FGO主要キャラ全員生存縛りRTA(1部)   作:でち公

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書かなきゃいけない他視点が多い。
でも他視点の話が多すぎればRTAじゃない。
ならどうすべきか。
逆に考えるんだ、2本立てにしてしまっていいさと。

そんなわけで初投稿です。



オルレアン後の幕間4

 ──誰かの言葉──

 

 カルデアのとある一室で所長代理を務めている医療チームリーダーのロマニと万能の天才であるダ・ヴィンチはとある資料を見て頭を抱えていた。

 

「この数値は……」

 

「異常。そうとしか言い様がないね」

 

 彼らが見ていたのは先程の星崎望幸とクーフーリンとのシミュレーションで始めた模擬戦時の星崎望幸のバイタルデータを現していたものであった。

 

「オルレアンでの最終決戦ではほんの一部のデータしか見れなかったけど、改めて今回の模擬戦でよく分かったよ。現代の魔術師程度がかのアルスターの光の御子と引き分けに持ち込めるなんて本来ならありえない事なんだ」

 

 ダ・ヴィンチの言葉にロマニは頷く。何故ならばサーヴァントと現代魔術師の力の差は彼が痛い程に理解している。

 

 仮に神代の魔術師が全力で強化すれば多少は戦えるだろう。しかし、だ。それでもかのクーフーリンには決して引き分けに持ち込むことすら出来ない。不意をつくことはできるだろうが、ただそれだけ。

 

 クーフーリンという英雄なら即座にそれに対応することだろう。ならば、なぜ彼はクーフーリン相手に引き分けたのか──? 

 

 考えられるのひとつ。

 

「──聖杯の力、か」

 

「だろうねえ。あの子はきっとあの聖杯に願ってしまったんだろうね。オルレアンでの状況下ではそうするしか方法がないと悟ったからこそ、彼はサーヴァント相手に戦えるように肉体そのものをサーヴァントと比較しても何ら遜色のないものに改造したんだろう」

 

 力が、魔力が、速さがサーヴァントに劣るのならその差を埋めてしまえばいいと考えついた彼が行ったのは万能の願望器である聖杯による自己改造だったのだろう。事実、聖杯にはそれほどの力は十分にある。

 

 願うだけでその差を埋められるであろうに彼はあろう事か、聖杯そのものを自身の心臓に埋め込んでいる。それがどれほどの事なのか、魔術師ならばすぐに気がつくであろう。

 

「今の彼の体はかなり不安定だ。ともすれば今何も起きていないのが奇跡と感じられるくらいにはね」

 

 ダ・ヴィンチの言う通りだろう。何せ彼は心臓に通常の魔術炉心とは正しく桁が違う超抜級の魔術炉心が埋め込まれている。そんなもの心臓に原子炉を埋め込んでいるのと同義だ。

 

 加えて厄介なのは聖杯の性質だ。

 

「そのまま取り込んでしまったのかが原因か分からないけれど、多分彼の心臓に埋まってる聖杯の願望成就の機能はまだ完全には失われていない」

 

 辿り着いた結論にロマニは思わず爪を噛む。仮にこれが時計塔の魔術師達に知られればどうなるか。そんなもの言うまでもない。

 

 良くてホルマリン漬け、悪ければ全身を弄られた上に研究資料か、もしくは英霊召喚の触媒として全身をバラバラに分解されてしまうだろう。

 

 何せ今の彼は生きる聖杯そのもの。加えて非常に稀有な事に通常の置換魔術とは異なる特異な置換魔術。そして偶然なのかは分からないが彼が召喚するサーヴァントの殆どが通常の聖杯戦争ならば確実に優勝出来るほどの力を持つ者達ばかり。

 

 ともすればそんなもの達と縁を結んでいる彼という存在はどれだけ召喚触媒として適しているのか。魔術師という存在ならばまず間違いなく彼の肉体を欲するだろう。

 

 何故なら呼べば勝てるサーヴァントをほぼ必ずと言っていいほど召喚できる。であるのならば聖杯戦争での優勝を狙う魔術師ならば垂涎ものだ。

 

 魔術師というのは基本的には己の事しか考えない外道の集まりだ。己が根源に至るためなら一般人がどうなろうと構いはしないし、どれだけの被害が出ても構わない。そんな連中が彼という存在を知れば手を出さないはずがない。

 

「レオナルド。人理修復後の彼の、いや2人の情報は何処まで誤魔化すことが出来る?」

 

「……一応聞いておくけど何をする気なんだい?」

 

「そんなもの決まってる。まだ成人してもいない二人が人理を守る為に尽力してくれるなら、僕達は大人として彼らを守らなくちゃ駄目だろう?」

 

「ははは、言うようになったねロマニ。子供のような君からそんな言葉が出てくるなんて驚きだ。それにやたら信頼してるように見えるけど?」

 

「それはお互い様だろ」

 

「違いない」

 

 互いに顔を見合わせて一頻り笑うとレオナルドはいつもの微笑を消して真剣な表情で望幸と立香のデータを見つめる。

 

 経歴、バイタルデータ、魔術適性などのその他諸々を加味しながら何処は誤魔化せるか、何処は真実のままにしておくか。時計塔の魔術師すらも騙せる程のものに出来るかを人類最高峰の頭脳を以てして思案する。

 

「立香ちゃんなら問題はない。彼女の経歴やバイタルデータなら巻き込まれた一般人といくらでも誤魔化せる。けど問題は──」

 

 そう、彼だ。

 

 立香は彼という隠れ蓑があるお陰で誤魔化し方ならいくらでもある。けれど反対に彼だけは誤魔化すのが難しい。

 

 まず1つ目、経歴だが彼の魔術家系は200年と非常に浅い。となればこれは非常にまずい。ある程度の格があれば多少は真実を握り潰せるだろうが、彼の家にはその格がない。

 

 そして2つ目、バイタルデータに関しては誤魔化しにくいというのが事実だ。勿論偽ったデータを提出してもいいだろうが、仮に彼のバイタルデータをあちらが取れば一瞬でその偽りがバレてしまう。

 

 そして何よりも問題なのが──

 

「彼の心臓に宿る聖杯をどうするかだ」

 

 あれだけはどうしたって誤魔化しようがない。見る者が見れば一発でわかるほどだ。あれを隠蔽するとなるとそれこそ摘出でもしない限り無理だろう。

 

「ロマニ、一応聞くけど彼の心臓に宿った聖杯の摘出は可能かい?」

 

 その言葉にロマニは力なく首を横に振る。

 

「無理だ。あの聖杯は完全に望幸くんの心臓と一体化している。それを取り除くとなると彼の心臓諸共取り出すしかない」

 

 予想通りの返しにダ・ヴィンチは思わずため息をつく。

 

 当たり前だ。こんな事など初めから分かってはいた。彼の心臓と聖杯が混ざってしまった以上取り出すことは出来ないのだと。

 

 ──しかし、だ。ただそれだけで諦める理由にはなりはしない。万能の天才と呼ばれた自分がたかがこの程度の理由で彼を外道の食い物にさせてたまるか。

 

 必ず騙しきってみせる、必ず守りきってみせる。

 

 とはいえ、その方法はどうやったものか。ダ・ヴィンチは椅子に座り、背もたれに盛大に体重を預けると天井を見上げた。

 

 そしてまた、ロマニもダ・ヴィンチと同じように深い思考の中に潜り込み、そして無意識的にポツリと呟いた。

 

「あーあ、こういう時に何でも解決してくれるのような神様がいたらなぁ……」

 

「あー、そうだね。そんなご都合主義の塊みたいな神様がいたらいーねー。機械仕掛けの神みたいなさあ。でもそんな存在いないんだから私達は私達なりに考えるしかないんだよロマニ」

 

「良いじゃないか、こんな浪漫のある願いを語るくらい。だって僕は──」

 

「──Dr.ロマンだものって?」

 

「……僕の台詞を取らないでくれるかい?」

 

「そんな親父ギャグ考えてる暇があるならちゃんと考えたまえよ」

 

「はいはい」

 

 互いに軽口を飛ばし合うと、先程と同じように彼を守る為にはどうすればよいのかと諦めずに思考に耽ようとして──ふと誰かの言葉が脳裏に過った。

 

「「──人は諦めなければ願いは叶うと信じているのだから」」

 

 ふと二人の口から同時に零れた言葉。口にした瞬間、どうしてか懐かしくて、同時に誰かがよく言っていたような気がする。思い出そうにもその人の姿は凄くぼやけていて、名前も顔も思い出せない。

 

 けれど何故だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──とても、大事な人だった。そんな気がしてならないのだ。

 

 

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 ──あなたのための魔術講座──

 

 カルデアにある星崎望幸のマイルームにて立香は頭からぷすぷすとまるでオーバーヒートをしてしまったかのように頭を抱えて目を回していた。

 

「うう、こんなに覚える事あるの……?」

 

 立香の目の前にあるのはまるでタワーのように聳え立つ魔術の本に各神話体系を纏められたノート、加えて英雄譚。それは他でもない彼の私物であった。

 

 確かに立香は言った。もっと魔術に対して正しい認識を持ちたいと。もっと魔術を上手に扱えるようになりたいと。

 

 彼にそう言って返ってきた返事がこのタワーだった。

 

「ああ、そうだ」

 

 そもそも魔術とは神の御業の再現である。神の専売特許である奇跡や神秘を人間でも扱える様に劣化させたのが魔術だ。

 

 故に魔術を正しく認識し、正しく扱う為にはソロモンが確立させた魔術回路を用いて、マナやオドを動力源として物理現象を引き起こす、神を介在しない方法論を理解すること。

 

 そして各神話における神の奇跡とはどのようなものだったのかを把握すること。

 

 この2つが重要となる。

 

「立香、同じ魔術でも起源が異なればその魔術における対処法はどうなる?」

 

「え、えーと確か……起源が変われば対処法も異なる?」

 

「正解だ」

 

 彼はそう言うとケルト神話について纏めたページを開いて立香に見せた。そこにはバロールの魔眼というものが書かれていた。

 

「あ、これ知ってる。なんか凄い目なんだよね?」

 

「……ああ」

 

 ──バロールの魔眼。

 

 それはケルト神話における最凶の魔眼として有名だろう。一度見つめられれば神であろうと問答無用で呪殺する最悪の魔眼だ。

 

「出来る出来ないは置いて例えばこれを魔術で再現した場合、対処法がかなり多い」

 

「何で?」

 

「この魔眼への対処法の説が些か多いからだ」

 

 有名どころで上げればブリューナクだ。だが、それ以外にも民話によってはゲイ・アッサル、タスラムなどと様々な方法でその魔眼は潰されている。

 

「だが神秘の特性上、効果のみを目当てに発動された場合はどう対処すればいいのかは分かりやすい。立香ならどれで対処する?」

 

「えーと……ブリューナク?」

 

「何故それを選んだ?」

 

「……パッと頭の中に浮かんだから」

 

「それでいい」

 

 立香は恥ずかしそうに顔を赤く染めるが、実際の所その選択は正解なのだ。なぜなら魔術の威力には信仰、所謂知名度補正がより密接的に関わってくるからだ。

 

 例えば世界中で10人くらいしか知らないような起源を使った魔術を使用しようとする。そうすれば確かに対処はほぼ不可能となる。

 

 が、反対にその程度の信仰では殆ど何も出来ない。発動したのかさえ知覚出来ないほどの弱い魔術となる。そうなれば起源に合わせた対処でなくとも簡単に弾くことが出来る。

 

 だが反対に世界中の誰もが知っているような起源を使った魔術ならば知名度補正により効果が大きく上がる。場合によってはその起源に合わせた対処法でしか防げない威力になるだろう。

 

 しかし、それは起源に合わせた対処法をされればその伝承をなぞる様に確実に防がれるという事でもある。

 

 つまるところ有名であればあるほど威力は上がるが同時に対策もされやすく、反対にマイナーであればあるほど威力は下がるが対策はされにくいということだ。

 

 その事を立香に伝えると彼女は納得したように頷いた。

 

「そっか、だから各神話の勉強が必要なんだね」

 

 そう言って立香は積まれたノートを巡るとそこには随分と分かりやすく様々な起源やそれに対する対処法について纏められていた。

 

 どの英雄はどういった死因で亡くなったのか、どの神はどういった理由で死んだのか。それ以外にも悪魔、天使、死徒などについての対策が事細かに書かれていた。

 

 そしてペラペラと頁を捲ると不意に立香の目に止まったものがあった。

 

「獣……遊星……アルテミット……それにこれは──?」

 

 そこだけが異常だった。他の頁は全て簡潔に分かりやすく描かれているというのに、そこだけはほんの少しの空白もなかった。

 

 どの項目も異常な程に書き込まれていた。どうすれば攻撃を防げるのか、どうすれば倒せるのか、何をしたらいけないのか。そんな馬鹿みたいな情報量が立香の目を襲う。

 

 まるで実際に体験して試したかのように詳細な対策方法が羅列されている。その事に立香は少々違和感を覚えつつも、立香は自身が最も気になっていた最後の頁を開こうと──

 

「立香、そろそろ実践を想定した魔術訓練をやろう。立香は頭で覚えるよりも体で覚えた方が身に染み付きやすいだろう?」

 

「えっ、ああ、うん。私としてもそろそろ体を動かしたいと思ってたし、そっちの方が嬉しいかな」

 

 彼に声を掛けられて立香は今まで読んでいたノートをパタンと閉じた。

 

 実を言うと立香としても座学だけではなく、身体を動かしたいと思っていた。なので彼からの申し出はとても嬉しかった。何せこの立香、はっきり言って座学はあまり得意ではない。

 

 なのでストレスを発散させる意味合いも兼ねて実践訓練というのは大変ありがたい。そうと決まれば早速と言わんばかりにストレッチを始めた。

 

 そして辺りを見渡したところで改めて気がついた。

 

「あれ……? 望幸の部屋にこんな花なんかあったかな」

 

「この部屋にはあまり物が無かったからな。誰かが飾ってくれたんだろう」

 

「へえ……その人はきっといい人なんだろうね。これなんて言う花なのかな?」

 

「スターチスと言うらしい」

 

 花瓶に活けられた色鮮やかなスターチスのおかげで彼の無機質で殺風景な部屋にほんの少しだけ人間味を感じさせる暖かさがある。

 

 立香の言う通り、この花を置いた本人は良き人物なのだろう。斯くも置いた本人が聞けば顔を真っ赤にして否定しそうではあるが。

 

 立香は自分の幼馴染をこうして想ってくれている人がいるということにまるで己が事のように喜びで胸が満ちる。

 

「んふふ」

 

 上機嫌な様子で鼻歌混じりにストレッチをしていると不意に妙に棘棘としたものが見えた。

 

「ねえ、望幸。あれってさ──」

 

 彼は立香が指を指した方を見ると、そこに置いてあったものを見てそれについて説明した。

 

「あれは軽度の傷なら治せるからな。それにいざと言う時には食用にもなるし、魔術の実験の時に少々使うこともある」

 

「あー、そういえば私アレのヨーグルト一時期沢山食べてたなあ……。ねえねえ、今度あれを少し貰ってもいい?」

 

「ああ、構わない」

 

「やった! エミヤに言ったら多分作ってくれると思うからその時は私と望幸とマシュの三人で食べようね。エミヤの作る料理すっごく美味しいからダ・ヴィンチちゃんやロマンにも後で持っていこうっと」

 

「……ああ、そうだな。俺もエミヤの料理は美味しかったと思う。だからきっとロマニもダ・ヴィンチも喜んでくれるはずだ」

 

 立香はその棘棘とした物体をつつきながら、いつかエミヤに作って貰うつもりのデザートに想いを馳せる。

 

 あの食感といい、あの甘さといい、何故だか立香の味覚にクリティカルヒットした。それ故に一時期毎食デザートとして食べていた時期があったのだ。

 

 ……まあ、当時の彼に呆れたものを見る目で見られた上に食べ過ぎたせいでもういいやとなってしまい、それからはあまり食べなくなってしまったのだが。

 

 やりすぎはいけないのだと立香はその時改めて実感した。

 

「そういえば、これなんて名前だったかな?」

 

「ああ、確かそれは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──アロエだ」

 




ロマニとダ・ヴィンチちゃんの雑談にホモくんと立香ちゃんのお勉強会だから平和だな!()
それから他視点であと一話分書いたらRTAパートに戻ります。

最近は読みやすい文が書けるようになりたいなと思って匿名で短編投げてたりするので遅くなったりしてます。

それじゃあ失踪します。

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