FGO主要キャラ全員生存縛りRTA(1部)   作:でち公

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連続初投稿だぜいぇーい!



清姫の覚悟

 最初に攻撃を仕掛けたのはジャンヌ・オルタであった。

 

「まずは小手調べよ。この程度の攻撃、簡単に凌ぎきってみせなさいな」

 

 彼女は膨大な魔力を旗の石突部分に集中させ、床に思いっきり叩き付ける。瞬間、彼女の周囲に揺らいでいた獄炎がまるで巨大な津波の様に変わり立香達へと襲いかかる。

 

 はっきり言ってこの程度、などと言えるレベルを遥かに超えた攻撃であった。範囲も威力もどちらもとっても並の英霊の宝具以上の威力だ。

 

「皆さん私の後ろに!」

 

 故にその攻撃に真っ先に反応したのはジャンヌ・ダルクであった。彼女は立香達の前に立つとジャンヌ・オルタと同じように黄金に輝き始めた旗の石突部分を床に叩きつける。

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!」

 

 彼女の持つ旗から溢れ出る光が立香達を守る防護壁へと変換される。こんな切迫した状態であるにも関わらず思わず美しいと感嘆の息を漏らしてしまう程、彼女が作り出した光景は神秘的だった。

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!」

 

 そしてジャンヌ・オルタの放った獄炎が立香達を守る防護壁ごと呑み込んだ。あまりの熱量に大理石で出来た城の床は融解し、ドロドロとマグマのように赤く粘り気を帯びた物へと変貌する。

 

 ジャンヌ・ダルクが宝具を発動していなければ、この攻撃で全員がやられていたかもしれないとそう思わせるには十分すぎるほどの一撃であった。

 

「くっ……ぅぅぅ!」

 

 だが、彼女の宝具は同胞を守るための防御に特化した宝具だ。いくら弱体化したとはいえ、それでも立香達には傷一つ付けさせなかった。

 

 だからこそ、それがいけなかった。ジャンヌ・ダルクは余りにも防御することに傾倒しすぎていた。後ろに立つ者達に被害が及ばないようにジャンヌ・オルタの攻撃を一人で受けてしまった。

 

 故に彼女は気づけなかった。

 

 燃え盛る業火の中からジャンヌ・オルタの手が這い出てきたことに。

 

「なっ──!?」

 

「防御に傾倒し過ぎて私が接近してたことに気づかないなんて、本当に甘っちょろいわね」

 

 ジャンヌ・ダルクの顔を目掛けてジャンヌ・オルタは掌を向ける。その際に集まる魔力は先程の比ではなかった。誰もがジャンヌ・ダルクが殺されてしまうことを想像する。だが、それでもそれを許す者はいなかった。

 

「させるかっ!」

 

 ジャンヌ・オルタに攻撃を仕掛けたのは竜殺しのジークフリートだった。彼は誰よりも早くジャンヌ・ダルクの危機に気が付き、彼女を守るために業火の中から現れたジャンヌ・オルタに斬り掛かる。

 

 その際に未だに燃え盛る業火の中に身を投じてしまったが故に、業火は彼の体を容赦なく蹂躙した。ブスブスと身体中から肉が焦げるような音を出しながらも、彼は一切怯むことはなかった。

 

 ──ああ、けれども悲しいことに其れすらもジャンヌ・オルタには通用しなかった。

 

 彼女はまるでそうしてくる事が分かっていたようにジークフリートの大剣による攻撃をもう片方の手に持っていた旗の柄の部分を使って垂直に受け流した。

 

「なんだと!?」

 

「この連中の中で最も戦い慣れてるのは貴方なのよね。なら、先にやるべき事は貴方を潰す。その為に今の攻撃はブラフだったの」

 

 彼女は完全に受け流された事によって無防備な姿を晒してしまったジークフリート目掛けて金属製の旗が撓るほどの速度を以てして弱点である彼の背中に叩きつけた。

 

「ガッ───!?」

 

「ジークフリート!」

 

 ジークフリートは弾丸のように打ち飛ばされ、城の壁に激突する。轟音を響かせながら城の壁を崩壊させる程の速度で吹き飛ばされたジークフリートに思わず立香はジャンヌ・オルタが近くにいるというのに其方の方を向いてしまうという愚策を犯す。

 

 そして勿論それを見逃すジャンヌ・オルタではなく、必然的に次の攻撃対象になるのは立香であった。

 

「余所見とはいい度胸じゃない。ただの凡人である貴女が他に気を配れるほど余裕があると思っているのですか?」

 

 振り上げられた黒い剣は凡人である立香の体を両断する位わけないことは簡単に予想できる。そしてだからこそこういった場面では彼女は必ず動くとジャンヌ・オルタは読んでいた。

 

「先輩は私が守ります!」

 

「はっ、その威勢だけは買ってあげるわ。けどね、実力が伴っていなければただの虚勢にしか過ぎないの──よっ!」

 

 ジャンヌ・オルタは剣を振り下ろす直前に攻撃対象を立香ではなくマシュの盾に切り替える。そして彼女は渾身の一撃をマシュの盾に叩き付けた。

 

 真正面から受けたにも関わらず吹き飛ばされてしまいそうな程の衝撃にマシュは思わずくぐもった呻き声をあげる。だが、それでも確かに受けきってみせた。

 

 ──だと言うのにマシュの本能の警鐘が喧しいくらいに頭の中で鳴り響いていた。

 

()()()

 

 ジャンヌ・オルタがそう呟いた瞬間に黒い剣に内包されていた莫大な魔力が獄炎として解放される。圧縮されていた獄炎は行き場を得たことで歓喜の声を上げて空気すらも蹂躙していく。

 

 故に起きたのは零距離からの大爆発に他ならない。当然不意を打たれたように増した圧力にマシュは1秒足りとも耐えきることは出来ず、守るべき存在である立香を守れずに吹き飛ばされた。

 

「きゃあああああ──!?」

 

「マシュ!」

 

 思わず飛ばされたマシュの方を見ようとした立香であったが──

 

「また余所見? そうやって隙をさらけ出して誰かに守って貰うつもりなのかしら。それがマスターである貴女がやることですか?」

 

 耳元で囁かれた言葉に思わず直接心臓を掴まれたような錯覚を覚えた。

 

 首元に当てられた、焼き尽くされんばかりに熱い灼熱の中には不自然な位にひんやりと冷たい感触があり、それに息が詰まり、上手く呼吸することが出来なかった。

 

 恐る恐ると言った様子で声の方向に顔を向けるとそこにはジークフリートを潰し、マシュを吹き飛ばしたジャンヌ・オルタが立香の首元に黒い剣を突きつけて、絶対零度を想起させる酷薄な笑みを浮かべて立香を睥睨していた。

 

「貴女が本来すべき事はそういうことじゃあないでしょう。サーヴァントと共に戦うマスターであるのならば全体を俯瞰し、サーヴァント達に的確な指示とサポートをしなければならない。それをやろうともしないなら部屋の隅で無様に震えて蹲っておきなさいな」

 

 そう言ってジャンヌ・オルタは唖然とした様子で彼女を見上げる立香に対してまるで路傍に転がる石を蹴り飛ばすような気軽さで、されど当たれば死は免れないだろうことは予想に難くない程の威力を持った蹴りを放つ。

 

「させると、お思いですか!」

 

 しかしそれは清姫が確かに防ぎきった。骨が軋む痛みと共に荒い息を吐いてなお清姫は立香を守るためにジャンヌ・オルタの目の前に立つ。

 

「旦那様は──いえ、()()()には傷一つ付けさせません!」

 

「へえ、いい度胸してるじゃない。けど、貴女如きが私に勝てるとでも?」

 

「確かに私では貴女に敵わないでしょうね。ですが──」

 

 先程の一撃を防いだだけで息も絶え絶えな様子の清姫にジャンヌ・オルタは事実を言う。

 

 確かにジャンヌ・オルタの言う通り、清姫では万が一にも勝つことは出来ないだろう。例え死力を尽くしたとしても決してジャンヌ・オルタには届くことは無いと清姫自身もそう思っている。

 

 けれど、けれど──! 

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 清姫の霊基が、心が、魂が叫ぶのだ。今度こそ守りきってみせると! 

 

 かつて彼等を昔の想い人と重ねて見てしまっていた愚行を償う為にも、そして何よりも今度こそ皆で笑って終わらせる為にも例え己の霊基を犠牲にしてでも立香を守り通し、そしてかの竜の魔女に一撃を与えるのだと清姫は己に誓いを立てる。

 

 そしてその誓いこそが嘘を許さない清姫に力を与えた。その誓いを真にすべく彼女の霊基の奥底から湧き出てくる力を以てしてジャンヌ・オルタを立香から少しでも離れさせるために遠くに押し飛ばす。

 

「立香様。貴女を、貴方達の先を照らす道にこの清姫はなってみせます。そして私は決して貴方達を傷付けない。──たとえ我が身が人の言葉を解さぬ竜に堕ちようとも!」

 

 霊基に漲る魔力を張らせ、清姫は唄うように、されど決死の覚悟を以って言霊を紡ぐ。

 

「転身──」

 

 吹き荒れる蒼い炎の中、清姫の体がベキベキと異音を奏でながら体を変質させる。それは安珍・清姫伝説の通りに人である彼女の体を竜へと変化させる宝具であり、清姫の妄念の強さのみでその身を最強の幻想種へと変貌せしめる想いを力に変える宝具。

 

「──火生三昧!」

 

 吹き荒れる蒼き炎の中から大蛇のような竜が現れる。もはやこの姿になった清姫には決して言葉は通じないだろう。けれど一つ確かに言えることはこの竜は絶対に立香達に敵対することはないということだ。

 

「あっはははははは!」

 

 それを見たジャンヌ・オルタは思わず笑う。けれどそれは決して侮蔑や蔑みを含むような笑い方ではなく、むしろ逆の良い物を見たと、美しい物を見たと言わんばかりの歓喜を込めた高笑いであった。

 

「──いいじゃない清姫! あんた最高よ! ()()()鹿()()()()()()()()()()。ええ、私だってそういうのは嫌いじゃないわ。寧ろ最っ高に好きなのよ!」

 

 ジャンヌ・オルタは不敵に笑いながらも最早人語すら解さぬ竜へと堕ちた清姫を見て上機嫌な様子で武器を構える。

 

「見せてみなさい清姫! アンタの覚悟の程を!」

 

 武器を構えるジャンヌ・オルタに対して声にならぬ咆哮を上げて蒼き炎を身に纏い焼き尽くさんと突進を仕掛ける清姫に対してジャンヌ・オルタがした行動は回避でも防御でもなく、真っ向から迎え撃つ事だった。

 

「ぉ、ぉおおオオォォッ!!」

 

 乾坤一擲。

 

 ジャンヌ・オルタは自身の周囲に渦巻く魔力を自身の最も信頼する武器に注ぎ込み、清姫の突進を真っ向から受け止める。ガリガリと勢いよく床を削りながらも少しずつ清姫の突進の勢いを削いでいく。

 

 ──けれどけれども! 

 

 覚悟を決めた清姫の力はそんなものでは無いと清姫の霊基自身が叫ぶのだ! 

 

「──────ッ!」

 

「何っ!?」

 

 劈くような咆哮を轟かせ、その身に纏う蒼き炎を自身すらも焼き尽くすほどの火力を以てしてジャンヌ・オルタを更に押し込み始めた。

 

「こん、のォォオオッッ!!」

 

 更に力を加えるジャンヌ・オルタ。然れどそれ以上に清姫の力は爆発的に膨れ上がる。故にジャンヌ・オルタに清姫の決死の一撃を止められる道理はなく、彼女は清姫という名の竜に呑み込まれた。

 

 城の壁に激突すると同時に大爆発を引き起こし、城の最奥に位置するこの部屋から空が見えるほどの大穴を空けるほど威力の捨て身の一撃を放った清姫の霊基はひび割れていき、その身体は黄金の霊子へと変換されていく。

 

 誰が見ても分かる。先程の捨て身の一撃で清姫の霊核は粉々に砕け散ったということに。

 

『立香……様……。私はここで、お別れです……。けれど、どうか……あの悲しき魔女に……勝って……ください』

 

 その言葉を残し、清姫の霊基は虚空へと溶けるように消えていった。

 

「清姫……」

 

 そしてそれと同時に穿たれた城壁の穴から体に決して少なくない傷をつけたジャンヌ・オルタも現れた。その様子はとても嬉しそうで、堪らないといった表情だった。

 

「ええ、ええ! 見せてもらったわ清姫! 確かにあんたの決死の一撃は私の霊核に届きうるものだったわ! ──けど、それでも私の方がまだ上だ! 私はこれだけじゃあ倒れない!」

 

 体に傷を負っているというのに、清姫が決死の一撃を敢行した前よりもその身に莫大な魔力を滾らせるジャンヌ・オルタ。

 

 その姿に以前の立香なら恐れ怯え、その身を震わせていただろう。

 

 ──けれど、今の立香に怯えも震えもない。

 

 あるのはたった一つ。

 

 ──あの竜の魔女を必ず倒してみせるという覚悟だけだった。

 

 その瞳に強き意志を秘めてジャンヌ・オルタと立香は改めて相対する。

 

「へえ、いい目をするようになったじゃない。なら示してみなさい。あんたの覚悟を!」

 

「ああ、嫌という程見せてみせるよ。だって私は皆に託されたんだ!」

 

 立香はそこで自分の両頬を甲高い音が鳴るほど強く叩き、気合いを入れ直す。奇しくもその行動は遥か昔、とある人物がやっていた行動と全く同じだった。

 

「私は必ず()()()()()()()に勝ってみせる!」

 

「──はっ、やってみろ! ()()()()ァッ!」

 

 互いに互いを完全に敵と見定めた二人は様々な想いを抱いて激突する。片方は譲れぬ願いの為、片方は託された想いの為。両者共に死力を尽くして戦うのだろう。

 

 これより始まるのは人理修復を懸けた戦いではなく、ただの意地と意地とのぶつかり合いだ。勝つのは一人、敵よりも強い意志を秘めた者のみこそ勝者となる。

 

 

 

 

 

 

 ──だがそれは同時に彼女達にとって望まぬ終わりを告げる可能性もあるということを彼女達は今はまだ知らない。

 




ジークフリートの活躍どこよ?おかしいな?
なんか書いてるうちに清姫に焦点がいっちゃったよ。
でも清姫と邪ンヌをいい感じにカッコ良く書けたと思うのでOKです!
第一特異点が終わる前までにジークフリートのカッコイイ所を書いてみせるから(震え声)

いい感じになってきたので失踪します。

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