死ねば解る「個性」   作:漉し餡大福

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死ねば解る「個性」

 雄英高校の校舎までの道のりを一人歩く。周りにも何人か生徒が歩いているが、心無しか緊張で顔が強張っている。恐らく同じ、この春から入学する新入生だろう。

 校舎に入ってみても、同じような生徒がチラホラ見える。

 異形系の個性の生徒や教員のためか、広く設計された廊下を進んで今日から自分が所属するクラスを目指す。

 

(A組は……)

 

 黒微は合格通知を見たときのことを思い返す。実技試験では、試験内容と『個性』との相性で成績はまずまずといった感じだったが、筆記試験では自己採点をした所、良い成績を残していた。だが、黒微は筆記試験よりも実技試験の方が重要視されているだろうと考えていた。合格通知でねずみの校長が確かそんな感じのことを言っていたからだ。

 

(クラス分けは成績順ってわけじゃないのかもな…)

 

 そのことに少しだけがっかりしたが、同じくらいの実力の生徒で固められているんだろうと思うことにする。むしろエリートばかりでは息も詰まるだろうと、前向きに思考を向ける。

 

 全国的に大人気の職業である「ヒーロー」。かつて誰もが憧れ、夢想し、諦めていたが、今では現実に叶う夢となっている職業だ。ヒーローになるには、「ヒーロー科」という学科に進み、資格を取る必要がある。雄英高校ヒーロー科は、倍率300倍の超エリート校だ。そんな学校の受験に合格しているだけでも、黒微は十分エリートの仲間と言えるだろう。

 

 『1-A』と標記された扉の前に立つ。この扉もまた大きい。見た目通りの重量なんだろうかと身構え、力を強めに引けばそんなことは無いらしく、思ったよりすんなり、そして込めた力の分勢い良く開いた。

 

 ガン、という音は、教室に殊の外大きく響き、黒微は既に教室にいた生徒達から視線を集めた。

 

「――――君!学校の備品の一つだぞ!もっと丁重に扱わないかっ!」

 

 扉の近くに座っていた、眼鏡をかけてカクカクとした動きをした同級生らしい、いかにもな男子生徒に注意されてしまった。

 

「扉が重いかと思って力入れすぎた。びっくりさせてごめん」

「む……いや、わざとでないならいいのだ」

 

 ただ注意をしただけで、神経質という訳でもないようらしい。もしかしたら因縁を吹っ掛けられてしまうかも、と考えていた黒微は密かに安堵した。

 

「ぼ…俺は飯田天哉だ」

「俺は否見黒微(いなみくろみ)。よろしくな飯田」

「ああ、こちらこそ。ところで……」

 

 飯田が、扉の近くに座る机に脚を乗せた金髪の男子生徒に向き直る。

 

「君!なんだその座り方はっ!」

「あ……?」

「机は脚を掛けるものではないぞ!」

 

 飯田と男子生徒が言い合いを始めてしまったので、その場を離れる。入学初日くらいはゆっくりしたい。

 座席表が見当たらないので、空いてる席に座った。暇つぶしに本を読もうと、鞄から小説を取り出す。

 

「お友達ごっこしたいなら他所でやれ」

 

 声のした方へ顔を向けると、寝袋に入った人が立っていた。なんだか眼が血走っている。

 

「はい、静かになるのに5秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 寝袋からくたびれた男の人が出てくる。「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 担任と聞いて、はて……と思いふける。確か雄英高校は、プロのヒーローを雇って教員をしているはずだ。なのでこの男性もヒーローのはずなのだが……黒微には何というヒーローなのかわからなかった。

 

 

 黒微を含む1-Aのクラスメイト達は、体操着姿に着替えて校庭のグラウンドに出ていた。担任の相澤にそうする様に言われたためだ。

 個性把握テスト。所謂、個性使用有りの体力テストをするという。まずは自分の最大限を知ることが目的らしい。そのあと、トータル成績最下位の者を除籍処分するとも相澤は言った。かなり理不尽な所業だと思うが、ヒーローに成りたかったらこれくらいの理不尽乗り越えろ、とのことだった。

 流石に、入学したその日に退学処分はいやだな……。

 黒微は気を引き締めて、個性把握テストと真面目に向き合う。

 

 体力テストの種目はこうだ。

 

 50m走

 握力

 立ち幅跳び

 反復横跳び

 ボール投げ

 上体起こし

 前屈

 

「……」

 

 黒微は、自分の個性が使えそうな種目を考えていた。

 

 黒微の個性が初めて発現したのは、4歳の頃。家の二階の階段から落ちた時だった。それからとあるもの(・・・・・)が見えるようになった黒微は、個性をコントロールできるよう、特訓を続けた。

 

 思考を個性把握テストに戻す。

 

 50m走は見た限り、機械がカメラで判定して、結果を測定している様だった。

 

(この種目では使えなさそうだな)

 

 黒微は自分の脚で走ることにする。結果は中学の頃より少し速くなっていた程度だった。それでも、ヒーローになるなら体を動かせた方がいいと、体を鍛えていたのが良かったのかクラスの十指に入る結果だった。

 

 クラスメイトを一周して、種目は握力の測定へ。

 

 握力の測り方は中学と変わらず、握力計を使うようだった。

 

「……それじゃあ思いっきり、よろしく」

 

 黒微は目の前に立つ(・・・・・・)黒い幽霊に握力計を渡す。

 

「わっ、浮いとる!私と似たような個性なんかな……」

「……いや、俺のは物が浮いてるように見えるだけで、実際は浮いてる訳じゃないよ」

 

 隣で測定していた少女が、思わずといった様子で言った。

 

「あっ、ごめん!いきなり話しかけて……びっくりさせたよね」

「いや、緊張しいだから、そっちから声かけてくれて助かった」

「そう言ってもらえると私も助かる……えっと、私麗日お茶子って言います、よろしくね!」

「否見黒微です、よろしく」

「おぉすげぇ!お前握力強いな!」

 

 赤い髪の男子生徒が浮いたままの握力計のメモリを見て声を掛けてくる。話しかけようと思っていたのか、話す切っ掛けを見つけたのか、わからないが。自己紹介も何も無いまま始まったからか、周りからも話し声が少しずつ聞こえるようになってきた。

 

「俺、切島鋭児郎ってんだ!よろしくな否見っ!」

「よろしくな切島。聞いてただろうけど、俺は否見黒微」

「ねぇねぇ!さっきの、『実際は浮いてない』ってのさ、もしかして透明な何かだったりする!?」

 

 服だけが浮いて見える(体操着の膨らみから見て)少女が、腕を振るような動作に、何やら興奮した様子で話掛けてくる。

 

「あぁ、俺だけに見える幽霊みたいなのがいるよ」

「やっぱり!!あ、私葉隠透って言います。見た通り透明人間が個性だから、なんだか親近感湧いちゃうなぁ!」

 

「おい」

 

 ピタッ、とさっきまでの喧騒が嘘のように、静寂が場を包む。声のした方へ向くと、相澤が生徒たちを睨みつけていた。

 

「私語は慎め。話す暇があるなら次の奴に早く回せ。時間がもったいない。」

 

 言い終わると同時に、生徒たちは慌ててそれぞれがしていた測定に戻っていった。教室でも合理性が何とか言っていたので、無駄なことがあまり好きじゃない人なのかもしれない。

 

 黒微は幽霊に、握力計を反対の手に持ち替えて、思い切り力を込めて握るよう命令した。

 

個性把握テストはまだまだ続く。

 

 

 各々が最良の結果を出せるよう個性を駆使したりして、個性把握テストの全測定を終える。個性の制御ができないらしい男子生徒について一悶着あったりもしたが、解決したのかどうかは相澤の様子を見ても黒微にはわからなかった。

 

「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明するのは時間の無駄なんで、一括開示する」

 

 相澤が端末を操作して、ランキングの形にまとめられた結果をその場に表示する。黒微の名前は上から5番目に、クラスの総合で5位、という結果に収まった。

 最後に相澤は除籍処分は嘘だと言って去っていった。実力を発揮させるための合理的虚偽とのことだった。

 

(いや、こっちとしては洒落にならんのだが……)

 

「なぁ!否見はどうするよっ!」

 

 今日はもう帰って良しとのことなので、教室に戻って帰り支度をしていると、切島が声を掛けてきた。

 

 聞けば、今日のテストについて反省会を催すとのことだった。

 

 話は変わるが、黒微は友人を作るのが昔から苦手だった。全く居なかった訳ではないが、それでも、片手で足るくらいには少なかった。幼少期には個性が発現していたため、それが原因で周りから人が離れていったというのもある。当時は自分にしか見えないと知らずに、「幽霊がいる」と言って回ったからだ。その様子を見て誰かが「気持ち悪い」と言ってから、黒微は1人になった。

 それでも話しかけてくれる子が居てくれたので、その子とは友達になれたりもしたが、小学校に上がってから黒微が転校したので、交流はそれっきりだ。

 転校してからも黒微は1人だった。ある日、他人には見えないのをいいことに個性を使っていたところを、勘付いた上級生が絡んで来たことがあった。何も言わずにいる黒微を見て、助けてくれた人もいた。その人とも暫くつるんでたが、卒業を期に会うこともなくなった。

 

 そして、中学では卒業するまで、黒微は1人で過ごし続けた。

 登下校も、昼休みも、放課後もずっと1人だった。当然、友人に遊びに誘われたこともない。

 

 

「……」

 

 だから、帰りに友達に遊びに誘われるというのは、黒微には初めての体験だった。

 

「?どうしたよ、否見」 

「……いや」

 

 『放課後マックで談笑したかったなら』

 個性把握テストの前に、相澤が言っていた言葉。

 確かに、将来本気でヒーローを目指すなら、そんなことをしている暇はないだろう。

 そうして黒微は、切島に断りの返事を返そうとして。

 

 思い出す。

 以前、数少ない友人の一人に言われたこと。

 

 『友達がいれば競い合えるし、助け合える』

 

 ……

 …………

 …………………

 

「……あぁ、うん。いいよ。俺も行く」

「うし!サンキュー否見!!」

「いや、誘って貰えて嬉しいよ。よろしく切島」

「おうよ!気にすんなっ!じゃあ先に知らせてくるからよ、また後でな!」

 

 おーーい、と放課後の参加組みなのだろう、クラスメイトの輪に声を掛ける背中を見送る。

 確かに、相澤が言うようにヒーローを目指すなら、放課後に寄り道をしている暇はないだろう。

 

 けどまぁ、友達作るくらいはいいだろ

 

 黒微は、切島の後を追うように歩き出す。

 

 

 「初めまして、否見黒微です。個性は幽霊とか(・・)出せたりします。よろしくね」




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