1話
???「おいっ!比企谷!」
八幡「なんですか、デカイ声出さないでくださいよ、大塚さん」
大塚「今夜、飲みに行くぞ」
八幡「いや、今夜はあれがこれなんで…」
大塚「うるせぇ、行くぞ!付き合え。俺のオゴリだ。それと、旨いラーメン屋教えるから」
八幡「はぁ…。わかりました…」
俺は千葉から出た。正確には逃げたのだ。高校時代、好意を向けてくれた女の子達が居た。だが、その好意に向き合えず、愛しの千葉から離れた大学に進学、そのまま近くの企業に就職。
大学に進学したばかりの頃は、由比ヶ浜や一色からうるさいくらいに来ていた電話やメールも6年も経てば来なくなっていた。
社会人ボッチを決め込もうとしていたが、この先輩は、そうはさせてくれない。だが、嫌いではない。こんな俺のことを思ってくれているんだ。
八幡「で、なんですか?この状況は?」
大塚「ん?何って合コンだよ」
八幡「帰ってもいいですかね?」
大塚「ダメだ。お前の写真出すと相手の食いつきがいいんだよ」
前言撤回。
大塚「頼むよ、約束通りオゴリだからさ。ラーメンも付けるからさ」
八幡「はぁぁぁぁぁぁ。わかりましたよ」
なんで、俺の写真あるんだアノ人は。女達も俺の顔見て笑いたいんですかね、特に目。
すげぇ、話しかけられてるけどなに?俺は珍獣か?何か「ウケる~www」とか聞こえるけど、千葉ではないので折本は居ない。
そんな中、大人しそうな女性が話しかけてきた。キレイな黒髪、酒を飲んでるからだろうか、少し赤くなった白い肌、整った顔立ち…。まるで誰かがダブって見える。
???「あ、あの、お隣いいですか?」
八幡「え?あ?ど、どうじょ」
変なこと考えてたら噛んだ!
???「あまり楽しまれてないのですね」
八幡「苦手なんですよ、賑やかなのが」
???「私もなんです。無理やり連れこられて…」
八幡「それは災難でしたね」
???「私、木ノ下雪菜っていいます。お名前お伺いしても…」
名前まで似てるな。
八幡「比企谷八幡だ」
雪菜「比企谷…八幡さん…。良いお名前ですね」
八幡「そうか?この名前でずいぶんとイジメられたりもしたがな」
雪菜「ごめんなさい!そんなつもりじゃ…」
八幡「違う違う、君が謝ることじゃないし、昔の話だ」
雪菜「…」
八幡「…」
雪菜「比企谷さんは、休みの日は何をしてるんですか?」
沈黙が耐えられないのだろう。場繋ぎの常套句だ。
八幡「ゲームしたりアニメ観たり本読んだりかな」
これで『ヲタクキモイ』ってなって終わり。
雪菜「私も本好きなんですよ。日向ぼっこしながら読者なんて最高です」
長机の反対側、窓からの光を浴びて輝く黒髪…。ダメだ、重なっちまう。
雪菜「比企谷さん?」
八幡「いや、なんでもないんだ」
雪菜「でも…」
大塚「どうした?比企谷」
八幡「大塚さん、声がデカイです」
ナイス、大塚さん!
大塚「君、こいつと仲良くしてやってくれ」
八幡「え?」
大塚「こいつ、女っ気無くてさぁ
」
雪菜「はぁ」
大塚「ホモかインポだと思ってて、ソープ連れていったら、しっかり楽しんでたからな」
八幡「なっ!ちょっ!やめてくださいよ!」
木ノ下さんも、そんな目で見ないで!
大塚「じゃあ、楽しんでくれ」
アンタのせいで不可能になった!
八幡「…気持ち悪いよな、そういうの。だから、俺のことは気にせず…」
雪菜「男の人はそういうモノですよね」
八幡「無理しないでいいぞ」
雪菜「え?」
八幡「別に嫌われようが俺は気にしてない」
雪菜「それって…」
八幡「歩いていて、蹴飛ばした石ころなんて覚えてないだろ?それと一緒だ」
雪菜「…」
八幡「すまん、気分を悪くさせたな」
雪菜「…」
八幡「俺は場所を変えるよ。ウチの会社の人達は、いい人ばっかりだから。じゃあな」
雪菜「…」
ダメだ。あの娘と居たら思い出してします。甘酸っぱく、そして苦いあの思い…。アイツを思い出してしまう。
???「あ~!ハチ君だ!」
八幡「ん?美浜か。久しぶり」
結愛「なんで私が誘うと付き合ってくれないのに!」
八幡「そうやって騒ぐからだよ」
美浜結愛…。大学時代、ひとりで本を読んでいたら話しかけてきた。それ以来の付き合いだ。今でも時々、飯や酒に付き合えと誘ってくる。
一度、なんで俺にかまうのか聞いてみたことがあるが、目が気に入ったと…。どんなマニアだよ。
結愛「これって合コン?」
八幡「らしいな」
結愛「もうっ!私が居るのに!」
派手に動くな。む、胸が…。どこかのクラスメイトみたいだろ。
八幡「お前は俺の彼女じゃねぇだろ」
結愛「うむ。でも、ズルい」
八幡「はいはい、悪うございました」
結愛「今度は私と飲んでよね」
八幡「善処しますよ」
結愛「それ、やらない返事だ。邪魔しちゃ悪いから行くね。またねハチ君」
八幡「おう」
雪菜「比企谷さん、今の方は?」
八幡「大学の同級生。俺にかまう奇特なヤツだよ」
雪菜「…けない」
八幡「ん?なんだ?」
雪菜「なんでもないです」
なんとなく週末の合コンを乗り切り月曜日。
???「先輩!合コン行ったって本当ですか?」
八幡「うるさいぞ、一条。行ったのは間違いないが、大塚さんに騙されたんだよ」
一条ひふみ…。職場のひとつ後輩で、新入社員の頃に面倒を見たのがきっかけで、よくからんでくる。
ひふみ「私というものがありながら、合コンとは許せません」
八幡「文句なら大塚さんに言え。てか、お前は俺の彼女か?」
ひふみ「えぇ、先輩は私を彼女にしたいんですか?」
この後、怒濤の早口でフラれそうだよ。どこかの生徒会長かよ。
ひふみ「じゃあ、晩御飯一回で許してあげます」
八幡「許してもらう理由もないし、面倒くさい」
ひふみ「えぇ~、いいじゃないですか~」
大塚「比企谷、飯ぐらいオゴってやれ」
八幡「いや、大塚さんのせいですからね」
和気あいあいと仕事を進め退社時間になる。
八幡「お先です」
大塚「お疲れ!」
ひふみ「先輩、ズルいです。私は終わってません」
八幡「がんばれよ。明日、その書類を添削してやるからな」
ひふみ「それなら、今手伝ってくださいよ」
八幡「じゃあ、飯一回取り消しな」
ひふみ「ぶぅ~!…がんばります」
八幡「よろしい」
会社を出ると声をかけられた。
???「比企谷さん」
八幡「木ノ下さん!どうしてここに?」
雪菜「お話があります」
八幡「長くなるのか?」
雪菜「いえ」
八幡「じゃあ、そこの公園に」
はぁ、なんだろうな。『気持ち悪いので訴えます』とか言わないだろな…。自販機で、俺はコーヒー、木ノ下さんは…紅茶かな?いかん、またアイツが出て来やがった。でも、まあ女子は紅茶好きが多いから紅茶だな。
八幡「ほい」
雪菜「あ、ありがとうございます」
八幡「んで、話って」
雪菜「比企谷さんはご自身のことを石ころと言いました」
八幡「だな」
雪菜「比企谷さんは石ころなんかじゃありません!」
近い近い近い!いい匂い!
八幡「木ノ下さん、落ち着いて!近いから」
雪菜「あ、ごめんなさい。でも…」
八幡「わかった、失言だった」
雪菜「あの時、思ったんです。『この人はなんでこんなに悲しそうな、寂しそうな顔をするんだろう』って」
八幡「そうだったか?」
雪菜「私、比企谷さんのこと、もっと知りたいと思ったんです」
【今は貴方を知っている】
八幡「っ!」
雪菜「比企谷さん?」
八幡「なんでもない。俺なんかのことを知っても…」
雪菜「でも、知りたいと思ったんです!…何故かはわからないですが…」
八幡「はぁ、わかったよ。んで、具体的にはどうしたいんだ?」
雪菜「あの…、よろしければ、…お食事に…」
八幡「了解。つまらなくても、文句はなしだぞ」
雪菜「ありがとうございます」
逃げ出して、辿り着いたこの世界…。レプリカだらけ…、偽物だらけの世界。俺やアイツが嫌った嘘や欺瞞に満ちた世界。
…こんな偽物だらけの世界でも、悪くないと思えてしまうのは、大人になったからなのだろうか…。今の俺を見たら、アイツはなんて言うだろうか…。
『悪くない…』か