この歪んでしまった世界に生まれ出でて、もう15年が経った。生まれ出でたのは文字通りの話で、この世界に墜ちた時、私は赤子になっていたのである。
後で分かったことだが、あの陰険師匠は私が異世界に墜ちた時、その世界に自然になじめるようにその世界で生まれ直すという術を仕込んでやがったのである。しかも、『
悲観していないのは、今も義輝様の魂が感じられるからだ。
というか、呼び出す前に出てこないでください。危うく声を出すところでしたよ。
「良いではないか。赤子の霜に触れてみたかったのだ」
そういってもらえるのは嬉しいですけど、あの時の私は赤子でしたから、喋ったらえらいことになってましたよ。
まあ、そんなこともあったりしたが、つまり『
で、肝心の私の両親だがいない。いや、私がこうして生まれた以上存在しないわけではないだろうが、現在進行形でいない。簡単に言えば、私は捨て子なのだ。院長先生の話では水原孤児院の前に置き去りされていたらしい。真冬日だったので、凍死しなかったのは運がよかったという話だ。
いかな私も生まれ出でてすぐの時は、流石に意識が混濁しており、また初めてのことで予想外の事態だったので、状況を把握しきれていなかった。その間に捨てられたらしい。まあ、捨てられなかったとしても、本当の意味で両親と呼べたかは微妙なところだったろうから、余計な気を使う必要がないだけ幸いというべきかもしれない。
ちなみに現在の名は「水原霜氏」のままだ。これは孤児院の名前と、後義輝様が仕込んだ「霜氏」という書きつけの賜物である。まあ、違和感ないので、こちらとしても助かるのだが、なにか釈然としないものを感じる。
そんなこんなで、私は利発で手のかからない孤児、「水原霜氏」としてこの世界を生きてきたわけである。
世界が歪んだのはいつだったか。確かISという忌々しい欠陥兵器が生まれてからだ。
ISとは通称で、正確には「インフィニット・ストラトス」という。『白騎士事件』を境に世界に注目されるようになった女性にしか使えない世界最強を謳う兵器だ。もっとも、『白騎士事件』自体、ISの開発者にして生みの親である「篠ノ之束」が起こした事件であり、壮大なマッチポンプである。
結果を見れば、なるほどISは大したものだが、同時に愚かしくもある。彼女が目指したのは、あの無限に広がる宇宙空間であったはずなのに、手段を誤ったことで自らその趣旨を没却させてしまったのであるから。自分の作ったものが見向きもされなかったからといって、注目を集める為に無辜の民を危険に晒し、あまつさえ自身の目指したものを捨て去るとは本末転倒、愚者の行いであろう。
いかに天才であろうとも、「篠ノ之束」は愚者である。ISの能力からすれば、地道な営業活動を続ければいずれ日の目を見たに違いないというのに、彼女はそれを怠り、誤った近道をしたのだから。
しかも、それでいて恐らく現在の世界の在り様も彼女の満足のいくものではないだろう。当然だろう。彼女が目指したのは無限の宇宙であり、ISはその為の翼だったのだ。断じて兵器として使われることを目指したわけではないのだから。
だが、それは当然のことである。「篠ノ之束」が『白騎士事件』で示したのは兵器としての有用性であって、宇宙空間での有用性を示したわけではないのだから。
義輝様は唯一言「無様」と評しておられたが、私も全くの同感である。なにせ「篠ノ之束」が意図して成就できたものは、ISへの注目だけであり、その軍事転用も、それに伴う女尊男卑の風潮すらも彼女の意図したところではないのだ。世界を歪めながら、本当の意味では何一つ自分の力で成し遂げていないのだから、無様というほかないだろう。
ISの女性にしか反応しないという欠陥性のせいで、女尊男卑の風潮があるのは確かだが、それは絶対のものではない。むしろ、一部でしか通用しない儚いものだ。なにせISは467機しか存在しない。これはISのコアがブラックボックスで「篠ノ之束」以外に作れず、彼女が製作を止めているが故だ。要するに女性しか使えない上に量産できないのである。これは兵器としては最悪といってもいい欠点である。世界各国を護る戦力をいかに優れた兵器であるISだとしても、たった467機でまかなえるはずがないからである。世界の国の数は206ヶ国にのぼる。単純計算で1ヶ国2機、多くて3機である。これでどうやって、広い国土を護れと言うのか?先進国に優先的に配備されているとしても、精々小隊が作れるかどうかだろう。すなわち、陸海空、全てを護り切るのは到底不可能なのだ。つまり、戦闘機や戦車はまだまだ現役だし、潜水艦や空母だって有用な兵器なのだ。それを考えれば、どうやったって女尊男卑がまかり通るはずがない。女性が軍人を目指す数は増えたかもしれないが、結局のところそれだけだ。それでも男性軍人の方が圧倒的に多いのだから。
政財界では言うまでもないだろう。ISの使える使えないは、そこで役立つ能力には関係ないのだから、女尊男卑などまかりとおるわけがない。確かに女性の地位は上昇したかもしれないが、それだけである。むしろ、それ当然だと思っている人間の良識を疑うレベルだ。
そんなわけで世間で言っているほど、女尊男卑がまかりとおっているわけではない。まあ、最前線を女性に任せているということから、遠慮みたいなものは生まれているがそれだけである。だというのに、なんと勘違いした人間の多いことか。全く嘆かわしい。古き良き大和撫子はどこへいったのだろうか。
「今の世の女子のあり方が好ましいとは思わんが、そういうのは男の幻想じゃぞ」
さいですか。中々に手厳しいですね義輝様。
「大体、お前には私という妻がいるではないか。他の女に目を向けるなど言語道断じゃ!」
これは失礼をいたしました。ご安心ください。この霜氏の全ては義輝様のものにございます。血一滴、髪一本であろうとも他者に許したりは致しませんよ。
「ならばよい。いらぬ事を言った。許せよ」
もちろんにございます。むしろ、そのように言っていただけたこと嬉しく存じます。
「からかうでないわ!」
照れてそっぽを向く義輝様も可愛らしくて、いいですね。
「ええい、そんなことよりどうするつもりじゃ?」
あからさまな話題転換ですね。まあ、それは後で追求するとして。さて、どうしましょうか?
今、私達は岐路にあるのだ。ISを動かすかどうかという。
遡る事一月余り、普通に優等生であった霜氏は早々と推薦入学を決め、皆が受験で苦しんでいるのを尻目に剣の鍛錬に励んでいた。無論、相手は義輝であり、すでに腕前はかつてのレベルを取り戻していた。ちなみにこの世界に魔術がないのも確認済みである。痕跡はあるのだが、どうやら途絶えてしまったらしいというのが、彼の出した結論であった。
そんな時だ。ISを男が動かしたという世界を震撼させるニュースがあったのは。動かしたのは織斑一夏という少年だ。あの愚かな天才「篠ノ之束」の親友にして、「ブリュンヒルデ」の異名をもつ織斑千冬の弟である。これで何らかの作為を感じるなという方が無理である。案の定、「篠ノ之束」の介入を霜氏は確認した。これと元は何の為に作られたかということから察するに、恐らくISは本来男女の区別なく誰でも動かせたのだろう。それを女だからと自分を馬鹿にした男達へのあてつけとして、「篠ノ之束」は意図的にコアを改悪したのだと彼は推測した。なにせコアは「篠ノ之束」にしか作れないのだから、何をしようとも思いのままであるのだから。
まあ、それはさておき、このニュースの起こした波紋は小さくなかった。全世界で男に対して、ISの起動実験が行われるようになったのである。一人でたのだから、二人目もということを目論んだのだ。それに霜氏も巻き込まれたというわけである。
実は霜氏、この歪んでしまった世界が好きではなく、義輝と共にある程度現代日本を満喫したら、この世界自体から去るつもりであった。幸いその方法はメルクリウスによって仕込まれていたからだ。とはいえ、神座世界には絶対にいけないように仕組まれているのだが。
そこに降って湧いたのが、この起動実験である。霜氏は動かそうと思えば動かせてしまうのが問題であった。
なにせ、性別を偽るだけなら、自身の中にいる義輝を認識させればよいのだから簡単なものである。それ以外にも、コアには霊的防御が全くないので、魔術的に掌握してのっとてしまうことも可能である。霜氏にとってISなど最凶最悪の師匠メルクリウスの魔術の秘奥に比べれば、理解するのは容易いものであったからだ。
そんなわけで霜氏は動かすべきか、動かさざるべきか悩んでいたのである。ここで動かせば、二人目として面倒なこと山盛りの人生になるだろう。この世界からの移動が遠くなるのは間違いない。
とはいえ、ここで動かさないとなれば、後は平凡な人生となり、早々にこの世界から移動することになるだろう。ぶっちゃけた話、霜氏はそれでもよかったのだが、それに待ったをかけたのが義輝である。
義輝は今の世の風潮が気に入らなかった。彼女は肉体を捨てるまでは男として生きてきた人間である。男というものがなんであるかという拘りは、本物の男よりも強いものをもっていたのだ。自身の良人である霜氏を通して、大和男児の何たるかを示してやろうと彼女は考えたのである。元より負けん気も強く、世界が気に入らないからといって、他の世界に移動するのはなんだか逃げたみたいで嫌だったのである。それに無様と評した女に唯一の例外を除いて切り捨てた「男」というものの強さを教えてやりたくもあった。そして、それをやるのが自分の良人である霜氏であるならば、何とも痛快ではないかと。などなど色々あるのだが、要約すれば自分の良人である霜氏のかっこいいところが見たいということであり、それが9割方の理由であった。
無論、霜氏にはそのまま伝えたりなどしない。義輝が霜氏に言った理由は、「この世界の強者と死合いたい」「あの無様な女の鼻を明かしたい」ということであった。
これに霜氏は大いに迷った。義輝の強者との戦いたいという欲求はよく分かるし、「篠ノ之束」の鼻を明かすのは確かに面白そうである。だが、それに伴うデメリットを考えると迷わざるをえなかった。義輝の願いならなんでも叶えたいところだが、正直歪んでからのこの世界にはうんざりしていたので、どうにも頷けなかった。
「久方ぶりにお前の凛々しい姿を私に見せて欲しいのだ」
しかし、この言葉で全てはどうでもよくなった。
「承知!」
霜氏は瞬く間にISのコアを掌握し、自分に使える様に改造を施した。といっても、一時的なもので彼が1回動かせば元に戻るものでしかないが。そうこうしている内に彼の順番が回ってくる。どうせお前も無駄だろという目を係員が向けてくるが、知ったことではないと黙殺し、促されるままにISに触れ起動させる。ISが瞬く間に装着され、準備完了の声を伝えた。それと同時に爆発的な声が上がった。
「マジかよ!」「もしかして俺にも……!」「本当に二人目が!」「嘘でしょ、ISは女だけのものじゃ!」「千冬様の弟だけが例外と思っていたのに……」
歓声、驚嘆、希望、悲鳴に絶望、ありとあらゆる感情が会場内を交錯する。この日、二人目の男性IS操者が生まれた。そのニュースは世界に再びの驚愕を持って迎えられることになる。それは当然、生みの親である篠ノ之束も知るところになる。
「二人目?いっくん以外の男に?どういうこと?コアには何の情報も残っていないっていうのに、映像では確かに動かしている……。一体、何が?」
霜氏がISを動かしている映像を見ながら、束は歯噛みする。自分に分からないことなどあってはならないが故に。なによりも、自分のシナリオになかったが故に。
「邪魔だよね、コイツ。男はいっくんだけでいいのに!」
義輝に無様と評された狂気の天才は、苛立ちも露わにモニターの中の霜氏を睨みつけるのであった。
ぶっちゃけ束さんって、色々な意味で残念ですよね。コミュ障ですし、あれだけ好き放題やって結局本懐を遂げられていないあたり。
ISは正直、世界の設定が雑すぎる気がします。防衛戦力としては数が全く足らないISだけで女尊男卑になるとは考えられませんし、無理があります。というか全世界で467機しかないんですよ。普通に考えて、全部専用機にしますよね。量産できないんですから、量産型作る意味がないですし。後はドイツには小隊作れるだけのISがあったりしますし、IS学園なんかはどれだけのISを保有しているんでしょうか?
というわけで、突っ込みどころ満載なので、続きは多分書きません。書くと束アンチになりそうですし、ISの世界観を真っ向からぶっこわしそうなので。