初めての他視点なので実質初投稿です。
星崎望幸が消えた。
それは藤丸立香にとっては最悪と言ってもいい出来事だった。
立香にとって望幸の存在は半身、いや比翼の鳥と言ってもいいほどだ。生まれた時から一緒だったからだろうか、立香にしてみれば望幸と一緒にいるのは当たり前の事だった。
だからこそ、このカルデアに来た時に最初に望幸に出会えたことは立香にとっては何よりも安心出来ることだった。例え爆破テロのような出来事が起きたとしてもそれでも望幸と一緒であれば前を向いていけた。
だが、この地獄のような街に着いた時には望幸は隣にいなかった。何処を見渡しても望幸の姿が見えなかった。それは立香にとっての精神的支柱であった存在が消えたことにより、立香が抑え込んでいた負の感情が溢れ出すことを意味していた。
不安、焦燥、恐怖、悲哀。あらゆる感情がミキサーでかき混ぜられたかのように立香の心を大いに荒らしていく。やがてその荒れ狂う感情は1つの結論を出す。
会いたい。
ほんの一瞬だけ、全てを投げ捨ててでも望幸に会いたいと立香は思ってしまった。
「……先輩、どうかしましたか?」
「あ、ううん! 別になんでもないよ!」
けれど立香はその強靭な精神力を以ってその感情に蓋をする。気づかれないように、なんでもないと振舞ってみせるのだ。
「それにしても望幸さんは何処に飛ばされたんでしょう。とても心配です」
「うん、そうだね。私も凄く心配なんだ。だから早く望幸を見つけよう」
望幸が傍に居ないのは不安で仕方がないけれど、私はまだ大丈夫。だって望幸と約束したことを思い出したから。
「……そうだよね。早く、望幸を見つけないと」
それからはマシュとオルガマリー所長と共に特異点の解決とともに望幸を探し始めた。その道中様々な事が起きた。
まるで影法師のような姿で襲いかかってきたアサシンとランサー。狂ったように聖杯、聖杯と言って私達に攻撃を仕掛けてきたが、デミサーヴァントとなったマシュが撃退してくれたことで何とか助かった。
けど、望幸は見つからなかった。
人を石へと変える怪物、メデューサ。デミサーヴァントとなったばかりのマシュにとっては強敵であり、苦戦していたところをキャスターとして現界したクーフーリンの助けによってメデューサを撃破することが出来た。そしてその後キャスターが仲間になってくれた。とても心強いと思う。
望幸は見つからなかった。
キャスターが警戒しろと言っていたアーチャー。その人がいると聞いた場所に行ったがいなかった。不思議に思いつつも、柳洞寺と書かれた寺の中に何かないかと探してみたら何やら虹色に光る石を見つけた。取り敢えず拾っておこう。そうして寺の中を探索していたら何かが粉砕されるような轟音が鳴り響いた。
その音と気配に反応したキャスターが今すぐ逃げるぞと言って急いで柳洞寺から出ていった。どうやら先ほどの音の正体はバーサーカーらしいとの事だった。
……望幸は、見つからなかった。
そしてこの狂った聖杯戦争を始めたセイバーとの戦い。それが始まる前に宝具を使えないマシュを鍛えるとキャスターと戦った。その結果、マシュは宝具を使えるようになった。その姿を見たキャスターはこれなら大丈夫だろうと言って、一緒にセイバーが待ち構える大空洞へと向かった。
…………。
「望幸……」
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪
柳洞寺の真下にある大空洞に着いた。
「これが大聖杯……超抜級の魔術炉心じゃない。なんでこんなものがこんな極東にあるのよ……」
大空洞の中央に座す大聖杯を見てオルガマリーは愕然とした様子で呟いた。魔術師として優秀な知識を蓄えていたからこそ正しくその異常さを認識することが出来た。
『資料によると制作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです』
その大聖杯の補足説明を通信越しで行うロマニ。続けて説明をしようとしたが、それはキャスターによって中断された。
「悪いな、お喋りはそこまでだ。奴さんに気付かれたようだぜ」
そう言ってキャスターが睨む先には禍々しい黒に染まった鎧と聖剣を携えたセイバー、アーサー王が此方を冷酷な目で睥睨していた。
薄い金色の髪に色素の薄い肌、此方を冷酷に見つめる金色の目。そしてなによりも魔術師としてド素人の立香でさえ分かるほどの膨大な魔力がセイバーを中心に渦巻いていた。
「…………」
「なんて魔力放出……。あれが、本当にあのアーサー王だというのですか?」
「見た目は華奢だが甘く見るなよ。あれは筋肉じゃなく魔力放出でカッ飛ぶ化け物だからな。一撃一撃がバカみてぇに重い。気を抜けば上半身ごと持っていかれるぞ」
「ロケットの擬人化の様なものですね……。了解しました。全力で応戦します」
「──話は終わったか?」
今まで黙って聞いていたセイバーが唐突に口を開いた。
「なぬ!? テメェ喋れたのか!? 今までだんまり決め込んでやがったのか!?」
「は、それももう聞き飽きた台詞だな」
そういうセイバーはまるでこれから何を言うのか、何が起きるのかを知っているかのような態度であった。
「まあいい。黙っていたのは何を言っても見られているからだ。故に案山子に徹していた」
「ならば何故案山子に徹するのをやめた?」
キャスターが抱いた当然の疑問。今の今まで案山子に徹していたと言うのならば、何故やめたのか。その疑問にセイバーは鼻で笑った。
「決まっている。貴様達が来たということは遅かれ早かれあの大馬鹿者がくるからだ」
「大馬鹿者だぁ……? テメェ誰のこと言ってやがる」
「それを貴様に教える義理はないな」
「ケッ、そうかよ」
これ以上お前に話すことは無いとセイバーはキャスターから視線を切る。そして次にセイバーが見つめたのは後方に立っていた立香だった。
「試させてもらうぞ、藤丸立香。お前があの大馬鹿者の足枷にならぬかをな」
「え……? なんで私の名前を」
当たり前の疑問。名乗ってもいないと言うのに何故か此方の名前を知っていたセイバー。然れどセイバーは最早言葉は不要と言わんばかりに全身から渦巻く魔力を滾らせて黒き聖剣を持ってこちらに襲いかかってきた。
「っとぉ! いきなりマスターは取れねぇんじゃねえの?」
弾丸のようにこちら目掛けて飛んできたセイバーをキャスターがルーン魔術を用いて火炎を飛ばすことで牽制をする。
だが、セイバーはそれをまるで知っていたかの如く見もせずに体を傾けることで簡単に回避する。そしてそのまま立香の方──ではなく、ルーン魔術を使用した事でほんの僅かに硬直したキャスターの方へとジェット機の様な速度で間を詰める。
「しまっ──」
「まずは貴様からだ、死ね」
振り下ろされる聖剣。このままいけば確実にキャスターの肉体を切り裂くだろう。だが、それはシールダーたるマシュが許さない。
「させません!」
キャスターとセイバーの間に割り込み、盾を用いてセイバーの聖剣をはじき返す。
「ほう……」
「悪ぃな嬢ちゃん、助かったぜ! アンサズ!」
ルーン魔術により放たれた灼熱の炎弾は聖剣を上へとはじかれガラ空きとなったセイバーの胴体へと向かう。だが──
「エクスカリバー……」
聖剣へ魔力の収束が異常な速さで、爆発的に膨れ上がっているのを感じ取ったキャスターはセイバーが何をしようとしているのか気が付いた。
「ッ!? 不味いっ! 嬢ちゃん逃げるぞ!」
「モルガーン!!!」
セイバーに向かった炎弾は無理矢理体勢を立て直し、聖杯より供給された魔力を惜しみなく使ったセイバーの竜の吐息を思わせるような宝具によって容易く飲み込まれた。
大空洞に巻き起こる容赦ない破壊の轟音。有象無象を消し去る慈悲のない破滅の熱線。直線上にあった全ての物がまるで飴細工のように融解していく。
「ふん、上手く躱したか」
「嘘でしょ……?」
それを呟いたのは誰だったのか。いや、もしかすればキャスターを除いた全員が呟いたのかもしれない。
セイバーが放った宝具による一撃はこの大空洞の岩壁を容易く貫き、大空洞へと繋がる道を新しく作りあげたのだ。
「おいおい! そんなに魔力をバカスカ使いやがってよ! ちったぁ自重しろや!」
「くだらん」
その言葉とともに先程と同じように聖剣へと莫大な魔力が収束していく。そしてその矛先はキャスター達ではなく、先程の攻防で離れてしまった立香達へと向いていた。
「チッ!」
それにいち早く気がついたキャスターは自身に強化のルーン魔術を掛け、セイバーへと近距離戦へと持ち込んだ。
杖にも強化のルーン魔術を仕掛け、まるで槍のように扱うキャスター。その猛攻はランサークラスを思わせるが、本来のクラスではないためセイバーにいとも容易く防がれる。
「貴様はキャスタークラスではないのか?」
「剣を使うアーチャーだっているんだ。槍を使うキャスターがいたっておかしくはねぇだろ?」
「は、それもそうか」
互いに軽口を叩き合いながらも幾度となく切り結び、火花が散る。だが、ランサークラスで呼ばれていないキャスターが徐々に力負けをして押し込まれ始めた。
「ぐっ……」
「そら、終いだ」
幾度目かの斬り合い。その瞬間、セイバーは己の聖剣に宝具を纏わせた上に魔力放出を行い、キャスターを力技で岩壁へと叩きつけた。
「ぐぁっ……!」
そして間髪入れずの宝具。岩壁へと叩きつけられたキャスターはその攻撃を凌げるはずもなく、膨大な熱量を誇る聖剣の一撃によって飲み込まれた。
「キャスター!!」
思わず声を荒げる立香。
「他人の心配事をしている場合か?」
「え……?」
先程までキャスターと戦っていたはずなのに、いつの間にか目の前に現れていたセイバーの姿を見て、立香は思わず尻もちをついてしまった。
振り上げられる聖剣。まるで熱したナイフをバターに入れるかのように容易く両断されることは想像に固くない。
「藤丸!」
「先輩!」
マシュとオルガマリーが助けようと此方に向かおうとするが、もはやこの距離では確実に間に合わない。己の未来を想像してしまった立香はきゅっと目をつぶった。
「……ふん、これで終わりだ」
聖剣は無慈悲にも立香の体を袈裟斬りにしようと振り下ろされた。その瞬間、不意に立香はここに飛ぶ前のことを思い出した。
『──大丈夫、お前は必ず俺が守るから』
そして1発の銃声が大空洞へと鳴り響いた。
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来たるべき痛みに備えてぎゅっと目をつぶった立香。然れどいつまで経っても痛みは襲ってこず、寧ろ何だかとても安心するような温かさに包まれていることに気がついた。
一体何が……?
不思議に思って恐る恐る目を開けるとそこには自分が会いたくて会いたくて仕方がなかった、星崎望幸が自身を守るように抱き締めていた。
「望幸……?」
「……大丈夫か?」
そう言って無表情で、しかし目だけは心配そうにこちらを見つめる姿は間違いなく自分が会いたかった人だった。
望幸は立香に怪我がないことを確認すると立香にあるものを渡してからゆっくりと立ち上がり、いつの間にか遠くにいたセイバーの方へと向き直る。
「ようやく来たか大馬鹿者め」
「……」
「久しぶりに会ったんだ。何か言ったらどうだ? ……って、ああそうか。今回は初めて会ったのか。いかんな、あの突撃女ほど私は覚えられる訳では無いからな。どうにも記憶が混ざってしまう」
無表情で黙り込みつつも手に持つ銃器とナイフを構え、冷静にセイバーを見据える。その反対にセイバーはどういう訳か声を弾ませて嬉しそうに望幸に語りかける。だが、セイバーは唐突に顔を歪ませた。
「……まだ貴様は彷徨い続けているのか。様々なものを代償にしてまで何故そこまで彷徨い続ける? 痛覚すら失ったその肉体で何を求めている?」
セイバーがそこまで言った所で立香はあることに気がついた。それは先程自分を庇った時に出来たのであろう傷口から血が溢れ、望幸の足元に赤い水溜りを作っていることに。
「…………」
「だんまりか。貴様はいつもそうだな。他者に対しては異常なまでに気にかける癖に自身のことになると病的なまで無頓着になる。……ああ、本当に反吐が出る。そんな事をするお前にも、『あの時』それに気がつけなかった私にも」
そういうセイバーはまるで思い出したくもない過去を思い出した様に苦々しい顔を伏せる。そして伏せた顔を上げると聖剣を構えた。
「なあ、大馬鹿者よ。これ以上彷徨い続けると言うのであれば私を倒していけ。できなければ私がお前をここで殺す」
そういうとセイバーは何処か寂しげに笑う。
「それが、今の私がお前にしてやれる唯一の事だからな」
それはそうと可愛い女の子の歪む顔っていいよね。いや別にそれがこの小説に関係するとかそういう訳ではありませんけども。ありませんけども。
ホモくんの置換呪術について勘違いされてる方が多かったので補足説明。
ホモくんの肉体置換は対象の情報を置換する呪術だったりします。つまりどういうことかというと、
A音速で飛ぶ弾丸
Bその場に静止するホモくん
この弾丸とホモくんを置換すると
A音速で飛ぶホモくん
Bその場で静止する弾丸
みたいな感じです。また、他にも一方的に置換することも出来ます。先程と同じように、
A音速で飛ぶ弾丸
B音速で飛ぶホモくん
だとすると
A弾丸
B音速で飛ぶ+音速で飛ぶホモくん
と言ったような感じで加速するのが前話でやっていた移動方です。なお強化魔術無しで使う即死する模様。
説明ができたので失踪します。