FGO主要キャラ全員生存縛りRTA(1部)   作:でち公

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星が堕ちていく

 

 巨神が星の聖剣に呑まれて沈む。

 コアを貫かれ、その巨体はピクリとも動かない。

 

 カルデアはセファールに打ち勝ったのだ。

 

「〜〜っ! やったね、望幸!」

 

「ゲホッ、ゴホッ! ……フヘェェ」

 

「わ゛───っ!? 大丈夫!? 大丈夫だよね!?」

 

 満面の笑みで彼の方へと駆け寄った立香は盛大に噎せて喀血する彼に驚愕する。

 

 やはり無理をしていたのだと立香は顔を顰めながら、魔術による応急処置を施す。

 魔術をろくに扱えない立香の治癒魔術では微々たる効果にしかならないが、それでもないよりマシだろうと懸命に魔術を発動させた。

 

 淡い緑色の光が彼の体を包むとほんの少しだけ、彼の表情が和らいだような気がした。

 

「ありがとう、少し楽になったよ」

 

「うん、どういたしまして。……まだ、辛いよね? 帰ったらドクター達にちゃんと治してもらおうね」

 

「ああ、そうだな。そのためにも聖杯を回収しようか」

 

「あ、うん! そうだよね、私回収してくる!」

 

 確かにその通りだと、倒れた巨神の方へと駆け寄ったその時───

 

立香ッッ!!!

 

 酷く、焦ったような彼の叫び声が聞こえた。

 

 何だろうと思って振り返ると今まで見たことがないほどの必死な形相で此方に向かって走る彼──そして()()()()()()()()()()()()()

 

「お見事お見事。いやはや、まさかコレすらも倒してみせるとはね」

 

 ねっとりと耳に絡みつくような不快な声。

 この声の持ち主を私は知っている。

 

「そのしぶとさにはいっそ寒気すら覚えるよ。……とは言え、セファールを破壊したカルデアの戦力だけは評価を改めねばならんな。──その為にも役立たずの藤丸立香、()()()()()()()()()()()()

 

「え──?」

 

 これから何が起きるのか、そんなことも分からないまま藤丸立香の人生は幕を閉じようとして──視界が暗転した。

 

 肉が裂ける音、骨が砕ける音、大量の血が地面に落ちる音が酷く鼓膜を揺らした。

 理解が出来ない、したくない。

 目の前の現実を受け入れたくない。

 

「ハ、ハハハ、ハハハハハハ!」

 

 レフ・ライノールの悪魔のような高笑いが響く。

 愉快で仕方がないと言わんばかりの喜悦の籠った笑い声が。

 

「まさか本当にこんな役立たずを庇うとはなぁ!? 実に滑稽で愚か極まりないよ──星崎望幸」

 

「ぐぅっ──!」

 

 私が先程まで立っていたはずの場所で、望幸がレフ・ライノールに胸を貫かれていた。

 

「しかし、腕の欠損のみならず内臓のほとんどを損傷──いや、そもそも形を保っているものがほぼ存在しないと言うのに良くもまあ何食わぬ顔で生きていられるものだ」

 

 その生き汚さには吐き気を催すよと、刺し貫いた手で嬲るように彼の体内を掻き回す。

 ぐちゅぐちゅと耳障りな水音が響く。

 

「ふっ──!」

 

「おや、まだ攻撃するほどの気力があるのか」

 

 レフの眉間へと銃を突きつける彼。

 しかし、その行為はあまりにも呆気なく──

 

「やはりイレギュラーとは言え塵は塵か、あまりにも醜悪だ。さっさと死んでくれないか?」

 

 彼が引き金を引くよりも早く振り抜かれたレフの裏拳が彼の頭部へと突き刺さる。

 そしてゴキリと骨の砕ける嫌な音と共に彼の首が不自然な方向へと曲がり、彼の体から力が抜けていく。

 

「お、あったあった。ではもう君は不要だ。醜悪な存在同士一緒に仲良くするといい」

 

 何かを引き千切るような音と共に彼は異形の化け物達の死骸の山へと投げ捨てられた。

 あまりにも強く投げられたからか、死骸の山へと激突した彼は雪崩込んできた死骸に呑み込まれていく。

 

「さて、これで聖杯の回収は済んだ。残る聖杯も回収する──前に、不穏分子である君達も掃除していかねばな」

 

「お前──っ!!!」

 

 嘲りの笑みを浮かべるレフに凄まじい速度で肉薄し、ありったけの憎悪を込めて旗を振るうジャンヌ・オルタ。

 

「殺す、お前だけは絶対にここで殺す」

 

「はっ、マスターを失ってもなおここまでの出力を誇るとは恐ろしいものだ。だが、自惚れにも程があるな。君のような紛い物の英霊が私を殺せるとでも?」

 

「死ねッ!」

 

 猛攻を仕掛けてくるジャンヌ・オルタを前にレフは大きく後方へと下がる。

 

「良いのかね? そんなに魔力を消費してしまえば彼と契約している君はあっさりと消えてしまうだろう。何せ、君達サーヴァントに魔力供給をする為の彼の心臓──聖杯は私の手の中にある……うん?」

 

 ジャンヌ・オルタに見せつけるように先程彼から引き千切った動かない心臓を見てレフは気付いた。

 

「これは心臓ではないな。先程心臓を抜き取ったつもりだったんだが……なるほど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 呪術とは一般的に自身の肉体を素材として組み替えることで発動する魔術だ。

 故に彼はレフに体内を弄られていた時に肉体操作の技術を用いて臓器の位置を入れ替えたのだろう。

 

 反撃したのもそれを悟られない為だったのか。

 

「は、本当に反吐が出るな。だが、あの傷に加えて首をへし折ったのだ。どのみち生きてはいまい」

 

「ちっ」

 

 そう吐き捨てながらレフは怒りで冷静さを欠いたジャンヌ・オルタの僅かな隙を突いて蹴り飛ばした。

 一度立香達の方へと大きく下がったジャンヌ・オルタは未だ衰えない所かますます燃え盛るような殺意をレフへとぶつけている。

 

『レフ、君は確かにあの時死んだはずだ。何で、生きているんだ?』

 

「この声は……ロマニか? 愚かな事だな、あれで私が死んだと思っていたのか?」

 

『……細切れにされ、カルデアスへと放り込まれたはずだ』

 

「はっ、なるほど。だから死んだと思ったということかい? あの程度で王の寵愛を受けた私が死ぬはずがないだろう。それに私が死んだというのなら──()()()()()()()()()()?」

 

『……っ』

 

 嘲笑するレフにロマニは口を噤んだ。

 

「それにしてもやはり英霊というのは愚図ばかりだな。此方に来てそうそう切り札の1つを使わされる羽目になった。本来であれば使うつもりもなかったんだがね」

 

 倒れた巨神の方へとレフは一瞬目を向けるとそう吐き零した。

 

 特異点Fにて玉藻によって八つ裂きにされたレフは万全を期す為に一度だけ蘇生する魔術を仕掛けていた。

 使うつもりなどなく、最初から本気で潰す為に最強のサーヴァントである破壊の化身、アルテラを召喚したというのに召喚してそうそう命令を下す前に叩き斬られ、王より授かった聖杯も奪われた。

 

 何たる恥辱。

 怒りに震えながらもゆっくりと体を蘇生させ、カルデアを壊滅させるべく情報収集に徹していた。

 情報を集めている時、実に役に立った白髪の男がいたが……まあ、この有様だ。

 既に死んでいることだろう。

 仮に死んでいなかったとしても己が手を下すまでもなくいずれ死に絶える。

 

「さて、私も早々に帰りたいのでね。悪いが此処で全員死んでもらおう。ああ、そうそう藤丸立香、君に一つだけ謝罪と感謝をさせてくれ」

 

「なに、を──?」

 

「先程は君を役立たずと呼んですまなかったね。君は役立たずなどではなかった。何せ──星崎望幸を殺す為に大変役に立ってくれたんだからなァ! ありがとう、藤丸立香! ギャハハハハハハァ──!」

 

 言葉を失う立香にその無様な姿を見てけたたましく笑うレフ。

 嘲笑って、嗤って、笑って──彼の体が靄に包まれ、本来の姿へと変化する。

 

 吐き気を催す邪悪が靄の中から姿を現す。

 不倶戴天なる人理の敵──

 

「では改めて自己紹介をしよう。私はレフ・ライノール・フラウロス! 七十二柱の魔神が一柱! 魔神フラウロス──これが王の寵愛である!」

 

「なんと言う醜さだ……! 今まで見てきたどんな異形よりも吐き気がするぞ!」

 

「そうか? そうかもなぁ! だが、()()()()()()()貴様らを滅ぼすのだ!」

 

 大地に突き立ち、空を穢す無数の目を携えた醜悪なる巨大な肉の柱が立香達を見下した。

 

 

 ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 

 

 ──死が溢れていた。

 

 影の中で左腕を失い、胸に穴が開き、首は折られてピクリとも動かない。

 されど影は独りでに蠢いていた。

 影の中から虹色の液体が入った注射器のようなものが現れる。

 

 それは彼がこの特異点に来る前に作製していた劇薬。

 

 蠢く影はそれを動かない彼の心臓へと直接突き刺し、劇薬を投入する。

 瞬間、死んでいてもなお脈動していた心臓が更に激しく脈動する。

 空いた胸の穴から大量の血が吹き出していく。

 

 死骸の山が赤に染まる。

 じわりじわりとまるで零れ落ちた血が意思を持っているかのように死骸の山を侵食する─否、それだけではない。

 

 これでは足りないと言わんばかりに零れた血が更に周囲の化け物達へと絡み付く。

 

「──?」

 

 足元へ纏わりつく血に化け物達は不思議がり、次の瞬間声すら挙げる暇もなく、影へと呑み込まれた。

 

 ──進めましょう、戻しましょう。

 

 光を失った彼の瞳に光が戻る。

 

 ──時計の針を進めましょう、時計の針を戻しましょう。

 

 チクタクチクタク、時計の針は鳴る。

 

 ──螺子を巻いて、歯車を回しましょう。

 

 捻れ、折れた首が異音を立てながら元通りに。

 

 ──虚ろは世界へ、世界は星へ。

 

 青の瞳から赤の瞳へ、赤の瞳から虹の瞳へ。

 

 ──丈夫になった器に相応しい中身を注ぎましょう。

 

 死骸は消え去り、影は穴の中。

 でも足りない、これじゃあ足りない。

 核となるものが足りない。

 

『は、悪食にも程があるな』

 

 未だに動かない彼の目の前に現れたのはこの特異点で見かけたワームのような竜だった。

 

『しかしそれでは足りんのだろう?』

 

 竜から少女のような、妖艶な女性のような声が聞こえてくる。

 影は竜を見つめていた。

 

『こんな所で終われぬのだろう? 良いぞ、余は勇者が好きだ、足掻くものが好きだ。その終わりの果てを看取るのが好きだ。だが、だがな?』

 

 竜が彼の顔を覗き、影は竜を見ていた。

 

『お前だけは()の道連れになってもらう』

 

 竜は笑みを浮かべ、影は竜を笑う。

 

『寂しいではないか、虚しいではないか。看取る者が誰もいないなど。故に契約だ、()の名を呼べ。()が力をくれてやる。代わりにお前の終わりは余のもので、()の終わりはお前のものだ。終わりを看取る者同士、最期くらいは我儘を言っても良かろう?』

 

 竜は頭を差し出して、影は血だらけの手を伸ばした。

 

『さあ、さあ、さあ! 獣の名を呼べ! お前の口から獣の名を呼ぶのだ! そうすれば()はお前に力をくれてやる!』

 

 影は口を開いた。

 

 ──核があった。

 

 影が竜に覆い被さり、血がまとわりつく。

 

『なっ!?』

 

 ──照らしましょう、照らしましょう、照らして、照らして、照らせ、照らせ、照らせ照らせ照らせ照らせ照らせ! 

 

 竜が藻掻こうとする前に影が竜を潰した。

 潰された竜に血が、死骸が、遊星が纏わりついた。

 

『ま、待て! 力をやるとは言ったがそこまでくれてやるとは言ってないぞ!?』

 

 血を混ぜて、影を混ぜて、死を混ぜて、獣を混ぜて、遊星を混ぜよう。

 溶けて、融けて、解けて──決して分かたれぬ一つへと。

 

『あっ、あっ、あっ。コラ、止めぬか!』

 

 結合し、反発し、殺し合い、喰らい合い、やがては一つへと。

 

『あ゛っ────!? 此奴、余の力を結構毟って行きおった! えっ、これ余のせいか?』

 

 胸の穴から影が溢れ、千切れた左腕へと纏わりつく。

 そして人ならざる歪な竜の腕が生えた。

 全てを拒絶するかのような鋭く研がれた刃物の如き逆鱗のみで構成された醜悪な竜の腕。

 だが、変化はそれだけでは治まらなかった。

 

 ブチブチと音を立てて太く強靭な尻尾が生えていく。

 

 彼の──星崎望幸の体は文字通り組み替えられていく。

 人ならざる化け物へと。

 

『むぅぅ……だが、これ以上ないほどの楔か。余を呼んだ時は覚悟しろ。毟られた以上にお前から搾り取ってやる。ああ、そうだ、これだけは言ってやらねばな──』

 

 今もなお体を作り替えながら彼はゆっくりと体を起こした。

 

──おはよう、我が愛しの星よ

 

 虹の瞳は赤の瞳へ、赤の瞳に星が宿る。

 妖しく輝く鮮烈な赤のコアを手に彼は立ち上がった。

 此方を映す悲哀と絶望に揺れる瞳を受けながら。

 

星、満ち始め。世界、微睡み

 

 チクタクチクタク。

 

虚へと帰結する

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

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 フラウロスと立香達との戦いは熾烈を極めていた。

 それはレフが魔神フラウロスとしての力を完全解放したことによるものと、立香達がロムルスから休む暇なく連戦を強いられていたからであり──

 

「…………」

 

 残されたマスターである立香がショックから未だに立ち直れていないことが何より問題だった。

 

 自分がいたから、自分が一人で動いたから彼は死んでしまった。

 

 目の前で胸を貫かれ、首をへし折られた。

 

 その光景が目に焼き付いて離れない。

 肉を裂く音が、骨が砕ける音が耳にこべりつく。

 

 私のせいだ、私が弱いせいで、私が、私が、私が……。

 

 幾度となく繰り返される記憶。

 彼の胸に空いた穴から覗く内臓が、首が折れた彼の瞳から光が消え、力が抜けていく姿が消えない。

 

 何故彼が死ななければならなかったの? 

 

 ──私を庇ったからだ。

 

 何故彼が死ななければならなかったの? 

 

 ──私が弱かったから。

 

 なんで私は今生きているのだろう。

 本当に生きるべきは彼だったはずなのに。

 なんで足手まといの私が生き残って、彼が死ななければならなかったんだ。

 

 繰り返される自問自答に立香の心が悲鳴を上げていた。

 体がとても寒い。

 カルデアに来た時よりも体の芯から凍えているようだった。

 

 まるで半身を失ったようで、心に決して埋まることのない大きな穴が空いてしまったようで──身体中の熱が抜けていく。

 

 このまま凍えてしまえば、また彼に会えるのだろうか? 

 

 藤丸立香の心が折れていく──その瞬間、アルトリアが立香の胸倉を掴み上げた。

 

「いい加減気をしっかり保て藤丸立香!」

 

「……」

 

「いつまでそのような無様を晒すつもりだ! そうして腑抜けて彼奴が拾った命をわざわざ捨てるのか!?」

 

「……」

 

「それに──なぜまだ気づかん!? 我等はまだ消えておらんのだぞ!」

 

「……ぁ」

 

「そうだ、我等はまだ消えていない。魔力供給が途絶えていない! なら、彼奴は、望幸はまだ生きていることの証左だろうが!」

 

「いき、てる?」

 

 何処か自分に言い聞かせているようなアルトリアの言葉に、立香の瞳に僅かな光が灯る。

 

「生きている! 生きているとも! 生きていなければ我等はここにいない! だから我等が今やるべき事はただ一つ。あの気色の悪い肉の柱を殺して彼奴を治療してやる事じゃないのか!?」

 

 生きてる、生きている。

 彼はまだ死んでない──なら、私が今すべきことは。

 

「……ごめん、アルトリア」

 

 立香は自分の両頬を思い切り叩き、大きく息を吐いた。

 アルトリアの言う通り彼がまだ生きているのならやるべき事はひとつだ。

 

 ──レフ・ライノールを今度こそ完膚無きまでに破壊する。

 

 立香の瞳に確かな光が宿る。

 けれどそれは今までのような穏やかで暖かな光ではなく、昏く焼き尽くすような激しさを伴った光だった。

 

「それからありがとね。私はもう大丈夫だから」

 

「……そうか、ならいい。二度と私に手間を取らせるな」

 

 そう言ってアルトリアは立香から手を離すとフラウロスへと向き直る。

 冷徹な殺意に満ちた瞳を向けて聖剣に魔力を収束させる。

 

「藤丸立香、今ばかりはお前の指示に従ってやる」

 

「うん、ありがと。それから早くレフ教授を──()()()()()()()()()

 

 立香とアルトリアの二人はフラウロスの方へと向き直り、そしてアルトリアは凄まじい速度で突貫した。

 

「ハハハ! 怒りに飲まれて動きが単調だなァ!?」

 

 フラウロスの無数の瞳から光が放たれると共に光の柱が乱立し、爆発を引き起こす。

 それを見て避けきれないと判断したアルトリアは爆風に対して剣を振るい、爆風に切れ込みを入れるという離れ業をやってのけて、ダメージを必要最低限に抑え込みフラウロスの無数にある瞳に聖剣を突き立てようとする。

 

「ハァッ!」

 

「手緩いぞ」

 

 瞳を潰そうとした瞬間、フラウロスの瞳全てがアルトリアを凝視し、妖しく輝く──

 

「ガンド」

 

「なんっ──ぐぅぉおおおおおっ!?」

 

 コンマ数秒にも満たない麻痺。

 けれど目を一つ潰すには十分過ぎる時間だ。

 

 突き立てた聖剣が眼球へと深く突き刺さり、そして傷口を広げるように乱雑に引き抜いた。

 吹き出る血飛沫にアルトリアは汚物を見るような蔑んだ顔をして近くに存在したもう一つの目を蹴り飛ばして後ろへ下がる。

 

「ぐぅぅ──っ! やってくれたな、藤丸立香!」

 

 忌々しげに睨むフラウロスに対して立香は早鐘を打つ心臓を落ち着かせ、恐怖で震えそうになる体を抑えつける。

 睨まれるだけで思考が麻痺するような恐怖に駆られるが、それでも恐怖を抑えつけて、今自分が出来ることをする。

 

 そして一刻も早くフラウロスを片付ける。

 

 その為には──! 

 

「そっちばかり見てて良いのかしら?」

 

 魔力を必要最低限まで抑え込み、気配すらも極限まで殺したジャンヌ・オルタがアルトリア・オルタが潰した目の死角から忍び寄り、旗を振りかぶる。

 

「馬鹿が! お前程度の英霊にこの私が気づかんと──うっ!?」

 

「ガンド」

 

 またしてもフラウロスの動きが止められる。

 勿論、ジャンヌ・オルタがそんな隙を見逃す訳もなく、フラウロスの巨体が衝撃で折り曲がる程の威力の叩きつけがフラウロスの目を潰す。

 

「燃えなさいな」

 

 加えて、発火。

 目の水分が瞬く間に蒸発させられる火力で以って目が焼かれた。

 

「ぐぅぅううううう──ッ!?」

 

 フラウロスは苦しみにもがきながらもその巨体を鞭のようにしならせ、体当たりを仕掛けるが既にその場から離脱しているジャンヌ・オルタに当たることはなく、虚しい風切り音が鳴り響くだけだった。

 

「鬱陶しい、鬱陶しいな藤丸立香ァ! 英霊の背後で怯えることしか出来ん足手まといが──ッ!」

 

「そうだね、あなたの言う通りだよ」

 

 私は彼のように強くはない。

 前に出て、英霊達と戦えるような強さもなければ便利な魔術によるサポートだって彼に遠く及ばない。

 カルデアから支給された礼装がなければ魔術だって扱えない足手まとい。

 だから英霊達に戦ってもらってその後ろで控えておくことしか出来ない不甲斐ないマスターだ。

 

 そんなマスターだったから彼をあんな目に遭わせた。

 

「でも、後ろで怯えてばかりの足手まといでも出来ることはある」

 

 敵はフラウロスただ一柱だ。

 動きをつぶさに観察しろ、瞬き一つしただけで反撃の機会が失われると理解しろ。

 地に根が生えたように動けないフラウロス相手にならばそれが出来る。

 

「行きます!」

 

 マシュが大盾を持ってレフへと突貫する。

 それに合わせるようにクーフーリンが、ジャンヌが追撃を繰り出す。

 それを見て立香はもう一度手を銃の形にしてフラウロスに向ける。

 

「間抜けが! このフラウロスがそう何度も同じ魔術をくらうと思うな! こうして対魔力を上げてしまえば貴様如きのガンドなぞ効くわけがなかろう!」

 

 フラウロスの瞳が忙しなく動くと同時に体表面に薄らと魔力障壁が展開される。

 確かにフラウロスの言う通り、こうやって対策されてしまえば立香の動きを拘束するガンドは意味をなさない。

 

 だから──

 

「全体強化!」

 

 ──ガンドなんて使うはずがない。

 

 分かりやすいブラフに乗ってくれたフラウロスには感謝だ。

 これがケイローン相手ならば即座に看破され、魔術を阻害されて不発に終わったことだろう。

 

 マシュ、クーフーリン、ジャンヌの全体的なステータスが一段階引き上げられ、突如として加速した彼らにフラウロスは反応が遅れて攻撃を許してしまう。

 

「猪口才な……!」

 

 これが通用するのもフラウロスが慢心し、藤丸立香を脅威として看做していない今だけだ。

 今の自分ではやれる事が限られている。

 故に対策されてしまえばあっという間に役立たずになる事だろう。

 

 そうなる前に──魔神フラウロスを完全に撃破する。

 

「鬱陶しいぞ、死に損ない共が。何たる醜悪さだ。見ているだけで目が腐る」

 

「あら、だったら全部焼いて消毒してあげるわよ?」

 

「ほざけカスがッ! これ以上好き勝手出来ると思うな!」

 

 フラウロスを中心に莫大な魔力が集中する。

 

『強力な攻撃が来るぞ!』

 

「ジャンヌ、宝具を! マシュもお願い!」

 

「任せてください!」

 

「はい、マスター! マシュ・キリエライト、宝具を展開します」

 

 大きく後ろへ下がり、フラウロスの攻撃に対してジャンヌとマシュが同時に宝具を展開する。

 

我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)

 

疑似展開/人理の礎(ロードカルデアス)

 

 強力な防護宝具にフラウロスの魔力を収束した砲撃が極太の光線となって激突する。

 マシュの宝具、疑似展開/人理の礎によって衝撃の大部分を吸収され、吸収しきれなかった攻撃もジャンヌの宝具によって完全に防がれた。

 

 そして爆炎の中を突破し、フラウロスへと切り込んでいく式とネロ。

 

「ふっ──!」

 

「ここで散れッ!」

 

「舐めるなァッ!」

 

 迫る式とネロの剣に対して防壁を張り、反撃で殺してやると意気込むフラウロス。

 術式を練り上げ、障壁を張る──その瞬間。

 

「その首を──いや、命を頂戴しようか」

 

 背後から声が聞こえた。

 

不還匕首(ただ、あやめるのみ)

 

 ひらりと短刀が舞い、フラウロスの背後に致命の一撃が突き刺さった。

 

「ガァァァアアアッ!?」

 

 激痛、そして凄まじい不快感。

 即死こそしないものの全身に回る毒がフラウロスの思考を掻き乱した。

 故に障壁は展開されず──式とネロの斬撃がフラウロスの体を切断した。

 

「荊軻!」

 

「すまない立香。出るタイミングを窺っていたら遅れてしまった」

 

 フラウロスの背後から現れたのは暗殺者のサーヴァント、荊軻だった。

 

「貴様……一体どうやって……!」

 

「ん? 不思議なことを聞くのだな。私は暗殺者の英霊だぞ。姿も気配も消してお前を確実に殺せるタイミングを窺っていただけだよ」

 

 お陰でとんだ大失態を犯してしまったが、とそう呟きながら短剣にこびりついた血を拭う。

 そして今までとは見る影もないほど弱った姿を見せるフラウロスに冷酷な目を向ける。

 

「……魔神とは毒では死なないのか」

 

「は、は、貴様ら凡百の英霊如きの毒でこのフラウロスが死ぬものか」

 

「そういうものか──なら死ぬまで刺し続けるだけだな」

 

 短剣の切っ先を向ける荊軻。

 その瞳には情など一切ない冷めきった殺意だけが浮かんでいた。

 

 荊軻による不意の一撃と式とネロによる斬撃をまともにくらったフラウロスは確かに弱っている。

 けれど、あと一手足りない。

 フラウロスを確実に殺し切るための後一手が。

 

 立香は思案する。

 先程は全体強化をマシュ、ジャンヌ、クーフーリンのみに限定したが、今度はこの場にいるサーヴァント全員に付与するべきかを。

 

 先程礼装を使用したばかりで、全体強化のリキャストはまだ終わっていない。

 ガンドのように低燃費かつ立香でも撃てるような簡易魔術ならば礼装のアシストありで連続二回くらいならばギリギリ撃てる。

 

 だが、全体強化の使用する魔力は礼装によるアシストがあっても相当にきついものだ。

 発動自体は礼装が補助してくれるだろう。

 だが、使用する魔力だけは補ってくれない。

 リキャストが終わらなければ自前の魔力でどうにかするしかないのだ。

 

 立香の魔力は雀の涙だ。

 今の魔力量では全員分足りるか、もしくはギリギリ足りないかどちらかだ。

 

 だが、一刻も早く彼を助ける為にやるべきだと判断して全体強化を使用する為に魔力を練り上げる。

 

「ぅっ、ぁ───!」

 

 瞬間、頭が万力で締め付けられたかのような痛みに襲われた。

 転げ回りたいほどの痛みが立香を責め立てる。

 呼吸が荒くなり、心臓が早鐘を鳴らす。

 

 痛い、痛い、痛い──でも、私がやらなくちゃ。

 

 チカチカと視界が明滅する。

 鼻から血が吹きこぼれ始める。

 

 激痛に必死に耐えて練り上げた魔力を解放する──! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──藤丸立香の成長を確認

 

 ──戦闘による成長を予測

 

 ──……今回の戦闘ではこれ以上の成長は見込めません

 

 ──藤丸立香の魔力欠乏による後遺症の発生率17%

 

 ──後遺症による今後のチャートの乱れが発生

 

 ──藤丸立香のこれ以上の戦闘を許可できません

 

 ──これ以上の時間の浪費は認められません

 

 ──迅速な対応を要求します

 

 

「これ以上は時間の無駄だ」

 

 

 駆動音が鳴り響き、莫大な魔力がある一点に収束する。

 フラウロスと比較するのも烏滸がましいほどの大規模の魔力が収束し、注ぎ込まれていく。

 

「何だ──ッ!?」

 

 まるでブラックホールのように周囲の化け物達のみを引きずり込むナニカ。

 虚無が如き暗黒の穴に引きずり込まれ、その全てが分解され魔力へと変換される。

 

『凄まじい魔力反応だ、それに霊基反応だなんて! まさか今からサーヴァントでも召喚されるとでもいうのか!?』

 

 暴風が収まると同時に穴が消える。

 そしてそこにいたのは──

 

「何で、何であんたが……」

 

 ジャンヌ・オルタの声が震えていた。

 

()()()()()姿()()()()()()()()()()!」

 

 ──引き千切れていたはずの左腕は醜悪な竜の腕へ、太く強靭な尻尾が苛立ったように大地を叩き付け、綺麗な青の瞳は最早見る影も無く、赤と黒のみで構成された化け物の瞳へと成り果てた彼がいた。

 

 今まで取り乱した様子がなかったジャンヌ・オルタが尋常ではない様子で頭を抱えて取り乱していた。

 まるでこんなことになるはずじゃなかったのにと嘆く様にその瞳からポロポロと涙を零している。

 

「……は、醜いな、醜すぎるぞ星崎望幸。そんな無様を晒してまでまだ生きると? そこは死んでおけよ、人として。いや、そもそも何故死んでいない?」

 

 フラウロスはその智慧故に彼の身に何が起きたのかを理解した。

 理解をした上で初めて彼に憐憫の情を向けた。

 

「ヴォイドセル」

 

 彼がそう呟くと掌に妖しく輝く赤いコアが出現する。

 そのコアから渦巻く魔力はあまりにも異常だ。

 人の身であれを取り込んでしまえば間違いなく死に絶える──だと言うのに。

 

「レフ・ライノール、ひとつ聞きたいんだがお前は──」

 

 胸に空いた穴へと躊躇いもせずに放り込み、彼は化け物へと堕ちていく。

 

 胸の穴は塞がり、彼の体から色が抜けていく。

 そう思わざるを得ないほど彼の肌は真っ白に、髪も徐々に徐々に白へと染まる。

 

 変わらないのは化け物であることへの証左たる赤と黒のみで構成された瞳だけ。

 

「──()()()()()()()()()?」

 

 彼の体から異音は鳴り止まない。

 彼の体の変化が止まらない。

 彼は今もなお、身体を組み替え続けている。

 

 星崎望幸が化け物へと堕ち切るまで後──。

 





セプテムで失うのは左腕──ではなく、人間性でしたの巻。
竜、遊星、ビースト、神性、その他諸々……こんなにごちゃ混ぜにされてホモくん良く人の姿保ってるな。

まあ、これから純粋な人じゃなくなるんですけど。

助けて玉藻ー!
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