FGO主要キャラ全員生存縛りRTA(1部)   作:でち公

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今回で一先ず他視点が終了するので初投稿です。



オルレアン後の幕間5

 ──愛の神、堕落の神──

 

「ねえ、マスターさん。私と一緒に休憩しましょう?」

 

 カーマは何かの作業をしていた望幸に対して背中から覆い被さる様に首に手を回し、耳元で甘く囁く。ともすればその囁きはかの聖人を堕落させんとした時のようにカーマなりに割と本気で彼を蕩かせようとしていた。

 

(まあ、断られるでしょうね。彼の意志は彼奴に匹敵するくらいに揺らぐことがないですし)

 

 そもそもの話、カーマが彼に対してこう言ったのは休息を取らせる目的なのだ。何故なら彼はオルレアンでの特異点修復が終わった後からまともな休息を取っていない。

 

 まるで何かに急かされているかの如く常に彼は何かしらの事をしている。その様を見ていたカーマは睡眠はしっかりと取れているのかと、ふと心配に思って皆が寝静まった頃に彼の部屋に侵入した事があった。

 

 そしてそこで見たのはまるで死体の如くピクリとも動かないでベッドの上で横たわる彼の姿だった。胸が上下しているところから呼吸はしているのは分かったが、それでも身動ぎ一つすらせずに普段の彼からは想像もつかないようなか細い呼吸音だけが聞こえてきた。

 

 カーマからしてみればそんな状態になる迄動いている彼の体が心配だった。その上彼はオルレアンでの出来事もある。ともすれば尚更心配になるというものだ。

 

 そんなこと口が裂けても彼に言うつもりはないが。

 

 さて、どうしたものか──

 

「ああ、構わない」

 

「ですよねー。あなたは──って、ええ!? いいんですか!?」

 

 ──どうしよう、考えてた流れと違う。

 

 本来であれば断った彼に対してオルレアンで言うことを一つきいてくれるって言いましたよね? とかなんとか言って無理矢理にでも休息を取らせるつもりだったのだ。

 

 もしかしてこれが噂に聞くデレ期という──

 

「今しがた作業も終わったからな」

 

「……」

 

 知ってた。ええ、知っていましたとも。でも少しくらい期待させてくれてもいいじゃないですか!? 

 

 都合良く作業が終わって荷物を片付けている彼にそんなことを言えるはずもなく、カーマは随分と悶々とした気持ちを抱いていた。

 

 そんなカーマの気持ちを知らない彼は荷物を纏めるとカーマの方を向いてその蒼い瞳でジッとカーマの瞳を見つめた。

 

「それで、休憩を取ると言ったが何をするんだ?」

 

「マスターさん、休憩の意味分かってますか?」

 

 休憩を取ると言ったのに何かをしようとする彼の言葉に思わずカーマは頭が痛くなる。彼はあれか、動かなければ死ぬマグロか何かなのだろうか。

 

 これは早いところ此方がやることを決めなければ彼は何かしら働こうとするだろう。それ自体はいい事なのだろうが、いくらなんでも限度というものがある。

 

 ──ゆっくりと体を休められて、尚且つ何かすること。

 

 何がそれに当てはまるのか考えていると不意に自身が持っていた櫛が目に入った。

 

(そういえば前にマスターさんに髪の毛をといて貰ったことがありましたね)

 

「なら、私の髪をといて貰えますか?」

 

「ああ」

 

 カーマは自分の櫛を彼に手渡すとその長い髪を更にちょっぴりと長くしてくるりと後ろを向いた。

 

 ──別に髪を伸ばした他意はありません。いや本当にありませんから。

 

 まるで誰かに言い訳をするかのように心の中でブツブツと呟いている彼の手が自身の髪に触れてきたのが感じ取れた。それに少しだけ胸を高鳴らせながらも決して表情には出さないように努めて冷静な表情を保つ。

 

「失礼する」

 

「ええ、丁寧に扱ってくださいね?」

 

「ああ」

 

 彼は受け取った櫛を使ってサラサラとしたカーマの髪を優しくといていく。髪にダメージがなるべくいかないように先に毛先からとく彼の優しさに気がついたカーマは胸中に何とも言えぬ感情が湧き出てくる。

 

 とても擽ったいような、そして決して不快ではない温かな気持ちにカーマの頬が少しだけ緩む。

 

「カーマ」

 

「なんですかぁ?」

 

「オルレアンでは色々と助かった。ありがとう」

 

「……直ぐにやられちゃった私に対する嫌味ですか?」

 

「いや、君達が必死に戦ってくれたからこそ俺達は間に合ったんだ。だからとても感謝している」

 

「ふ、ふーん。褒めたって何にも出ませんよーだ!」

 

 純粋な瞳で此方を見つめてくる彼からまるで逃げるようにカーマは顔を逸らす。

 

 こうやっていつも馬鹿正直に感謝を伝えてくるものだから彼と話すと色々と心臓に悪い。それになんと言ってもあの蒼の瞳だ。

 

 自分の瞳とは対を成すあの蒼の瞳で見つめられるとどうにもこう自分という存在をまるで見透かされているかのような気になってしまう。けれどそれが決して不快という訳ではない。どこか優しさを含むその視線が堪らなくむず痒いのだ。

 

 そういえば、あの色の瞳は何かしらの意味を持っていたはずだった。

 

 それはこちらの神話、所謂仏教にも通ずるものがあったはずで、更にひとつ似たような特殊な能力があったような──

 

「カーマ」

 

「……はい? なんですか?」

 

 もう少しでそれについて思い出しそうなところで彼から名を呼ばれた。

 

 彼はカーマの髪を優しくときながらもまるで宇宙のような美しさを示すその髪の色にどこか懐かしそうな目で見つめる。

 

『君の髪は綺麗だな』

 

「───っ」

 

 その言葉にカーマの心は大いに掻き乱された。涙腺が緩み、思わず目尻から涙が溢れ出そうになる。けれど決して涙を零さぬように歯を食いしばって必死に耐えていた。

 

 ──もう随分と前のことになる。

 

 今の容姿とは全く違う彼ではあったが、その綺麗な蒼い瞳だけは絶対に変わらなかった貴方が、まだ人間らしく様々な感情を見せていた貴方が、私に向けてよく言ってくれた褒め言葉だった。

 

『まるで宙のようで凄く綺麗だ』

 

『へえ? マスターさんはこんな私が綺麗だと、好きだと言えるんですか?』

 

『うん、好きだ』

 

『───っ。よくそんな恥ずかしい台詞を堂々と言えますね』

 

『好意とは真っ直ぐに伝えるものだと教えてもらったからな』

 

『誰がそんなことを……』

 

『それはもちろん──』

 

 ──ああ、駄目だ駄目だ。これ以上は本当に耐えきれなくなる。

 

 最早幾度廻ったのかも分からないほどに魂を、感情を、記憶を摩耗してしまった彼の成れの果て。そんな今の彼と記憶の中にある彼を比べてしまう度に己の力不足を深く呪う。

 

 何度手を伸ばしても届かない背中にサーヴァントとなったこの身を呪っただろうか。

 

 何度血溜まりに沈む彼の姿を見て己の力不足を嘆いただろうか。

 

 何度会う度に磨り減っていく彼の魂を見て泣きたくなっただろうか。

 

 ──そうだ、だからこそ私は、(カーマ/マーラ)は嘆くだけで終わらせないために神々の目を盗んでまで彼の下に顕現したのだ。

 

 使えるのは一度きり、それも使ってしまえば自分がどのような結末を迎えるかなどとうに知っている。

 

 けれど──

 

「ねえ、マスターさん。少し後ろを向いてくれます?」

 

「ああ」

 

 後ろを向いた彼の首に手を回して優しく包み込むように抱き締める。今の顔は決して彼に見せられたものではないから。

 

「カーマ?」

 

「今は黙って私に抱き締められといてください」

 

 ──構わない。

 

 あの日から決めたのだ。絶対に私が彼の旅路に終止符を打ってみせる。そして彼が迎える結末を捻じ曲げてみせると。

 

 ──だって、そうでしょう? 

 

「もう完全に、貴方は私の中なんです。絶対に逃げられないし、逃がしません……。それだけは忘れないでくださいね? マスターさん」

 

 かつてあなたが私に愛することの喜びを思い出させたのですから、絶対にその責任は取ってもらいます。思い出させるだけ思い出させてさよならなんて絶対に許しません。

 

「蕩ける位の愛で貴方を私に溺れさせてあげます」

 

 だから貴方もいつかのあの日のように私を愛してくださいね? 

 

 

 

 

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 ──竜の魔女の捜し物──

 

 ジャンヌ・オルタは今、カルデアの中をフラフラと彷徨い歩いていた。それは別に迷ったという訳では無い。

 

 確かにカルデアはやたら広い。初見の者ならばほぼほぼ確実に迷子になること間違いなしであろうが、ジャンヌ・オルタにとっては勝手知ったるなんとやらというやつである。

 

 何せカルデアには散々来ている上に、復讐者としてのクラススキルもあるため一度覚えてしまえば忘れようがないのだ。

 

 そんな彼女が何を探しているかと言えば──

 

「黄金の林檎のなる木、ねえ……?」

 

 オルレアンにてアタランテが彼女と、そしてケイローンにこっそりと伝えていたものだ。そして同時にそれを見つけ次第燃やすか伐採しろとも言っていた。

 

 黄金の林檎と言えばアタランテ自身とも縁が深い。そんな彼女がそれほどのことを言うのであればきっと何かしらの出来事があったのだろう。

 

 故にジャンヌ・オルタはカルデア中を隈無く探し回っているのだが、結果としていえばそんなものなど一切見つからなかった。

 

 そもそもそんなものがカルデアに生えているというのであればすぐにでも気がつくだろう。だが、それでも見つからないということは誰も気が付かないような場所にあるということを示しているはずだ。

 

 そう思ってカルデア中を歩き回っているのだが、林檎の木どころか木の一本も見つかりはしない。

 

「黄金の林檎と言えばギリシャ神話に北欧神話のがあったわよね」

 

 黄金の林檎、即ちそれは北欧神話における神の食物、もしくは不老不死を象徴する果実だ。そしてそれは同時にギリシャ神話におけるアムブロシアーと同一視されることもある。

 

 アムブロシアーと言えばかの大英雄アキレウスが不死になる際に軟膏として塗ったことが有名だろう。神の食物であるが故に高い不死性を持つ其れを塗ることで不死の肉体を手に入れることが出来る。

 

「それをアタランテが忠告するってことは実際にこのカルデアのどこかにそれが実在するってことよね。効果が同一であれ、そうでないにせよ……ね」

 

 さてどうしたものか、と呟くジャンヌ・オルタの目の前に彼女と同じくカルデアを探索していたケイローンが目の前に現れた。

 

「おや、貴女の方は見つかりましたか?」

 

「いいえ。それよりアンタはどうなのよ」

 

「残念ながら」

 

 そう言いながら申し訳なさそうに眉を下げるケイローンを他所にジャンヌ・オルタは頭をガシガシと掻き毟った。

 

「仮にも神授の叡智をもつ賢者様が見つけられないってわけ?」

 

「申し訳ありません。文字通りカルデアの部屋全てを調べてみましたが、それらしき痕跡はひとつも見つかりませんでした」

 

「いーわよ別に。アンタが分からないんだったら私にも分かりゃしないわ」

 

 壁に背を預けて考え事に耽けるジャンヌ・オルタにケイローンは少々躊躇いながらも話しかけた。

 

「あの、すみませんが貴女は覚えてらっしゃるんですよね?」

 

「……あぁ?」

 

 考え事を中断させられたせいか、もしくはその質問にか、はたまた別の要因があったのか。それを計り知ることは出来ないが、ジャンヌ・オルタはケイローンにそう聞かれると随分と分かりやすく不機嫌そうな顔になった。

 

 彼女の感情を示すように周囲一帯の気温が上がり始める。ジリジリと焼き焦げそうな程の熱量に晒されても尚ケイローンは怯まずに己が最も知りたい情報を持っている彼女に対して問いただした。

 

「アタランテもそうでしたが、貴女は彼について何処まで覚えていらっしゃるんですか?」

 

「……チッ」

 

 ジャンヌ・オルタは不機嫌そうに舌打ちをすると周囲を見渡した。そしてケイローンと自分しかいないことを確認すると視線だけを彼に向けた。

 

「悪いけど教えるつもりはないわ」

 

「……何故ですか?」

 

「何故? 何故ですって?」

 

 ジャンヌ・オルタはケイローンの質問を鼻で笑った。

 

「世の中には知らなければ幸せな事だってあるのよ。それはアンタだって重々承知の上でしょう?」

 

「そうですね、貴女の言っていることは確かに正しくもあります。けれど、それでも私は知りたいのです。彼を見る度に私の霊基がまるで失った大切な何かを取り戻せと叫んでいる。そんな気がして他なりません。だから私は知りたいのです」

 

「……ハッ」

 

 ケイローンが訴えかける切実な願い。だが、それでも彼女はその願いを叶えようとはしなかった。

 

 願いを一蹴し、知らないのであればそのままでいればいいと彼について詳しく知っているが故に彼女はケイローンに語らない。

 

 ──否、語れない。

 

「お断りします」

 

「……ッ! 何故ですか!」

 

「彼奴の事をそう思ってるからよ。そんな奴に教えられる訳が無いでしょう。特にアンタらのような奴にはね」

 

 そう言うとジャンヌ・オルタはもう話すことは無いと言わんばかりに背を預けていた壁から離れてケイローンの目の前から霊体化してこの場から消え去る。

 

 残されたケイローンは手が白くなるほど強く拳を握り締め、暴れ出す感情を必死に抑えていた。

 

 失った大切な何かを知ることが出来る機会だったというのに、それを逃してしまった。その事実にケイローンは強く打ち震える。

 

 何故、何故こうも笑わない彼の顔を思い出す度にこうも心が掻き乱される。

 

 記録上は初めて会ったはずの彼が笑っていないだけで何故こうも悲しくなる。

 

 分からない、分からない、分からない! 

 

 神授の叡智を持ち、賢者として呼ばれた自分が何一つとして分からないなどとんだお笑い草ではないか。ならばその原因たる彼に直接聞けばいいでは無いかとも思う。

 

 だがそれは神授の叡智が、そして何よりも己の霊基がそれだけはやめろと何かを恐れるように叫んでいるのだ。

 

 ──知りたかった、思い出したかった、覚えていたかった。

 

 様々な想いがまともな思考が出来ないほどに頭の中をぐちゃぐちゃに掻き乱していく。あまりにも強く拳を握り締めてしまったことで皮膚が破れ、血が流れ出してもそれにすら気がつく事が出来ない程の感情の激流に揺さぶられる。

 

 そんなケイローンの後ろ姿をジャンヌ・オルタは何処か申し訳なさそうな目で一瞥する。

 

「悪いわね、ケイローン。今はまだ駄目なのよ」

 

 ジャンヌ・オルタはそう言うとまたカルデアを歩き回り始めた。黄金の林檎のなる木を探しに行く──訳でもなく、その件の人物である彼を探しに行くために。

 

 なぜ彼を探しに行くのかと言うと、黄金の林檎のなる木とはまた別に一つ気になることが新たにできたのだ。

 

 彼とはカルデア全域を探しても一度も遭遇しなかった。行き違っただけかとも最初は思ったが、そうではないとジャンヌ・オルタはほとんど勘ではあるがそう考えていた。

 

 恐らくだが、このカルデアで誰も知らない場所にいる。もしくは彼は今このカルデアに存在していないかのどちらかだ。

 

 そう考えたのは彼女が幾度となく繰り返してきた中で何度かそういう事があったということであり、そしてもう一つ。

 

 ──彼女は彼に関するとある記憶を保持している数少ない存在でもあるからだ。

 

 ジャンヌ・オルタはカルデアに取り付けられている巨大な窓枠に肘を乗せると偶然にも夜空に煌めく星々が見えることに気がついた。

 

「……相変わらず綺麗ね」

 

 宇宙に煌めく綺羅星を眺めてジャンヌ・オルタは此処にはいない彼の事を想う。

 

「ねえ、望幸。アンタは今何処にいるのよ」

 

 そう呟く彼女の傍にはデュランタの紫の花が生けられていた花瓶が星々の光に照らされて美しく輝いていた。

 

 

 

 




またもや伏線回です。

大体サーヴァントに何かしらの地雷を埋め込んでますねこのホモ……。
邪ンヌは邪ンヌで1番やべーいこと知ってるし、あるサーヴァントも知ってる。
あとカーマちゃんのこと調べてたら愛情ブラックホールとか言われてて草生やしました。

黄金の林檎、所謂AP林檎ですね。検索した限りでは特に設定もないようですし、好き勝手設定足したろの精神で設定もりもりにしました。

次回は軽くホモや立香ちゃん達の軽い経歴やら所持スキルやステータスなんかを書く予定です。

セプテムの大まかな流れの構想は練れたので頑張って書きますよー。あと所長については忘れてないから安心していいっすよ。

それでは失踪します

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