「それで、急にどうしたんだ?」
船から降りてすぐ、私としろはは港から外れた方に歩いていった。ちょうど建物の陰に隠れたような場所で私達は足を止めた。
「のみき、最近おかしくない? 大丈夫?」
「具体例がないが...、うん、特に何も無いぞ」
しろはがなんのことを言っているのかは一瞬でわかった。だからこそ、それに嘘をつく。
「ごめん。なんの事かちゃんと言った方がよかったね」
しろはは伝わってないと踏んだのか平謝りをする。そうなってしまった以上、ここで話を引くことは出来ない。
...まあ、初めから隠し通せるような仲じゃないしな。
それに、嘘をつくのは苦手だ。
「...いや、いい。なんの事くらいかは私自身、分かってるつもりだ。...良一のことだろ?」
しろはは1度短くうんと頷いた。
「その...良一は何か言ってたか?」
「いや、何も聞いてないよ。ただ...2人の距離が、ちょっと遠く感じちゃったから、変だなって」
「ははっ、そうだよな。...本当に、変だ」
自分を嘲るように乾いた笑いを飛ばす。
それを見ているしろはが、あまりにも心配そうにこちらを見ているものだから、すぐに引っ込めたけど。
...ずっと、わからないまま、か。
でも、そうか。目の前にいるのはしろはだ。
その...パートナーとして鷹原がいる訳だし...そう考えれば人生の先輩にあたる...のかな?
「...なあ、しろは」
「うん?」
「しろはは...鷹原と付き合ってて、何を思うんだ?」
「......は?」
しろはは目を丸くして、しばらく呆気にとられていた。やがてその焦点が定まると、今度は頬を少し赤らめる。
「な、何って...、どう答えればいいの? これ」
「悪い。私にもよく分からない。...ただ、あれだ。しろはは鷹原とこうしていきたい、とかそういう要望があるのかなと思っただけだ」
「そう...いうやつね...」
しろははうーんと悩んで、浮かんできた言葉を一つ一つ口にした。
「その...、ずっといたい、とか、将来がどうこう...とか、そういうのは何も考えてないよ。羽依里とは、今一緒にいたい、って思って一緒にいるだけだよ。...考えたって未来のことなんてわからないんだから、...せめて2人で、今を歩きたいなって。...待って、今のなし...!」
「...そうだよな。...そうだよな! そんなこと考えたって、結局未来なんて分かりやしないんだ」
しろはに言われて気がついた。
いくら大人になっていってると言っても、私はまだ子供だ。
恋愛の酸いも甘いもしらないし、将来のことも知らない。
でも、恋愛が大人のものだって、いったいいつ、誰が決めたんだろうか。
そんな当たり前のことさえ、私は考えれていなかったんだな。
なら...もういいか。
しろはになら、ちゃんと打ち明けれるから。
「...なあ、しろは。聞いてくれないか?」
「う、うん...? いいけど...」
1人でカーッとなっていたしろはは、私に話を振られると平常の表情でこちらを向き直した。
「その...良一に、...こ、告白、されたんだ....」
しろはは、一瞬だけ無言になり、うんと頷いて顔を上げた。
そして、笑った。
「うん、だと思ってた。じゃなきゃ、こんなに悩んだりしないよね、のみきは」
「そんなことはない。私だって...強くはないからな」
言って気が楽になったのか、私は少し心の底から笑えた。
胸にあったつっかえが、どこか外れるような感覚を体が覚える。
今なら、自分の気持ちもわかるかもしれない。
「...それでな、告白されたのはい、いいとして...」
「なんて答えればいいか分からないんだね?」
「そうだな」
もし受けたらどうなるか、断ったらどうなるか、そうした未来しか見えなくて、考えるのが嫌になる。
将来なんて、分からないはずなのに。
そんな葛藤を抱いていると、しろはは私の肩を正面からポンと叩いた。
「...ならさ、のみきの気持ちを教えて欲しいな」
「私の...気持ち?」
「うん」
しろはは優しい目を私に向けた。そこにはどこか母のような温かさを感じる。
「のみきはさ、良一の事、どう思ってるの?」
「それって...」
「うん。簡単な話だよ。のみきが今、良一のことが好きなのか、そうじゃないのか。...私が羽依里と一緒に理由、さっき話したよね。簡単な話なんだよ。私は、羽依里が好きだから、一緒にいるの。未来なんてわからないから、今一緒にいたいから。それだけなんだよ。...だから、のみきもそうなんじゃないかな」
「あっ...」
私が、良一をどう思っているか。
告白されてから、1度もそんなこと考えれなかった。
しろはに言われて初めて分かった。
私は...良一が...
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小学校の頃から、私たちはずっと一緒にいた。
そんな中で、1人大人しそうな少年がいた。
...私は、そいつがその時から気になっていた。
気がつけば、もう高校生になっていた。
私達はそれでも一緒にいた。人がだんだん変わろうと、それでもみんな互いを受けいれて。
そんな中、1番変わったのは良一だった。
観光客の迷惑になるくらい夏場はすぐに脱ぐし、何を持ってかHな本は天善のところにもっていくし...。
それでも、人一倍優しい、それだけは変わらなかった。
あいつは...妹思いで、他人に優しくて、馬鹿で、ドジで、それが可愛くて、結局放っておけなくて。
...だから、私は良一が...
私は、三谷良一が、好きなんだ。
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私の告白を受けて、しろははさっきより優しく微笑んだ。
「...ね、簡単でしょ?」
「...ああ、そうだな。なんでこんなに悩んでたんだろうな」
気がつけばあたりは夕焼けに染っていた。どうやら随分と長いこと話していたみたいだ。
冬の空気はまだ冷たい。けれど、私はどこか温かさを感じていた。
「...ねえ、のみき」
「なんだ?」
「明日は、良一の誕生日だね」
そういえば...もうそんな時期だったか。
「そうだな。ちょうど私の一週間後だ。鷹原は来るのか?」
「勿論来ると思う」
「そうか...。...なあ、しろは」
「ん?」
ずっと悩んで、答えを得た。
だから、私は...。
「明日さ、良一に伝える。私の気持ち」
私は、心の底から笑った。
残りは良一side!