──風が唸る。
私は今、とある移動都市にある廃市街地に建てられた、今となっては誰も使うもののいない廃ビルの屋上に立っていた。
何故私がそんな自殺志願まがいの行為を働いているかというと、それは数日前にドクターと交わした会話が起因している。
……その時私は、贋作事変(正式名称は『違法合成石生産未遂事件』らしいが、どちらにせよ私は非常に不服である)の実行犯としてドーベルマン教官に課された罰労働を終え、くたくたになって執務室の前を通り過ぎようとしていた。
丁度その時、たまたま半開きになっていた扉からドクターが私を発見したのだ。
「おーい、アルクス」
──? なんだ、何かあったかドクター?
執務室に入りながら私がそう問いかけると、彼は手元にあった書類の束をぽいとこちらに投げてよこした。仮にもドクターが扱う必要があるような重要書類を、そんな雑に扱うのは如何なものか。
とはいえ、わざわざそんなものを渡してくるということは、ここに偶然通りがかったとはいえ私を呼んだ理由があるのだろう。
その書類の題は──“Operation Valley of The Breeze”。
──“風の谷作戦”?
「ああ。クロージャが持っていた趣味の私物の中にいくつか映画が紛れ込んでいてな。ちょっと拝借して見させてもらったんだが……」
……まさか、その中の印象的なシーンを私とレユニオン共を使って再現してみたいと?
そう問いかけると、ドクターはコクリとうなずいた。
丁度いいので、私も機材を借りて問題のシーンを見させてもらうことに。
そして、やや古めのテレビの液晶がその有様を映し出し……
──ど、ドクター。そのだな……私に『コレ』をやれと?
──あっ、あー。こちらアルクス。
所定位置についた。これより『風の谷作戦』を開始する──ポイントまで対象を誘導してくれ。
『ヤトウだ、了解した』
『サベージ了解! まっかせて!』
『アドナキエル、了解です』
『こちらレンジャー、心得た』
私が通信機越しにそういうと、今回同行してくれた同僚の返事が届き、同時に地上を集団で侵攻しているレユニオンへの攻撃が始まる。
雨あられと矢が降り注ぎはじめ、その間を縫うようにして灰色と黒の影がレユニオンへと突っ込んでいく。
「ぐわっ!?」
「なんだ? 敵襲! 敵襲!!」
「くそっ、ロドスの連中が嗅ぎつけてきやがった! 本隊に通達しろ!」
「迎撃、迎撃しろ! 出し惜しみはなしだ、虫も猟犬も使えるものは全部出せ! この際節約なんて言ってられん、ラインを食い破られる前にここで食い止めるぞ!」
「そぉれっ!」
「──押し通る!」
どうやらこの集団は囮、ないし斥候に近い存在のようだ。本隊、というのがどこかにあるらしい。おそらくそこまでアイツらと距離は離れていない筈だ。
──ドクター、周囲の索敵許可を。アイツらはブラフ、どうやら本隊があるようだ。
「許可する。……しかし、随分と耳がいいな?」
──私のこの主兵装が人体改造の賜物であるのは知っているな? まあこんな大火力な代物を積まれるのは私としても非常に想定外だったが。
「一応話には聞いていたが……実際、最大火力で撃つとどれくらいの火力が出るんだ?」
──撃ったことがないし撃ったら確実に私も死ぬという話だから正確な情報は知らんが……なんでも、私の体内にあるオリジニウムを総動員して射撃すれば、規模にもよるが移動都市を半壊せしめるらしい。そも、この砲自体が本来は戦艦だとか航空機などに積むべきものだそうだ。
そういうと、ドクターは焦った調子でこう止めてきた。
「撃つなよ? 絶対撃つなよ!?」
──撃たんよ。言っただろう、撃ったら私も死ぬと。より正確に言えば死ぬというか恐らくチリ一つ残さず消し飛ぶという感じだが、ともあれ少なくともレユニオンどもを滅してロドスの平和を取り戻すまでは死んでも死ねん。
そういうと、ドクターは安堵からくるものと思われるため息をついた。思われる、と断定ではないのは、なにせまあ顔が隠れている物だからとにかく感情が読みづらいからだ。おそらく明確に正体が割られるのを防ぐためなのだろうが、しかし私としてはあまり感情を読むのに長けていないので勘弁してほしい。
……さて、それでだ。
私は被っていたサンバイザーのつばを下ろし、そのまま顔を覆う。
特徴的な模様が描かれていることもあり、傍から見るとまるで仮面を被っているようだとはよく言われるが、しかし。
(──これは、仮面よりもずっとイイモノだからな)
暗闇に覆われた視界に、ぽつんと一つの光が現れる。
それは一瞬にして私の視界を覆い尽くしたかと思えば、目の前には先ほどと変わらぬ交戦地点街が映し出される。
そう、これはサンバイザーに見せかけた射撃管制ユニットなのだ。むろん形状の段階から帽子としての用途も想定されているが、本命の用途はこっち。
──さて、本隊とやらは何処に……。
視界の縮尺を弄りながら、辺りを見回す。
正面──いない。
左────いない。
右──────いた。
──ドクター、敵の本体と推測されるレユニオン群を発見した。そこかしこにある瓦礫やビル群に隠れて正確な数は分からんが、少なくとも三桁は下らんな。……残党同士が再集結でも企んでいるのか?
「そうか。それだけ大勢で動いてるってことは絶対よからぬこと企んでやがるなアイツら……」
──そも、レユニオンの考えがこれまで一度でもまともだったことがあったか?
私が標的から目を外さずにそう言うと、ドクターは苦笑しながら「違いない」とこぼした。
そして、無線機を手に取ったかと思えば一転して真面目な口調で話し始めた。
「ドクターより各員に通達。敵本隊と思しきレユニオンの集団を発見。付近まで斥候部隊を引き付けたのち撤退せよ。繰り返す──」
『サベージ了解……ってこれ斥候なのか!』
『ヤトウ了解。なるほど、であればこれだけ必死なのも頷ける。本隊が逃げるまでの時間稼ぎという訳か』
『アドナキエル了解。どうしますか、ここで斥候を潰して本隊へと急行しますか?』
『レンジャー了解。あまり逸るでないぞアド坊、此度の戦はアルクス嬢の上限を確認するためのものなのだからな。むしろ、敵を倒すことよりもいかにしてアルクス嬢のバ火力から逃れるかが問題じゃ』
──聞こえているぞレンジャー翁。バ火力とは失礼だな、ちょっとビルを数棟倒壊させただけじゃないか。
とりあえず申し訳程度に苦言を呈してはみたが、流石に本作戦の真の目的までは口には出来なかった。実際の所、私の上限値を知るためというのは真実建前であり、本命はドクターのトンデモ欲求にあるのだ。
『その「ちょっと」の度合いがあまりにも大き過ぎるから言っているのだがな……』
レンジャーが呟く。それを聞こえないフリで聞き流しながら、私は尻尾を動かした。
ギリギリギリ、と微妙に関節部分を軋ませながら形を変え、砲身が私の肩に来るようにする。少しのラグを置いて、ピコンという電子音と共にFCSの画面右側に『Weapon System Connected』という表記が現れた。
──こちらの準備は整ったぞ、ドクター。どうする?
「よし、カウントダウン開始だ。合図と同時、君が怪我をしない範囲での最大火力でぶっ放せ」
──了解した。カウントダウン開始、発射まであと5──
体内のオリジニウムが励起し、莫大なエネルギーを生み出し始める。それを暴発しないよう細心の注意を払いながら制御し、砲身へと蓄積させていく。
──発射まであと4──
『こちらサベージ! 指定ポイントに到着、レユニオンの誘導完了! ヤトウとも合流したし撤退するよ!』
「よくやった。あとで撫でてあげよう」
『やったー!』
『こちらヤトウだ。乳繰り合うのは結構だができれば、その……私たちが見ていない所でやって欲しい。以上だ』
「安心してくれヤトウ、君もちゃんと撫でるさ」
『そういう話ではなくだな……っ!』
──発射まであと3──
『こちらはアドナキエルです。レユニオンの本隊を発見、どうやらこちらの目的には気づいていないようですね。慌ただしい様子ですが動き出す気配はありません』
『こちらレンジャー。斥候の方も気付いた様子はないな。だが、サベージ嬢やヤトウ嬢が突然撤退したことを疑問に感じているようじゃの』
「アドナキエル、レンジャー。君たちはレユニオンに本命を気付かれないよう、ポイントから距離を取りつつ攻撃を継続してくれ。ここで一人でも逃したらこちらの手札が一つ割れてしまう」
『『了解』』
──発射まであと2──
……前傾姿勢を取り、ビルの縁を掴む力を強める。自身が怪我を負わない範囲とはいえここまで大出力での砲撃は初めてだ、何が起こるか分からない。
その横で、ドクターが片手を真上に挙げた。
──発射まであと1──
そして。
ドクターが挙げた手を水平に振り下ろし、レユニオンどもを指して高らかに叫ぶ。
「──焼き払え!! どうした、それでも世界で最も邪悪な(病気に罹患した)一族の末裔か!!」
──ファイア。
瞬間、砲身から限界まで収束されたエネルギーが解き放たれた。同時、凄まじい反動が私を襲い、ビルの縁をガッチリとホールドしていた私の腕が悲鳴を上げる。
轟音と共に放たれたそれは、定めた狙いのままに一直線に突き進み──
「あ? 何が──」
──ビルを数棟貫通しながら、レユニオンの連中を跡形もなく焼き尽くした。
仕留めるべき標的がいなくなってからも、励起したエネルギーが使い果たされるまで砲撃は続く。
やがて、エネルギーが枯渇し砲撃が終結する。その直後、膨大な熱量によって限界を迎えた廃市街地の一角が、ドロドロに融解しながら盛大にはじけ飛んだ。
「──すげぇ。世界が燃えちまう訳だぜ……」
呆然とドクターが呟く。
──さて、満足してくれたか?
「……ああ。正直ここまで派手に行くとは思わなかったが、大満足だ」
その言葉に、私はフッと微笑み──そして、自身の体を支えきれずにその場に崩れ落ちた。
ぐぎゅるるるるる、と腹がとんでもない悲鳴を発するのを感じ取りながら、私は顔だけを突然のことに目を白黒させるドクターの方へと向けて言う。
──すまんドクター……調子に乗ってエネルギーを使い過ぎた……は、腹が……減っ、た……がくっ……
「あ、アルクスーーっ!!」
半壊した廃市街地に、ドクターの悲鳴がこだました。
その後、私はドクターのポケットマネーで基地の食堂にある趣味人用のデカ盛りメニューを全制覇することで事なきを得たのだが──それはまた、別のお話。
<キャラ紹介>
『アルクス・アンサングス』
本作主人公。体内のオリジニウムを励起させるのにもエネルギーが必要という(多分)本作独自設定により一発で餓死寸前までいった。ドクターが喜んでくれたし美味しい物もたくさん食べれたし大満足。
『サベージ』
むちむちうさぎ。ドクターの役に立ちたい一心で頑張っている。それとは別に戦闘狂な一面もあり、手に持つ大型スレッジハンマー(と思しき武装)による一撃は脅威の一言。大出力ビーム砲に興味を示しだした。
『ヤトウ』
最初から居るヴァンガード。原作では結構武人気質な面が強いが、本作ではちょっとクーデレっぽい感じになった。アルクスの一撃によって目の前でレユニオンが跡形もなく消し飛んだのを見て、流石にちょっと引いた。
『アドナキエル』
火力ではなく射速で攻めるタイプのスナイパー。いつもお世話になってます。アルクスのトンデモ火力を見てから微妙に彼女と距離を置くようになった。
『レンジャー』
初期から頼れる僕らのじいじ。アルクスの呼び方を戦艦娘に改めようかどうか最近ちょっと真面目に検討し始めた。
『ドクター』
原作主人公。アルクスのデカ盛り無双により財布がスッカラカンになり、しばらく真っ白に燃え尽きていた。その後、やけになって理性が跡形もなく蒸発するまで貨物輸送を請け負いまくり、教官とアーミヤに物理で鎮圧されて絶対安静を言い渡されたとかなんとか。
『クロージャ』
別ゲーにおけるD・ヴィンチちゃんとかA石とかKリーナとか(プライバシーに配慮し全て仮名)と同ポジにいる少女。後日事後報告で廃市街地の一角を消し飛ばしたことをドクターに伝えられ、貸さなきゃよかったかもと微妙に後悔している。