FGO主要キャラ全員生存縛りRTA(1部)   作:でち公

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3章の大方の流れが漸く決まりました
ついでにタグも追加しました


セプテム後の幕間5

 

 サーヴァント召喚の日から数日が経過した。

 望幸くんもサーヴァント召喚してから一時間もしない内に目を覚まし、その後の後遺症も見受けられなかった。

 

 そこは素直に喜ぶべきだろう。

 

 問題はやはりネロ……いいや、ビースト霊基で召喚され、ドラコーと名乗っている彼女だろう。

 今の所不審な点は見受けられない。

 寧ろ大分大人しい上に必要なことだと理解をすれば大抵の事は引き受けてくれていた。

 

 だが、ビーストはビーストだ。

 

 どれだけ人が良さそうに見えたとしても完全に信用することはまだ出来ない。

 ……これからも警戒するに越したことはない。

 

 立香ちゃんや望幸くん達はある意味とても純粋な子だ。

 現にビーストであるドラコーとはもう仲を深めており、疑うなんてことは一切していない。

 

 あんまりにも警戒心が無さすぎて少し心配になったが、彼等はきっとそれでいいのだろう。

 ああいう人柄だからこそ英霊達は──私達は彼等を好ましく思うのだ。

 手を貸したいと、そう思うのだ。

 

 だから、疑うのは私の役目。

 

 まだ子供である彼等ではなく、大人である私がやるべき事だ。

 

「とは言っても、怪しいところが全くと言っていいほどないんだよねぇ」

 

 問題行動は特になし、マスターである彼の不利益になるようなことはしていない。

 本当にビーストか? と疑いたくなるほど酷く従順。

 寧ろ、彼が呼んだサーヴァントの中では最も大人しい。

 

 ……偶に毒を吐くのが玉に瑕だが、一癖も二癖もあるサーヴァントと比べれば可愛いくらいのものだろう。

 

 ビーストでありながら何故あそこまで従順なのか、ダヴィンチには分からないが、ドラコーが時々話してくれる事より恐らく平行世界の彼と何かあったのだろうと推察していた。

 

「……平行世界、かぁ」

 

 もしもの世界。

 薄々勘づいていたことだが、彼に関与するサーヴァントの一部は初対面であるはずの彼に執着している様子が見えた。

 つまりは彼等もまた平行世界の一部の記憶を保持しているということなのだろうか。

 

 ……座に刻むほどの記憶。

 

 それは一体どれほどの強い感情だったのだろうか? 

 

 ダヴィンチには分からない。

 何故ならば自分は座に刻んだ記憶など存在しなかったから。

 彼らがどんな思いで、どんな感情を抱いてここにやって来たのか。

 

 それをおいそれとは聞きがたい。

 

 サーヴァントが英霊の座に刻むほどの記憶というのは苛烈かつ強烈なものだ。

 人によっては絶対に触らせたくないと宝物のようにしまい込む者だっている。

 そういった記憶は英霊にとっての逆鱗のようなものなのだ。

 

 出来れば話して欲しいとも思うが、下手に小突いて起爆されるのはもっと困る。

 現状は放置──彼女達が話してくれるようになるのを待つというのが最善手だろう。

 

「でも正直聞いておきたいよねぇ……彼に何があったのかとか、さ」

 

 予想はつく。

 座に刻むほどの記憶なのだ、何かしら彼に良からぬことが起きたのだろう。

 だからこそ聞いておきたい。

 

 けれど、そんな記憶を不容易に触るべきでないとも思っている。

 

 悩ましい、実に悩ましい……。

 

 堂々巡りする思考に思わずため息をついた──その時、工房のドアがノックされた。

 

 ああ、このノック音は──

 

「望幸くんかい? 入ってもらって構わないよ」

 

「失礼する」

 

 入ってきたのは目下の悩みの種である望幸くんだった。

 

「やあやあ、今日はどうしたのかな?」

 

「礼装の作成について話をしたい」

 

「ふむ? というと君の礼装についてかな?」

 

 体が文字通り色々と変質してしまったのだ。

 変異した体ではいつもと同じように動くという訳にもいかないのだろう。

 だからこそ、礼装による補助を欲している。

 加えて礼装作成について一家言ある自分に聞きに来た……ということだろうかとアタリをつけたが、それは彼が首を左右に振ることで否定された。

 

「俺の礼装ではなく、立香の礼装についてだ」

 

「立香ちゃんの?」

 

 こくりと頷く彼を尻目に思案する。

 

 さて、立香ちゃんの礼装作成という話だが……今の彼女が何を欲しているのだろうか。

 こう言っては失礼だが、立香ちゃんの魔力回路、質は共に一般人並み。

 レイシフト適性が飛び抜けているだけで、それ以外の魔術適性は一般家庭の子らしく何も無い。

 

 だからこそ、彼女の礼装はかなり特殊だ。

 基本は一工程のみで発動するように、かつ魔力さえあれば一言で自動発動するように想定されて作られた一般家庭の魔術師向け設計となっている。

 

 カルデアの技術をかき集めて作った戦闘服だが……彼からしてみれば何か問題があったということだろうか? 

 

「基本設計に関しては問題はない。寧ろ立香にはぴったりだ。だが、やはりあれはあくまでレディメイド──出来合い品でしかない。立香の少ない魔力をより効率的に運用できるように立香だけの礼装を作成したい」

 

「ふむ」

 

 確かに、と彼の言葉に納得する。

 立香ちゃんが今着ているカルデア制服及びカルデア戦闘服はあくまで支給品だったもの。

 汎用性は高いが、立香ちゃんに完全に適したものであるとは言い難い。

 

 幾ばくかの余裕が出てきた今なら立香ちゃん専用に改良するのは賛成だ。

 

「いいね、確かに君の言う通りだ。余裕が少し出てきた今だからこそリソースは惜しみなく吐くべきだ。けど、君が態々それを言いに来たってことはそれだけじゃないんだろう?」

 

 彼女専用の礼装を作ると伝えるだけならそれこそ立香ちゃん本人が来ればいい。

 そうでなく、彼が来たというのは魔術についてのより深い知識が必要だから。

 魔術師の彼の視点から見た時に欲しい何かがあったということだ。

 

「カルデア戦闘服に設計されているオーダーチェンジについてだが、あれに俺の魔術を組み込みたい」

 

「というと?」

 

「現状のオーダーチェンジは立香を中心に近くにいるサーヴァント同士の位置を入れ替えるというものだろう?」

 

 オーダーチェンジ──置換魔術によって似たような現象を連続で引き起こせる彼がいるおかげで然程使われていないが、場合によっては戦況を簡単にひっくり返すほどの効力を発揮する魔術だ。

 ただ位置の入れ替えという見方によっては瞬間移動にも似たソレは魔力消費が極端に大きいというデメリットを持つ。

 最適化されたカルデア戦闘服であっても立香ちゃんが使うと仮定した場合、一回の戦闘で一回使えれば御の字くらいだろう。

 

「普段の位置の入れ替えだけならば俺で事足りる。だが、立香の傍に必ず居られるという保証は無いというのはオルレアンでもよく理解した。そこでだ、大前提としてカルデア戦闘服の魔術の回転率自体を上げる。その上で、オーダーチェンジに俺の魔術を組み込んで対象範囲を広げる」

 

「ふむ……確かに魔術の回転率を上げることは出来るし、君の魔術を流用するというのならオーダーチェンジの改良もできるね。ただ、対象範囲を広げるっていうのは距離を広げるってことでいいのかい?」

 

「勿論、それもやる。けど、もう一つだけ機能を追加する」

 

「……それは?」

 

「入れ替え対象を特異点にいるサーヴァントだけじゃなくてカルデアにいるサーヴァントも対象にする」

 

「それは……無理だろう」

 

 彼の提案は普通に考えたら無理な代物だ。

 ただでさえ、カルデアから特異点にサーヴァントを送り込む行為は魔力をバカ食いする。

 それこそ、態々現地の龍脈へと赴いてマシュの盾をアンカー代わりにして召喚しなければならないほどだ。

 

 聖杯を持っている彼ならば可能かもしれないが、立香ちゃんの魔力量ではいくら効率化したところで発動出来ない。

 それほどまでにカルデアと特異点間での移動は魔力消費が激しい。

 

「普通にやればまあ、無理だろう。だからこそ俺の魔術を組み込む」

 

「……話を聞かせてもらえる?」

 

「カルデアと特異点間での位置の入れ替えの魔力消費は凄まじいのは間違いない。だからそこに縛りを入れる。通常のオーダーチェンジとは異なるものとして使えるのは一回の戦闘につき一回まで、かつ呼べるのはカルデア戦闘服に紐付けを行った一騎のみ」

 

 予めカルデア戦闘服に入れ替えを行うサーヴァントを設定しておくことで魔力消費量を減らし、回数を一回に限定させることで殆ど使い捨てと同じような扱いが出来るか。

 

 確かにそれなら魔力消費は格段に抑えられるだろう。

 けど、それだけでは足りない。

 カルデアから特異点にサーヴァントを呼ぶにはどうしても目印となるアンカーが必要となる。

 

 それこそがマシュの盾と龍脈という存在であり、戦闘中ではそれに頼ることは出来ないだろう。

 

「アンカーについては?」

 

「そこは俺の魔術で代用する」

 

「そんなことも出来るのかい?」

 

「出来る……というよりは出来るように改良した」

 

「改良したって、何気なく言ってるけどさぁ」

 

 思わず呆れたように嘆息する。

 

「参考になる見本が見れたからな」

 

「……そんなものあったかな」

 

「玉藻が似たようなことをやっていただろう」

 

「えっ、あれのこと!?」

 

 彼が言っているのは恐らくセプテムで最後に玉藻がもう一人の自分をアンカー代わりにカルデアから特異点にレイシフトした時のことだろう。

 濃密な魔力や戦闘によって荒れに荒れたあの場でもマシュの盾の他にもアンカーを用意したことで移動に成功した。

 

 確かに暴走状態にあったとはいえ、彼はそれを見ていた。

 見てはいたが……! 

 

「あれを解析して俺の魔術に組み込んだ。少なくともそれを応用すれば一騎のみならカルデアと特異点間の入れ替えは十分に可能だ。後はそれをどう効率化させていくかだが……それについては君と話を詰めたい」

 

「……」

 

 あの擬似レイシフトを見ただけで学習したと言うのか。

 知らないはずだ、分からないはずだ。

 だって彼はその手の分野を専攻している訳でもない、レイシフトについて詳しく知ろうとすらしていなかった。

 だというのに剰えそれを自分の魔術に平然と組み込んでるなんて……! 

 分かってはいたつもりだけど、その若さで持てる技術力じゃないだろう。

 

 そりゃあ言葉に形容することすら出来ない天才ってのは時折現れたりする。

 けれどそういう奴らだって必ずと言っていいほど下地というものが存在する。

 どんな天才にだって知識と経験は必要不可欠なものだ。

 

 既知を未知に当て嵌めていけるからこその天才であり、未知を未知のまま正解へと持っていけるのは──

 

「ダヴィンチ……?」

 

「えっ、あ、ああ! いいとも! 一緒に礼装を作成しようじゃないか! それに……君とは一度膝を突き合わせて話をしてみたかったしね」

 

 思えば私はまだ彼について知らない。

 勿論暇があれば話をしたりもするし、偶に彼のバイタルチェックだってやったりもする。

 

 けれど、彼個人について知っているのは書類に書かれていたことだけ。

 

 知るべきだ──少しでもいい、ちょっとずつでもいい。

 彼が今までどのように生きてきてきたのかを。

 彼が何を知っていて、何を知らないのかを。

 

 私は知るべきなのだ──カルデアの職員として、レオナルド・ダ・ヴィンチ一個人としても。

 文章だけではなく、ただの口伝だけではなく……。

 

 星崎望幸という人間について知らなくてはならない。

 

「そうだね、それじゃあまずは──」

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

「礼装については話通りで頼む。費用と素材は勿論こちらで受け持つ。……あと、これが俺から分離した魔力結晶だ。好きに使ってくれて構わない」

 

「……うん、ありがとう」

 

「それじゃあ、また。何かあったら呼んで欲しい」

 

「うん、それじゃあね。気をつけて帰るんだよ」

 

 そう言って彼は工房から出ていく。

 そして工房の扉が閉める直前、彼は此方に振り返るといつも通りの何を考えているのか読めない仏頂面で口を開いた。

 

「その、ダヴィンチはどうだったか分からないが、俺は君と話せてとても楽しかった。凄く有意義な時間だった。だからまた話をしてくれると嬉しい」

 

 それだけ矢継ぎ早に言うと扉を閉めてそそくさと帰って言ってしまった。

 暫く彼が去っていった扉を眺めていたが、背もたれにグッと寄りかかった途端、全身の力が抜けた。

 

「……私だって君と話すのは楽しかったさ」

 

 実際にこうして二人きりで話してみれば、彼の人となりがよく分かる。

 見ているこちらが微笑ましくなるくらい善良な子だ。

 立香ちゃんやマシュと同じくらい優しい子で常に此方を気遣っている様子だって見受けられた。

 

 何より彼の知識量は凄まじかった。

 こと彼の専攻している置換魔術に関しては私以上の知識があるだろうことは言葉の節々から感じ取れた。

 話せば話すほど彼の知識量には驚いたものだし、それ以上に打てば響くような会話に心を癒された。

 

 だけど……。

 

「過去の記憶の欠落、かぁ」

 

 より正確に言えばカルデアにやってくる少し前までの記憶から昔の記憶が一切なかったのだ。

 いや、実際に彼が覚えていないとは言っていないが、彼の昔の話になった時、彼の口数は途端に激減した。

 

 加えて、数少ない過去の話でも「だった」「らしい」などとまるで他人事のように自分の事を話す彼の姿に思わず閉口しかけた。

 聞けば聞くほど彼は自分の過去のことについて喋れなくなっていって……ついには黙り込んでしまった。

 

 その時の彼の顔を見て声を出さなかったのは我ながらよく我慢したものだと思う。

 

 思い出せなくなっている過去に彼は悲観的な表情を浮べる訳でも無く、ただただ申し訳なさそうな表情を浮かべて此方を見ていたのだ。

 

 ……何で君がそんな申し訳なさそうな顔をするんだいと叫びたかった。

 

 謝るべきは私達だ。

 彼一人に多大な負担を強いた私達こそが糾弾されるべきで、彼は被害者でしかないじゃないか。

 

「普通に考えればあんな無茶を通した後の代償なんてあって当然だったじゃないか」

 

 一体いつから記憶が無くなり始めたのだろう。

 セプテムから? それともオルレアン? もしかしたら特異点Fからかもしれない。

 

 ……彼は無茶を通した結果、自分の過去を失った。

 それだけじゃない。

 人であることも失って──その果てに彼は未来も無くすだろう。

 

 このまま彼に負担を強い続ければ、彼という人間の命が尽きることなんて容易に予想が付く。

 いいや、それだけじゃあない。

 仮にこの人理修復の旅を生き残ったとしても彼は必ずと言っていいほど確実に、時計塔の連中にその身柄を確保されるだろう。

 

 過去を失い、未来を失い、今を失い、人ですらなくなり──その死後すら辱められる彼に一体何が残されるという。

 何も残されないではないか。

 

「……こんなこと、一体誰に話せるんだ」

 

 話せるわけがない。

 

 先の騒動で彼に親しい者達は精神的にかなりの限界が来ている。

 特に立香ちゃんやロマニなんてあと少しでも彼に何かしらのことがあれば容易く精神が崩壊しかねない程だ。

 

 ……表面上はまるで何もなかったのように振舞っているけれど、人目のつかないところで胸を押さえて泣いていたり、陰で自責の念から吐いていることを私は知っている。

 

 そんな彼らに今の彼の状態をどうして言えようか。

 

「……ああ、本当どうしてこんなに彼ばかりが苦しまなくてはいけないんだ」

 

 苦々しく吐き捨てた言葉は虚しく空に溶けて消える。

 一人で抱え込むにはあまりにも重すぎて、けれど他の誰にもこんなものを背負わせるわけにはいかない。

 

 ロマニもマシュも立香ちゃんも他の職員にだって話せない。

 

 これは私だけが抱えるべきなんだ。

 

 

 ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 

 

 藤丸立香はここ最近夢見が頗る悪かった。

 具体的な内容は思い出せないが、朝目が覚める度に寝汗をぐっしょりとかいて、えも知れぬ不安に襲われていた。

 

 どんな夢を見たのか思い出せないのに、その夢が自分にとっては死ぬほど辛いものだと直感的に理解出来てしまう。

 寝る度に、夜が来る度に悪夢に襲われ、眠るという行動が酷く億劫になってしまった。

 けれど、寝ないということは出来ない。

 

 人は寝なければ必ず破綻する。

 悪夢を見ると知っていても寝なければならないという事実も立香の心を蝕んでいた。

 

 何故このような悪夢を見るようになったのか。

 

 そんなもの分かりきっている。

 望幸だ、彼をセプテムで失いかけたことが原因なのだ。

 だって今でもふとした瞬間にあの時の光景を思い出して臓腑に氷塊を突っ込まれたかのように全身が冷えるのだ。

 

 彼は生きている、彼はここにいる。

 

 そう分かっていてもふとした瞬間に思い出して、心が悲鳴を上げる。

 彼の姿が見えないと消えてしまったんじゃないかと不安になる。

 彼が傍にいなければ無意識に彼を探してしまう。

 

 ……こんなにも私は脆かったのだろうか。

 

 彼は死んでいない、彼は確かにここにいると分かっているのに。

 

「……っ」

 

 心臓が強く脈打つ、嫌な汗がじわりと滲み出す。

 

 ──ああ、まただ。

 

 今はもう皆寝ている時間だ。

 だというのに布団を被って幾ら目を瞑っても動悸は激しくなる一方で、耐えようと服に皺ができるほど強く強く握り締める。

 

 けれど、ああ。

 

「望幸……」

 

 やっぱり無理だった。

 足手まといにならないように強くなると決めたというのに。

 

 布団をどかし、むくりと体を起こして寝間着のまま廊下へと出る。

 廊下のひんやりとした冷たい空気が体を蝕み、体がぶるりと震えた。

 

 目的地は私の隣の部屋だ。

 すぐ側にあるというのにその距離ですら今の私には果てしなく遠く感じる。

 それでも突き動かされるように歩みを進めて部屋の前に辿り着いた。

 

 そして扉のパスワードを打ち込み、部屋の中に入ると彼がいた。

 寝台の上で静かに眠る彼の姿を見て漸く体と心が落ち着きを取り戻す。

 

「良かった」

 

 そう無意識に呟いた。

 すぅすぅと小さく聞こえる彼の呼吸音、静かに上下する胸。

 

 彼はちゃんと生きていて、確かにここにいる。

 

 それを実感した途端、安堵から床に崩れ落ちた。

 そしてそのまま私は床を這うように彼にゆっくりと近づき──

 

「ごめんね」

 

 そう、小さく謝って彼の寝台に潜り込んだ。

 

 ……暖かい、先程までの凍えるような寒さがゆっくりと溶けて消えていく。

 彼の体温が、彼の息遣いが感じ取れて心に安寧が齎される。

 

 少しだけ、少しだけだから……落ち着いたらちゃんと自分の部屋に戻るから。

 明日にはちゃんといつもの私に戻っているからと、誰かに言い訳をして目を閉じた。

 

「んん……」

 

 その時珍しいことに彼が寝返りを打って私を抱え込むように抱き締めてきた。

 抱き枕と勘違いしたのか、或いは抱え込むには丁度いいと思ったのか分からないけどぎゅう、と抱き締めてきた彼の心音が聞こえてきた。

 

 ドクンドクンと力強く鼓動するその音が今は何よりも心地良かった。

 彼の体温と匂いも相まって心の底から安心してしまい、気付けば抗い難い睡魔に襲われた。

 

 まずいなぁって思うけれど、ここからもう出たくなくて。

 気が付けば私は酷くあっさりと眠りに落ちていた。

 

 ──大丈夫、私達はそばにいるよ。

 

 眠りに落ちる直前、そんな声が聞こえてきて私の意識はプツリと途切れた。

 

 その日、私は悪夢を見ることなく久しぶりにぐっすりと熟睡することが出来た。

 

 ……まあ、久しぶりにぐっすりと熟睡することが出来たということは必然的に彼よりも後に起きてしまったということで──

 

「おはよう立香」

 

 朝目が覚めたら煌めく宝石のような彼の瞳と超近距離で目が合った。

 何だったら少し前に顔をやれば彼とキス出来そうな距離だ。

 

「んぅ……? あっ!? ごっ、ごごごごめんっ! 寝惚けてたというか、ちょっと安心しちゃったというか……!」

 

「……」

 

「すっ、すぐに起きるね! あはっ、あはは……! いやー寝惚けて部屋を間違えちゃったかな──」

 

「立香」

 

「ハイ」

 

「今度から眠れない時は一緒に寝る?」

 

「……う、是非お願いします

 

 ──私、こんなにも意思が弱かったかなぁ!? 

 





カルデア戦闘服改:彼とダヴィンチによって藤丸立香専用の礼装へと改造された戦闘服。
魔力効率が段違いに跳ね上がり、外付けの小型魔力タンクを追加したことによって魔術の回転率が劇的に向上した。
具体的に言えばカルデア戦闘服の全てのCTが3T短縮、オーダーチェンジは5T短縮されている。

このホモ叩く所か小突いただけで埃がボロボロ出てくるんですけど。
ちなみにホモくんはマジで自分の過去を知らないだけで別に記憶を失ったとかはなかったりする。
……記憶を薪に出来るんだったらするでしょって?それはそう(無慈悲)

次回はお試しでホモくんの過去の周回の話です。
今のホモくんではなく、レズちゃんだったり別のホモくんの話になります。
過去話は長々としてもアレなので取り敢えず一話完結形式で。

その後は3章突入かなぁ。

ホモくんの過去パート

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