今回はRTAパート一切無しです
フランス中央部に位置するラ・シャリテ。かつては人が営む都市であっただろうことは想像にかたくないその街はもはや当初の状態など分からぬほどの廃墟へと変貌していた。
この街を守っていた兵士たちが懸命に戦っていたのが伺えるように辺りに散乱した剣や槍。されどその必死の抵抗虚しく壊れ、拉げ、瓦礫の山と化した街にさしもの立香達も閉口してしまった。
「これは……」
「ドクター、生体反応を──」
ほんの少しの希望も込めてマシュはロマニに生存者の確認をしてもらう。だが、現実はあまりにも無情であった。
『……駄目だ、この街には命と呼べるものは残っていない』
「そんな……」
その事実に悲観している一行の背後からジャリッと音が聞こえた。もしかしたら生体反応から漏れた生存者か、そう考えて振り返った立香達。だが、そこにいたのは──
「骸骨兵……!」
不気味な様子でケタケタと骨を鳴らし、彼女たちの希望を嘲笑うかのような骸骨兵。そんな様子を見て否が応でも嫌な想像が掻き立てられる。
もしやこの骸骨兵はこの街の人達の──
立香の脳裏に浮かぶ嫌な想像。だが、それを振り払うように望幸が先に行動を起こした。
「……蹴散らす」
その言葉とともに望幸の銃口から吐き出される弾丸。それは立香達の目の前にいた骸骨兵の頭を的確に砕いていく。
「はいはい、仕方ありませんねぇ」
「ええ、了解しました。それからマスターはしっかり後ろにいてくださいね?」
「……ああ」
その言葉とともに望幸のサーヴァントであるカーマとキアラも動き出し、周囲に潜んでいたのか、大量に現れ始めた骸骨兵を掃討していく。
「マスター、私達も後に続きましょう」
「……うん、そうだね。マシュ、エミヤ、ケイローン。あの骸骨兵達を倒そう」
ケイローンから促され、立香は覚悟を決めて骸骨兵達の掃討を命令する。骸骨兵達に思うところがない訳では無い。だが、その気持ちに蓋をして立香は前に進む。
「ふっ!」
ケイローン、エミヤから放たれる音速の矢は骸骨兵の頭を軽々と撃ち抜き、圧倒的な速度で彼らを殲滅していく。
そして仮に2人が展開する弾幕を運良く突破できた存在がいたとしても──
「はぁっ!」
「はっ!」
マシュとジャンヌが立香を守るため、近づいてきた骸骨兵達を打ち砕く。この鉄壁を思わせる守りにより立香は安全にそして援護に集中することが出来た。
そうして殲滅完了まであと少しと言うところで不意に立香に影が差し込んだ。
何が──
そう思って空を見上げると血に飢えた獣のように目を血走らせて、鋭い牙を見せつけるように大口を開けて立香に目掛けて空から強襲を仕掛けてくるワイバーンの姿があった。
「……ひっ!」
そのあまりの形相に思わず悲鳴を上げ、蛇に睨まれた蛙のように体が硬直してしまった立香。思わず脳裏に浮かぶ自分の凄惨な最期にじわりと目に涙が浮かぶ。
けれど──
「──大丈夫」
隣にいた望幸がいっそのこと機械を思わせるほどの無機質で無表情な顔に似合わぬ優しげな声で立香を落ち着かせる。
そしてその言葉を示すように大口を開けて突っ込んでくるワイバーンに対して近くに散乱していた槍を蹴り上げて手に持ち、ワイバーンの口内に向けて弾丸を放った。
音速で飛来する弾丸はワイバーンの口内目掛けて飛んでいき、そして望幸の得意とする置換呪術により弾丸は槍に変化した。
その槍は大口を開けてしまったが故に柔らかい内側を露出させてしまったワイバーンの口腔を蹂躙し、臓物を引き裂き貫いていく。
さしものワイバーンもその攻撃に耐えることは出来ず、目から光を失って立香達から少し離れた位置に墜落した。
「あ、ありがとう」
「……ああ」
望幸はそう言うと彼のサーヴァントであるカーマとキアラに向けて命令を出した。
「カーマとキアラはワイバーンを頼む」
「いいですよぉ」
「承知致しました」
その言葉とともに空から現れたワイバーン達をカーマは三鈷杵を自在に操り的確に撃墜していく。
キアラは合掌、そして印を結ぶことで頭上に妖しく紫に光る巨大な玉を作り上げた。
「ではこうしましょう」
キアラのその言葉と共に光の玉は無数に分裂し、光弾となってワイバーン達へと襲いかかる。無論、ワイバーンも逃げようとしたり、避けようとしたりするのだが、キアラが打ち出した光弾は逃げることも避けることも許さない。まるで蛇のようにワイバーンを執拗に狙うのだ。
その様はまさに蹂躙と呼べるものであった。
また、どういう訳かワイバーン達は先程まで狙っていたはずの立香達に目もくれずにカーマとキアラに殺到していく。その姿はまるで火の光に吸い寄せられた哀れな虫のようであった。
「魅了によってワイバーン達を自分達に集中させているのか。おかげで此方には目もくれず、実に殺りやすいな」
その言葉ともに先程まで骸骨兵達の相手をしていたエミヤは殲滅が完了したのか、キアラとカーマに夢中になっているワイバーン達を横合いから狙撃する。
剣を矢に変化させ、弓に番える。そしてギチギチと弦をしならせて放たれた矢は硬質な鱗で覆われているはずのワイバーンへ容易く突き刺さるどころか、貫通し近くにいるワイバーンすらもまとめて射殺す。
そうしてあと少しでワイバーンも殲滅が完了すると言ったところで慌てた様子のロマニから連絡が入った。
『まずいぞ、サーヴァントの反応だ! 数は六騎! この速度はライダーでもいるのか? 兎に角物凄い速度で此方に近づいてる。明らかにこちらを認識して狙ってるぞ!』
その先を言おうとしたロマニだったが、魔力を観測することによって敵サーヴァントの戦力を推測しようとしたところで、画面に表示された数値に絶句した。
『なっ、なぁ!? 立香ちゃん、望幸くん! 今すぐそこから逃げるんだ! いいか、絶対に戦ったら駄目だ! 敵の魔力数値があまりにも高すぎる。明らかに異常だ! 早く逃げるんだ!』
そう提案するロマニであったが、ケイローンは上空を見据え手に持つ弓を引き絞った。
「──いや、もう遅いようですよ」
その言葉ともに轟々と燃え盛る巨大な炎が立香達に目掛けて降り注ぐ。だが、その炎はケイローンの剛弓により掻き消され、そのままの勢いでケイローンが狙い撃った敵らしき存在に肉薄する。
しかしその剛弓は無造作に薙ぎ払われた旗のような武器により狙いを逸らされた。金属同士がぶつかる鈍い音を響かせて明後日の方向に飛んで行った矢は大地を穿つ。
恐るべきは逸らされても尚その威力を誇るケイローンの剛弓であり、そしてその剛弓を容易く薙ぎ払うことのできる敵サーヴァントの強さであろう。
矢を弾き飛ばした者は長い髪を靡かせ、凄まじい圧を放つ巨龍の背から立香達を睥睨する者の姿はジャンヌに瓜二つの姿をしていた。
だが、決定的に違うのはその身に纏う絶対零度を思わせるほどの冷たい敵意と地獄の業火ですら生温いと思わせるほどの荒々しく燃え盛る憎悪を併せ持つことだろう。
「あれが……ジャンヌ・オルタ……!?」
「──ええ、そうです。私はジャンヌ・オルタ。このフランスを滅ぼす者よ」
圧倒的な気配に戦慄した様に呟く立香にジャンヌ・オルタは是と返した。まるでその名こそ自分を示す唯一絶対の名であるといわんばかりに。
そしてフランスを滅ぼすという言葉に真っ先に反応したのはもう一人のジャンヌであった。
「何故、何故そのようなことをするのですか!?」
そう叫ぶジャンヌをジャンヌ・オルタはまるで煩わしい羽虫を見るかの如く冷めた目で彼女を見据える。
「今回は聖杯によるバックアップを十分に受けていないのだから多少は覚えているのかと思いましたが……。どうやらその様子を見るにさほど覚えていないようね。彼奴に関する記憶の持ち出しは聖杯、ひいては抑止力による妨害を受けているという訳では無いということなのかしら。まあ、それは後で考えるとしましょう」
ジャンヌの言葉を受け、何か考えていた様子を見せていたジャンヌ・オルタであったが、一度望幸の方に視線を送るとジャンヌの問いかけに対して改めて答え始めた。
「それで、何故そのようなことをするのか、でしたっけ? 簡単なことよ、憎くて憎くて堪らないからよ。このフランス……いえ、この世界そのものがね。故に滅ぼす。故に破壊する。それ以外に何か理由がいりますか?」
「──」
ジャンヌ・オルタの瞳に映る余りに深い憎悪を垣間見てジャンヌは絶句する。その憎悪の深さを見て思わず本当にアレは私と同じ存在なのかと疑問を持つほどに。
「何故、そこまで……」
「ハッ、決まっているでしょう! 私はもう騙されない、もう裏切りを許さない、もう、置いてなど行かれない……!」
音が鳴るほど歯を食いしばるジャンヌ・オルタ。そしてそれと共により一層深くなる憎悪と憤怒。だが、不意にジャンヌ・オルタは優しげな笑みを浮かべた。
「それに誰か一人を犠牲にしなければ存続出来ない世などいっその事滅ぼしてあげるのが慈悲というものでしょう? 故にそれこそが私の、ジャンヌ・オルタとしての救国方法です。まあ、あなたに理解される必要もされたくもないわ。憎しみも喜びも見ないフリをして、人間的成長を全くしなくなったお綺麗な聖処女様には特にね!」
「なっ──」
『いや、サーヴァントに人間的成長ってどうなんだ? それを言うなら英霊的霊格アップというか……』
ジャンヌ・オルタの言葉に思わず突っ込んでしまったロマニに対してジャンヌ・オルタは不機嫌そうに眉を顰めた。
「──本当にやかましいわね。その口を閉じて黙ってなさい。じゃないと燃やすわよ?」
『!? ちょっ、コンソールが燃えだしたぞ!? あのサーヴァント、睨むだけで相手を呪うのか!?』
通信越しに騒ぎ出すロマニを他所にジャンヌはもう一人の自分を見つめる。
「──貴女は、本当に“私”なのですか……?」
「……呆れた。本当に物分りの悪い田舎娘ね。ここまで分かりやすく演じたというのに。貴女が私? 笑わせないでちょうだい。私は私よ。この憎悪を理解できない貴女ではない」
そこまで言ったところでジャンヌ・オルタは片手を挙げた。
「さて、話はここまでにしましょう。今まで雑魚相手で大して面白くもなかったでしょう? 喜びなさい、これから貴方達が戦う相手は強者です。きっと退屈なんてしないわ」
その言葉ともに巨龍の背から3人の影が立香達の目の前に飛び降りた。
「ふん、ようやく余達の出番か」
「あら、随分と王様は張り切っている様子ね?」
「……2人とも当初の目的を忘れないでくださいね」
闇に溶け込みそうなほど黒い貴族服を身に纏う槍を手に持つ男、茨を思わせるドレスを纏い、仮面を着けた女、羽帽子を被った男か女か分からぬほどの中性的な容姿を持つ剣士。その3人が立香達の目の前に降り立った。
剣士の言葉に2人は嘆息しつつも望幸に向けて視線を向けた。そして思わず口を手で覆ってしまった。
「痛ましいにも程がある……だが──」
「あまりにも惨い……けれど──」
「「なんと
彼らは望幸が持つ魂の輝きを見て感嘆の息を吐いた。初めて見た頃とは比較にならぬほど歪み、壊れ、劣化している。されど、その魂の輝きは依然として変わってはいない。否、寧ろ洗練されていると言ってもいいほどであった。その目も眩む程の圧倒的な輝きに、死んだものであるサーヴァントは無意識的に惹かれてしまう。
だが、それ故に2人は思わず顔を顰めた。何故ならその美しさは彼が今も尚苦しんでいる証でもあるのだから。
なればこそ彼らが抱いた感情はひとつ。
「ああ、そうさな。これに関してだけは余も彼奴と同じ思いよ」
「ええ、そうね。私もそう思ったところだわ」
そして2人の反応から望幸が今どう言う状態なのか、ジャンヌ・オルタから事前に知らされていた情報と掛け合わせることで正しく把握出来た剣士は剣を握る力が強くなる。そして同時に他の2人が抱いたであろう気持ちを抱き、その瞳に決意を宿す。
「ああマスター、必ず終わらせてみせよう」
剣士が呟いたマスターという言葉はジャンヌ・オルタに向けてのものか、それともあるいはその視線の先にいる者に対してなのか。
されど、変わらぬことはただ1つ。これより両陣営は譲れぬものの為に激突するということだけだ。
じゃあまた無人島生活するので失踪しますね