その結果、妹紅がどっか行って作者は頭を抱えました。
今話はともかく次はなんとかします(白目)
ほんの思いつきで、まさかあんなことになるとはというのが俺の率直な感想だった。
力試しにとぶつかり合う妹紅とルーミアの戦闘をぼーっと眺めていた時だ。
嵐のような炎の奔流と、荒れ狂う闇の濁流とがぶつかり合う、壮絶な光景だった。ルーミアの方は言わずもがなだが、妹紅の呪術も見事なもの。ただ型通りの呪術にしか扱わない俺と違って妹紅の呪術は独自の進化を遂げている。技量もその扱い方も、とっくに妹紅の方が上を行っていた。
どっちも死なないのが明らかなのもあって遠慮のない全力のぶつかりだ。
呪術もまがい物とはいえ、腐っても魔女の傑作。最初の火を模した呪術は通常の炎とは異なり、ルーミアの闇に抗する手段となり、戦況は拮抗していた。
妹紅は持ちうる技術の全てを結集して炎を練り上げ、ルーミアもまたそれを捻じ伏せんと闇を生む。
そんな光景を安全な場所から見ているときに思ったのだ。逃げるなら今なのでは、と。
この戦闘が始まったきっかけは、要するに俺の処遇にあった。
つまり、俺が再起不能なほどの損傷を負った場合の対応だ。
やれ首だけ持ってくだの、せっかくだから食べたいだの大変不穏な交渉が続き、最終的には互いの譲れない部分を決定するため、戦闘行為の勝者に決定権を委ねることになった。
さて、俺が使ったのは一本の折り畳み傘。
昔紫に持たされたもので、なんかあったら使えという話だった。紫の能力からしておそらく緊急の脱出装置だろうと漠然と予想していた。
二人の気も逸れているし、使うなら今だろう。
そう思って傘を開けば、俺は見知らぬ屋敷に飛んでいた。
その後は、まあ大変だった。
俺の身を案じた紫がすっ飛んできたり、気難しそうな狐と妖怪屋敷に閉じ込められたり。
最終的にはルーミアに助けられた。恐ろしいやつに借りを作ってしまった。
勝負の行方だが、やはり着かなかったようだ。
攻撃の相性が補完されているが為に決定打がなく、冗長に戦闘を続けていたらしい。そして、俺の失踪が発覚した段階で休戦。
なお、結論は治療する方向で固まったようだ。最初からそれでいいだろ。
■
「よう、射命丸。相も変わらず身軽そうじゃねぇか」
「相変わらずなのはあんた方でしょうが。妖怪の山が蜂の巣つついたみたいになってるっての」
「ただの通りすがりだ。ちょっかい出す方が悪いだろ、ハハ……」
ところ変わって、場所は妖怪の山。そこはその名の如く天狗を中心とした妖怪群が根城にしている山だった。
今、俺の旅の連れ合い妹紅は抜けている。
旅の最中、妹紅はふと耳にした噂話から仇敵の存在を知った。
どうせ終わりの無い人生だ、試しに探してみろよと持ち掛けたところ妹紅は数日悩んだのち決心して旅の仲間から外れた。
復讐に身を捧げた様子でもなかったから、本当にひと時の暇つぶしなんだろう。
それでも、意義があるってだけで不死にはありがたいもんだ。ロードランで、多くの不死が不死の使命なんて得体の知れないものをよすがにしていたように。
妹紅は俺のように心折れて何もかも諦めているわけではないから、俺の旅は退屈だったんだろうと思う。
一時期は離れるのも嫌がっていたが、その傾向も呪術の火を分けたころから無くなっていった。
俺は俺で、あても意味も無い旅を続けている。
一応、適度な暇つぶしのある居心地のいい場所を探すという名分はあるが、これがどうして中々見つからない。
最有力候補は紫の謳う楽園とやらだが、そちらの完成はまだ遠そうだ。なので、手ごろな場所はないかとぶらぶらと探し回っている。
妖怪退治はやらなくなった。できなくなったというのもある。
原因はルーミアだ。ルーミアは日中も日没後もずっと俺の影の中に潜んでおり、おかげさまで別の人間と遭遇しても特別怪しまれることはない。妹紅の時とは大違いだ。
だが、代わりに妖怪から距離を置かれるようにもなった。種を同じくする妖怪たちには俺の影に潜む"何か"のヤバさが本能的に分かってしまうようで、その地に近づくだけで一目散に逃げだしてしまうのだ。
結果として、村や町に近づくころには『前まで妖怪に困っていたけど急にどっか行った』という言葉が返ってくるようになってしまった。
村人に石を投げられるよかよっぽどましだが、どうも釈然としない。
今回の件もおおよそそんな感じだ。妖怪の山に足を踏み入れたら、ここに住み着く天狗たちが大慌て。そして不幸にもルーミアの興が乗ってしまったようで、たまには身体を動かそうかと応戦を始めた。
天狗にとって幸いなのはルーミアが遊んでいること。能力を抑え、黒いツヴァイヘンダ―を使った戦闘に留めている。
あれは見た目こそ禍々しいが、本質はただの剣でしかない。特筆すべき謂れがあるとすれば、常闇の妖怪を殺したということくらいか。だとしても、あれに退魔の力なんてありはしない。まっぷたつにされた天狗たちも生きていることだろう。
「いいのかよ、こんなところで遊んでて」
「あんたの連れならどうにもならない大事にはしないでしょ。こういう時は適度にサボるがいいのよ」
今、天狗たちの警戒はルーミアただ一人に向いている。
まあ、俺の方はただの垢抜けない男だ。たとえ発見されても厄介なタイミングで迷い込んだ人間としか思われまい。闇の妖怪と人間とを前に、人間を優先する天狗がいるはずもない。
「お前もいい加減お山の大将に担ぎ上げられてると思ったんだが」
「天魔の座なんてまっぴらごめんだわ、まどろっこしい」
目の前の射命丸のような天狗は除く。こいつは例外だ。
山の中腹、戦いの余波でへし折れた木に腰かけて一人の鴉天狗と話していた。
射命丸は古い妖怪だ。格で言えば大妖怪と並べるのに何ら遜色のない実力がある。けれど、こいつはずっとそれをひた隠しにしていた。
誰に対しても、取るに足らない一匹の妖怪のように振舞う。こいつはいつもそうだ。
「他人を顎で使うのとか性に合わないし。今くらいで丁度いいのよ」
「今は誰がやってる? 熊切か段蔵あたりだと予想してるんだが。大穴で岩鉄かな」
「死んだわよ」
「あ?」
「あんたが山を降りてからこの山にも色々あったのよ。あんたがいない内にね」
「……なんだよ、あっけねえなあ」
昔、俺はこの山で暮らしていたことがある。長いこと過ごしていたが、後から鬼だ天狗だ河童だのどんどん妖怪が集まって来たもんで、色々面倒くさくなって山を降りた。
今名前を挙げた天狗は当時の知り合いだ。全員天魔の座に相応しい実力者だった。
あの頃には同じ山に住む同居人として仲良くやっていたんだが、そうか、死んだのか。
「あの中で射命丸が一番長くなるとはな。やっぱりわかんねえもんだ」
「私は世渡り上手ですから」
「そうらしい」
思えば、射命丸はずっと風のようなやつだった。
同じところに留まることを良しとせず、気ままにあちこちを飛び回っては新しいものや興味のあるものに飛びついて回る。
飄々として掴みどころがない彼女のずけずけとした物言いは、けれど常に何か見えない一線を踏み越えることはなかった。こいつが日々何を原動力に行動しているかなんて知る由もないが、きっとそれはこの射命丸という人物にとっての譲れない矜持のようなものなのだろう。
けれど保守的な姿勢を貫く妖怪の山は、この射命丸という鴉天狗にはやや窮屈なのではないだろうか。それでも山を抜けないのは、天狗というひとつの組織とこの山への愛着からかね。
「あんの馬鹿ども、最期に次の天魔に私を推してから死にやがるから本当に迷惑したわ」
心底辟易した表情で射命丸がぼやく。確かに権力に毛ほども興味の無い射命丸からすれば、先代直々の指名など余計なお世話以外の何物でないだろう。
むしろ、よくぞ今まで躱しきったものだ。
「なら、誰に押し付けた?」
「今は秋水がやってるわ」
「あの利かん坊が? 俺もお前も散々手を焼かされたじゃねえか。あれに天魔なんて務まるのかよ」
「もうすっかり角が取れて丸くなったわよ。天魔のしがらみってやつかしらね。あーやだやだ」
「鬼に斬りかかるような向こう見ずが、天狗を率いるまでになったかよ」
射命丸は肩を抱いて首を横に振っているが、俺からしてみれば耳を疑うような話だ。
もうとっくに姿を消したが、妖怪の山の支配者は鬼だった。天狗たちはその配下だ。鬼らの暴虐に耐えかねて飛び出した若造を射命丸が必死に連れ戻して、何故か俺まで鬼連中の矢面に立たされたっけか。
「あんたはいつも変わらないわ。──私が憧れた姿そのまま」
「あ? 労働反対ってか」
俺に憧れたって? 正気を疑うね。こいつの口からまさかそんな妄言を聞く羽目になるなんてな。天狗社会のストレスでとうとう頭がいかれちまったようだ。
「真面目に聞きなさいよ。私はね。傍観者になりたいの」
「傍観者ねえ」
いまいちピンとこない。周りからみればそう映るのかもしれないが、自分でそう意識して振舞ったことはなかった。
「あんた、私が生まれるよりも早くから、当然みたいな顔して山に居たでしょ」
「まあ、な」
「完全なる第三者の視点を常にブレさせない。ただ起きた事実を、一番初めからそのまま見届けてきた」
「そうかもなあ」
改めて説明されれば納得できないこともない。だが、その姿に射命丸は憧れたという。
「まるで世界の始まりから終わりを見届ける、この山に根ざした大樹のようだった。まあ、だとしたら威厳に欠けるけど」
「悪かったな。生憎と威厳とは無縁でね」
「それでいいのよ。私が目指すのはそういうところなんだから」
「酔狂なやつだ、ハハハハ」
熱弁する射命丸に、俺は乾いた笑い声を挙げる。力を増すことでもなく、妖の上に立つことでもなく、ただ生きて世を眺め知ることを望む。変わり者の天狗だとは思って居たが、想像以上だな。繰り返すが、本当に酔狂な奴だ。
「ねえ、一応聞くけど。もう山には戻らないの?」
「こうも山を荒らした奴に居場所を寄越すと思うか?」
「黙らせるわ、私が」
射命丸の目は真剣だった。
「いいのかよ、そんなことしたらまた天魔の座が近づくぜ」
「あんたが隣にいるなら、もう一度天魔をやったっていいわ。あんたを捕まえられるっていうんなら、それくらい安いもんでしょ」
あれは俺が山を降りる間際のことだったか。当時の天魔が鬼にぶっ殺され、ほんの臨時で射命丸が天魔を務めたタイミングがあった。
纏う威厳は、まさに大妖怪のそれ。射命丸の普段の様子との変わりように感心したものだ。
俺も他の天狗も射命丸が次の頭になるとばかり思っていたが、あいつは鬼が姿を隠すや否や一目散にその肩書を投げ捨てた。
下の連中の求心力も高かっただけに衝撃的な事件だったな、あれは。
完全にそのまま射命丸が天魔を務める流れができていたが、よくぞあの外堀を埋められ梯子まで掛けられた状況から脱却したものだ。
それほどまでに嫌がった天魔の役職を引き合いに出すほどだ。射命丸も本気らしい。本当に随分と高く買われたものだ。
さて、俺の妖怪の山での実績といえば、無いことも無い。射命丸が天魔のときに、俺も半ば強引にご意見番という謎の地位を与えられたことがある。やることといえば、厄介な外敵が来た時に天狗に入れ知恵するくらいのものだったが。長く生きたが故の知識を適度に話せばいいんで楽なもんだった。
これはもっと昔から馴染みの天狗に尋ねられたときにも同じようなことはしていたので、それが役職という明確な役割になっただけのこと。
それと同じことをすればいいんだとすれば、射命丸の誘いはかなり魅力的に思える。
だが、駄目だな。
「悪いが先約がある。誘いには乗れねえな」
返事を聞いた射命丸がすっと目を細める。
「先約、ねえ……。どうせ八雲紫とでしょう」
「おお、当たり。よくわかったな」
「あんたが私の誘いを袖にするときはだいたい八雲紫が絡んでんのよ」
眉をひそめ、口元をへの字に曲げた射命丸がいかにも機嫌の悪そうな声色で言う。
俺が求めるのは、何の責任も無いひと時の場所。ここで射命丸の誘いに乗ってしまえば、いざ紫の迎えが来た時に厄介なことになってしまう。俺一人が逃げ出すだけならまだしも、そのために天魔にまでなった射命丸を置き去りにするのはあまりに忍びない。
「あんたの真似をしようとして、一つ気づいたことがあるのよ」
「へえ、聞かせてくれよ」
そんなもの、長い人生の中で一度だって聞いたことがない。俺の真似をしようなんてやつは、こいつが最初で最後だろう。
「傍観に徹するには、誰の干渉をも跳ねのけられる力が必要ってこと。私が力を付けたのもそれが理由」
「へえ、そうかい」
「でもね、力は人を惹きつける。けれど振りかざせば良いというものでもない。あんたはその辺の塩梅が完璧だった」
その通りだ。ロードランやその後の土地でぼうっと過ごしていた俺は、心が折れても巡礼を何度もこなせるだけの力はあった。
しかし困ったことに、それが知れると縋るやつが出てくる。あるいは、ただ傍観する存在を糧にしようと襲い掛かる奴もいる。
力の使い方は千差万別だが……俺のようなやり方は、特殊な部類だろう。
「"八雲の月明かり"ってあんたのことでしょ」
「知らねえな。青い剣だの月明かりだの、名乗った覚えもない」
大仰な名前が付いてるようだがどう考えても名前負けだ。ただの不死者一人に、何をそう盛り上がることがある。それに、目撃者は紫とルーミアを除いて全て息の根を止めたと思っていたんだが、どこから話が出たんだ。
……紫が自分で流布したのか? あり得る話だ。
「そう言うと思った。だから、噂の真偽を確かめるわ。私自ら」
「なんだよ、やる気か?」
「さっきはああ言ったけど、こう見えて頭に来てるのよ。私の誘いを振ったこと、後悔なさい!」
一気に剣呑な空気が満ちる。
射命丸が橙色の天狗団扇を振り上げると、たちまち俺と射命丸を囲うように風の壁が出来上がった。あたりの林は根こそぎ吹き飛ばされ、土砂や木々の巻き込んだ風が八方を隙間なく塞ぐ。強力な竜巻の内側に閉じ込められたようだ。
見上げても果ても見えない竜巻は、不思議なことに内側に礫の一つも飛来してこない。
これもまた、眼前の妖怪の緻密な風の操作によって成り立っているのだろう。これができる天狗など、この日本には二人といまい。こいつの力量は、現在の天魔のそれを優に超えている。
それにしても、最初に退路を断つか。本当にここで戦闘するつもりらしい。俺も腹を括ろう。
「覚悟──!」
「俺も死ぬのは嫌なんでね。心折れたって舐めるなよ、若造」
■
あれは、一体どういうことだろう。
妖怪の山を駆ける白狼天狗、犬走 椛の視界には、千里眼の能力により二人の人物が剣を抜いて戦闘している様子が映っていた。
一人は射命丸。己の先輩にあたる。飄々とした人柄で、いつも適度に手を抜く底の知れない人物。ずっと昔からこの妖怪の山にいるようで、仲間の誰に聞いても彼女がいつからこの山にいるか知らないという。
噂によれば何度も何度も天魔に推薦されておりながら、その悉くを蹴ったとか。
今の戦闘の様子を見れば、噂が真実であったと確信できる。
身のこなし、剣術、神通力。どれをとっても尋常な領域にはない。
だが、それと同じくらいに相対する男も尋常ではない。いや。むしろ尋常すぎることが異常だった。
男は戦士の出で立ちだった。
むき出しの鎖帷子で全身を覆い、ひしゃげた金属盾と鉄の剣を手に応戦している。
それだけを見れば、ただの人間の雑兵だ。印象をそのままに語れば、椛でも瞬殺できるように思える。
だが、彼は卓越した戦闘を行う射命丸を一方的に追い詰めている。これが現実だ。
彼の剣戟に、筋力に裏付けされた重厚さはない。
本人の研ぎ澄まされた技量による、特別な太刀筋も見受けられない。
振るわれる直剣も、何ら変哲のない品のはずだ。
剣術の具合だって、所詮凡才の域を出ないだろう。一点に没頭するような専心もなければ、奇をてらって意表を突くものでもない。
才がなくとも、時間すらかければ誰でもすべからく到達できる程度のもの。
だが──強い。
攻撃が紙一重で届かない、恐ろしく精密な間合いの保ち方。客観的に観察している今だからこそ気づけたものの、実際に相対してみればまるで訳がわからないはずだ。
振るわれる軌跡も見える。速度もさしたるものではない。だが、それがどうあっても防ぎきれない刹那に繰り出される。まるで、詰め将棋のようにジリジリと敗北へと押し出されていく。
まるで──決して凡才の域を出ないものが莫大の戦闘経験の末に至る境地のような。
非才の者が、非才のままに持ちうる全てを徹底的に活かさんとする剣。
どう生きれば、どんな経験をすれば、どんな場所に身を置けばこんな剣を振るうようになる?
尽きぬ興味を胸に、椛は竜巻の中へと身を投げた。
■
「助太刀に参りました」
「椛!? 邪魔よ、すっこんでなさい!」
「新手。しかも白髪で、赤目ときた。こいつは、良くないぞ……」
風を割って飛び込んできたのは、白い天狗。分厚い片手剣に小盾を携えている。
個人的な事情で非常にお近づきになりたくない外見をしている上に、この状況だ。
数の不利というのは、非常にまずい。戦闘において最も避けなくてはならない状況だ。
打開するには、弱いやつを速攻で片づけるのがセオリーだ。しかし──
「是非、立ち合っていただきたい」
白い天狗はそれを許してくれそうにない。やる気満々だ。赤い瞳が好戦的な光を灯して俺を貫いていた。
できれば剣一本が良かったが、術の類も解禁しないと流石に分が悪いか。しかしそうなるといよいよ加減が利かなくなる。こんな小競り合いみたいな戦闘で古い知己を失いたくはないんだが、背に腹は代えられないか。
そう思っていた折、俺と天狗の間に黒い閃光が走る。
「いやあ、楽しかった! 今の天魔は強いね。いい暇つぶしになった」
「帰って来たか! 丁度いい、ずらかるぞ」
瞬時に姿を現したのはルーミア。一通り山で遊び終わって戻ってきたようだが、素晴らしいタイミングだ。
「ふむ。まあいいとも」
ちらりと辺りを見て状況を判断したのかルーミアが頷く。こいつさえいれば後はよう分からん能力でここを脱出できる。
「させ──ッ!?」
二人の天狗が、逃がすまいと踏み込むが、まるでつまずいたように姿勢を崩してたたらを踏む。
「何を!?」
「"平和"が一番だよ、ハハ」
悪名高き異端の奇跡『緩やかな平和の歩み』。範囲内の敵対者の移動能力を"歩き"に限定する極悪な性質を持つ。今回は逃走用に使わせてもらった。
「じゃあな。楽しかったぜ」
「私も楽しませてもらった。死者はいないから、君たちで頑張って手当してくれ。ではごきげんよう」
ルーミアに抱かれ、沼のように広がる闇に沈んでいく。"平和"によって移動を制限された二人の天狗が、歯がゆそうな面持ちで俺を見送るのが最後に見えた。
ロングソード
心折れた戦士の剣。
特筆すべきところのないありふれた直剣。
男と共に幾百の巡礼を超えたこの剣は、しかし最後まで特別な力を宿すことはなかった。
まるで、男の巡礼とその平凡さを嘲笑うかように。
けれど男は、例え報われずとも確かにこの剣で立ちはだかる全てを斬ったのだ。
ところで『もこたんx青ニート』というタイトルは不適切だと思います。次回から『ゆかりんx青ニート』に変更してはいかがでしょうか?
___匿名の境界の妖怪より