誰が来るかな?
──さて。では始めようか。
「何をですか!? なんで私は縛られてるんですか!? そしてそこで猛烈に暴れてる大きなズタ袋の群れは何なんですか!?」
私の決意は、目を覚ましてから開口一番叫び出したアーミヤ嬢によって早くも立ち消えしかけた。
こらこら貴官、生娘がそんな声を出すものではないぞ。貴官のイメージ悪化につながるだろう。
「その生娘にこんな声出させてるのは誰だってんですよッッッ!!」
ははは、何を言っているのか分からないな。
さて、さて、さて。今回アーミヤ嬢を呼んだのは他でもない、実は先刻あることを閃いてな?
しかし私一人だとどうにも
「お願いですからもう何も閃かないでください! あと人手って書いて何て読みましたか今!?」
気にするな。それで、本題に戻ろうか。
今回のテーマは──これだっ!!
そう言って、私はズタ袋の中身をぶち撒けた。さて、その中身は手足を拘束されて喋れないように猿轡までかまされたチェン…………間違えた、こっちだ。
「ちょっと待ってください!! なんか今とんでもない物が見えましたよ!? チェンさん!? なにしてるんですかアルクスさん!?」
暴れるチェンをもう一度袋の中に詰め、袋の口を縛る。そしてそれをその辺に放り、もう一つのズタ袋に手をかけた。
では改めて──今回のテーマは、これだっ!!
手近にあった袋を引っ掴み、中身をぶち撒ける。
中から飛び出したのは、活きのいい大量の──オリジムシだ。
その時、ロドス基地に悲鳴がこだました。
それを聞いたオペレーターに曰く、生理的に極限まで苦手なものが突然目の前に飛び出してきたような、そんな悲痛を湛えていたという。
「きゃー! きゃー!! きゃーーっっ!!」
む、どうしたアーミヤ嬢。別になんということはないオリジムシだぞ? 凶暴性も別に……低いわけではないが、まあ許容の範囲内だ。
そう言って、私は袋の中のオリジムシを一匹掴み、アーミヤ嬢の方に雑に放り投げる。中々活きがいい、元気にビチビチ言っておるわ。
「ぎゃーっ!!!」
哀れ、放り投げられたオリジムシは即座にアーツを食らって爆発四散した。ああっ、貴重な食材が! アーミヤ嬢、貴官なんという事を!!
「『食材』!? 言うに事欠いて食材って言いましたか今!! 正気ですか!?」
正気も正気だ。ドクター風に言えば理性が有り余っている。
……一応言っておくが、これでもちゃんと考えて調達したんだぞ? 何人かに計画話したら全員に「何言ってんだコイツ!?」みたいな目で見られたが。……別に傷ついたりとかしてないからな。
さて、それは置いておいて、と。
今回私が憂えたのは、他でもない食料事情についてだ。
「それよりも自分の頭を憂うべきでは?」
曲がりなりにも同僚に対してなんて言い草だ。これが私でなかったら大ごとだぞ。
とにかく、とーにーかーくー! 経緯も過程も全部すっぽかすが私はこう思ったんだ、『資源は最大限効率的に活用すべき』だとな!
という訳で!! 今回のテーマは──否、今回のテーマも『
苦労して集めたこの感染生物どもを片っ端から捌いて喰らうぞ!! ちなみにドクターにも許可はとってあるから何も心配はいらない!!
「ぐわあーっ!! オリジムシどころかハガネガニにバクダンムシまで!? 何考えてんですかドクターッ!!?」
どさどさとリノリウムの床に次々築き上げられる感染生物の山を見てアーミヤが嘆く。
ただ、此奴らは問題ないにしてもあともう一種がな……うん……。
唯一中身を空けていない袋の中に手を突っ込む。じゅう、という音と共に袋の中から微かに黒煙と有機物の融ける悪臭が顔を覗かせるが、構うことなく私は中身の内の一匹を引きずり出した。
──っと。さて、コイツはどうしたものか……。
「アシッドムシ!! 素手!! 防護手段!!!」
ははは、言いたいことは分かるが単語だけで話すのは流石にどうかと思うぞアーミヤ嬢。
だが安心したまえ、防護手段くらい私も確保してあるとも。実はな、今の私。素手に見えるだろう?
アシッドムシの吐く酸毒によって今なお融け落ちている手をこれ見よがしに振って見せると、アーミヤはこれでもかと顔をしかめた。
──さて、それでな? 実を言うとこの状態ですでに防護柵は十全に機能しているのだ。見た目のインパクトに騙されてるようだが、アーミヤ嬢。一旦その偏見を全部取っ払ってみたまえ──どうだ、何か気付くことがないか?
「え? あ、ああ……そういえばなんか、腕太いですね。太りました?」
泣くぞ? いくら『めげぬ・挫けぬ・へこたれぬ』がモットーの私でも流石にそろそろ泣くぞ? 全くの事実無根だし仮に事実だったとしてももう少し言い方というものがあるだろう?
コホン、それでだ。その貴官が言う所の『太った腕』というのが他でもない私の講じた防護策なのだ。その名も『対有機毒性用人工防護皮膚』、人呼んで『分厚い面の皮』!
「もうちょっといい呼び方はなかったんですか。っていうか人呼んでってそんな代物があること自体知らなかったんですけど私」
そりゃそうだ、作ったの私だし完成したのつい昨日だからな。人呼んでって言うか私しか呼んでない。
まあ、近々特許やらなんやら権利関係クリアしてから販売体制に入るし、もうしばらくすればこの呼び名も多少は広まるだろうさ。
……ん? どうしたその顔は。私がその辺り何も考えずにやっていると? ははは、冗談がきついなアーミヤ嬢。私とて人間だ──理性も感情も打算も、当然損得勘定だって持ち合わせている。取れる利権は取って置くに限るだろう?
さて、では本題に戻ろう。このアシッドムシ、どうやって調理したものか。
「……まるで他の感染生物の調理の心得はあるみたいな言い草ですね?」
当然。なんなら免許も持ってるぞ? ほれ。
懐からプラスチックのカードを取り出し、表の面をアーミヤの方へと向ける。
「は? ええと……『普通感染生物調理師免許』!? 誰ですかこんなトンチキな資格認証したの!?」
ちなみに普通免許で扱えるのはオリジムシ種までで、ハガネガニやバクダンムシになってくると大型特殊免許が必要になってくる。地味に面倒だったぞ、講習。
しかしアシッドムシはなあ。実を言うと講習の方で触ったのも最低限の下処理は開催側が事前に済ませていたし、こんな一匹丸ごとの状態で扱うのは初めてなのだ。下処理屋にでも投げておくべきだったか……?
まあいいや、あとで考えよう。
袋にアシッドムシを叩き込み、私は床に積み上げられた山の一つに手をかける。
「ちょっ、それバクダンムシ!! 起爆しないんですか!?」
安心したまえ、コイツに関しては現地で下処理だけ済ませてきた。流石に輸送中や調理中に自爆されたらことだからな。
バクダンムシは体内で見た目に似合わず膨大な量のオリジニウムエネルギーを保有しているが、コイツが自爆するのは死に際、要するに自身の体内のエネルギーを制御する余力すら失われたときだな。つまり、速い話がガス抜きをすればいい。生成源である体内の鉱石をブチ抜くなり切り落とすなりして本体から無理やりパージさせてしまえば、あとは生存本能に従って暴れているうちに勝手にエネルギーが枯渇するわけだな。ま、大抵は切除した段階で盛大に自爆するから成功するかどうかは賭けな訳だが……。
ただ、そのリスクを孕んででも狩猟するだけのメリットは当然ある。バクダンムシは体内の莫大なエネルギーをその身に押しとどめるためか、身がかなり引き締まっていてな。海産物で例えるならばとても厚身のイカという感じなのだ。
「……私の事をご飯で釣ろうとしてませんか?」
ははは、そんなまさか。……それでな?
まあ感染生物の味はさて置いて……ドクターは料理のできる女性が好きらしい。
私がそういうと、アーミヤはすまし顔でふう、とため息をついた。
「アルクスさん」
どうした?
「私がその程度の情報で釣られると大至急縄をほどいてください全力でお手伝いします」
ははは、言葉の前と後ろで言動を統一したまえよ。
だがその心意気やよし! 存分に作り、存分に食らい、そして存分にアプローチしたまえ! 休んでいる暇はないぞ貴官!
──ああ、あとチェン殿。いきなり強制連行しておいて申し訳ないが、貴官にも後で毒見してもらおう。まあ、
それだけ言って、私は猛然と暴れ出したズタ袋を尻目にアーミヤを開放し、自身の仕事へと取り掛かった。
<キャラ紹介>
『アルクス・アンサングス』
本作主人公。しれっと言っているが実は感染生物の調理師免許は非常に取得難易度が高いことで有名。
『アーミヤ』
感染生物が生理的に無理。ただしドクターの為ならば多少の嫌悪感は気合でねじ伏せる。
『チェン』
しっぽのふさふさをモフり倒したい(迫真)