私、救済手段がなければ作るタイプです。ドヤァ 作:母は歯はいい
キリトくんがオススメしていた準決勝を書きました。
なるべく四月になるまでは三日か四日ごとに更新するようにします。
ですので、感想はよろしくお願いします。
それではお楽しみ下さい。
3days ago
「俺はね、キリト君に期待していたからこそ今まで賭けたのさ。それも
Duel Day
決闘場の舞台に上がれば誰しもが感じるだろう、ピリついた緊張感と客の視線。もちろんこういうどちらも実力があることを知られた試合は誰もが進んで見ることになる。例えば、ただのバトル好きに始まり、話のネタにする記者、スタイルをパクって参考にする
「蛮勇はネギを背負う、だろ? ノワール」
そう言って振り向くと懐かしの悪友がいた。恰好はそこまで変わらない。白がベースのケープに右太腿にナイフホルダー。笑顔を常に浮かべた表情と俺を完全に見下ろしてしまう長身に癖の少ない長髪。ただ、リーファから軽く聞いていた通り、種族はウンディーネらしく昔とは違って髪は真っ青。藍色に近い。
そんな彼はリアクションだけはオーバーだけども気づくことは前提だったのか。なおさらにやつきは止まらない。むしろさっきよりもニヤニヤしている。
「へぇ、気づいてたのか。さすが魔王殺しの【黒の剣士】だ」
「狂犬使いの【クーフーリン】には勝てないって」
「槍は滅多に使わねぇんだけどな。……魔法に関しては走った方が速い」
「……ははは、なおさらクーフーリンだよ、ノワール」
すねるように口を尖らす彼は駄々をこねる少年のようで俺に比べれば童顔じゃないのにふとした瞬間に子どもに見えてしまう。……彼に慣れ親しんだからかもしれない。
ノワールの言うことは正直に聞くべきではない。ノワールという奴はトランプの中でジョーカーの持ち主のようなものだと思う。持ち主だとカードじゃないって批判されるだろうけど、こっちの方が俺はしっくりくるんだ。効果的なタイミングでカードを使い、ジョーカーを引き立たせる。だから、周りは見事にうまいこと扱われる。
というわけで、客観的に見た方がノワールの含めた意味をより理解できるようになるってことはずっと喋ってやっと当たりをつけた。だけど今でもあの人の言いたいことの全ては分からない。
だから、俺はあえて……ストレートに。
「それで決勝で会えた時はどうするんだ? 全力でやるのか?」
お互いに笑顔は包み隠さない。俺は挑戦的な笑み、ノワールはえへへと照れ笑うかのように。けれど、ケルト神話が好きなのは関わってきた誰もが知っている彼だ。
「それもいいが、影の国でならガチで」
「あんたは別として俺が入れるかが問題だな」
俺は苦笑で苦笑いせざるを得なかった。ガチでやる気はまだ。流石、クーフーリンのネタを使ってきた。『誰もいないところでタイマンなら受けて立とう』ということだろう。相変わらずで惚れ惚れする。
「くかか。話はとりあえず終了。また次の機会に」
「あぁ、分かった。また今度」
ノワールの冗談は言葉遊び。いつでもそれを忘れないように話しあうものは察知する。そして、理解する。その瞬間になるまで信頼せず、期待せず、万事に備えて、行動を詰める。あっちの
あの後から少しだけ歩いた。アスナやリーファたちとの待ち合わせに少しだけ時間があるからというのも本音だが、もう一つ。さて、とりあえず露店街まで足を進めようか。考え事がしたくなってきた。甘ったるい手ごろなデザートをいくつか。片手に持って試合を見るのがちょうどいいだろう。
「待たせたな、アスナ。それとこれ、やるよ」
「遅いよ、キリト君。あと、ありがと」
買ってきたデザートは袋ごと渡しておく。このあと出番もあるため通路側の席は温めておきましたなんてクラインからのジョークを言われながら、苦笑は浮かんだが笑い交じりの厚意に素直な対応をさせていただく。
舞台を見ればすでにノワールはいた。ってことは仕込みは終わりか、してないか。どちらにせよ、見世物的なデュエルなんだろうな。純粋に楽しませてもらおう。木製の温かいベンチに体重をかける。
相変わらずノワールの周りへの盛り上げの働きかけは人の心理を突いているからこそ観察する価値がある。けれど、背後の座席、少し高めな椅子に座るシノンは不機嫌な猫のようにジト目でノワールを見つめ続けていた。
何かやらかしたんだろうな、と思いながら前を向いていると肩を叩かれた。
「ねぇ、キリト。少し前にノワールと会ったんだけど、あの人すごいわね。なんというか、ただのゲーマーじゃないわ」
「あぁ、だろ?」
アイツがしたであろうからかい。さらにそのからかいに含まれる意図を経験から想像していると、俺の口からクククッと笑いが漏れた。笑っている最中だから、もちろんシノンのリアクションは見れない。だけど『気持ち悪いやつね』なんて呆れたリアクションで俺の次の言葉を待っていることだろう。だから、あえて後ろは向かない。ノワールは直接見た方が面白い。
そうだ。もう昔から知っている。アイツはただのギャンブラーだろうに。
『……ねぇ、兄ちゃん。こっちで会うのは初めてだけど、絶対手は抜かないから』
カウントダウンの段階なら一人ずつスクリーンに映すのか。面白い試みだ。多分カウントダウン終了まで決闘者の声はマイクでコールされている。ノワールの対戦相手がユウキとは面白い運命だとも思うけど。それは置いといて観客席から見物させてもらおう。
ユウキは剣帯からゆっくりと愛剣【黒曜石の剣】を抜き放ち、自然体なまま剣を隠すように構えた。表情にはいつも通りの優し気な笑顔が浮かんでいる。最近も見た可愛らしい笑顔のままノワールの一挙手一投足に集中している。その眼にはやはり情熱が宿っている。ただ、俺は二人の関わりがどれだけのものか全く知らない。だけど並大抵のものじゃないんだろう、ユウキはいつかのように真正面からぶつかる気だ。
『俺のことを兄ちゃんなんて……マジで泣きそうなくらい嬉しんすよ、ユウキ! だがな、そう簡単に負けるつもりはねぇっすから!
ノワールは太もものホルダーから両刃ナイフを親指と人差し指だけで一本抜き取り、クルンと回して右逆手に持ち替え。距離は遠くて見えづらいけど……持ち手には小さな穴があるのか? ってことはあれレプラコーンの職人にギミックさえも頼んだのか? ……何というかもう、細かいなぁ!
クラウチングスタートよりもさらに重心を下げる。左足を右足よりも少しだけ前に、加速のために右足を思いっきり引く。特徴的な構えを事前に見せるのは戦闘スタイルのひけらかしにしかならない。だが、本当にアイツらしく考えるのだとすれば……、ただの演技じゃない。
いや、それにしてもあの笑みに始まり発言もだが、今回煽りはまだ抑えてるのか。真面目に闘うのか? 観客をいつも通りに煽ってたけど。
『カウントダウン! 10!』
カウントダウンに合わせユウキの口からはニヒヒッという笑い声が漏れた。ノワールの笑顔も悪辣さが見て分かるくらいには口角が上がりすぎてる。その笑顔を見たユウキは引いた雰囲気ではない。……むしろ慣れてるのかもしれない。
『すごいスタートだよね! 見た目だけじゃないよね?』
ムフフと笑う彼も相変わらずすぎてヘイトを溜めまくっているのは自覚しながらも視線はユウキに固定されている。
半身に構えた剣を自分の身体よりも前に、少しだけ体勢を低く前傾姿勢に。けれど、あれじゃあ前からの攻撃には強くても背後からの防御に後手になる。あれをどう防ぐんだろう。
『ハハハ! 当たり前だっつーの』
『5!』
『4!』
『3!』
『2!』
『「「1!」」』
『START!!』
気づけばノワールはユウキの背後に逆手のまま右手でナイフを立てていた。しかしそのナイフをユウキは振り返ることなく剣の腹で捌き、完全にぶつけていた。後ろを見ないまま殺気だけで反応するなんて見事な剣舞だと言える。かといって、それがノワールにとって予想外かと聞かれれば想定内なんだろうなと思わせる態度なんだよなぁ。
ノワールは何も持っていない左手で両目に手を当てるように、わざわざジョジョ立ちしてやがる。まぁ、慣れてないと腹が立つか。
「おお残念っす! これでダメージが入ると思ってたんすけどね!」
「そんな簡単に入るわけないよ、兄ちゃん!」
けれど、プレイスキルだけを分析すれば並大抵じゃない。
紛れもなく神速。残像すら残さない、技術を使わない圧倒的な加速力。だが消えたように見せることは正直ノワールのデュエルを見たことあるやつならいつものことだ。パターンは変わるけれどいつも通りの歩行から急に加速力Maxにして姿を消したり、神速並みの全速力から減速力をMaxにして動きを止めたりという視線を外す動きは彼の定番だ。
今回
けれど、ユウキの俺を越す反応速度は余裕で彼の行動に対応したに違いない。正面からの走り出すための後ろ足を見逃すことはなかったんだろう。あれだけ体勢を下げた結果後ろに下げた右足を、見逃すことがないなんて非常に優れた観察眼と動体視力と反応速度だ。
背後に回って逆手のナイフで右肩を外すか、はたまたナイフを打ち込んで毒のデバフか。つまり部位欠損もしくは部分麻痺を狙ったわけだが、ユウキは右利きだ。どちらにせよ片手剣を持つユウキに対して右手を落として優勢な状況を作るのは分かっていた。先手としてはこれ以上ないくらいに正攻法。それはもちろんユウキにも分かっている。……倫理とか女の子相手だろうなんて言葉は『マジでやらなきゃ失礼だ』という返答をするタイプなので誰からしても予測はしやすいのだろう。
というより、ノワールは硬い相手に対して首や関節など比較的防御が弱いところを狙う。特に硬さを重視する人やゴーレムなどの防御が固いやつにはそれが顕著だ。まぁダメージが入らなくてヘイト稼ぎにしかならないからなんだけど。だからこそ彼には第二の手が待っているんだけど今回は無理みたいだ。
「とぉりゃっ!!」
「うわっ、廻るな!」
致命的な毒を与え欠損狙いをするため、背後から覆うように伸ばしたノワールの右腕。それに対応するユウキ、彼女はその武器を持つ右手目指して左足を軸にした回転からの結構大ぶりな斬撃。もちろんソードスキルはお互い使う余地はない。けれど、あれがノワールに当たれば一撃必殺とは言わずとも腕を落とすことになるだろう。AGI極振りステの弊害だけど、彼は文字通り紙装甲。防御力はないに等しい。そんなノワールは易々と右腕を落とさせることはしない。
いつの間にか持っていた左手のナイフでその斬撃を腹から殴るように弾いて軌道を変える。だがユウキの斬撃の威力はそのままであるため、スピードは変わらない。左のナイフで軌道を変えながら、引いた右手で捌いた剣を地面に押し込む。そのために右のナイフは順手に持ち替えてユウキの剣を加速させる。
実際、あれが一番簡単なリスクを取らない対処法だったのだろう、ノワールの防御力的に。あのデスゲームからスピード重視の装備もプレイスタイルも変わってない。AGI極振りのノワールに対してSTR極振りの相方:『Carol』がいたからこそあの二人はコンビだった。それがゆえに第一層から攻略組でその中でもネタがネタにならなかった。
「こっちの狙いをそのまま返してくるなんて少々悪趣味じゃないっすか?」
「ボクだって今回勝ちたいんだもん。勝たせてもらうね!」
「ヤダ」「ケチ」
ユウキはその圧力を敢えてパリィして抜け出す。ノワールの崩れた体勢に一手目は刃を縦にして心臓への突き。急所を的確に狙ったレイピアにも似た軌道のいい技だ。対してノワールは反った状態からその突きをバク宙で避ける。躱したその突きに対して今回初めてスキルを使用。あのモーションは何度か見たことあるし。間違いない、体操にも似た技が沢山ある《軽業》だ。しかし今までと異なるものは一つ。この世界には軽業スキルそのものとして存在しないこと。
「モーション中途で停止オッケーもフェイクになっていいっすね!」
上半身を反らしてのバク宙。ここまでくれば何が来るか予想は立つが、仮想の重力に唾を吐きつけるようなそのスタイルは本来の発動のさせ方ではない。跳び上がって首より上にある兜や剣に対して衝撃を与えるための大技だ。けれども彼は二点倒立のまま開脚。臍をユウキに向けるため反転、同時に地面から足を浮かせながら交差させ、両爪先を外側に。あれは軽業スキル唯一の斬撃特性を持つ強力な技だ。
「『レッグ・シザース』!」
アイツの狙いは恐らく突きのために伸ばした剣を持つ手にあり、武器を離させることが狙いなんだろう。もしそのまま手を引こうなんて狙いなら地面に手を付けながらでも持つナイフを投げつけるんだろう。アイツの定番『投剣スキル』は元々よく追い込みに使っていた。そのあとにさらに追い込むだろうけど、ユウキはどうするんだ?
まぁ、未だにその軽さで全身逆さ状態、両手で剣を抑えつけたまま攻撃に移るなんてアイツも変態プレイングなんて言われてもおかしくない。それほどの突飛なプレイングは相変わらずすぎて面白さがあるけれど、真似させないためなんだろうなとも思う。しかし、ユウキは逆に剣を離し一歩だけ距離を置いた。まさか、徒手空拳?
「うわっ! 当たらねぇ! 少しは迷ってほしいっすわ!!」
「ふっふ~ん♪ まずは避けてね!!」
「いや、躱せねぇよ!! けど、そっちこそだぜ!!」
ノワールはそう言ってナイフ二本をそのまま投げ飛ばした。狙いは臍だろう。あのナイフには麻痺毒がデフォルトでカタログに登録されているのは結構知らされている。デバフでごく僅かだが一定の確率で決まるからデュエルでも定番の武器で、そいつを両手で平投げだ。
ユウキの目の前で交差する軌道のそれはリーチの短さがデメリットである『体術スキル』を抑えるためだろう。その間に頭から地面に激突、受け身を兼ねながら重心を後ろに。そして、距離を取る。迎撃しないため武器は持たない。移動しづらくなるからだろう。それでもしっかりといやらしい手だ。うん、攻めづらい。
けれど、ユウキはそのナイフを観察しながらそのまま攻め込んでくる。小柄な高さをさらに低く保たせ地面に手をつくほどに低く攻める。左足での重心をかけることで響き渡る重い踏み込み音、さらに距離を詰めるための右足での踏み込み。それと同時に起こる刺されるように撃ち込まれる右の正拳突き。右手に集まる燐光は黄色。狙いは心臓の真上から。
「は~っけい!!」
「いいね! めちゃ好みの一発! どの位のダメっすか!?」
そういってノワールは少しだけ下がった重心を密かに上げる。心臓狙いを密かに腹へと動かそうとしているんだろう。そして、見事な一発になってぶち込まれた。……ノワールにいらだってる奴にはいいストレスの発散になっただろうなぁ。
ノワールは見事にくの字になりながら弾き飛ばされるように吹き飛んだ。けれどユウキはそれ以上に攻めることはない。あのAGIを持つノワール相手だ。明確な隙を作らないためだろう。
「うげ! 六割もなんて結構なダメだぜ!」
「ふふ~、でしょ?」
「……切られたらすぐに負けでしょうね。……変態だわ」そんな声がシノンから漏れた。アハハハハと笑い続けるノワールを見た結果だ。シノンが漏らしてしまった理由はプレイスタイルと、ステ振りに対してだろう。プレイヤーみんなが笑いながらも俺は非常に冷静になった。ただ、まぁ、「……激しく同意」だけども。ん? 無意識に口出てた? ……そんなぁ
弾き飛ばされながら背中を擦りながら速度が落としてやっとバク転。左ひざをつきながらもユウキに向き直るノワール。その顔には確かに微笑みが残っていた。……うん、相変わらずだけども。
だが、ノワールは代わりの武器を持つ気はないのか? そのまま立ち上がり、両の拳をぐっと握り左を前に半身に構えた。右利きだからか?
代わってユウキはといえば離した剣を拾いに。
「俺もリアルファイトは結構色々やるんすよ?」
「へぇ、やっぱり強いんだ。ボクはこっちの方が自信あるから「ズル!」なんて言わないよね?」
「ズル!」「言うと思ったけど聞いてない!!」「うん、だろうね。知ってるよ!」
そうお互いに叫んでから走り出した。先手はユウキ。肩からの斜めな切り下ろしだった。それに対しノワールは右足での踏み込み。さらに加速を?
けれど違った。ロールターンだ。右足の踏み込みから両手を広げ、舞うかのように重心を落としながら回転する。ユウキはその接近にまんまと引っかかったのか、肩に置いた剣をそのまま振り下ろした。その剣の軌道のさらに外側をノワールは走り避ける。彼の右手には拳が握りこまれていた。
「いくっすよ!! ユウキ! 鳩尾!!!」
「よっしゃ! 来い!!」
「秘儀:コピー
態勢を低くしてからのキレ満載の鋭いアッパーカットがユウキの鳩尾に。ユウキの拳での攻撃と同様に今度はユウキでさえも上に跳び上がるように吹き飛んだ。
後部に全体重をかけた状態で剣を避け切り、右足を浮かせたまま力を籠め、上体を腰から右手のタメを作るため捩じる。前への重心移動を行いながら右足を踏み込み、狙いは宣言通りだった。その一撃はダメージには、そこまでの威力にならない。STR値がもう少し欲しかったのだろう。逆にCarolなら過剰すぎるだろうけれど。けれど、あの技は威力を弾き飛ばす力に変換させる。地面に割れ目を起こせそうなほどの踏み込みだ。凄まじさは見てわかる。
知らない名前の必殺技。けれど、力強さとその練磨の凄まじさはあの世界の誰にも負けず、劣らない。
「ダメージにはならないけど、かっこいいね!!」
「ロマンたっぷり!! 一度っきりの練習業。うぉぉぉ、成功した!!!」
一人興奮するノワール。いや、立ち上がって目を輝かせるユウキも多分興奮してる。
舞台上の人間と観客のテンションに差はあるけれど、男子の観客に何かロマンらしいものを与えたらしい。一部は拳を握る奴も現れた。……かくいう俺もだけど。だけど、女子に対して鳩尾に一発だからなぁ。アスナを代表に、みんな少しばかり怒ってるよ。
「けど、もう時間がないね。兄ちゃん」
「じゃあ、後一撃だ。最後、俺の武器を一つだけ解放させて半分以上削るっすから」
「いいね! やろう!!」
互いに笑いあい、ユウキは剣を持つ。その構えは迎撃するため、胸の前に構えた。あれは少し前に見せてもらった構えだ。
代わってノワールがストレージから持ったのは
「火力重視。狙い撃つは心臓。こいつだけは言ったのは
そう言って常に微笑みを浮かべていたノワールは笑うのはやめた。正確には一人の漢に。いつか見たその姿は白装束だけどもここでゴムを用いて髪を一つにまとめる。
あぁ、やっと
「その心臓、もらい受ける!」
「ふーっ! ……かかってこい!」
ユウキまでの距離をいつもより多めに開けた。
彼女の準備ができてからノワールは一つの深呼吸。
一歩だけ。だが地面にさえ亀裂の入る踏み込み。
その先で跳び上がり投擲態勢。タメは空中で一瞬。
それを見たユウキも剣の握りをさらにきつく。出来上がった迎撃態勢。
「
その槍は間違いなくユウキへと進んでいく。どんな技なのか知りはしないけれど、このゲームは心臓を貫いても死なないことがたまにある。間違いなく体の中心を貫通すればどんな攻撃でも一撃で相手を倒せるが、少しでも外せば数ドットだけ残るらしい。欠損ダメージでその残りもあっという間に減っていくのも知ってるけれど。
さて、時間はもうあまり残ってない。ユウキの攻撃をノワールが上手く躱して来たのもあるしノワールの攻撃が軽過ぎるというのも言えるだろう。けれど、タイムアップ時のHPの残りの多い方が勝ちになる。ノワールの残りは4割弱、ユウキは九割くらいか。つまり、あの槍で心臓周辺を貫けてしまえばノワールの大逆転勝利だ。
こんなのユウキに応援が、ノワールにブーイングが響いてもおかしくないけど。
近づいてくる槍に対してユウキは思いをかけるのか願いを託したのか、目を瞑っていた。しかし、カッと目を見開きその槍に対して彼女の決め業ともいうべきOSSを繰り出した。
「マザーズ・ロザリオ!!」
刺突型の十一連撃。☆の形を見事に小さくして、全ての攻撃でその槍を受け応えるのか。俺の知る限りどちらの技も本来なら相手のHPを微塵も残さない必殺スキルだ。それが火花を散らしながら対等にぶつかり合っている事実が凄まじく眩かった。
一撃目、正面からぶつかり確実に絶対的な威力を落とした槍、それがもう一度威力を増した。一瞬だけ進んでいた方向とは逆方向に戻ったのに、もう一度進んだのだ。
「ゲイボルクはね、心臓に当たって相手が死ぬことは決まっているのよ」
シノンの言葉だった。
「だから、弾いても心臓狙って奇々怪々な軌道をもって追尾する。けれど、真正面からぶつかり合うことで反らす。その結果、『自分の身体のどこかに当たり心臓に当たらなかったから殺すことはできなかった』という感じで決まった結果を捻じ曲げることがこのゲームではできるようなのよ。殺し方が決まっているからそれ以外では殺せないみたいな解釈なのかしら。ただ、
どれだけの勇者だろうが普通はできない。クーフーリンの逸話通りに。
もし万が一それができたら、影の国に行って鍛錬を積んだなんてログがないことによるノワールの力量が足りないのか、
あのユウキのマザーズ・ロザリオがノワールのゲイ・ボルクを超えるほどの威力で正確に斬り返しているなんて言う無茶苦茶なスキルなのか。そんな理由しかないのよ」
シノンの理屈がプレイヤーからしてみれば驚愕の一言過ぎるけども、代わりに大ダメージは加えられるのか。ただノワールが撃ってから動かないのはなぜだ? まさか
「……なんて、鬼畜なんだ。キャロルがいないとモブが出てくるボス相手に使えないなんて……」
「そういうことなんでしょうね。もうピーキーというか、アホだわ」
こんな会話をする間にユウキの迎撃は八撃目まで迎えていた。
九撃目、ユウキは一歩引くしかないほどに距離が詰まってしまった。突きである以上、対象と自分の間に明確な空間が必要だからだろう。
十撃目、ついに槍が真っ直ぐに引かず、上へと少しだけぶれた。ずらすことに成功したという事実だろう。けれど、威力はさらに上がっている。迎撃に使える最後。十一撃目、
「はあぁぁぁぁ!!!」
最後の一撃とともにユウキの声が会場に響き渡った。いや、それ以外に声は聞こえない。会場を埋め尽くす音は槍が自ら進むジェット音とそれに触れることで悲鳴を上げる黒曜石の剣だけ。もう俺は目を外せなかった。流星のような跡を残す槍は間違いなく神々しかった。
十秒以上かけて迎撃し続けるユウキの剣。
絶剣は、ついに破った。
弾かれることで右肩を貫きユウキの腕は吹き飛んだ。剣を持ったままの右手はそのまま空を飛び、悠然と剣の重さでカランとシンプルな音を立てて槍とともに落ちた。その光景をユウキもノワールも含めて全員の瞳が見開かれながらその姿を見送った。
「はぁ。あと、さんじゅう、秒は、あるけど。これは、俺の、負けだな」
静寂な空間の内、息荒れても密かに聞こえてくるその言葉の後、ノワールは
「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」
歓声が包み込んだ。『おめでとう』や『お疲れ』というような言葉ではなく紛れもなく嬉しさで涙を流しながら泣き叫ぶ歓声。
それが会場全てを余すことなく包み込んだ。
「あら、負けちゃったわね」
「いや、いやいやいや、シロさん。俺、結構頑張ったよ?剣持てなくした相手にデュエルでリザインしないなんて俺は嫌っすよ」
「ねぇ、兄ちゃん?」
「なんだよ、ユウキ。俺の隠し技、真正面から迎え撃ってくれちゃってさすがっすよ!」
「そんなことより、ボクが勝ったんだから、一つだけ言うこと聞いて?」
「ん?いいっすよ。飯はマジで旨いところならいくらでも紹介できるっすよ? 肉がいいっすか? 俺もすげえ賛成っす! 今日行こ!」
「ボクとお付き合いしてよ?」
「ほゑ?」