古戦場許すまじ
星崎望幸のその異様な姿から見て分かる通り、カルデアの証明機器から観測される彼の反応は異常だった。
「新たな霊基反応あり! 発生場所は──望幸くん!?」
「嘘だろ!? なら今の彼はマシュと同じデミサーヴァントになってるとでも言うのか!?」
「い、いや、これは違うぞ! デミサーヴァントとはまた異なる──というか、何だこの霊基反応は!?」
「望幸くんのバイタルグラフが正しく観測出来ません! 異常値を更新し続けているせいで計器の反応が狂っています!」
カルデアは混乱に陥っていた。
彼のバイタルが危険領域に突入したかと思えば次の瞬間にはその全てが反転して異常な数値を示し続けていた。
加えて、彼から発せられるシグナルから読み取れる情報は、彼が竜であり、神であり、遊星の化身であり──未だに解明できぬ異常存在である、という事だった。
今特に反応が強いのは竜の因子だ。
次点で遊星の因子、その次に解明不能の因子と来て漸く人の因子となっている。
しかし、人の因子は今も減少し続けている。
このまま進んでいけばまず間違いなく彼は人の姿ではいられなくなるというのがカルデアの職員全員の見解だった。
「望幸くん! 望幸くん! 聞こえているだろう!? 頼むから今すぐそれを止めてくれ! そんなことをしたらダメだ! 人に戻れなくなってしまうんだぞ!!!」
ロマニは必死に呼びかけるが、最早彼にはロマニの声など届いていない。
時間が経つにつれて彼という人間が人間でいられなくなっていく。
星崎望幸という人間が終わってしまう。
「玉藻! あなただったらあちら側に行って彼が止めることが出来るでしょ!?」
「煩い! それが出来るのであれば既にやっておる!」
「なら何で──」
「
「ならマシュの盾で召喚サークルを展開させるのは如何でしょうか?」
焦った様子の玉藻とカーマの間に入ってきたのは今この場において頼りになるであろう深き智慧を持つケイローンだった。
「ケイローン殿、それはつまり召喚という形であちら側に飛ぶということだろうか?」
「ええ、大まかに言えば。私達がこのカルデアに召喚された時と同じようにマシュの盾を使えばあちら側に行けるかと」
エミヤの質問にケイローンは肯定する。
「だが、魔力の問題はどうする? 龍脈がなければ特異点側では召喚を行うなどとてもじゃないが──いや、そうか聖杯か」
「その通りです。今、あちら側には二つの聖杯とそして彼等がぶつかりあったことによる散らされた大量の魔力があることでしょう。それを利用すればサーヴァント一騎分位の召喚はできるはずです」
「いや、それでは足りん」
ケイローンの案を否定したのは他ならぬ玉藻自身だった。
力無く首を左右に振る玉藻は悔しそうに唇をかみ締め、手を強く握る。
「妾を呼ぶには高々一騎分の魔力ではまるで足らん。それで呼ぶにはご主人様自体が妾を求めてくださるか──或いは妾を呼べる程の触媒があるかのどちらかでなければ……」
此処に来て玉藻の霊基の規格外さの弊害が現れた。
サーヴァントを一騎呼ぶ程度の魔力量ではあまりにも足らないのだ。
導の灯火にはなり得ない。
何故ならば玉藻という規格外の霊基がその灯火を自身の輝きで消してしまう。
強すぎる光が弱い光をかき消してしまうように、サーヴァント一騎分の魔力量の灯火では玉藻がそこに存在するだけで光を消してしまう。
──どうする? どうすればいい?
思考をぐるぐると高速で回すが良案は思いつかない。
ご主人様自身が私を呼んでくださればすぐにでも駆けつけることが出来よう。
けれど、ご主人様はそれをなさらないだろうということは今までの経験則から理解している。
ご主人様はきっと今日ここで人であることを止めるつもりだ。
なら、それの障害に足りえる私を呼ぶ事など決してありえない。
だからご主人様が私を呼ぶ以外の方法で私があちら側に赴かなければならない。
単独顕現を用いた移動は座標が乱れ続けて捕捉できない以上、下手に飛べば時間軸と座標のどちらからもズレた位置に飛ぶ可能性だってある。
そうなれば絶対にご主人様を救えない。
マシュの盾による召喚サークルの設立ともう一つ、私を呼べる程の触媒があれば……!
だが、玉藻を呼ぶ程の触媒となればそんじょそこらの触媒では到底使えない。
それこそ殺生石クラスの特級の触媒か、或いは分け身である自分自身が呼ぶしかない。
大切なご主人様は今も人から離れ続けているというのに、私は何故此処で何も出来ずに指をくわえて見ていることしか出来ないのだ。
こうならない為にこの姿で来たのではなかったのか。
いくら思考を回せども良案は思いつかず、時間だけがただ無為に過ぎていく。
大切な人が人から化け物へと堕ちていく姿をただ見ていることしか出来ない。
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星崎望幸が色を失った。
ヴォイドセルによる汚染だとか、数多の化け物を取り込んだことによる反動だとか理由は多々あるのだろうが、立香が異形の姿へと変貌していく彼を見た時に一番最初に浮かんだ考えがこれだった。
「随分と醜い姿になったものだな。そうして節操なしに取り込めばどうなるかなど考えずとも分かることだろうに。それとも何だ? それすら理解出来なかったのかね?」
フラウロスは眼前に立つ星崎望幸に対してそう吐き捨てる──あまりにも生き汚く、滑稽なほどに醜悪な姿だと。
神経を逆撫でするように罵倒し、これで怒るなりなんなりして精神が乱れば御の字だとそう思うフラウロスだが、顔色一つ、眉すらピクリとも動かずに此方を見ている彼に挑発は効果がないかと内心舌打ちをする。
悍ましい程に感情の機敏を感じ取ることが出来ない。
まるで、己の人間性と一緒に心も捨てようとしているかのようだ。
「それにしてもヴォイドセル、ね。たかが人間如きがセファールの真似事でもするつもりか?」
そう問い掛けるフラウロスだったが彼は応えない。
フラウロスの言う通り、彼はヴォイドセルを用いてセファールの真似事をしているのだろうか。
そう思ってしまう程には彼の体色はセファールのそれに酷似していた。
異なる点を上げるとするのならば彼の方がより白いというのと──
「口もないのに随分とお喋りだな。そんなに喋りたければ家に帰ってお仲間と喋ったらどうだ? ……それとも家に帰れないからここで喋っているのか」
「貴様……」
「どちらにせよ、お前の事など然したる興味もないが。だからまあ──」
彼の魔力が急激に膨れ上がり、体に刻まれた紋様が妖しく輝く。
「──今すぐに消えてくれ」
瞬間、彼の竜の左腕から極太の光線がフラウロスへと向けて放たれた。
大多数の化け物達を魔力へと変換し、聖杯に溜め込んだ魔力をヴォイドセルが汚染。
セファールの特性でもあった破壊したものを魔力へと変換し吸収する力が光線そのものに宿り、大地ごと砕きながらフラウロスへと迫る。
「この程度ッ!!」
セファールの放つ攻撃と同質の物ではあるものの、威力に関して言えばセファールと比べ物にならない程に弱々しい。
故にこの一撃を防ぎ切り、返しの魔術で殺してしまえばそれで終いだ。
フラウロスの目が輝くと同時に五重の魔力障壁が展開された。
そして激突。
まず障壁の一枚目が瞬きの間に破壊された。
砕けた障壁を魔力へと変換し、それを吸収した光線は更に威力を高め、二枚目の障壁に牙を突き立てる。
ガリガリと障壁が削られるような音と共に二枚目も突破、続く三枚目も同じように削り突破。
四枚目に差し掛かった時、漸くその勢いは衰えを見せた。
「ぐっ、ぬぅぅぉぉおおおお!!」
最後の魔力障壁と光線がぶつかり凄まじい量の火花が散らされる。
下手に気を緩めればあっという間に障壁を食い破ってくることだろう。
想定以上に火力が高い。
十全の状態ならば完璧に防げる自信はある。
だが、こうも傷を負った状態では些かキツい。
防ぐことは諦め、被害を最小限に抑える方に移行すべきか?
一瞬にも満たないほんの僅かな思案──魔神柱としてのスペックを発揮したコンマ数秒の思考だったというのに。
「あっ?」
その僅かな隙の内に星崎望幸の位置が反転した。
「ガアアアアアア!?」
式とネロが切り裂いた刀傷を抉るように光線が背後から捩じ込まれた。
正面に展開していたはずの光線ごとフラウロスの背後へと置換し、正面に張られていた強固な魔力障壁を無視してフラウロスの肉体をヴォイドセルが汚染する。
侵食、そして破壊。
内部機構をズタズタに蹂躙し、汚染した傍から分解して純粋な魔力へと変換しようとヴォイドセルはフラウロスそのものへ干渉する。
「グッ、ギィィ……!」
犯し、壊し、飲み干す。
フラウロスという存在そのものが魔力へと変換されて星崎望幸というの名の聖杯に注ぎ込まれようとする。
「どうかただ無為に、そして速やかに消えて欲しい」
魔神柱としての対魔力を高めることでヴォイドセルによる侵食速度を抑えているが、そう長くは続かない。
であるのであれば──!
「グゥゥ────ッ!」
ブチリと肉が千切れる音ともにヴォイドセルに侵食されていた肉体の一部をフラウロスは切り落とした。
切り落とされた肉片はあっという間にヴォイドセルによって侵食され、魔力へと分解された。
「お前も存外に生き汚いな」
「はっ、はっ、はっ。ほざけ……貴様如きにこの私が敗れるものか……!」
変換された魔力を回収し、更に彼の体の自己改造は進んでいく。
その身を戦闘へと特化させるべくより頑強な肉体に、そしてそれを動かす為の
スッ、と彼が己の胸を指先でなぞればそれだけで影がまるで彼の胸の内から染み出してきたかのように溢れる。
「炉心改装──材料指定:竜種」
立香達にも聞こえるほど一際大きな心臓の音が鳴る。
そしてキィィィンと大量の空気を取り込むような音が聞こえた瞬間、彼の魔力量が倍以上に膨れ上がった。
「変換効率は最低か。まあ、まだ火は焚べられていないから仕方がない」
そうボヤく彼にフラウロスは絶句する。
魔力回路を用いずにただ呼吸するだけで魔力を生成する。
そんなことが出来るのは幻想種の中でもひと握りしかいない。
「まさか貴様……心臓を竜の炉心へと作り替えたとでも言うのか!?」
「材料はそこらに転がっていたからな。そいつ等を取り込んでしまえば己の肉体の一部になるということだ。そして己の肉体の組み換えは呪術の最たるものだろう?」
まあ、質は最低だからそれ相応の量が必要だったがと吐き零した。
呼吸によって空気を取り込み、それによって得られるエネルギーを全て魔力へと変換する竜の炉心。
脈動する度に魔力を生成し、それに反応するように彼の胸と背中に刻まれた紋様が赤く光る。
そしてまた、得た魔力によって彼の自身の体もより化け物へと寄っていく。
竜の爪はより鋭く、長く。
竜鱗は分厚く、硬く。
尾はより太く、強靭に。
瞳孔は縦に大きく裂ける。
未だ肩までしか侵食していなかった竜鱗は肩から胸へと生え始めていく。
竜鱗が全身に回った時、それこそが星崎望幸という人間が終わる時なのだろう。
「貴様は……本当に人間か?」
フラウロスは思わずといったふうに言葉が漏れた。
今のこの姿を見て──という訳ではなく、彼自身が持つ技量と心の在り方を見てそう思ってしまったのだ。
人から化け物に変貌するなどとてもではないがただの人間では到底耐えられるものではないだろう。
自分が自分で無くなるのだ、たとえ強烈なまでの自己を持っていたとしても……いや、持っているからこそ自分が自分で無くなるという恐怖は人一倍味わうことになるだろう。
一手間違えれば自我を失くし、正真正銘の単なる化け物と成り果ててもおかしくはない。
それを恐怖の中で一手も間違えることもなく、今も尚自己の改造を施している。
それもあらゆる異物を混ぜた上でだ。
やっていることは燃え盛る火の中で特級の爆弾を作っているのと変わらない。
──あまりにもイカレている。
「星崎望幸、貴様は、貴様だけは今ここで必ず排除する! あってはならん、存在していいはずがない! 人が辿る一つの結末がこんな様などと!」
「そうだな」
フラウロスは魔力を練り上げ、周囲一体を火の海に変えるべく魔術を構築する。
火力、攻撃範囲共に今までのものとは比較にならぬ一撃。
発動してしまえば自分自身さえも焼いてしまうだろうことは容易に想像がつくが……それでも星崎望幸はここで殺さねばならぬ。
胸の奥底から湧き上がってくる使命感──或いは義憤に駆られたようにフラウロスは魔術を発動させる。
「燃え尽きよ!」
乾坤一擲。
生命体の存続を許さぬ光の柱が乱立し、自分ごと焼き払う。
襲い来る激痛、だが星崎望幸を殺せるのであればとフラウロスは魔術を弱めるどころがより強化していく。
「望幸! お願い、避けてぇッ!!!」
藤丸立香の悲鳴のような懇願にも似た声が聞こえる。
乱立する光の柱は星崎望幸へと迫る。
躱そうと思えば魔術なりなんなりを発動させればきっと躱せるだろう。
だが、彼は回避行動を取るどころか一歩たりとも動くことはなかった。
何故ならば彼の背後には立香がいたから。
フラウロスは彼ならば必ず藤丸立香を庇うと予測して彼と藤丸立香が一直線上に重なるように魔術を発動させたのだ。
躱せば藤丸立香は死ぬ。
よしんばサーヴァントが庇ったとしても直撃した瞬間に攻撃範囲が膨れ上がり藤丸立香を巻き込む。
そうなれば即死は免れても重傷は免れない。
そうならない為には藤丸立香がいる場所よりも前でこれを受けねばならない。
それこそ丁度──今彼が立っている位置くらいがギリギリ藤丸立香に被害が及ばない位だろう。
つまりフラウロスが魔術を発動させた時点で藤丸立香を庇うのなら後ろに下がるという選択肢も回避するという選択肢も消えている。
光の柱が迫る中、彼は首だけをゆっくり立香の方へと向けると出来うる限り優しく微笑んだ。
「大丈夫、俺はこんなところで死なないよ」
光の柱が彼を飲み込むその直前──胸と背中に刻まれた紋様が『
「みんなで生きて帰るって君と約束したから」
光の柱は彼を飲み込み、直後に爆発と共に大量の炎が空へと巻き上がる。
瞬間的に加熱させられた大気は竜巻を引き起こし、地面を巻き上げ、炎を纏った火災旋風へと変貌する。
「ぅあ──!?」
離れた位置にいる立香ですら思わず呻くほどの熱風。
肌を焼くような熱量、ならばその中心にいる彼は──?
最悪な未来を想起し、彼の名を叫び掛けた瞬間、火災旋風が一点に収束していった。
渦を描いて徐々に徐々にその規模を縮小していく火災旋風はやがて消滅し、焼け焦げた大地だけが残った。
「星崎望幸、貴様……」
焼け焦げた大地の中心にあるのは真っ黒に焼け焦げた星崎望幸の姿──のはずだった。
いや、事実彼は焼け焦げて全身が真っ黒に染まり、ピクリとも動かない。
だと言うのに何故今も彼から魔力の波動を感じる?
それも先程よりもずっと強大な魔力の波動を。
フラウロスは先程からゾワゾワとした悪寒が止まらない。
何か、何か致命的なミスをしたのではないか?
そしてその思考は決して間違いではなかったのだとフラウロスを思い知ることになる。
「炉心起動──太陽炉」
バキバキと罅割れていく音を立てて焼き焦げて黒に染まった彼の皮膚が剥がれ落ちていく。
同時に吹き出すのはかつてカルデアに充満していた覚えのある瘴気──によく似た白い靄だ。
白い瘴気は彼の体を覆い、焼き焦げた皮膚を破壊していく。
そして剥げた皮膚から現れたのは先程よりも白へと染まった純白の竜鱗だった。
異変はそれだけで終わらない。
彼の背中がボコボコと歪に膨れ上がり、皮を引き裂き、肉と骨を砕きながら突き破って出てきたのは竜の翼のようなものだった。
自身の体躯以上に巨大な翼が体内からどうやって生えてきたのかと問いただしたい気持ちはあるが、それ以上に不可解なのがその翼の形状にあった。
幻想生物ではあるが、竜とて生物であることには違いない。
であれば、翼にも血と肉はある故に一目見れば生物の物だと認識出来るはずだ。
だが、彼の翼はとてもではないがそうは思えない。
無理矢理形容するならば戦闘機。
機械じみた作りの翼は誰がどう見ても生命体が持っていいものでは無い。
翼の先は一流の刀匠によって磨き研がれたように鋭い切っ先に。
浮力を得る為に存在するはずの翼膜は存在せず、代わりにジェット機のような噴射口がズラリと並んでいた。
「まダ、足りなイ……? なラ──」
ノイズに塗れた機械音声のような声。
「龍脈置換」
彼の足元が輝き始める。
何が起きたのか、それを理解するのはあまりにも簡単なことで、誰もが理解したくないものだった。
「彼を中心に龍脈が発生したとでも言うの……? いや、違うこれはまさか別の場所から龍脈そのものを持ってきた……?」
大地が脈動し、まるで星が彼に魔力を惜しみなく注ぎ込むように龍脈が彼を中心に拡がっていく。
「貴様、
星崎望幸は答えない。
「有り得ない、有り得てたまるものかこんなものが!」
フラウロスは発狂したように喚く。
有り得てはいけない、ただの人であったはずの星崎望幸が──!
「龍脈侵食:ヴォイドセル」
彼の頭上に天使の輪のような、或いは光帯にも似た光を放つ輪が出現する。
滅茶苦茶だ、滅茶苦茶にも程がある。
あまりにも
高々、十数年しか生きていない人間が……否、人間がやっていい範疇をとうに超えているのだ。
「虚ろは世界へ、世界は星へ」
「ここで死に絶えろ星崎望幸! 貴様はあってはならん存在だ! 何故そこまで終わりきっている!? 何故そこまで終わっていて存在できている!」
狂ったようにフラウロスは魔術を叩きつけるが、先程の一撃と今までの戦闘により消耗したフラウロスの魔術では有効打を与えることすら出来はしない。
当たった傍からヴォイドセルによる侵食が発生し、魔力へと分解される。
もはやフラウロスは星に届かない。
どれだけ必死に手を伸ばしても星は遥か遠く、天上にて輝き始めた。
「何故だ、何故そうなる! 貴様の先にはまるで未来がない! 何なのだ貴様は! 何故、何故そうも──!」
「星は虚ろへと導く」
ガコンと音を立てて翼が変形し、まるで砲台のように全ての噴出口がフラウロスへと向けられた。
そして龍脈からかき集めた魔力を収束させ、砲撃を放たれる。
「ぁ───」
魔神柱としてのフラウロスを容易く飲み込めるほどの魔力砲撃は断末魔をあげることすら出来ずにフラウロスを消滅させた。
後に残るのは砲撃によって削られた大地と彼の足元に広がる乾ききった砂漠のようにサラサラとした大地だった。
「ちょっト、疲れタ。でも、まだ終わっテない」
彼の頭上に出現している光帯がくるくると回転する。
それに反応するように魔力が嵐のように吹き荒れ、彼の体もまた変化する。
最早倒すべき敵すらいないと言うのに彼の体の変異は止まらない。
人から化け物へと転がり落ちていく。
「やめて、やめてよ望幸!」
立香は必死に彼に近づこうとするが、彼を中心として吹き荒れる魔力嵐のせいで近づくことすら叶わない。
弾き飛ばされ、吹き飛ばされ、手を伸ばすことしか出来ない。
けど、それでも諦めたらダメだと必死に手を伸ばす。
そんな立香を彼はジッと見つめて──
「近づかないデ」
初めて明確な拒絶を示した。
「え、あ、何で……?」
更に強く吹き荒れる魔力嵐に立香は手を伸ばすことすら出来なくなった。
「今加減するのが難しいから危なイ、後色々ト不安定……喋り過ギ? どーせ暴風で聞こえないでショ」
吹き荒れる暴風のせいで彼の言葉が上手く聞き取れない。
けれど確かに自分は彼に拒絶されたのだという事だけは理解出来た。
……考えてみれば拒絶されるのも当たり前だ。
だって彼がああなったのは私が原因なんだから。
私が弱かったから、私が足手まといだったから彼はああならざるを得なかったんだ。
だから彼に嫌われたって仕方がないんだ。
けれど──
「暴風で聞こえないのは立香モ? ……あっ」
それでも彼が化け物に堕ちるのを黙って見ていていいわけが無い!
手を伸ばすことすら叶わないほどの暴風だとしても、私は必ず彼の下へと辿り着いてみせる。
何度吹き飛ばされたって諦めてたまるものか。
ここで諦めたら私は私を許せない──!
吹き荒れる暴風の中へと体当たりをするように突貫し、そして当たり前のように巻き上げられた石や土が体に叩き付けられる。
正直に言って泣きそうなくらいに痛い。
けど、望幸は私以上に苦しんで痛かったはずだ。
だからこの程度耐えてみせる。
「うーん、困っタ。凄く痛そウ。か、可哀想だけど一回マシュの所に吹き飛ばス? ……うぅ、ごめんネ」
「きゃっ!?」
「先輩!! 大丈夫ですか!?」
更に中へと踏み込もうと瞬間、彼が拒絶したかのようにより強く吹き荒れた暴風が私の体を持ち上げて吹き飛ばした。
吹き飛ばされた先に偶々マシュがいたおかげで大事には至らなかったが、また振り出しに戻ってしまった。
「助けてくれてありがとうマシュ。でも、私行かないと」
支えてくれたマシュに礼を言って、またあの嵐へと向かおうとする。
「待ってください先輩! 確かに望幸さんを助けたいという気持ちは分かります。私だって今すぐにでも助けに行きたいです。けど、無策で行ってもまた弾き飛ばされるだけなんですよ!?」
「そう、だね。確かにマシュの言う通りだ。けど、それでも私は──」
無策で突っ込んでもまた弾き飛ばされるのだろう。
何度やっても無駄な結果に終わって、ただ時間だけが浪費されていくのだろう。
だからと言って有効な策を考える時間はあるのだろうか?
ううん、無い。
これはただの直感だ、数多の情報から導き出した予測では無い。
藤丸立香のただの勘でしかない。
それでも彼ならきっとという悪い信頼がある。
私達が策を立てる間に彼はきっと化け物に堕ち切る。
手を出してこないのならと、今よりも更に速く自己改造を済ませるだろう。
なら、無策だろうと何だろうと彼が自己改造に集中出来ないようにあの嵐の中に突貫するべきなのだと……そう、私の中の何かが叫んでいる。
「ごめん、マシュ。確かにマシュが言ってることは正しいよ。でも、それでも私が行かないと駄目なんだ」
「先輩……」
覚悟なんて疾うに済ませてるだろう藤丸立香?
彼はこの特異点で腕を失った、人間らしさを失ってしまった。
なら私だって何かを失ったとしても彼を助け出すんだ。
だって──
「私は望幸の幼馴染なんだから」
足掻くことを諦めるな。
神祖ロムルスだって言っていたじゃないか。
私が真に守りたいと願うものは私の掌から容易く零れ落ちると。
人理だって守りたい、けどそれと同じくらい……ううん、それ以上に私は彼と共に生きていたいんだ。
化け物としての彼ではなく、人としての星崎望幸と。
だから私は絶対に諦めないし、絶対に阻止してみせる。
みんなで生きて──無事に帰ってみせるんだ。
立香ちゃんの直感通り、作戦立てる為にホモくんを一時的に放置してたら速攻で化け物堕ちしてました。
放置しなかったら侵食速度は緩やかになってすぐには化け物にはなりません。
ホモくんの口調がおかしいのは仕様です。
Q.RTA的に強化イベを中断させられるのはチャート通りなん?
A.(玉藻がいる時点で)はい。目標の値までいけばいいので。
つまりどっちに転んでもホモくんのチャート通りです。
人の心無いんか?
そんな贅沢なものうちには無いよ……