もこたん→青ニート←その他大勢   作:へか帝

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あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!
『昔書いた青ニートの話をリメイクしていたと思ったら、いつのまにか無自覚激重執着依存系もこたんがINしていた』
な… 何を言っているのかわからねーと思うが 
おれも何がおきたのかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった… 誰得だとか謎需要だとか
そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…


もこたんx青ニート

 あるとき、俺はダークソウルの世界に転生した。

 最初はそうとわからなかった。ただ、生きるのにひたすら不便な中世の世界に生まれたとしか感じなかった。

 死因はわからなかったが、俺には前世の記憶があった。だが、身についていたのは精々が四則演算程度のもの。義務教育さえも満足に受けようとしなかったろくでなしの末路がこれだ。ないよかよっぽどマシだが、前世から持ち込む知識にしては粗末過ぎる。

 中世に転生したときの定番といえば内政チートだが、残念ながら俺とは無縁だった。当然転生特典とやらも無し。結局、俺は前と同じで垢抜けない退屈な人生を送っていた。

 いや、なまじ前世の豊かな暮らしを知っている分、余計な記憶とさえ言えるだろう。

 冴えない俺の気質は、死んでも直らないらしい。そう思って過ごす日々が続いた。

 

 ──俺に、『ダークリング』が現れるまで。

 

 

 

 

『ダークリング』

 

 それはゲーム『ダークソウル』において、不死として呪われた証だった。

 

 "最初の火"に始まり栄華を誇った火の時代は、悠久の時を経た今、翳りを帯びた。"不死の呪い"は前触れなく、唐突に人々に発現した。病のように伝播するそれは世界を混乱に陥れ──俺はそれを歓喜した。

 ついに前世の知識が役に立つ時がきた──と。

 ゲーム『ダークソウル』についての知識は、勉学の知識量とは比べ物にならないほど豊富にあった。これで前世の自分の人となりがおおよそわかってしまうが、要するにそういうことだろう。

 

 初めは不死の呪いも歓迎する者がいた。時の権力者などがそうだ。不死は人類の夢。求める者がいるのも理解できる。

 だが、不死は呪いだ。

 やがて死を重ねた不死者が理性を失い、言葉も解さぬ亡者になるとわかったとき、不死者への差別は始まった。やがて、呪いの発現した者たちは例外なく始まりの地『ロードラン』へと追いやられるようになった。

 ──『不死の使命』なんて大義名分をぶらさげて。

 それは俺も例外ではない。仕事の出来も悪かった俺は、呪いが発現すればこれ幸いと放逐された。それに思うところもなくはないが、それよりもダークソウルの世界へと旅立てる喜びの方が上回った。

 どうせ、ロードランでの俺の活躍を耳にすれば手のひらを返すだろう。そう高をくくっていた。

 

 ロードランで不死の巡礼を始めた俺は、今までが嘘のように生き生きとしていた。

 もちろんゲームと現実では、何もかもが勝手が違う。上手くいかなかったことも多い。それでも、同じ時期に巡礼を始めた他の不死と比べれば、俺はまさしく破竹の勢いだった。

 それもそうだ。俺はこの地を知っている。強敵がどこにいるか知っている。弱点が何かを知っている。どこでその弱点を突く武器が手に入るか知っている。俺には莫大なアドバンテージがあった。

 

 そうかからないうち、俺は巡礼の目的とされる『目覚ましの鐘』を鳴らした。勇者を導く世界の蛇の声を聴き、棄てられた王の都を踏破して王の器を拝領した。

 古く分かたれた大王のソウルを集め、最初の火の炉への門を開いた。

 デーモンを殺す黒騎士たちさえも蹴散らし、太陽の光の王グウィンの息の根を止めた。

 

 世界は面白いほどにゲームどおりで、すべてを知る俺は全能の存在のようだった。

 それで、俺は最初に火を継いだ。そうすればゲームはエンディングだ。翳りを帯びていた最初の火はこれで再び火の勢いを取り戻し、世界に光が満ちる。

 

 俺は誇らしかった。なんの取り柄もない俺が、世界を救って見せたのだ。冴えない俺にも出来ることがあるんだと、胸を張ることができた。 

 

 だが、最初の火を継いだはずの俺は、目を覚ませば最初に送られた祭祀場の篝火にいた。

 何が起きたのかわからなくてしばらく呆然したが、やがて何が起きたかわかった。

 『周回』だ。

 

 クリアしたなら、今度は強くてニューゲーム。

 冗談じゃなかった。俺は確かに現実で生きているというのに、世界は泣きたくなるくらいにゲーム通りだった。

 

 自殺して世界からおさらば……なんて、できない。瞳の奥で爛々と燃えるダークリングが、それを許さなかった。

 

 俺にできるのは、もう一度この世界を攻略することだけだった。他に選択肢は無い。

 だが『ダークソウル』は『周回』に応じて敵が強くなる。

 戦いに慣れ、歯牙にもかけていなかった亡者たちはもう油断していい相手ではなくなっていた。

 

 だが、一度は攻略した世界。転生する前、ゲームの頃を含めればもっとだ。

 セオリーは変わらない。俺はまた、火を継いだ。

 

 それでまた、祭祀場の篝火で目が覚めた。

 どうすればいいのかわからなくなって、やがて目につくものは全て殺した。

 敵も、敵でないものも、全部だ。

 今度は火を継がずに、闇の時代をもたらしてやった。

 

 それでまた、祭祀場から。

 それでまた、祭祀場から。

 それでまた、祭祀場から。

 それでまた、祭祀場から。

 それでまた、祭祀場から。

 それでまた、祭祀場から。

 それでまた、祭祀場から。

 

 それでまた──。

 

 ♢

 

 心が折れた。

 もう何度繰り返したのかわからない。

 俺は嫌になるほど見飽きた祭祀場の篝火の側で、倒れた柱に腰かけていた。

 もう何もする気が起きなかった。最後までいったら、また最初から。

 俺の行いは螺旋ではない。──円だ。

 決して前に進むことはなく、円周ばかり大きくなってどんどん難しくなる。

 今にして思えば、初めて火を継いで胸を張っていた俺の、なんと滑稽なことか。

 

 

「とんだ笑い話じゃねぇか。必死ぶっこいて駆けずり回って、それでこのザマかよ。

 何のために必死になってたのかすら、もう覚えちゃいねぇ」

 

 ──そうやって空虚な自分を嘲笑っていて、ふと気づいた。

 頭部以外の全身を包むチェインアーマーに、小ぶりな金属盾のヒーターシールド。

 今俺が腰かけている場所。

 そうだ。ここは──NPC『心折れた戦士』の特等席。

 俺の装備もまた『心折れた戦士』と瓜二つ。

 

 別に、示し合わせたわけじゃない。この地で雅な装飾に意味なんてなかったし、重厚な鎧は俺には裏目に働くことの方が多かった。特別意識せずに効率で選んだ装備一式だったが──皮肉なことだ。いっそ笑えてくる。

 

「まさしく『心折れた戦士』ってか……?ハハッ、完璧なキャストじゃねえか。

 いいぜ。NPCの役割、俺が代わってやる。どうせ、他にやることもないしな……」

 

 

 

 

 それから、祭祀場に立ち寄る不死者に助言のようなものを寄越すようになった。

 それはダークソウルにおける『心折れた戦士』の役割そのままだ。

 だが、そうしていると自分で巡礼していたときとは異なるものが見えてきた。

 

 それは、大鴉に運ばれてくる不死者の存在。やつらは、明らかに他と違う。

 吹けば飛ぶような老人かと思えば、魔術に触れた途端にかのビッグハットに次ぐ叡智に目覚める。

 泥臭い下級騎士かと思えば、あらゆる得物を使い分ける熟練になっている。

 根暗で非力な呪術師かと思えば、気づけば嵐の様な炎を手繰っている。 

 なんとなくだが、察しは着く。やつらはきっと"主人公"だ。

 思い返せばダークソウルは牢の中から始まり、鴉に運ばれて舞台に上がる。俺はそうではなかった。このロードランは時空が歪み、無数の世界が重なっているという。

 奴らは、別の世界の主なのだろう。

 その証拠か、そいつらが一同に会したところを見たことがない。不思議と重なり合わないのだ。

 

 そして、俺の世界の主人公も、ある時鴉に運ばれてやってきた。

 そいつは、とんだろくでなしだった。

 色の抜けた白い髪の女。目についた生き物を全て殺す殺人鬼。

 篝火の側で腰かける俺を見るや否や、殺気を隠す素振りすらなく斬りかかってきやがった。

 

 無論、返り討ちだ。黙って殺されてやれるほど、俺は無気力でもなかった。

 そして篝火で蘇り、また返り討ち。この女との因縁はこの時から始まった。

 

 何度かやれば懲りて不死街の方へと消えていったが、しばらくすれば、黒騎士の剣を携えてまた挑みに来やがった。

 それでもまた、返り討ち。次は飛竜の尾から生まれた剣を持っていたが、関係ないね。ずっとそんな調子だ。

 あの女、ハナから不死の使命なんざ頭に入っちゃいない。俺を殺す手立てを探す為に、このロードランを巡っていやがる。

 王の雷、混沌の炎、結晶の魔術。神の怒り。女の使う術はどんどん極まっていったが、生憎と相手が悪い。術こそ強いが、殺しのいろはをとんと知らねぇ。この俺が、黒い森の庭も知らないようなひよっこに遅れを取るものかよ。

 

 だが、女は何をしても殺せない俺が好ましくて堪らない様子だった。

 閃く雷電をいなすたび、しなる火炎を潜るたび、凍てつく結晶を砕くたび、女の顔は爛々と輝いた。

 いつも最後に、腹にずぶりと剣を突き刺す致命の一撃を入れれば、端正な顔を恍惚に歪めて死んでいく。

 俺は気味が悪くてしょうがなかったが、そんなことを言っても女は構わずやって来る。殺されてはたまらないから、先に殺す。ずっとそれを繰り返していた。

 

 女が最後に見出したのは、闇術だった。

 闇術は黒いソウルを操る極めて冒涜的な代物であり、生命の理に歪みをもたらすとされる禁術である。

 私の愛を受け取れなどと世迷言と一緒に放たれた執拗に追尾する黒いソウルから逃げ回ったのは苦い記憶だ。

 

 だが、女との戦いは終わりを告げる。

 貪欲に力を求めた女は世界の蛇に誑かされ、最初の火を継ぐことを選んだのだ。

 

 女は勘違いをしていた。火を継いだものは、最初の火の薪となる。火継とはつまり、最初の火に自らの身を焚べる行為なのだ。

 それを知る俺は、嬉々として最初の火の炉で火を継ぐ奴の跡を追い、炉に捕らわれて燃えていく奴を見送った。再び織り成す最初の火に焼かれないように、強い火耐性を保有する黒騎士鎧を着込んで。

 

 篝火に捕らわれ、泣きそうな顔で俺を見る女をみると、流石に気の毒だと思った。その悲愴さにはやや心が痛んだが、救おうにも手立てがない。

 

 そして世界の主が火を継いだことで、巡り続けていた世界はようやく次へと進みだした。

 再び火の時代が始まったのだ。

 だが、どういう訳か俺の不死の呪いは消えることはなかった。

 仕方がないからあちこちを放浪しているうちに、いくつもの国が興り、滅んでいった。

 時代が進めば、またやがて最初の火が弱くなる。そうすると、またその時代の誰かが火を継ぐ。

 延々とそれを繰り返し、神の名さえ忘れられるほどに脈々と人の時代が続いても、俺はまだ生きていた。

 

 大きな転換点を迎えたのは、ロスリックという国に末期が訪れたとき。

 ロスリックは人工的に薪の王を生み出すおぞましい血の営みを企て、しかしその王子が火継を拒んだ。

 故に次善の策として、過去の薪の王を蘇らせて再び火継をさせようとするが、彼らもまた火継を拒んだ。まあ当然だわな。あんな経験を、二度も経験したいと思う物好きなど居るはずがない。 

 この頃には世界そのものが終わり始める。世界が歪み、薪の王たちに縁深い土地がそのままロスリックに流れ着くようになった。

 

 火を継ぐため、今度は薪の灰を集める者として『火のない灰』が祭祀場の鐘によって目覚めを迎える。

 火のない灰は、皆一様に薪の王と縁のある『やり遺したことのある者』たちだ。未だ燃え尽きぬ意思を持つ者たちだ。懐かしい顔ぶれの連中だった。

 

 それから……なんやかんやあって、俺の知るダークソウルの世界は終わりを迎えた。最初の火に全てを依存するこの世界は、予め終わりが定められていたのだ。

 

 

 だが、気づけばまた新たな世界が始まっていた。火の時代とはまた違う、別の世界だ。

 古い世界から新しい世界へと越したのは俺だけらしかった。俺のダークリングは、未だ燃え盛っている。未だ俺は不死に囚われていた。

 たぶんずっと終わらないんだろう。そんな予感がした。

 

 

 

 

★ 

 

 

  

 

 あれは私が不死となって、そう遠くないときのことだったと思う。

 多分、百年は経ってない。

 

 復讐に奪った蓬莱の薬を飲み干して、家から勘当されて、人々に化け物と揶揄されながら逃げ延びて。

 首を吊っても、山から落ちても、水に溺れても、炎に抱かれても、我武者羅にあらゆる死を試しても蘇る自分の身体に、他でもない自分自身が一番怖くなった。

 ひと時の感情に身を任せて、取り返しのつかないことをした。そんな今更すぎる自覚から逃げようとしても自らの生が、永久の時間が、それを許してくれない。

 

 そんなことを繰り返すうち、気がつけば友が死んだと報せが耳に入った。次はその跡継ぎが、そのまた跡継ぎが。あっという間に、私が生まれたときから知るものはこの世から全員去った。

 

 私一人が、あらゆる時間から置き去りにされていた。

 ふらりと立ち寄った村で、小さな男の子に初恋だと告白されたことがある。もう一度その村に立ち寄ったとき、少年は老人となり、築いた家庭に囲まれて穏やかな老衰に身を委ねていた。

 身よりなく放浪する私を友と呼んでくれる人がいた。会うたびに快活に私を呼ぶ声は、数を重ねるたびに覇気を失い、やがて私を置いて先立った。

 

 全部、最初から分かっている事だった。

 孤独。

 ──誰も私と同じ場所に立っていない。

 時の流れに身を委ね限りある生を謳歌する人々が、ただただ羨ましかった。

 私一人だけが何年経っても姿が変わらずにいる。

 

 十年、二十年。それだけ経っても一人だけ容姿が変わらなければ、誰だって不審に思う。何かの拍子に不死と知れれば、人々は私を指して怪物と称し、迫害する。反撃すれば、一層名が知れてまた追い回される。

 だからありもしない居場所を探して、逃げるしかない。

 誰にも頼れず、たった一人で。

 身も凍り付くような思いで、乾いた諦観だけを抱いて終わりのない生をぼうっと過ごすことしかできなかった。

 生き方なんて知らない。誰に縋ることもできない。みんな私を置いていく。そう思っていた。

 でも、ある日。

 

「なんだテメェ、不死か? 辛気臭い顔しやがって。昔を思い出しちまう」 

 

 果たして、男は私と同じ時を生きる不死だった。

 みすぼらしい身なりで、やつれた覇気のない顔の男だったが、私はその男にあった日、月の明かりも映さない私の瞳に、初めて色が戻った。

 ずっと天涯孤独。そう思っていた。でも違った。

 同じ時を生きる人間の存在が、これほどまでに救いになるなんて思いもしなかった。

 

 彼に身の上を話せば、鼻で笑われた。

 不死の身体なんて、誰でも願い下げ。自分で求めたお前は極めつけの阿呆。そう言われた。

 ぐうの音もでないほどの正論に、頭に血が上って何度も怒鳴りつけた。

 癇癪を起こして彼とはぐれて、次に何十年と時を経てようやく再会すれば、彼の姿は何十年も前に見たときとまったく一緒。それがどうしようもなく嬉しかった。

 

 それから私は彼が嫌がるのも無視して、私は彼と強引に行動を共にした。付き纏ったと言い換えても良い。

 

 彼の不死は私の不死とは種を別にするものだった。私の不死は肉体が朽ちようと魂を核に無限に再生するのに対し、彼の不死は"死なないだけ"だ。

 まるで死という機能が抜け落ちたように、どんな重症を負っても生命活動を続ける。そこに超速再生などは期待できず、あるのは常人と同程度の自然治癒能力だけだという。

 

 おぞましい話だけど、例えば動物に喰われたりすれば下痢のように排出されどろどろの肉塊となって、それでも生き続けるらしい。

 自分がそうなるのは想像もしたくないが、彼にとっては現実にありうる話。だから、もしもそうなったら私が一生世話をしてあげる。そんな話をしたら、彼に引かれた。

 ……何か変なこといったかな?

 

 ともかく、彼はあまり自分の話をしなかった。

 不死者として年季は、明らかに彼の方が上。いかにも冴えなさそうな顔で、あれこれぼやいているけど、凄い人なんじゃないかと思っている。

 よく彼は白い髪の女にいい思い出がないと繰り返している。それを聞くたび私と会ったんだからその認識は改めろといえば、毎回彼は小さくため息を吐く。なぜだ。

 

 でも、いつも飄々と客観的な彼がいつになく焦燥しているときがあった。

 それは、町から離れ、人目のつかない山の麓の洞窟を拠点にしていたときのこと。

 

「ああ、クソ! ダメだ、ダメだダメだダメだ……。どうすりゃいい? どうすれば……。」

「な、なあ、さっきからどうしたんだよ。お前らしくないぞ……?」

 

 彼は頭を抱えて、まるで余裕のない様子でずっと何か言葉を繰り返していた。いつも余裕綽々といった風体でいる彼からは想像もつかない姿だった。

 彼が何に苦しんでいるかさえわからない。私の言葉をまるで届いていない様子だった。

 

「なにかねぇのか……。なにか、なにか……。でないと俺は……!」

「おい、本当にどうしちゃったんだよ! べ、別に私とお前の仲だし言ってくれれば何でも……」

「……あ?」

 

 彼はようやく私の言葉が耳に入ったようで、ゆらりと幽鬼のように顔を上げて私を見た彼はずいと距離を詰めて強く私の肩を掴んだ。

 『何でもする』なんていった直後だったから、私もつい身構えてしまう。彼は熱に浮かされたように私の目をじっと見ていた。

 先ほどまでの半ば錯乱した様子からも彼が正気とはとても思えなかったが、それでも一体何を要求してもらえるのかと期待していれば、彼はぽつりと言葉を零した。

 

「火だ……」

「へ?」

「そうだ、火だ、火がある!」

 

 どうやら、彼は私の緋色の瞳を見て何かを思い出したらしかった。

 

「妹紅、こっちにこい。いいものを教えてやる」

 

 肩透かしを食らった感は強かったが、いいものを教えてやるなどと言われてしまったらほいほいついていくしかない。なお、いけないものを教えてやると言われたとしてももちろんついていく。

 

 彼はゆっくりと握った拳を差し出し、ゆっくりと開いた。手のひらの上には、小さな火の玉が浮かんでいた。

 

「お前に呪術を教える」

「ま、まってよ。全然話が読めないんだけど!」

 

 さっきまでの苦悶が嘘のように、彼は落ち着き払っていた。少し不気味なくらいだ。

 

「聞け。俺の不死は時間と共に記憶が擦り切れてなくなっていく。自分がなんなのかわからなくなる。だが、こいつは頭を使えば防げる。だから呪術だ」

「な、なるほど」

 

 つまり、先ほどまでの彼は自分を見失いかけていたということだろうか。無くなっていく自分の記憶に焦りを感じていたのだろう。だが、今こうして解決策を見出したと、そういうことらしい。

 

「一番は鍛冶仕事だ。だが道具も覚えもねえ。呪術なら、物が無くてもなんとかなる。杖もいらない。そして、俺やお前みたいに学がなくてもなんとかなる」

「なんでもいいよ。あなたの為なんでしょ。やる」

 

 さっきなんでもするって言ったばかりだし。そう言葉をつづけた。

 彼が私の手をとり、そこに火を翳すと本物の火のように火が分かれ、私の手にも小さな炎が織った。

 

「この呪術の火は本来一生を共にし、生涯を掛けて育て続ける特別なもんだ。その火を分かち授ける行為ってのは、血縁以上に深いつながりを示す重要なものなんだが……この際四の五の言ってられねえ。第一俺も本職じゃねぇし、いいだろ」

「け、血縁以上に深いつながりを示す……」

 

 彼の語る解説の一節が、私の頭の中で反響していた。

 この世界で唯一同じ時間を生きる人から、半身とも言える火を授けられた。

 その意味が分からない私ではない。後半に続く彼の言葉はほとんど耳に入らなかった。

 手のひらの乗った火の玉をじっと見つめる。柔らかな温もりを発するそれが、とても愛おしかった。

 

 




またわけのわからないものを生み出してしまった。
当然だけど東方とクロスオーバーするつもりで書いたものじゃないのでいっぱい齟齬があるぞ。
なお本来活躍する予定だった白髪の殺人鬼ちゃんの出番は全てもこたんが奪いました。

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