FGO主要キャラ全員生存縛りRTA(1部)   作:でち公

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古戦場前なので初投稿です。


カエサル戦(前)

 

 喧騒と殺戮で塗れた荒野にて一人の男が目を閉じ、何かを待っていた。

 

 その男はよく言えばふくよかな、悪く言えば太った体をしておりとてもでは無いが、戦える見た目ではない。けれど、その身から溢れる覇気が見かけ通りの実力ではないことを示していた。

 

 そんな男に荒い息を吐きながら一人の兵士が駆け寄ってきた。

 

「申し上げます、皇帝陛下。敵軍の攻勢が増した──と、前線から早馬がありました。僣称──」

 

「良い、()()()()()()()()()()()とも。ネロ率いる小部隊が進撃しているのだろう?」

 

「はっ、仰る通りでございます。恐らくは皇帝陛下の仰っていた『特別』な敵将が部隊にいるものかと」

 

「だろうな。良い、貴公はもう下がれ。その小部隊にも何もせんでいい、放っておけ」

 

「は……」

 

 兵士は深く一礼すると何処かへと去っていった。恐らくは戦線に加わったのだろう。そんな兵士を尻目に皇帝陛下と呼ばれた男は深く嘆息した。

 

「……カルデアが此方に来るまでは数と質共に上回る我等の方が圧倒的に優位であった。だが、カルデアが来た途端にこれだ。ひっくり返せるはずのない戦力差を容易くひっくり返すか。ここまで来ると『世界』そのものが味方に付いてるとしか思えんな。……いや、或いは──」

 

 

「──これこそが因果の歪みというものなのか」

 

 

 そこまで言うと男はゆっくりと目を見開き、遥か遠くを見つめる。その視線の先には自らが待ち望んでいたカルデア一行がいた。

 

 軍を蹴散らし、化け物を薙ぎ払いながら快進撃を続けるカルデア──マスターである藤丸立香と星崎望幸を愛おしい子を見るような目で眺め、そしてサーヴァントに混じりながら化け物達を殺し続けている望幸の姿を痛ましい者を見る目で見ていた。

 

「───。いや、今は確か星崎望幸と名乗っているのだったか。お前は、何処に向かうつもりなのだ。サーヴァントの相手はサーヴァントにしか務まらぬ。ならば、その理から逸脱するお前は何だ。何に成るつもりなのだ」

 

 かの御方に守られ、保護された数少ない記憶の破片に浸りながら思い浮かぶ記憶はかつてのマスターの姿だ。最早顔すら思い出すことは出来ぬが、それでもマスターと紡いだ思い出は確かにここにある。

 

「破壊することでしか己の価値を示す方法を知らぬ手のかかる子だった。けれど、不器用ながらも世界を愛し、守ろうとする子であった。……私がセイバーとして召喚されたのはこの為だったのだろう。知らねばならん、あの子が何に至るつもりなのかを。弁舌ではなく、剣にて今のあの子を推し測らねばならん」

 

 そう言って彼は剣を抜き、その身に魔力を走らせる。それに呼応するが如く、彼の体を侵食していたヴォイドセルが妖しい輝きを放つ。

 

「……来たか」

 

 その言葉と共に化け物の群れを鏖殺し、兵士を蹴散らしたネロ達が男の目の前に立つ。

 

「待ちくたびれたぞ。いつまで私を待たせる気だ。しかし、だ。私が待つ甲斐はあったというものだ」

 

 彼はそう言ってネロへと目を向けた。

 

「──ああ、やはり美しいな。うむ、それでこそ世界の至宝でありローマに相応しい。我らの愛しきローマを継ぐ者よ、名前は何と言ったかな」

 

 その堂々たる振る舞いと溢れんばかりの覇気にネロは一瞬言い淀んだ。

 

「沈黙するな、戦場であっても雄弁であれ。それとも、貴様は名乗りもせずに私と刃を交えるか。それが当代のローマ皇帝の在りようか? さあ、語れ。貴様は誰だ。この私に剣を執らせる貴様の名は」

 

 先程よりも圧力の増す彼に今度はネロも負けじと堂々と名乗りを上げた。

 

「──ネロ。余は、ローマ帝国第五皇帝。ネロ・クラウディウスこそが余の名である。僣称皇帝、貴様を討つ者だ!」

 

 その名乗りに男は深く笑みを浮かべる。良いものを聞いたと言わんばかりの笑みを。

 

「良い名乗りだ。そうでなくては面白くもない」

 

 そして今度はネロから視線を外し、カルデア一行──立香達へと目を向けた。

 

「そこな客将達よ。遠き異邦から良く参った。お前達も名乗るがいい」

 

「藤丸立香です」

 

「マシュ・キリエライト。マスター藤丸立香のサーヴァントです」

 

「……星崎望幸だ」

 

「うむ、うむ……良い名だ。マスターとサーヴァント、従来の関係とは些か異なっているがそれもまた良い──うん?

 

 何か納得した様な様子を見せる男は藤丸立香から星崎望幸へと視線を移し、ピタリと固まった。

 

「ううむ、これはまたなんとも……。厄介、なんて言葉で片付けられる範疇を超えているな。いくら何でも過剰戦力が過ぎるのではないか? いや、もしくは彼女らが必要なだけの何かがこの人理修復にあるということか?」

 

 何かブツブツと呟いてはいたが、やがては呟くのをやめて剣を構えた。

 

「まあ良い。ここまで来たのだ、我が黄金剣『黄の死(クロケアモース)』を味わっていくがいい」

 

「言うな、黄金は余のものである! 黄金劇場を作り上げし、このネロの!」

 

「はは、その意気だ。マシュ・キリエライト、お前はマスターをよく守れよ?」

 

「……この戦いが終わったら聖杯について知っていることを吐いてもらうぞ」

 

「いいだろう。ならばその代わり私に力を見せてみろ星崎望幸。よく戦えば私が教えてやっても良い。さあ──此処へと進め、既に賽は投げられた。お前達の力を私に証明しろ!」

 

 その言葉と共に男はその図体には見合わぬほどの素早さでネロへと肉薄し、斬り掛かる。

 

「ぐぅっ!」

 

 咄嗟に剣でガードしたネロだったが、その異常極まる膂力によりガードした剣ごと弾き飛ばされた。地面と水平に吹き飛んでいくネロを望幸は受け止め、魔術によってその衝撃を緩和させる。

 

 当然、その隙を見逃すはずはなく尋常ならざる速度で距離を詰めると纏めて両断せんとばかり剣を振るう──が。

 

「むっ」

 

 その攻撃は横合いから乱入してきたクーフーリンによって弾かれる。

 

「シィッ!」

 

 そして体勢を崩した瞬間に空気ごと切り裂くような強烈な突きを男に向けて放つ。だが、それは不利な体勢にも関わらずいとも容易く男が叩き落とした。

 

 間髪入れずにその首叩き落とそうと剣を振るおうとしてその場から飛び引いた。その直後先程まで立っていた場所から業火が燃え盛る。

 

「ほお、これは恐ろしいな」

 

「チッ、そんな余裕を見せておいてよく言うわね」

 

 丸焼けにしようと炎を放ったジャンヌ・オルタは余裕の表情でそう語る男に舌打ちする。

 

「──上か」

 

「ふっ!」

 

 男はちらりと視線を上に向けると強烈な一撃を頭上へと放つ。上空から奇襲を仕掛けて来たアルトリア・オルタの聖剣と衝撃波が出る程の打ち合いが始まった。

 

 アルトリア・オルタと激しい剣戟を交わしつつも涼しげな顔で捌きつつ、加勢に入るクーフーリンとジャンヌ・オルタの攻撃すらも危なげなく躱す。

 

『おいおい、嘘だろ!? あの三人を同時に相手してまだ余裕があるって言うのか!』

 

 驚愕の声を上げるロマニ。それもそうだろう、少なくとも今目の前にいるふくよかな男がそれほどの技量を持つとは思えなかったのだ。

 

「ふぅむ、とはいえ流石に多勢に無勢か。ならば──」

 

 男はパチンと指を鳴らす。

 

「▅▂▅▂▂▅▅▅!!!」

 

 声にならぬ雄叫びを上げて異形の化け物達がそれぞれに襲いかかる。

 

「チィッ!」

 

 三人は同様に舌打ちをして突如として現れた化け物への対応を余儀なくされる。

 

「さて、これで少しは時間が稼げるだろう」

 

「……式」

 

「ええ」

 

 その言葉と共に式は縮地を使い、一気に間を詰めると刃を振るう。しかし、それすらも見切っていると言わんばかりに軽やかに躱して彼の持つ黄金剣を打ち付け大きく吹き飛ばし、ついでと言わんばかりに先程の三人を襲わせた化け物達よりも多い数の化け物を嗾けた。

 

 無論、そんな化け物など根源接続者である式の敵ではない。だが、問題はその数と纏めて殺されない為に少数ずつ襲いかかってくるという明らかに時間稼ぎを目的とした波状攻撃で、それに式は否が応にも足を止めることになった。

 

「……ふぅ、流石に疲れるな。とは言えこれで数の力には頼れまい。ならばどう出る?」

 

 これでジャンヌ・ダルクやスパルタクス、ブーディカがいればまだ何とか数の力で優位に立てたのかもしれない。だが、その三名はネロ達率いる小部隊の兵の援護に向かっている為に頼ることは出来そうになかった。

 

「知れたことを! ならば余が討つ。それだけだ!」

 

「援護しますネロさん!」

 

「──それは悪手だぞ」

 

 斬り掛かるネロをひらりと躱し、シールドバッシュを仕掛けてきたマシュをその黄金剣で真っ向から弾き飛ばした。

 

「あぐぅっ!」

 

「言ったはずなのだがな。()()()()()と」

 

 その言葉と共に男の姿は掻き消え、次の瞬間には立香の目の前で剣を振り上げていた。

 

 それに対して立香は目を見開いて避けようと足を動かそうとするが、それだけ。一般人とサーヴァントとでは天と地ほどの差がある。

 

 立香の足が動くよりも速く剣が振り下ろされ──その腕に強烈な蹴りが放たれて剣の軌道が逸らされた。

 

「ほう、やるな。今の一撃、明らかに人間の範疇を超えている。それがお前の魔術か?」

 

「教えるとでも?」

 

 その言葉と共に望幸は彼の顔面目掛けて蹴りを放つ。だが、それはいとも容易く防がれた上にそのまま足を掴まれてしまった。

 

「それもそうだな。ならばこれはどうだ?」

 

 男は掴んだ足を万力の如き握力で締め上げ、逃げられぬように上へと持ち上げて体勢の崩れた望幸の身体へと剣を振るう。そして肉と骨を断つ感覚を感じると共にその手にずっしりとした重みが発生した。

 

「ほう」

 

 斬り殺したと思ったはずの手の中には望幸は既におらず、代わりに持っていたのは半分に叩き切られた小柄な化け物だった。

 

 では、望幸は何処に? 

 

 そう思い顔を上げると既に立香を抱えてマシュの傍に退避していた。

 

「位置の入れ替え……いや、そうなると先程の蹴りの威力の説明が付かんな──むおっ!?」

 

「こんのっ!」

 

 彼の魔術について考察していた男は化け物の群れを食い破ってきたジャンヌ・オルタによって強烈な一撃を叩き込まれた。

 

 鋼鉄で出来た旗がしなるほどの威力でその立派な腹に叩き付けられた男は地面に何度もバウンドしながら吹き飛んでいく。

 

「……ぐっ、想定していたより早いな。もっと手こずるものと思っていたのだが」

 

「ええ、ええそりゃそうでしょうとも。こっちだって昔のままじゃないのよ」

 

 化け物達の血に塗れながら業火を迸らせるジャンヌ・オルタの姿は正に竜の魔女に相応しい姿だった。そんな姿に男はさして攻撃が効いた様子も見せずに不敵な笑みを浮かべながら悠然と立ち上がる。

 

「それは()()()()()()だ。とは言え、これ以上時間をかけていればあれ等を倒し切ったサーヴァントと合流されるか。そうなるといずれ殺られてしまうかもな?」

 

 そう軽口を叩く男にマシュを苦虫を噛み潰したように顔を顰める。

 

「それほどの強烈な剣と技量を誇っておいてどの口で……」

 

『流石はセイバーのクラス……。相当の手練のサーヴァントだな、彼は』

 

「化け物か……。くっ、偽の『皇帝』の癖に……っ!」

 

 多数のサーヴァントを一人でいなし続け、あわや立香を殺す直前までいった彼にネロ達は戦慄する。

 

「いいや、違うぞ。ネロ・クラウディウス。私もまた皇帝の一人だ。尤も私の頃にその称号はなかったが。……と、ああそうだったな。私は名乗りを上げておらんかったか」

 

 いかんいかんとそうボヤきながらその立派な腹──もとい胸を張りながら彼は己の名を告げる。

 

「お前たちの勇気に評し、我が名を告げよう──」

 

 

「私はカエサル。即ち、()()()()()()()()()()()()。それが私だ」

 

 

 その言葉にネロは衝撃を受けたようで面食らったように呆けた。

 

「それ、は……初代皇帝以前の支配者の名……。いや、しかし過去に死した者が、まさか──」

 

「いいや、理解しているはずだネロ・クラウディウス。既にカリギュラと遭遇しているのだろう? ()()だ。私も、奴もな」

 

「──っ」

 

 絶句するネロを他所にカエサルはちらりと後ろを見る。

 

(もうじき突破されるな。まだ語り合いたいところだが、長々と話していれば私の役目を果たすことすら出来んか)

 

「さて、私に一撃を入れた褒美だ。聖杯がどこにあるかについてだけは教えてやろう。聖杯は我が連合帝国首都の城にある。より正確に言えば、その最奥にいる()()()()()()()()()()()と言うべきか」

 

「女性……?」

 

 その言葉に立香は疑問符を浮かべる。

 

「おっと、悪いがこれ以上のことを教える気はないぞ。褒美の時間は終わりなのでな。さて、お前達を苦難の道に導くのは趣味ではない。が、この程度超えて貰わねばこの先にある絶望を乗り越えることも出来んだろう」

 

『っ!? 何だこれは! 彼の周囲にある空気中の魔力が彼を中心に渦巻いてる。馬鹿な、こんな事があるのか!?』

 

 計器を観測していたロマニが焦った声を上げる。

 

「ここからは本気だ。黄金剣も偶には全力で振るってやらねば哀れに過ぎると言うものだ」

 

『気をつけて! 今の彼は魔力量だけで言うのなら神霊にすら匹敵する! くそっ、明らかに異常だぞこれは!』

 

「私は私の役目を果たす──」

 

 凄まじい量の魔力が大理石で覆われた白き腕に集まり、その桁違いの量の魔力が彼の豪華な服を引き裂いていく。そしてその破れた服から覗くのは真っ白な素肌──ではなく、まるで何かに汚染されたかのように紫色に染まった肌で、その上に脈動するかのようにオレンジ色の奇妙な紋様が点滅していた。

 

 恐らくはそれこそが彼の膨大な魔力の正体なのだろう。

 

「私は見た、私は来た──」

 

 溢れんばかりの膨大な魔力を解放し、物理的な圧力さえ感じるほどの覇気をぶつけ、カエサルは高らかに宣言する。

 

ならば後は勝つだけだ!

 

 皆が皆、これからからが本番なのだと気を引き締める中、ただ一人星崎望幸だけは彼の宣言に紛れるように隠すように持った聖晶石を片手に小さく嗤った。

 

 彼の瞳の先にあるのは──。

 





Tips:聖晶石は英霊の核となる。
Tips:聖晶石は擬似霊子結晶と呼ばれる。
Tips:ヴォイドセルは霊子収集体と呼ばれる。
Tips:ヴォイドセルは移植できる。

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