FGO主要キャラ全員生存縛りRTA(1部)   作:でち公

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偽りと本質

 

 時はロムルスが宝具を発動させた頃まで遡る。

 

 その頃、カルデアの管制室は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。

 

「バイタル観測班、望幸くんの状態は!?」

 

「バイタル大幅低下! 危険領域(レッドゾーン)に突入しかかってます!」

 

「魔力反応は!」

 

「大幅に上昇しています。平常時の二倍……いいえ、もう三倍まで膨れ上がってます! それも依然として上昇中。こんなの彼の魔術回路が持ちません!」

 

「クソッ、聖杯が反応しているのか?」

 

「いえ、聖杯に反応はありません。ですが、この反応は……?」

 

 カタカタと忙しなくキーボードを打ち込み、常に彼の生体情報の更新と入手を繰り返す。その度に目まぐるしくモニターのグラフが変化する。

 

 常に跳ね上がり続ける魔力反応。それは既に近代の英霊の魔力を超えて中世辺りの英霊まで跳ね上がっているが、このままの上昇速度だと下手をすれば古代にすら手が届きかねないほどだ。

 

 それ故に聖杯に溜め込んだ魔力を解放しているのかと思えば、どうやらそういう訳でもないらしい。

 

 彼のバイタルを観測するスタッフが注目したのは魔力の供給元だった。

 

 仮にこれが彼の心臓にある聖杯からの供給ならば反応は当然心臓付近にある。だが、反応があったのは彼の令呪が刻まれた右手とその足元だ。

 

 特異な反応を示しているのは獣の爪痕らしき模様の令呪だが、それよりも特大の反応を示しているのは彼の足元だ。

 

『───』

 

「……っ?」

 

 それが何なのか探ろうとする前に事態はさらに悪化した。

 

 式とジャンヌ・オルタと手を繋いだ彼の足元に唐突に蒼銀の魔術陣が展開されたのだ。次瞬、彼のバイタルは更に悪化。危険領域に突入し、魔力の上昇速度が更に跳ね上がった。

 

「ロマニ!」

 

「今解析してる!」

 

 そう言ってロマニは彼が()()()で展開した蒼銀の魔術陣の特性から効果まで丸裸にすべく解析をする。しかし──

 

「なんだこの術式……()()()()()()()()()()()!?」

 

 より正確に言えば知っているものは確かにある。あるのだが、それ以上に知らないものが多すぎる。解析はまだ完了していないとはいえ、ロマニはどんな魔術であれ術式を見れば大体は分かると自負している。

 

 だが、今見て分かるのは恐らく術式の全体の1割にも満たないほどだろう。

 

 その異常性はロマニのことをよく知るダヴィンチにも伝わった。

 

「ロマニ、今分かる範囲でいいから特性と効果を教えて」

 

「特性は恐らく接続。けど、効果はなんだ……? 簒奪いや、剥奪? ううん違うな、これは蒐集……収穫か!」

 

「特性が接続で効果が収穫? なら彼は何かに接続してそれから魔力を収穫してるということなのかな」

 

「恐らくは。けど問題は何に接続してるかなんだ」

 

 そう言ってロマニは正体不明の魔術陣の解析を進める。だが、解析をどれだけ進めても出てくる情報の全てが未知だ。……もはやこれは人類の扱う魔術と言うよりも──

 

 

 

 ──神々が扱う権能に近い。

 

『術式駆動』

 

 ぞわりと悪寒が背中を駆け上る。その悪寒の発生源である彼を見れば、口から大量の血を吐き出して式からそっと手を離し、襲い掛かる樹木に獣の爪痕のような模様の令呪のある右手で握り潰すような真似をした。

 

 その瞬間に蒼銀の魔術陣は一際強く輝き、襲い掛かる樹木の一部を消滅させた。

 

「は……?」

 

 宝具が、爆発して消滅した。

 

 強力な攻撃による消滅ではなく、ただ空を握り潰すような事だけで一部とはいえ宝具が消滅した。まるでそれはジャンヌ・オルタが放った火球が辿るはずの末路を置き換えた、ような──! 

 

「トリスメギストスとラプラスのリソースを一部を割いてもいい。分析班は事象分析してくれ。バイタル観測班は望幸くんの状態はどうなってるか教えて!」

 

 己の予測が正しければあれは──

 

「だ、駄目です! 望幸くんのバイタルの正確な観測が出来ません! 魔力反応が強大すぎるせいで他の観測結果にすら影響が出てます!」

 

「今までの望幸くんの魔力反応の基準値を一時的に変更して。今の状態を基準値に。その状態で再度観測!」

 

「で、ですがそんなことをしたら──」

 

「──構わぬ、ある程度のブレと再観測の間のご主人様の保証は妾が補完しよう」

 

 そう言って後ろからそのスタッフの所にやってきたのは玉藻の前だった。荒れ狂うように出鱈目な結果を叩き出し続けるバイタル値を酷く悲しげに見つめながらも彼女は正しく規格外と呼ぶべき呪術を幾つも展開してレイシフト中の彼の存在を保証し、その都度大幅にブレる観測結果を適宜修正していく。

 

 その術式にスタッフは感嘆の息を漏らしそうになったが、今はそんな場合ではないと思考を切り替えて彼のそもそもの設定を書き換え始めた。

 

 カタカタと高速でタイピングする音が響き渡る中、玉藻は映像に映る何度も血を吐きながら術式を発動させて樹木を消滅させていくマスターをじっと見つめていた。

 

 ──もう、嫌なのです。

 

『ぐっ、ごぶっ……』

 

 血で床を真っ赤に染め上げる。それとは反対に彼の顔色は死人のように白くなっていく。それを誤魔化すように活性アンプルを打ち込んで無理矢理体を動かしていく。

 

 もう自分の命すら惜しいとは思っていないのだろう。だから平気で自分の命を使い潰せる。痛みだってもう分からないから止まることすら出来なくなってしまった。

 

『いつも頑張ってくれてる玉藻にちょっとしたご褒美をあげよう』

 

 ざりざりとかつてマスターと初めて出会った■での記憶が蘇る。

 

『あのぅ、頬を引っ張らないで欲しいんですけど』

 

 笑って、泣いて、喜んで、怒って──

 

『いった! 本当に痛いって……あの、玉藻? もしかして怒ってる? いやでもあれは必要な事だったから──いひゃい!』

 

 けれどもう──

 

『少し痛む程度だから問題ないよ』

 

『ううん、大丈夫! 痛くないから』

 

『……大丈夫、痛みはない』

 

 次第に貴方はそれを不要と判断して切り捨ててしまって──

 

『……ああ、この程度何ら問題ない』

 

 貴方は独りで進み始めてしまった。

 

 ただ真っ直ぐに前だけを向いて走り出した。立ち止まらず、後ろも振り返らず、足元すら見ないでひたすらに未来へと向けて私を置いていってしまった。

 

 ──もう嫌なのです。

 

 一人は嫌。貴方が手に届かないところに行ってしまうのが狂いそうになるくらいに嫌だ。いっそのこと全てから隔絶したあの空間の中で二人でずっと一緒に暮らしたいと願っている。

 

 けれど貴方はそれを許容しない。

 

 だからここに来たのだ。全てに終止符を打つ為に。

 

「──もう、()を一人にしないでくださいね」

 

 誰にも聞こえないくらいの小さな声で玉藻はそう呟く(願う)

 

 

 

 

「変更完了しました! 望幸くんのバイタルを再観測します!」

 

 そうして再観測され正常に映し出された彼のバイタルはあまりにも酷いものだった。

 

「──っ」

 

 言葉を失うとはこの事だろう。バイタルデータが映したものは今すぐにでも安静かつ治療を施さなければ死んでしまうであろう値だった。

 

 それを確認したロマニはやはりかと苦い顔をした。聖杯のゴリ押しで発動したのか、或いはまた別の方法でそれを発動したのかは判断がつかないが彼のやった事を考えれば当然のことだ。

 

 あれは最早魔法の領域──いや、()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「ロマニ、その表情から察するに望幸くんが何をやったのか、分かったんだろう?」

 

「あくまで憶測だけどね」

 

 ロマニはそこで一旦息を吐くと今度は彼の情報を漁り始めた。そして彼の魔術の情報を全て映し出すとその全てに目を通していく。

 

「彼がさっきやった事は事象の置き換えに近いものだ」

 

 事象の置き換え、それすなわち──事象改変。

 

「置換魔術……彼の一族はそれでどうやって根源に至ろうとしたのか理解出来た。だからこそ彼の情報は少なかったんだ。だって恐らく()()()()()()()()()()()なんだから」

 

 ロマニはカタカタとキーボードを打って前所長でしか開けないように厳重に秘匿されていたファイルを妙な確信を持って開いた。そこにあったのは彼の──星崎望幸の本当の生態情報が記載されているファイルだった。

 

 そしてそこに映し出された彼の本当の魔術属性は……

 

「おいおい、これは何の冗談だい」

 

 ──魔術属性:火、虚数、無。

 

 ダヴィンチの頬が引き攣る。火はまだいい、それ自体はダヴィンチも知っていた。だが、問題は残りの属性だ。

 

 虚数と無、どちらか片方だけでも封印指定ものだと言うのにその両方が揃っている。こんなことが時計塔の連中に知られればまず間違いなく彼は封印指定になるだろう。

 

 ……ああ、そうか。だから彼の一族は彼を秘匿する事にしたのか。

 

 何せ彼の一族は歴史が浅い。魔術協会の命令には決して逆らえないだろう。だからこそ本拠地を日本にし、目立たないようにただの学生のように振る舞わせていた。そしてカルデアに向かわせて協会の手を届きにくくさせたのだろう。

 

 そしてそれは恐らく前所長であるマリスビリー・アニムスフィアが存命だった頃から画策していた。彼は時計塔のロードだ。時計塔の内情はよく知っているだろう。そんな彼を味方につけ、時計塔の手が届かないように徹底させた。

 

 その見返りとして彼の一族はマリスビリーに彼の生態情報と虚数に関する情報……そして魂に関する情報を提供していたのだ。

 

 それを裏付けるように本当の彼の生態情報が載せられていた秘匿されたファイルを見ていけば、マリスビリーが欲しがっていたであろう情報が事細かに記載されていた。

 

「彼が肉体を操る事が得意なのも魂に干渉する事が出来るのも全ては一族の悲願のために生み出されたからなんだろう」

 

 何故彼の一族は置換魔術をわざわざ極めようとしたのか、如何なる手段で根源へと至ろうとしたのか。それは──

 

「世界からの排斥……つまりは世界の裏側に行くこと自体が目的だったんだ」

 

 世界からの排斥による肉体消滅を経て魂のみで裏側に移動する。そうしてしまえばこちら側から根源を目指すよりも遥かに到達しやすいだろう。

 

 何せあちら側はこちら側よりも遥かに根源に近い。

 

 それは普通に考えれば到底叶うようなものでは無い。だが、彼が生まれてしまった。一族の最高傑作とも言える異常な属性と肉体を持った彼が。

 

 故にその悲願に手が届くことがわかってしまった。そして悲願を叶えるべく教育を施し、出来上がったのが決して死を恐れない彼だ。

 

 最初から死ぬ為に生まれた存在なのだから、死に対する忌避感なんて邪魔なだけだろう。痛みも感情もまた同様。そんな機能など必要ない。

 

 幸いな事に感情だけは幼馴染の立香がいた事により多少なりとも育っていたことだろう。もしいなければ恐らく目も当てられないことになっていたはずだ。

 

 その事実に到達した時、ロマニとダヴィンチは露骨に眉を顰めた。

 

「反吐が出るね」

 

「まったくだよ」

 

 二人はそう吐き捨てると彼に個別で通信を繋げるために機械を動かした。が、どういうわけか失敗した。全く繋がらないのだ。ならば立香も繋がらないのかと言えばそれは違った。

 

 立香には正常に繋がったというのに何故か彼だけが繋がらない。

 

 一体何故──? 

 

 その疑問が浮かぶよりも早く魔力計測器がアラートを鳴らした。そして計測の結果、三等惑星クラスの魔力反応が僅かな間だが示され、それと同時に大規模の霊基反応がネロ・クラウディウスに確認できた。

 

「どうなってる!? なんでネロ陛下から霊基反応が確認できるんだ!」

 

 ロマニの悲鳴にも近い声が上がる。明らかな異常反応。これでもし先程の莫大な魔力の持ち主が敵対関係にある存在ならばまず間違いなくカルデアは敗北する。

 

 いくら彼でも三等惑星規模の魔力を持った相手が敵になったのなら勝てるわけがない。

 

 どうする──!? 

 

 焦りを感じながらも必死に打開策を考えるロマニに更なる悪い情報が入った。

 

「ロマニ! 望幸くんが!」

 

 悲鳴に近い声を上げるダヴィンチが指差す方向に目をやればそこには彼とネロの間に繋げられていた魔力糸を通してネロ側から絡みつくように、決して逃れられぬように魔力が彼に絡みついていく。

 

 そしてそれは彼の心臓に少しずつ入り込んでいくのが確認出来た。

 

「まずい!」

 

 ロマニは咄嗟に立香に向けて通信を繋げようとした。

 

 だが──

 

■■■■黄金劇場である!

 

 それよりも早く酷いノイズ塗れのネロの声が響くと共に発動した固有結界に類似した大魔術によって全員の通信が遮断されてしまった。

 

 どれだけ試行しても繋がらない。完全に通信が遮断されたようだ。

 

 ……こうなってしまえば彼に今すぐネロと繋がっている魔力糸を切れと忠告することも出来ない。最早彼の無事を祈ることしか出来ないのだ。

 

 通信が出来ない以上、ロマニ達からは何も出来ることがない。その事実に放心したようにロマニは背もたれにずるずると寄りかかるしかなかった。

 





ロマニは優秀なのでカエサルが気づいたホモくんの魔術の正体に気が付きました。尚、全部判明した訳じゃない模様。

ついでにマリスビリーが隠してる情報のことも知ってたので開けてみればホモくんの経歴が書かれてました。INT高さ故にアイディア成功したせいでSAN値直葬ですわよ!

玉藻も相変わらず色々と重い。まあ、女神の別側面だしね。そら重いわ。

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