近く幸せを感じる日々
八幡「所長、これでどうでしょうか?」
所長「よし、これで進めてくれ」
八幡「ありがとうございます」
千葉に戻り、雪ノ下系列会社の小さな事業所で働いている。
最初は戸惑ったが、なんとかやっている。
八幡「ただいま」
雪乃「お帰りなさい」
八幡「お、いい匂いだ」
雪乃「ちょっと待っててね」
八幡「先に着替えてくる」
婚約ということで雪乃と一緒に暮らしている。
八幡「ウチにしては大きめの商談がまとまりそうだ」
雪乃「さすが八幡ね」
八幡「俺だけじゃ出来なかったがな」
雪乃「いい人たちですものね」
八幡「なぁ、海を見に行かないか?」
雪乃「あら、引きこもり谷君が珍しいわね」
八幡「いや、ちゃんと働いているからね」
雪乃「どうしたの?」
八幡「ん?なんとなくだ」
雪乃「私はかまわないけど…」
八幡「…この商談がまとまったら、所長が栄転を上に打診してくれるんだとよ」
雪乃「それは良かったじゃない」
八幡「所長曰く、俺は今の事業所じゃ勿体ないってさ。もっとデカイ仕事しろって…」
雪乃「いい所長さんね」
八幡「だから、ここを離れる前に見に行きたくてな。結構好きなんだよ、この町の海…」
雪乃「そう…」
八幡「悪いな、腰が落ち着かなくて」
雪乃「いいのよ。八幡が一緒なら」
八幡「お、おう、ありがとな」
雪乃が俺の胸に寄りかかり呟く。
雪乃「私は八幡が隣に居てくれれば、どこだっていいわ。貧乏でもかまわない」
八幡「バッカ、それじゃ幸せじゃねぇだろ」
雪乃「私は貴方が居てくれさえすれば幸せよ」
八幡「なっ!不意討ちかよ」
雪乃「たまにはいいでしょ」
八幡「まぁな」
その後、トントン拍子で栄転の話が進んでいった。
今は家から近い海岸に来ている。
雪乃「昨日、姉さんから電話があったわよ」
八幡「げっ!なんだって?」
雪乃「結婚式の招待状待ってるって」
八幡「あの人は…。まぁ、仕方ないか」
雪乃「どうかしたの?」
八幡「ここに来たのは雪乃に話があるからなんだ」
雪乃「何かしら?」
八幡「これを受け取って欲しい」
ポケットに忍ばせていた小箱を取り出す…。
八幡「雪乃、俺は雪乃の人生を歪めてしまった。雪乃が上を目指していた人間だと知っている。だから、雪乃の代わりに俺が上を目指すと決めた。だけど、俺だけじゃダメなんだ。俺だけ上に行っても、その場所に雪乃が居なきゃ意味がない。雪乃、俺と一緒に上を目指してくれ。改めて言う、俺と結婚してくれ」
雪乃「…バカ」
雪乃が胸に飛び込んできた。
雪乃「貴方の残りの人生を私にください。私の残りの人生は貴方に差し上げます。よろしくお願いします」
雪乃が涙を浮かべながら、真っ直ぐこちらを見ながら…。
雪乃「指輪、着けてくれるかしら?」
八幡「勿論」
雪乃「私は…、私は八幡の『本物』になれたかしら?」
八幡「うぐっ!黒歴史を…。間違いなく雪乃は俺の『本物』だよ」
雪乃「そう…」
八幡「雪乃だけじゃない、雪ノ下の人達やウチの家族、由比ヶ浜や一色達、向こうで出会った人達だって、俺にとって『本物』の出会いだったよ」
雪乃「貴方が言うなら、間違いないわね」
八幡「それじゃ俺の答えに『依存』してないか?」
雪乃「いいえ。私も心の底からそう思えるわ」
八幡「そうか」
雪乃「そうよ」
また忙しくなる。でも、嫌じゃない。むしろ楽しみだ。
雪乃と並んで海辺を歩くなんてな。あの頃の俺がみたらなんて思うだろうか。
雪乃「あの…、手を繋いでも…」
八幡「ほら」
手を繋ぎ、嬉しそうに指輪を見る雪乃。
お義父さんとお義母さんの前では言えなかったけど、今なら言える。
八幡「絶対、幸せにするからな」