FGO主要キャラ全員生存縛りRTA(1部)   作:でち公

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古戦場のボーダー壊れちゃったので初投稿です。


カエサル戦(後)

 カエサルにとっての勝利条件とは何か? 

 カルデアに対して勝つことか? 

 

 ──違う。

 

 ネロ率いる軍勢を叩き潰すことか? 

 

 ──違う。

 

 星崎望幸を殺すことか? 

 

 ──違う。

 

 カエサルにとっての勝利条件は勝つことでも殺すことでもない。

 

 星崎望幸について『知る』ことだ。それこそが彼にとっての唯一の勝利条件にして他ならない。

 

 カエサルは己が星崎望幸を殺してもどうにもならないことを知っている。ああ言った馬鹿は殺した程度では止まりはしない。

 

 馬鹿は死ななきゃ直らないというが突き抜けた馬鹿は死んでも直らないというのが、彼を通してよく理解出来た。とうの昔に自分の命など投げ捨てているような馬鹿をいくら殺したところで止まるはずがない。

 

 だからこそ、彼を止めるとするならば全ての原動力である魂そのものを消滅させる必要がある。

 

 その為にカエサルは彼を知らなければならない。

 

 全ては遊星の方舟に座する巨神が彼の全てを滅ぼす為に。

 

 扱う魔術、思考、動き……何もかもを暴き、巨神に託す。それこそがカエサルの勝利条件だ。その為にこの身を巨神の力に侵食させた。

 

 彼の全てを引き出す為にはこうするしかないのだと理解していたが故に。

 

「行くぞ、カルデア。私が見定めてやる!」

 

 その言葉と共にカエサルは凄まじい速さで駆け出す。それに対してジャンヌ・オルタは当然の様に反応し、迎撃した。

 

 鋼鉄の旗と黄金剣が瞬きの間に幾度となく交差し、火花を散らす。互いの得物が衝突する衝撃で大気を震わせるほどの威力で剣戟を交わす。

 

「……っ」

 

 パッと見ではあるがほんの僅かではあるが押しているのはカエサルだろう。

 

 マスターが聖杯を宿す星崎望幸ということと彼女自身がファフニールの力を宿しているとしてもカルデアに呼ばれたサーヴァントである以上、特異点に存在していた時よりかは些かステータスが落ちてはいるが、それでも高水準のステータスを誇るジャンヌ・オルタ。

 

 こと筋力で言えばA+になっている彼女がカエサルに対して力負けをしていた。本来ならば人間空母とすら揶揄されるほどの桁違いの力を持つジャンヌ・オルタに対してカエサルが押しているのは彼が巨神の力──即ち、ヴォイドセルをその身に宿していることが起因する。

 

 ヴォイドセルは生物の凶暴性を増す特徴がある。故にそれに侵されているカエサルも当然、凶暴性が増している。加えてヴォイドセルの霊子収集体という特性も合わされば彼の筋力は元の優秀な筋力なのも相まって瞬間的にA++にさえ匹敵する。

 

 膂力の差だけで言えばジャンヌ・オルタが一方的に打ち負けてもおかしくはないのだが──

 

「ぐっ、ぬぅ……! やるな、麗しき乙女よ」

 

「ハッ、文字通り()()()()()のよ」

 

 ──今まで積み上げてきた技術がカエサルに対して喰らい付ける理由だった。

 

 復讐者としてその身を窶してからずっとずっと覚えてきた。何度繰り返そうと何度負けようと何度、彼が目の前で死んでいこうとも。

 

 ずっと、覚えて……その度に抱いた憤怒も絶望も何もかもを全て自分の糧にしてきた。

 

 自分より強い奴はいると知ったからそんな奴らにも負けない為に力をつけた。他の奴に頭を下げてまで武術を磨いた。武術だけでは駄目だったからと魔術も学んだ。

 

 その全てはたった一人の為に──

 

「私は彼奴のサーヴァントなのよ」

 

 最初は僅かなりとも押していたカエサルが少しずつではあるが、ジャンヌ・オルタに押され始める。

 

 カエサルの動きに対応してきたジャンヌ・オルタは剣をいなし、時に弾き、カエサルの身に少しずつ手が届き始める。

 

「ふはっ、良いな。ああ、実に良い。だが──」

 

「あぐっ!?」

 

 あと少しで手が届くという所で突如としてカエサルの力が激増した。今まで打ち合えていたというのに呆気なくジャンヌ・オルタはその旗ごと斬り飛ばされた。

 

 弾丸の如く吹き飛んでいくジャンヌ・オルタを即座に反応した望幸が受け止めたと同時に不自然な程に速度が消失し、彼が着地したと同時に彼の足元の地面が軽く罅割れた。

 

「ジャンヌ、大丈夫か?」

 

「……っ、ええ問題ないわ」

 

 ジャンヌ・オルタをゆっくりと地面に下ろした彼の姿を見ながらカエサルは先程の現象について考察する。

 

(彼奴が受け止めた瞬間、かなりの速度で吹き飛んでいた竜の魔女がその場で停止したな。普通ならば空中で受け止めたなら共に吹き飛んでいく筈だが……気になるのは足元の罅割れか)

 

「ジャンヌ、今のは……」

 

「彼奴、急に力が増したわね。……いえ、ただ増しただけならまだ対処が出来るわ。それが出来なかったのは──」

 

「魔力を吸収したから、そうだろう?」

 

「……ええ、そうよ。打ち合った瞬間、明らかに力が抜けるのを感じたわ」

 

(ふむ、流石に気づくのが早いな。竜の魔女は流石といった所だが、彼奴は恐らく最初からこれを知っている)

 

 その事にカエサルは内心舌打ちをする。つまり彼奴は遊星の巨神と戦ったことがあるのだろう。ここの特異点か、或いは別の場所でか。

 

 その事実にカエサルは歯噛みする。

 

 どれだけ繰り返した。どれだけやり直した。どれだけ戦い続けた。どこまですれば人の身でああも成り果てる? 

 

(まだ彼奴に対する情報が足りん。少々骨が折れるが出し惜しみはしておられん)

 

 カエサルはヴォイドセルを活性化させる。周囲の魔力を喰らい、己が物とすることで一介のサーヴァントとしては破格の力を得る。だが、当然それには代償が伴う。

 

 ビキッと何かが罅割れる音がする。カエサルの体に掻き毟るような激痛が走るがそれを無視して剣を構えた。そして──その姿が掻き消えた。

 

 ジャンヌ・オルタですら咄嗟に反応出来ぬ程の超高速移動により望幸の後ろへと回り込む。

 

「──!」

 

 だがジャンヌ・オルタはそれに反応した。当然、誰を狙っているのかも気がついた。故に守ろうと行動を起こすが其れよりも速くカエサルの剣が振るわれる。

 

 その剣は彼の無防備な背中に吸い込まれて行き──空を斬った。

 

「何っ!?」

 

 気付いていない、見えていない。その筈だというのに彼は反応した。特級のサーヴァントであるジャンヌ・オルタですらギリギリで反応出来た位だというのにただの人間であるはずの彼が咄嗟に屈んで避けていた。

 

 背中に目でも付いているのか? 

 

 そう疑うもそれも束の間、振るった剣に彼の指先が掠った瞬間、剣はその場に完全停止した。カエサル自身がその場で止めたと錯覚するほどに余りにも違和感なく止まった。

 

 その事象にカエサルは呆け──腹に強烈な衝撃が走った。

 

 メキリと嫌な音が彼の脚から聞こえると共に放たれた後ろ蹴りは風を切り裂かずに風ごと蹴り飛ばし、カエサルの腹に当たった瞬間、行き場を失った風が爆ぜた。

 

「カハッ……!」

 

 何度も何度も地面にバウンドしながらみっともなく地面に転がることで漸く止まった。

 

(ぐっ……そうか、そういう事か)

 

 口から血が溢れ、腹に激痛が走るがそれでも立ち上がって彼の足を見てみれば予想していた通り、一見分からないようにカモフラージュされているが彼の足はへし折れて変形していた。そして己が剣を見れば、僅かにだが彼の魔力が付着していた。

 

 その魔力をカエサルはヴォイドセルによって吸収しつつも、早くもへし折れて変形していた足が治り始めていくのを見て嘆息する。

 

「お前が扱うのは置換魔術か。従来のそれとは大きく異なるが、効果だけで見れば随分と似通っている」

 

 唐突に消えたのは位置を置換することで入れ替えたからだ。

 人の身では到底出し得ない速度を出せるのは速度を置換することで入れ替えたから。

 先程の強烈な蹴りは己の剣の全ての威力を触れることで入れ替えたから。

 

 ──イカレている。

 

 少なくとも聖杯から得た知識の置換魔術とは異なりすぎている。突然変異の何かだろうが、アレは少なくとも置換魔術の範疇に収まりきっていない。何かまだ隠しているはずだ。

 

 得た情報を念話で己の味方全員に共有しつつも、カエサルは鋭い視線を彼に送る。

 

(彼奴は何をするつもりだ……?)

 

 ヴォイドセルを宿しているからか、魔力の流れが良く分かる。彼の心臓を位置するところにそれこそ大聖杯クラスの超抜級の炉心があることも。

 

 だからこそ分からない。

 

 そこまでして何をするつもりなのかが。少なくともあんな事をしなくても人理修復自体は果たしていた。なら何が理由でああまで力を必要としている? 

 

 彼のサーヴァント然り、彼の在り方然り、余りにも不自然なことが多すぎる。そこまでして力を求める理由は何だ。

 

 知らねばならん。彼奴を理解する必要がある。

 

 ──そうでなければ、何か致命的なことを引き起こしかねない。

 

 そんな妙な確信がカエサルにはあった。

 

(見たところ痛覚は機能していなさそうだ。人としての感覚も失われていると言ってもいいだろう。なら他にも何かしら失っている可能性もあるか……)

 

 へし折れた足に対してまるで気にしておらず、痛みで顔を歪めることも無い彼の姿を見て、痛ましく思いつつも今回で最後にするのだと己に活を入れる。

 

「ふーっ……」

 

 深く息を吐き、そして急加速する。地面が抉れ、一部が吹き飛ぶ程の踏み込みで望幸を肉薄する。だが、それに対応してきたジャンヌ・オルタがカエサルを弾く。

 

 彼らと交差した瞬間、不意に望幸と目が合った。

 

「ガンド」

 

 鳴り響く発砲音と弾丸の如く急加速して飛んできた呪いがカエサルの足に命中する。藤丸立香のガンドとは些か異なる完全に妨害のみに特化したガンド。

 

 それは痛みはまったくない、だがわずかな時間ではあるが当たった足が全くと言っていいほど動かなかった。

 

 当然、そんな隙を皆が逃すわけが無い。

 

「ハァッ!」

 

「やぁぁっ!」

 

 動きの止まったカエサルに対してネロが剣を振りかぶる。マシュがその大盾をぶつける。だが、渾身の一撃と言えるその攻撃をカエサルは防いだ。

 

 ネロの剣を黄金剣にて受け止め、マシュの大盾をその大理石の腕で止めた。

 

 地面が陥没するほどの衝撃を彼は確かに受けきったのだ。

 

「そのまま抑えときなさい!」

 

 ジャンヌ・オルタはそう吠えて旗の穂先を向けてカエサルに向けて突進する。さしものカエサルもジャンヌ・オルタの攻撃を何の対処もせずに受ければ流石に死ぬ。

 

 だから──

 

「ふんッ!!」

 

 ──今まで蓄積させた魔力を解放した。

 

 荒れ狂う魔力の嵐が抑え込んでいたマシュとネロの力をほんの少し弱めた。そして抜け出してジャンヌ・オルタを迎撃する、その瞬間──

 

「ガンド!」

 

 今まで全く警戒すらしていなかった藤丸立香から飛んできたガンドがカエサルに命中する。星崎望幸のガンドとはまた違う、妨害ではなく、威力に特化したガンド。

 

 ケイローンの教えとクーフーリンのルーン魔術により密かに強化されたガンドはカエサルに対して少なくない衝撃を与えた。

 

 意識外からの攻撃により思わずよろけたカエサルをジャンヌ・オルタの旗の穂先は確実に捉えてその体を貫いた。

 

「此奴……!」

 

 その言葉を漏らしたのはジャンヌ・オルタだった。

 

「ぐっ……流石に痛い、なァッ!」

 

 カエサルは当たる直前で身を捩り、霊核を破壊されるのを避けたのだ。カエサルは体に旗が突き刺さったまま、全身に力を込めて回転斬りの要領でマシュとネロを弾き飛ばし、ジャンヌ・オルタは旗を手放してギリギリの所で回避する。

 

(時間がない……! これ以上時間を掛けると他のサーヴァントも合流する。それに私自身の体も持たん)

 

 荒い息を吐きながらも剣を構えるカエサル。彼の耳にはヴォイドセルを使えば使うほどビキビキと罅が入る音が聞こえていた。

 

 端的に言えばヴォイドセルの出力に対してカエサルの霊基が耐えきれていないのだ。

 

(魔術は理解した。動きも分かった。そしてまだ何かを隠していることも分かった。なら、私がすべきは……)

 

 荒い息を整えて己の体に魔力を回す。

 

『気をつけて! 今まで以上に魔力が高まっている。宝具を打ってきてもおかしくはないぞ!』

 

 ロマニの忠告に全員が気を引き締めてカエサルを睨む。

 

「──宝具解放

 

 静かに呟かれた言葉が溢れ出る魔力を突進力へと変換する。

 

 カエサルが疾走する先にいるのは──マスターである星崎望幸だ。

 

「余が行かせると思うな!」

 

 一直線に走るカエサルに対してネロは刃を振るう。それに対してカエサルは何もしなかった。

 

 反撃も迎撃もすることはなく、甘んじて斬撃をその身で受けた。血飛沫が舞う、斬られた傷がジクジクと痛むが構いはしない。

 

「なっ──」

 

 驚愕するネロを置いてカエサルは猛進する。

 

「私は来た」

 

 呟きながら望幸へ迫る最中、今度はマシュがその行く手を阻む。

 

「ハァァッ!」

 

 渾身の力で振った大盾がカエサルの肉体を貫く。豪奢な服が見る影もなく破れ、血に染まる。肉体に風穴が空いたというのにそれでもカエサルの速度は一切緩まない。

 

「私は見た」

 

 再度呟く。もはやカエサルの瞳には彼しか映ってはいない。遅かれ早かれくたばる運命だと知っていてこの力を受け入れた。

 

 それでも良かった。彼に受けた恩があったからだ。我が最愛の妻に引き合わせてくれた。例え瞬きの間に過ぎないとしても穏やかな時間を過ごすことが出来た。

 

「燃えろッ! 骨まで焼けてしまえッ!」

 

 ジャンヌ・オルタの憤怒の炎が襲い掛かる。それを大理石の腕を盾にすることで無理矢理突破する。それでもカエサルの体は焼け爛れた。酷い所は炭化すらしている。

 

 構わないとも。己の宝具は初撃を当てるだけだ。

 

 半身が焼け落ちた程度、なんら問題は無い! 

 

 炎の渦を突破して彼の正面に来た。最早、剣の射程に入るまで阻むものは何も無い。

 

 悲鳴が上がる、恐らくは藤丸立香のだろう。

 必死の形相で此方に迫る影が見える、きっと彼を守る為に現界したサーヴァント達だ。

 

 けれど──

 

「ならば次は勝つだけのこと」

 

 ──私の剣が届く方が早い! 

 

 彼の表情は変わらない。何の感情も映さない硝子玉の如き無機質さでカエサルの剣を眺めていた。その姿にカエサルは酷く心が痛んだ。

 

 けれどその心ごとカエサルは彼を叩き斬る。

 

黄の死(クロケアモース)

 

 その言葉と共に彼は後ろへと下がる。だが、もう遅い。

 

 カエサルの黄金剣は彼の体を確かに斬り裂いた。そして起きるのは無尽の斬撃。

 

 カエサルの宝具は己の幸運判定を失敗するまで行い、成功した数だけ斬撃を見舞わせるというものだ。それ故に近接戦闘においては見敵必殺の威力を誇る宝具である。

 

 相手が微塵になるまで金色の猛撃は止まらない。

 

 ──そう、()()()()()()()

 

「なっ!?」

 

 カエサルは驚愕に目を見開いた。確かに斬った。今も斬っている。なのになぜ、此奴は私の懐にいる──!? 

 

 どういう理屈か、星崎望幸は微塵になるまで斬られる筈の連撃から抜け出しており、カエサルの懐に潜り込んでいた。

 

 ありえない、ありえるはずがない。よしんば躱せたとしても黄の死に当たった以上、斬撃は自動的に命中する。だから抜け出せても黄の死から抜けられるはずがないのだ。

 

 ならば何故──? 

 

 疑問に思って自分が刻んでいるものを見れば、そこには刻印の刻まれていた化け物の亡骸があった。

 

「まさか──」

 

「これで終幕だ」

 

 ゴキリと彼の手から骨が鳴る音がする。見れば彼の腕には尋常ならざる魔力が集まっていた。そして放たれた貫手はジャンヌ・オルタが空けた風穴からカエサルの霊核を捉えた。

 

「ご、ハッ……」

 

 口から大量の血が零れ落ちる。ボタボタと落ちる血が己の体を突き刺したままの彼の顔に掛かる。

 

「アリガトウ、これで俺はまた前に進める」

 

 カエサルの耳元で彼はそう嘯く。

 

「何を、言って──いや待て。お前は何を、した?」

 

 絶えず聞こえていた体が罅割れる音がいつの間にか止まっていた。まさかと思い、突き刺した彼の腕を見てみると己の体を侵食していたヴォイドセルが彼の体に移動していく。

 

「やめろ」

 

「……」

 

 ヴォイドセルが抜き取られていく。霊基が通常のものへと戻されていく。

 

「やめろ馬鹿者」

 

「……」

 

 彼は答えない。ヴォイドセルは彼の体を通して彼の持っていた聖晶石へと移っていく。何とかしなければとカエサルは突き刺さった腕を引き抜こうと掴むが、力が入らない。

 

「それは、お前が扱うべきものじゃないんだぞ」

 

「……」

 

 ヴォイドセルによって見えるようになった魔力の流れを見てみれば汚染された魔力も彼の心臓──より正確に言えば聖杯へと注がれていく。

 

「分かってるのか、それはお前を更に苦しめるだけだ。だから、やめろ。それを私の方に戻せ。お前が背負うものじゃない」

 

「……」

 

 答えない。

 

 そして最早抵抗すら出来なくなるほどにヴォイドセルも魔力も抜かれてカエサルは漸くここで一つ思い違いをしていたことに気がついた。

 

「待て、お前が使う魔術は本当に置換魔術か?」

 

「……ハ」

 

 彼はその返答として浅く嗤った。もはや言葉も出せぬほどに魔力を抜き取られたカエサルは激しい後悔に襲われていた。

 

 知るべきではあった。だが、彼にそれを使わせるべきではなかった。恐らくジャンヌ・オルタですらこれの異常性に気がついていない。

 

 否、気付けるはずが無い。直接やられているからこそ、そして聡明なカエサルだからこそ気が付けたのだ。

 

 これは……この力は──

 

「それではサヨウナラ」

 

 その言葉と共に霊核が砕ける音がした。霞む視界、崩れ落ちる肉体。そんな中、カエサルはこの事実を伝えなければと沈み込む意識の中、必死に抗っていた。

 

 けれど……

 

(……? まて、何を伝えれば──)

 

 ──抜き取られた。

 

 何かは分からない。けれど確実に今ソレを抜き取られた。座に持ち帰ることすらも許されないというのか。

 

(クソッ……)

 

 カエサルが手を伸ばして見たのはその手に血で濡れ、変色した聖晶石を片手に呟く彼の姿だった。

 

「この程度の濃度と量じゃ足りないよ。せめてあと一騎分と少しは欲しいな。まあ、目星は付いてるが」

 

 聖晶石を立香達に気が付かれぬように虚数空間へと放り込み彼女達の方へと向かう彼の後ろ姿を最後にカエサルはこの特異点から完全に消滅した。

 




まだセーフ

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