小説パートを書いたので初投稿です。
ジャンヌ・オルタは城の最奥に存在する玉座に腰掛けてとある事について考えていた。
「キアラからの情報とアタランテからの情報、そして私自身が持つ情報。これらを統合してもやっぱり彼奴の力、そして目的が分からないわね……」
ジャンヌ・オルタが今までやっていたことは、救いたいと心から望んでいる者についての情報収集だった。フランスの事などどうでもよかった。無論、復讐者として現界している以上、フランスに対する恨みはある。たとえそれが作られた物であったとしても、その復讐心だけはジャンヌ・オルタという存在を証明する物なのだから。
だが、今のジャンヌ・オルタはそれ以上の憎悪を抱いている。それは彼に惨たらしい結末を迎えさせた唾棄すべき腐れ外道の魔術師達であり、彼にあのような役目を押し付けた世界そのものが憎くて憎くてたまらない。
だからこそその憎悪を晴らすためにジャンヌ・オルタは彼の迎える結末を回避させ、役目から解放させる事が目的なのだ。例えば人理が滅ぶ事で彼が救われるのならば喜んで人理を滅ぼそう。
けれど、彼はそんな事では決して救われない。幾度人理を滅ぼそうが彼が背負っている役目からは解放させてやることが出来ない。
故にジャンヌ・オルタは知らなければならない。彼の望みと力の根源を。それこそが彼を救う唯一の方法だと思っているが故に。
「キアラからの情報では彼奴の今回の動きから考えるとカルデアの全員が生き残る事を目的としている。けど、それともう1つ何か他の目的もあるように感じる、か」
カルデアの全員が生き残る事を目的とするのは分かる。彼奴自身、元はとんでもないお人好しだった。だが、もう1つの目的とやらが全く分からない。
しかし、その目的とやらがある意味で最大の狙いなのだろう。でなければ全員生き残って人理修復を成した事もあるというのにもう一度やり直す意味が無い。
「アタランテからの情報では彼奴の目がほんの一瞬赤く染まった時、自身と近しい神の力を感じたと言っていたわね。ただ、同時に
矛盾した内容にジャンヌ・オルタは思わず舌を打つ。
近しいのに最も離れた力。
それこそが彼の力の根源なのだろう。
「ギリシャの神で時間に関与するのは確か……クロノスだったかしら。けど仮に彼奴がその力を持っていたならばケイローンが気づかないはずがないわね」
ギリシャ神話における時間を司る神。カオスから生まれたとも元は川の神であったともされる神の一柱。農耕の神にして大神ゼウスの父であるクロノスとは異なる少々変わった同名の神だ。
だが、仮にその力を持っていたとしたら神授の知恵を持つケイローンが真っ先に気がつくだろう。
そうなると彼の力の根源はクロノスではない。
仮にアタランテから得た近しいのに最も離れた力という情報を抜きに考えた場合ならばどうだろうか。
「他神話でぱっと思いつくのが北欧神話の運命の三女神」
死を意味するウルズ、起きつつあることを意味するヴェルダンディ、これから成されるべきのことを意味するスクルドの三女神、通称『ノルンの女神』。
彼女らの権能は過去未来現在を司る。故に彼の力の根源に当てはまりそうではあるが──
「これも違うわね。仮に彼奴が三女神の力を使って過去に逆行していたとしても逆行するたびに姿が変わる理由が分からない」
他に思い当たる時を司る神々を考えるが其のどれもが彼の力の根源と一致しない。そうなると彼の力は時間には関与しないのかとも考えたがそうなると彼はどうやって過去に移動しているのかという話になる。
「仏教では確か輪廻転生という概念があったわね。あれは過去に行けるのかしら? それも記憶を継承させたままで」
それについても少し考えてみたが、それも違うだろうということに気がついた。仮に輪廻転生しているのであればカーマが気づく。仮にもあれはインド神話における神の一柱。加えてかの聖人とも関わりがある。
ならば彼奴が輪廻転生による過去への逆行をしていたのであれば気がつけるはずだ。
「やっぱりそうなると鍵になるのは私の奪われた記憶と彼奴の魂が摩耗する理由ね」
ジャンヌ・オルタ自身、その時に何が起きたのかは覚えていない。マルタからの情報だと彼奴の目が赤く染まって周囲に魔術陣が現れたそうだが……。思い出そうとしてみるもやはり思い出すことが出来ない。寧ろ、思い出そうとする度に頭が割れそうなほどの激痛が走る。
まるで
「……本当に癪に障るわ」
ジャンヌ・オルタの憤怒に呼応するかのように彼女を中心に獄炎が広がる。それを見たジャンヌ・オルタは少しばかりのため息をついた。
「まだ完全には取り込めていないわね。幸い彼奴らが来るまでに時間がある事だし、出来る限り取り込むことに集中しておきましょうか」
彼女はそう言って目を瞑る。深く深く自身の力の奥底まで沈み込むように。彼女が次に目を開けるのは彼女が待ち望んでいる時だろう。
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立香達は後ろから聞こえる轟音に振り返る事はせず、ただ我武者羅に前の扉に向けて走っていた。望幸の事が心配じゃないと言えば嘘になる。本当は望幸と一緒に戦いたかった。けれど、それでも確かに望幸は、望幸達は私達に託してくれた。
だからこそ、その期待に応えなくてはいけない。竜の魔女を打倒し聖杯を持ち帰る。ただ其れだけを考えて立香は突き進む。
そして扉を開いたその先に『竜の魔女』はいた。
焼け焦げた室内の奥に位置する玉座に座り静かに目を瞑っていた。彼女自身の肌の白さも相まっていっその事それは死んでいるかのように思えた。
けれどそれは違う。彼女を中心に渦巻く焼け付くような魔力が彼女の存命を現していた。そして彼女は気怠げな様子で目を開けた。
瞬間、凄まじい熱量が立香達を襲った。
いや、正確に言うのであればただ視線を向けられただけだと言うのにこの身を焼き尽くす様な熱量に襲われたと錯覚させられたというべきだろう。
「ようこそ、カルデアの人達よ。待ち侘びていましたよ」
彼女は玉座からゆっくりと立ち上がるとその身から膨大な魔力を滾らせて剣と旗を手に出現させた。漏れ出る魔力は獄炎へと変わり、床を舐めるように焼き尽くしていく。
そんな現象から立香を守るようにジャンヌ・ダルクは前に立つ。
「私は……貴女に問わなければなりません」
「ふぅん? お綺麗な聖女様が問いたい事ね?」
瓜二つの容姿をした彼女達はまるで鏡合わせの様に向かい合う。けれど決定的に違うのはジャンヌ・オルタは酷薄な笑みを浮かべ、ジャンヌ・ダルクはそんな彼女相手に迷いながらも、然れど何処か確信を持った瞳で彼女に問いかけたことだ。
「貴女は、貴女は本当に『私』ですか?」
前と同じ問い──では無いことにジャンヌ・オルタはすぐに気がついた。故に彼女はジャンヌ・ダルクの言葉を待つ。
「ここに来るまでに色々と考えてはいたのです。けれどやはりここに来て確信しました。仮に貴女が私の別側面と言うのなら──」
ジャンヌ・ダルクは言葉をそこで区切り、ジャンヌ・オルタを嘘偽りは許さないとばかりに強く見つめ、決定的な一言を放った。
「──貴女は何に対してそのような強大な憎悪を抱いているのですか?」
「はっ、そんなもの決まっているでしょう。私の憎悪は私を裏切ったフランスに──」
「いいえ、それは嘘ですね。いえ、正確に言えば恨んではいるのでしょう。ですが、それよりも貴女は別の何かに対して遥かに強い憎悪を抱いているのでしょう?」
「───」
確信を持ったジャンヌ・ダルクの言葉に、ジャンヌ・オルタは驚愕で動きが止まった。然しそれも一瞬のことで即座にジャンヌ・ダルクに反論する。
「はっ、何を言い出すかと思えば……。私がこのフランス以上に強い憎悪を抱く? 何を根拠に言っているのです。笑わせないでくれますか」
「根拠ならあります。私達はここに来るまでに様々な街に行きました。その中には当然貴女から襲撃を受けた街もあります。けれどどの街にも怪我人はいても死亡した者は一人もいなかった」
その言葉に反応したのは立香であった。
「ま、待ってよジャンヌ! 死亡した人が一人もいなかったならラ・シャリテでの出来事はどういうことなの?」
確かにあの時、ロマニからは生存者反応はないと聞いていたはずだ。ならばその時に死亡した人がいるのではないかとそう考えた立香であったがそれはジャンヌ・ダルクとキアラの双方によって否定された。
「いえ、立香さんあれは偽物です。恐らく本物の市民は既に逃げ切った後なのでしょう。だから街には生存者の反応がなかった」
「ええ、ジャンヌさんの仰る通りです。あれは魔力と聖杯の力によって生み出された最初からそうであると決められた怪物です。断じて死んだ人達を使った怪物ではありません。それに仮に死体を使ったのであれば
そう言われて立香は初めて気がついた。確かに今考えれば妙にも程がある。キアラの言う通り、死んだ人達を利用したのであれば、白骨化するまでの時間の関係上どうやったって生ける屍が少なくともいなければいけない。だと言うのに、自分達は一体足りとてそれを見かけることはなかった。
そしてそこでふと立香は気づいた。初めてワイバーンと遭遇した時、あのワイバーンは余りにも必死な形相で襲ってきていたことに。
仮にワイバーン達が人を喰らっていたのであれば、あんな必死な形相で立香を襲ってくるはずがない。あんな、飢えた顔では。
なら、本当に──?
そこまで考えが思い至った所で突然ジャンヌ・オルタは額手を当てて笑った。まるで可笑しくて可笑しくて仕方がないといった様子で笑う。
「はは、はははは、あっははははははははは──!」
そうして一頻り笑いきった後にジャンヌ・オルタは何処か自虐的な笑みを浮かべた。
「あーあ、そんなことで気が付かれるなんて思ってもいなかったわ。私もあの馬鹿に毒されてたのかしら」
そう誰にも聞こえない程の声量で呟くジャンヌ・オルタ。けれど何処かその様子は嬉しそうであった。
ジャンヌ・オルタは少しだけ愉しげな笑みを浮かべながら改めてジャンヌ・ダルクの質問に答えた。
「いいでしょう。そこまで目敏く気がついたご褒美としてほんの少しだけ教えて差し上げます」
「なら、改めて聞きましょう。貴女は一体何者なのですか?」
「私はあんたよ。聖女ジャンヌ・ダルク。正確に言うのであればとある人物が聖杯に願ったことで生まれた本来有り得るはずのない存在。まるで泡沫の夢のように脆い存在がこの私、ジャンヌ・オルタよ」
告げられた言葉に思わず絶句してしまった立香。仮にジャンヌ・オルタの言う言葉が本当ならば彼女という存在を作った人物がいるはずだ。ならばその人物こそがこの特異点においての黒幕。
その考えを読んだようにジャンヌ・オルタは話を続けた。
「ああ、一応言っておきますけれど私を作った人はもうこの特異点にはいません。何せ私が焼き尽くしましたから。ねえ、お優しい聖女様。あんたなら分かるんじゃないかしら? 誰が私を作ったのか」
「……ジルですね」
「正解です」
だが、そうなると新たな疑問が湧いて出てくる。
「貴女は何故ジルを殺したのですか?」
そう尋ねたジャンヌ・ダルクに対してジャンヌ・オルタは少しだけ悲しそうな、然しそれ以上の憤怒を込めて話した。
「彼奴は……ジルは何者かによって精神を汚染されていましたから。そしてそれに気がついていたジル本人の願いによって私はジルを焼き殺した」
「何ですって?」
それに反応したのはカーマであった。彼女は怪訝そうな表情を浮かべてジャンヌ・オルタに問いただした。
「あの人、精神汚染のスキルを持っていたはずですよね? それもとびきり強力な。それを上書きする程の精神汚染なんて誰がやれるって言うんですか?」
「それについては私も分かりません。けど何らかの存在が干渉してきたのは確かでしょうね」
「清姫、あなた嘘の判別ができましたよね。嘘をついている様子は?」
その言葉に対して清姫は首を左右に振った。
「いいえ、彼女は今まで本当の事しか言っていません」
その言葉にカーマは思わず舌を鳴らす。
今回の特異点は余りにも不可思議なことが起き過ぎている。ジャンヌ・オルタが言うジル・ド・レェの精神汚染を貫通して更に上書きするように精神を汚染する何者かの存在、アルトリア・オルタが激昂した理由、そして何よりもカーマ自身も感じとれた自身という神に対して余りにも近く、それでいて最もかけ離れた酷く無機質で冷たく悍ましい神性とノイズのかかった謎の言語。
どれをとっても不可解にも程がある。こういう時、あの探偵さえいれば分かったのかもしれないが、無い物ねだりしても仕方が無いか。
そこまで考えたところで不意にジャンヌ・オルタを中心に異常な量の魔力が渦巻き始めた。
「さて、お喋りはここ迄です。私が本当に憎悪しているものを知りたいのであれば私を打倒してみなさい」
そう言ってジャンヌ・オルタは剣と旗の両方を持ち、立香達と明確に敵対する構えを取る。
彼女の周囲に渦巻く魔力が獄炎の様に揺らぎ、そこに立っているだけで骨まで焼き尽くされかねない程の熱量を放ち続ける。
「私は竜の魔女『ジャンヌ・オルタ』! 其れこそが私を示す唯一無二の名だ! カルデアの者達よ、人理を救ってみせるというのならこの程度の理不尽跳ね除けてみなさい!」
そう言って燃え盛る焔の中で愉しげな笑みを浮かべながら、縦にぱっくりと裂けた瞳孔で彼女は立香達を睨みつける。
──斯くして第一特異点での最後の戦いが始まる。
ポンコツな邪ンヌも良いけどカッコイイ邪ンヌが好きです。なのでこの邪ンヌは魔改造されてます。
そういうの嫌いな人は要注意な!(後出し)
すまないさんが息してないけどちゃんと活躍させるから許し亭許して
主人公どこ……ここ……?
主人公が失踪してしまったので私も失踪します。