望んだらどうなるか?

 

 

 ……崩壊だ。メチャクチャだ。私の身体もメチャクチャだ。何故、火竜リオレウスなのだ……!怪鳥イャンクックなどの体躯であればまだ、マシだったろうに……!

 

 そして久しく無かったあの激痛が、私を襲った。

 痕跡を見るにリオレウスへの変化は成功したようだが、私にはその記憶がない。

 

 また、気絶したのだ。

 

 

 ……何故、またぶり返した?

 

 

 そこで私は仮説を立てる。色々と考えたが、これが現在の適当案だと思う。

 恐らく、ハンターズギルドの定めたモンスターの危険度が高いモンスター程、制御が難しいのではないか?

 

 ……立証せねばならないだろう。

 後日、イャンクックの変化を試してみよう。

 

 

 

 ……とりあえず、掃除せねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー▽日目ー

 

 仮説は妥当。そう判断した。

 イャンクックへの変化。激痛はあったものの、リオレウス程ではない。意識を保つことにも成功した。

 

 それはそうと、もう一つ分かったことがある。

 

 日記を書き始める前に、私はアイテムボックスの素材が半分以上失くなっていたことを思い出した。

 私のこの現象。

 あの声の他に、それらが原因なのではないか。

 

 この世界に転移した時。それらが私の中に溶け込んだ……?

 証拠もない。記憶もない。こればかりは妄想となってしまうだろう。

 しかしその妄想が正しければ、私の成れるモンスターは、過去に狩猟したモンスターらに限定されるのか……?

 

 少なくとも、全く知識にない生物への変化は有り得ないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 今日もまた筆を置く。

 この日記帳も随分と白紙の部分が少なくなった。一体この世界に来て何日経ったのか……太陽の昇った回数から数えても半年以上は経っているだろう。

 

「いつの間にか、住み慣れてしまったな……」

 

 振り替えるとそこには、マイルームにも匹敵する洞穴の姿がある。

 近くの川から引いた貯水もあり、完全な自給自足が出来上がっていた。今では習慣であった武具の素振りも出来ていて、漸くだった狩猟の感覚も取り戻せている。

 

 例の変化も慣れたものだ。

 洞穴の改善や貯水の確保も、あの変化があってこそだった。モンスターの種類も高い危険度……クエストレベルで言う所の星五相当ならば何ら支障ない。

 日に三度も変化を行える程だ。

 

 ……しかし、良いことばかりでもない。

 

「結局、誰とも接触を果たせていないな……」

 

 肝心な知識人との交流が出来ない。

 

 今までの私はこの変化の対処や住み処の拡充やらに手一杯で、この世界の常識・文化・生活様式といった基本的な情報を何ら持っていないのだ。

 

 それにあの変化への順応が成せた訳でもない。いくら慣れたと言っても、全て不確定な私の基準でしかない。

 

 万が一があるやもしれない。

 何があるかも分からない。

 この世界に、住民に認められるかも分からない。私でさえ奇妙に思う変化だ。異端者として排斥される可能性は考えられるどころか、高いだろう。

 

 ……結局、私は。

 

 

「私は、怖いのだろうな……」

 

 

 自身の右手を見る。

 多種多様な武器を掲げたそれ。多くの狩友と繋いだそれ。狩場という荘厳な舞台で、本当に色々な物に触れ、学んだ右手がそこにある。

 

 しかしそれすら、変化する。

 

 ……私はいつの間にか、こんなにも臆病になってしまった。私が思う以上に、私は人を求め……そして、怖れているのかもしれない。

 

「……ふっ、哀愁の念に浸るなど、らしくないな」

 

 そうだ。本当にらしくない。

 それに、外部と連絡が取れない理由は変化に限らない。遠出するならば、この洞穴や残されたアイテムをどうするのかも考慮せねばならんのだ。

 

 まだまだ、悲観に走るのは早計というものだ。

 ゆっくりで良いじゃないか。

 

「病は気から。行動は準備から……よし!」

 

 太陽はまだ高い。気合いを入れ直そう!

 

 活を入れも込めて、頬をパシンと叩く。その時。

 

 

 

 ……カラカラ、カラカラ

 

 

 

 竹の鳴子が鳴いた。

 

「……今日も来たか。しつこい輩だ」

 

 言葉とは裏腹に、口許には笑みが浮かんでいることに気付いた。すぐに席を立ち、背負った"太刀"の感触を確かめ、洞穴の出入口へと向かう。

 

 今までに、私は遠出出来ない理由を幾つか挙げた。

 

 しかし一番の問題はやはり、"あいつ等"だろう。鳴子を鳴らし、来訪を知らせた"あいつ等"。

 

「……お前達も執念深いな。それとも、学習能力が無いだけか?」

『GOBBUR……!!』

 

 太陽に照らされた緑地。

 その闇という木陰から、奴等は姿を現した。

 

 緑の、小人。

 

 奴等もまた、私の交流を妨げる悩みの種である。

 

「今回で五回目だな。そんなにもこの洞穴が欲しいか?それとも私の持つアイテムや装備が狙いか?どちらにせよ明け渡すつもりは毛頭無いが……

 一応、忠告してやる。地に還りたくなければ……即刻去れ。深追いはせんでやる」

『GOBBLE!!』

 

 私の言葉が通じたのかは分からない。

 しかし各々の武器を掲げ、奇声を挙げての突撃。

 

 ……どうやら答えは決まっているようだ。

 

「こうも小さい相手はチャチャブー討伐以来であるな。だが向かってくるならば、是非もなし!」

 

 こいつ等は本当に、悩みの種だ。

 すばしっこいし、的も小さい。幾ら斬り捨てようと沸いてくる。今回は……三十は居るか。

 

 しかしやはり……これは狩猟。

 

 

 

 それ即ち、ハンターの生業!私の生甲斐!!

 

 

 

 抜刀するは、太刀・真飛竜刀【純銀】

 冷ややかな輝きを放つ刀身。反して獲物は骨まで焦がす、太陽の化身

 身に纏うは、【S・ソルZシリーズ】

 銀火竜リオレウスを基調としたその姿は、太陽の使徒

 

 今ばかりの私は、モンスターではない。

 

 

 

       私は、狩人(ハンター)だ!!

 

 

 

「嬉しいぞ、緑の獣人よぉ!!」

『GORRB!!』

 

 

 一の狩人と、数十のモンスターが刃を交える。

 

 その日常に、喜びを

 

 

 

 

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