FGO主要キャラ全員生存縛りRTA(1部)   作:でち公

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今回は短めなので初投稿です。



オルレアン後の幕間2

 

 ──晴れのち雨──

 

 玉藻に貸し与えられた部屋、そこに極小の固有結界が張られていた。外からは全くもって予想出来ないほどに中は広く、豪華絢爛とも言うべき広大かつ荘厳な宮殿に作り替えられていた。

 

 無論、こんなことをしてカルデア側が気づかないはずがない───なんてことは無く、玉藻自身の能力も相まってこの空間は特殊な空間になっているため、カルデア側からは全く気がつくことの出来ない領域となっている。

 

 仮にこの部屋に誰かが入って来ようとしても、この空間の支配者である彼女が許可をしない限りこの空間に入ることは出来ず、彼女が本来貸し与えられていた部屋がただただ広がるだけであろう。

 

 そんな固有結界とも取れるような特殊な空間を作り出している本人はその宮殿の中央で寛いでいる──わけでもなく、その宮殿の隅の方で更にその空間を改造した四畳半の和室という何だかもうとんでもなくミスマッチな空間になっているが、そこにいる『二人』は全く気にしている様子はなかった。

 

 一人はこの空間の支配者である玉藻、そしてもう一人は彼女のマスターである星崎望幸であった。

 

「ふむ、こちらの方はもう良かろう」

 

 九つの尻尾をゆらゆらと揺らしながら彼女は台所で料理を作っているため、あちらこちらに忙しなく動いている。そんな彼女を彼は何も言わず、ただ目の前に置かれたちゃぶ台の前で静かに正座して彼女の方を見つめていた。

 

 まあ、これは何をしているのかと言うと、彼が彼女に何かやって欲しいことや欲しいものは無いかと聞いた時に、彼女が望んだものが彼との一時の休息だったのだ。彼もそれに対して快く頷いたところ、この空間に連れてこられて料理を作るのでここで少し待っていて欲しいと彼女からそう願われたため、彼は何もせずただじっと慌てながら台所を行ったり来たりしている彼女の後ろ姿をじっと見つめているのだ。

 

 そうこうしていると彼女が御盆に拵えた料理を乗せて運んできた。彼女が作ったものは味噌汁、白米、塩鮭の切り身、玉子焼き、お新香という如何にもな日本食であった。

 

「その、待たせたのぅ」

 

 持ってきた料理を彼の目の前に置いた彼女は少しだけ不安なのか、手を何度も弄ったり、尻尾を落ち着きなさそうにゆらゆらと揺らす。

 

「ご主人様は日の本の生まれであろう? ならば、食べ慣れたものが良いと思ってこの様な料理を拵えてみたんじゃが……」

 

 彼女の心を表すように揺れる尻尾、其れを尻目に彼は合掌して「いただきます」と言ってから彼女が作った玉子焼きを口に含んだ。

 

「ど、どうじゃ……? 口にあったかの……?」

 

 忙しなく動く狐耳に、不安げに揺れる尻尾。そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、彼はたった一言──

 

「うん、美味しいと思う」

 

 ──そう彼女に伝えた。

 

「そ、そうか! それもそうよな、何せ妾が丹精込めて作ったものじゃからの。美味い以外なんてこと自体ありえんものよな!」

 

 その言葉を聞いて彼女は今までの不安はどこへやら、不安げに揺れていた尻尾は喜びを体現しているかの如く激しく揺らす。その質量も相まってそよ風を起こすくらいには激しく振るっている。

 

 彼女自身その行いに気がつけばはしたないと言うであろうが、喜びからか彼女はそれに気がつくことはなく、そしてまた彼もそれを指摘するつもりは毛頭になかったため、彼女が落ち着くまで彼女の尻尾は激しく揺れていた。

 

 その様子を彼はどうしてか目を細めて、そしてまた彼女が作った料理を食べ進めていった。その途中、彼は自分だけが食べるのが気になっていたのか、彼女に尋ねた。

 

「玉藻、君は食べないのか?」

 

「む、妾か? よいよい、ご主人様が食べているのを見ているだけで妾は満たされるからの」

 

「そうか」

 

 そう言って彼女はニコニコと微笑みを浮かべながら彼が食べている姿をじっくりと眺める。それに対して彼もそう言うならと納得して彼女が作った料理を食べて進めていく。

 

 とは言ったもののやはりと言うべきか、一人で食べているのとそれを見られるというのは一般的に考えると気まずい。故に彼もそう感じたのかは分からないが、彼は徐ろに残っていた最後の玉子焼きを箸で掴むと玉藻に向けて差し出した。

 

 それを見た玉藻は困惑した様子で彼と玉子焼きを交互に見る。

 

「ご、ご主人様?」

 

「食べるといい。きっと美味いはずだ」

 

 そう言って彼は更にずいっと玉藻に向けて玉子焼きを更に近づけた。それに対して彼女はあーだのうーだのと言って悩み出す。

 

 実際の所、彼が図らずともあーんをしてくれた事に関しては凄く嬉しい。なんなら自分も気づかない内に尻尾が犬のようにちぎれんばかりに激しく揺れている。

 

 とは言え、だ。やはりこう、ああも邪な思いも何も籠っていない透き通った蒼空の様な蒼い瞳で此方をじっと見つめられると照れてしまう。

 

 それに今気づいたのだが、彼が今玉子焼きを差し出しているのは彼も使った箸だ。そしてその箸で自分が食べれば必然的にそれは間接キスというものになってしまうわけで……。

 

 いや、何も今更接吻一つにキャーキャーと喧しく喚く程の生娘でもあるまいし、そのまますました表情で食べれば何の問題もないというのは分かっている。分かっているのだが──。

 

 玉藻はちらりと目線だけを彼にやる。そして彼と目が合った途端また目を伏せてしまう。

 

 ──ああ、そうだとも。白状しよう。彼の何者にも染まらない目を焼くほどの魂の輝きと澄んだ蒼空を想起させるあの蒼い瞳に見つめられてしまうとどうしようも無く気恥ずかしくなってしまう。それこそ生娘のように。

 

 ちらりちらりと何度も彼と彼の使った箸を交互に見つめていると、彼もその視線に気がついたのか自分が差し出している箸を見て、ああと何か納得したように頷いた。

 

「すまない、配慮に欠けていた。今新しい箸を──」

 

「いっ、いやその必要は無い!」

 

 彼が箸を引っ込めようとした所で玉藻は慌ててその玉子焼きを口に含んだ。その行動に彼は珍しく目を白黒とさせたようにほんのりとだが驚いた表情を見せた。だがそれもほんの一瞬のことで瞬きをした次の瞬間にはまたいつもの凪いだような無表情へと切り替わっていた。

 

「───」

 

「どうだろうか、きっと美味しいはずだ。とは言えこれは俺が言える台詞では無いな。何せこれは君が作った料理なのだから」

 

 そう言うと彼は綺麗に食べ切られた食器たちを纏めて台所へと片付けようとする。

 

「──あ、よいよい。それは妾が片付けるからの。ご主人様はもう部屋に戻って休むが良い。沢山食べたから一息付きたかろう?」

 

 だがそれは玉藻が強引に手で制し、纏められた食器たちを彼が何か言う前に台所へと運んでいった。まるでひったくるように持っていかれたことに対して目をぱちくりとさせた。

 

 そして彼は台所へと食器たちを運んでいく玉藻の後ろに姿を見ながら礼を言った。

 

「ありがとう玉藻。それとご馳走様でした」

 

「──うむ、次はもっと腕を磨いてご主人様を驚かせる程の美味な食事を提供しよう」

 

「そうか、それは次が楽しみだな」

 

 玉藻はそう答えながらも振り返ることはなく、彼が使った食器たちを流し台の上に置いていく。そして彼もまた、彼女のそんな後ろ姿を見ながらまるで煙のようにその場から消える。

 

 玉藻は彼がこの場から転移し、気配が無くなったのを感じると食器棚から彼が使っていた食器とお揃いの食器を一つ取り出してその中に少しだけ余っていた味噌汁を注いで啜った。

 

 そして彼女の瞳からポロポロと堰を切ったように大粒の涙が零れ始めた。

 

 ──良かった、本当に良かった。こんな顔ご主人様には決して見せられない。ご主人様が出ていくまで我慢出来て良かった。

 

 瞳から溢れる雫は頬を伝い、流し台へとポタリポタリと幾つも落ちて濡らしていく。鏡面のように綺麗に磨き上げられた流し台には今の自分の顔がどれほど酷いことになっているかよく分かる。

 

 溢れる涙を拭っても拭っても止まることはなく、逆に止めようとすればするほど涙が溢れてしまう。考えてみれば分かるはずだと言うのに、それでもそんな現実から目を背けた結果がこの様だ。はっきりと直視せざるを得ない現実を突きつけられてしまった。

 

 脳裏に浮かぶ彼が料理を食べた時の感想。

 

 ご主人様はきっともう──。

 

「──ははは……この味噌汁、少々塩っぱくなりすぎてしまいましたね」

 




バッドコミニケーショォォォン!(これが言いたかっただけ)

感想貰って気づいたんですが、ホモくんの現ステやら邪ンヌのステやら立香ちゃんのステやら何やらの詳しいステータス表記いります?必要そうなら章毎にステータスとか置いておこうかと悩んでるんですが。
取り敢えずアンケート設置しておくので良ければどぞ。

そして欲望に走った結果がこれだよ。だからアタシたちには酒がいるんだ(マリーナ並感)

そんなことを語ったところで初投稿です

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