FGO主要キャラ全員生存縛りRTA(1部)   作:でち公

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あけおめ

今年初の投稿なので実質初投稿です


星が照らす者

 

 多くのものが寝静まる夜。立香は中々寝れずにいた。明日はガリア奪還の為に激しい戦いになるであろうとネロもロマニも皆も言っていたから早めに寝て体力を回復させないといけないことは分かっていたのだが、それでも寝れずにいたのだ。

 

「うー……よし、ちょっと外で焚き火に当たってこようかな」

 

 そう言うと立香は休んでいたテントからマシュを起こさないように外に出た。そして夜の肌寒さを感じながらも寝ずの番をしている人達が焚いている焚き火の近くに行くと適当なところに座り込み、この二つ目の特異点に来てから起こった様々なことを思い出していた。

 

 いきなり凄いビームみたいなものが飛んできて望幸が死んじゃったと思って泣いてしまったし、歴史上で男だと思われていたはずのネロ皇帝は凄く可愛い女の人だった。でもまあ、望幸も言っていたけど男だと言われてたアーサー王も女の子だったし案外驚くべきことじゃないのかもしれない。

 

 もしかしたらこれから先も男だと伝わってるのに女の子でした! っていう英霊と出会う事もあるかもしれない。特に織田信長とか。

 

 そんな事を考えながら立香は腰に差していた剣を怪我をしないようにゆっくりと引き抜いてじっと見つめた。

 

 顔は忘れちゃったけど路地裏にいた武器商人さんから貰ったエメラルドの散りばめられたとても高価そうな剣。私が持っていても使えないしと望幸に渡そうと思ったらそれはお前が持っていた方がいいなんて言って結局私が持つことになったけど、こんなもの私が持ってても意味はあるのかなと思ってしまう。

 

 しばらくの間炎の光によって照らされる刀身を眺めていた。そしてある程度眺めて満足したので剣を鞘に入れて腰に差す。

 

「もうすこし眠くなるまで火に当たって──ん?」

 

 不意に視界の端に捉えたのは何処か離れた場所に行こうとしている望幸の姿だった。いつもだったら寝ているというのにもしかして彼も寝れなかったのだろうか? 

 

 そんなことを考えながらも立香は彼の後を追いかけた。

 

「こんな夜更けに何処に行くんだろう?」

 

 立香はそんな疑問を抱きながらもどんどん駐屯地から離れていく彼の後を追いかけて──気づけば駐屯地までそこそこ遠く人気のない所まで来てしまった。

 

 そして肝心の彼はと言うと急に立ち止まって空を見上げていた。その後ろ姿を立香はどうしてか隠れてジーッと見ていた。

 

 出て行って何をしてるの? と聞けばいいだろうに何だかそうする事も憚られてその青い瞳で空を見つめる彼を見つめていて──不意に瞳だけを動かして此方を見た彼の青い瞳とバッチリ目が合ってしまった。

 

「……立香、こっちに来るか?」

 

「うっ、バレちゃった……」

 

 おずおずとした様子で物陰から出てきた立香を彼はふっと柔らかい笑みを浮かべて手招きした。

 

「望幸は何をしていたの?」

 

「見ての通り空を見ていた」

 

 そんなことを言いながらどこから取り出したのかシートを引くとそこに座るように立香を誘導した。そしてこれまた何処から出したのか、小さな小鍋といくつかの食料を用意してパチンと指を鳴らすといつの間にか組まれていた薪に魔術で火をつけた。

 

「今日は一段と星がよく見えるだろう?」

 

「あ、ホントだ」

 

 雲一つなく空を彩る様に星が煌めいていた。月並みな表現だが、宝石箱を引っくり返したと言うのが似合う程に綺麗だった。

 

 ──ただ少しそんな綺麗な空に輝く白い光輪が邪魔だったけれど。

 

「望幸ってよく空を見てるよね。天体観測が好きなの?」

 

「好き……んん、どうだろうな。そんなこと考えた事がなかった。ただ、こんな星空を眺めてると少し昔のことを思い出すんだ」

 

「ふぅん……。ああ、そうだ。昔のことと言えば私と望幸が行ったあの花畑の時もこんなに綺麗な星空だったよね」

 

「───」

 

「目の錯覚なんだろうけど星の光に当てられて花が淡く輝いて見えてさぁ。凄く幻想的だったもんね」

 

 昔を思い出してニコニコと笑う立香は彼の様子に気がつかなかった。

 

「──立香、あの場所を覚えているのか?」

 

「うん、勿論! だってあの場所は私にとって大切な思い出の場所なんだもん。忘れるわけないよ」

 

「そう、か」

 

「ね、望幸。人理修復の旅が終わったらさ、またあの花畑に行こうよ」

 

「……あぁ、そうだな。全てが終わったらまた君と行きたいなぁ」

 

 そう呟く彼の声は何処か震えているように感じて、そこでようやく立香は彼の様子に気がついた。横を向いて彼の様子を伺うと星空を眺める彼は何処か遥か遠い昔を思い出しているようで、そしてその青い瞳に強い光が灯ったようにも見えた。

 

「望幸……?」

 

 心配そうに見つめる立香に彼は誤魔化すように質問をした。

 

「なあ立香、君にとっての運命とは何かを俺に教えてくれないか」

 

 突然の質問に驚きつつも立香は少しだけ考える。だが、特にこれといったものが思い付かなかった為、うーっと唸っているとその様子を見た彼は少しだけ笑った。

 

「今思い付かないんだったら無理に答える必要は無い。そうだな……この人理修復の旅が終わる最後の時にでも立香の答えを聞かせてくれ」

 

「……ちなみに望幸は?」

 

「俺か? 俺は、そうだな──」

 

 彼はまた星空を眺めてほんの少し間を置いてから答えた。

 

「──この世で最も嫌いな存在かな」

 

 そう言って何処か吐き捨てる答える彼の姿に立香は心臓が掴まれるような思いだった。だって、初めてこんなにも彼が苦しそうで憎々しげな顔をしていたから。

 

「望幸──」

 

「なんてな、冗談だよ。驚いたか?」

 

 その言葉の通り一瞬で先程までの表情が消えて薄く笑う彼の顔を見て、立香は目を見開いて固まった。

 

「こ、このっ……!」

 

「俺の演技も中々のものだろう?」

 

「もうっ! 本当にもう!」

 

 心配した気持ちを返して欲しい。

 

 そんな風に怒る立香に彼は笑いながら謝ると火にかけて沸かしていたものをコップに注ぐと立香に渡した。

 

「ほら、これでも飲みなよ。どうせ寝付けなかったんだろう?」

 

 立香は渋々といった様子で怒りを収めて彼からコップを受け取ると仄かに湯気が立つそれをちびちびと舐めるように飲み始めた。

 

「……気になってたんだけど何処からコップとか鍋とか用意したの? 私がこっそり付いてきた時何も持ってなかったよね。もしかして望幸がよく使ってる置換魔術?」

 

「ん、これか? 此奴は虚数──あーいや、そうだな……。まあ、そんなものだ。置換魔術で遠くにあるものを取り寄せてるのさ」

 

「ふぅん、そうなんだ……あ、これ美味しい」

 

「はは、口にあって何よりだ。一応其奴は安眠効果もあるから飲んで暫くしたらぐっすり眠れるだろう」

 

 彼はそう言いながら自分のコップにもそれを注ぐと立香と同じように少しずつ飲み始めた。そして訪れる静寂の時。鳥と虫の鳴き声が響く中、立香達はしばらくの間星空を眺めていた。

 

 明日、ガリアに攻め込むというのにそんなことを微塵も感じさせないほどに穏やかな時間が二人の間に流れていた。

 

 そして暫くすると立香に眠気が一気に襲ってきた。彼の渡してくれた飲み物の効果もあるのだろうが、一番の要因はやはり彼と一緒に過ごせた事で知らず知らずのうちに張っていた緊張の糸が緩んだのだろう。

 

「ん……」

 

「眠くなったのか」

 

 最近は不安で睡眠が十分に取れる事が少なかったが故に立香は答えるのが億劫になるほどの睡魔に襲われていた。その様子を察知した彼は少しだけ嘆息した後、立香の頭に手を置いた。

 

「おやすみ立香」

 

 その言葉を最後に立香は意識を失った。

 

 肩に寄りかかるように規則正しい寝息を吐きながら眠る立香を彼はそっと起こさないように頭を膝の上に誘導するとパチンと小さく指を鳴らす。

 

 それだけで今まで彼らの周りにあった小鍋や焚き火の痕跡すらも綺麗に消え去った。

 

 膝の上で眠る立香の頭を優しく撫でながら彼はフッとちいさく息を吐く。そして立香の瞼の上にそっと手を置いた。

 

「せめて今だけでも良い夢を」

 

 その言葉と共に彼はゆっくりと立香を起こさないように持ち上げるとそのまま駐屯地へと戻って行った。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 朝、テントの隙間から入ってくる光で立香は目が覚めた。

 

(ん……何だかこんなにぐっすり眠れたの久しぶりかも……)

 

 最近は不安で中々眠れなかった。何せ本格的な戦争だ。人と人同士が殺し合う中、少し前までただの一般人であった立香には今の現状はあまりにも重い。

 

 それに今回の特異点では大切な幼馴染である彼が死んでしまったと思ったのだ。あれは彼が上手くどうにかしてくれたからこそ私も彼も生き残ることが出来た。けれど、二度目はないかもしれない。

 

 そう思うと不安で中々寝付けなかった。マシュやロマニ、ダ・ヴィンチちゃんなんかにも心配されていたが、大丈夫だと偽ってずっと気を張りつめていたのだ。

 

 けれど、昨日の夜に望幸と二人で話して、不安が完全になくなったとは言えないけれどそれでもかなり不安は取り除けた。そして──

 

(ん? あれ、私昨日どうやってテントに帰って……?)

 

 寝ぼけていた頭が徐々に覚醒し始める。

 

 今抱きついているものは何だろう? マシュにしてはちょっと硬い。フォウくんにしてはモフモフしてない。あ、でもこの匂いは安心する──

 

 そこで立香は完全に目が覚めた。

 

 パッチリと目を開けた先にいるのは青く輝く瞳で此方を見つめている望幸がいた。

 

「おはよう、立香」

 

「な、なななんで? どうして望幸が此処に?」

 

 顔に血が集まるのを感じる。いや、別に望幸と一緒に寝るのは構わないし、なんなら昔は一緒に寝てたことも沢山あるから別にいいんだけれども。変な寝顔してなかったかな? 寝相悪くなかった? 涎とか垂らしてないよね? 

 

 あわあわと慌てている立香を他所に望幸は更なる爆弾を投下した。

 

「どうしても何も君が離してくれなかったからなんだが」

 

「ぁぁぁぁぁ……」

 

 何となく思い出してきた。昨日確か暖かく感じてた物から離れたくなくて何かにしがみついていた覚えがあったけどまさかそれが望幸だったなんて……。

 

 もう無理。恥ずかしすぎて死んじゃう。

 

 あまりの羞恥から真っ赤になった顔を彼から隠すように手で覆っているとどういう訳か、彼はまるで包み込むように抱き締めてきた。

 

「聞いた話によると人間はこうして抱き合うと落ち着くらしいが……。どうだ、落ち着くか?」

 

「確かに落ち着くけど! これはそうじゃなくてぇ……」

 

「ん、ならやめるか?」

 

「……もうちょっとこのままで」

 

 朝早くて寒いだけだから。別にこれは欲に負けたとかそんなのじゃないからと誰に言い訳しているのかと尋ねたくなるほどに心の内であーだこーだと理由を付けて彼に抱きつくのを立香は正当化していた。

 

 そうしてしばらく時間が経って──立香は彼の胸に埋めていた顔を上げると彼の青く輝く瞳を見た。

 

 いつ見ても綺麗な瞳だと思う。澄んだ青空のような、或いは夜空に浮かぶ星のような輝きを放つ青い瞳。吸い込まれてしまいそうになるほどにその瞳を眺めているとその視線に気がついた彼は同じように私の瞳を見つめてきた。

 

「どうかしたか?」

 

 そう聞かれたけれどまさか見惚れてましたなんてそんな小っ恥ずかしいこと言えるはずもなく、かと言ってまともな思考ができていない状態の頭から納得させるような言い訳は思いつかず、反射的に自分が何処か心の内で思っていたことを喋ってしまった。

 

「あの、偶にで良いからまたこうして一緒に寝てくれる……?」

 

 言ってから何を言ってるんだと気付いた。これならまだ正直に話した方が良かったんじゃないかと思ってしまう。

 

 やっぱり今のなし──そう言おうと思った瞬間

 

「分かった。それが君の望みならば」

 

 何の躊躇いもなく彼は了承した。

 

 ほんの少したりとも考える素振りも見せずに即答したため立香の心は色々と乱れた。

 

 快諾してくれたことは嬉しい。これでやだとか言われたらショックで一日は沈んでいただろう。しかし、しかしだ。なんの迷いもなく即答するというのはいただけない。

 

 もしかして女として認識されていないではと疑ってしまうのだ。幼馴染とはいえ常日頃一緒に居すぎた弊害かもしれない。だからと言って離れる気は微塵もないんだけれども。

 

 少しくらいは迷って欲しかったなと思ってしまう。乙女心って存外面倒臭いのだ。彼はそんな事は知らないんだろうけど。

 

 などとそんなことを心の内でボヤきつつも、此方のテントに近づいてくる足音に二人は気がついた為、身体を起こして身支度をする。

 

「うむ! 良い朝だな二人共!」

 

 快活な声を上げてテントの中に入ってきたのはネロだった。

 

「そなた達に伝えるべき事があってな。まず一つ、これは薄々気づいておったが連中はどうにもあの化け物達を操る術を持っておる。そして二つ、『皇帝』を名乗る愚か者の所在地が判明した。恐らくは化け物達を余の愛するローマに解き放った連中の一人であろう」

 

「連中の一人ってことは他にも皇帝を名乗る人がいるってことですか?」

 

「ああ、まだ情報を探っている段階だが、この化け物達を操っている者がいる。そして其奴は今しがた所在地が分かった『皇帝』を名乗るものでは無いことは確かだ」

 

「……なら、今俺達がすべき事は所在地が判明した『皇帝』を倒すことか」

 

 そういう望幸は先程までのふんわりとした気配は消え失せて何処か寒気を感じるほどの無機質な表情でネロにそう尋ねた。

 

 その言葉にネロはこくりとただ頷いた。

 

「そうだ。どうにも其奴は『皇帝』を名乗るだけあってただの兵では歯が立たん。そして我等は悪戯に兵を消費するわけにもいかんのだ。であるのなら我等が率先して仕掛けるしかないというわけだ」

 

「了解した。後で他の奴らにも伝えておく」

 

「うむ、よろしく頼むぞ。ところで──」

 

 話が終わり、望幸が戦の支度をしようとした所でネロがずずいっと彼に近づいた。そしてその非常に整った顔を彼の顔に近付ける。ともすればその距離はキスでもするのではないかという程に接近していたのだが、彼は変わらず無表情を貫いていた。

 

 その事実にネロは眉を寄せる。そして何を思ったか、その白魚を思わせるような華奢な指で望幸の頬を摘みグイッと口角上げた。

 

「──そなたはもう少し表情を変えたりせよ。余のような絶世の美女がこうも近づいているのだぞ? そこは照れたり頬を緩ませたりするべきであろう! 表情が全く変わらんから余は色々と心配だぞ?」

 

「……善処する」

 

「する気ないであろう!? これだからそなたは──」

 

 目を逸らす望幸に騒ぎ始めるネロを他所に立香は思わず首を傾げた。

 

(望幸、そこそこ表情が変わるような……?)

 

 確かに彼は無表情であることは多い。けれど、ネロが心配するほど表情が変わらないものだろうか? 現に昨日の夜なんかコロコロと表情を変えていた。

 

 ネロの言葉に立香は少し違和感を抱きつつも、彼がもっと表情豊かになってくれれば嬉しいからいいかと一人納得した。

 

 そして立香は未だにあの手この手で彼の表情を変えようと奮闘しているネロとその奮闘虚しく無表情でネロを見つめる彼の二人を何とか諌めてマシュ達の元へと向かった。

 




Tips:『彼』は演技が上手。
『彼』のヒミツ:立香に対しては甘い。
立香のヒミツ:実は独占欲が強め。

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