私、救済手段がなければ作るタイプです。ドヤァ   作:母は歯はいい

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元のセリフを分かってくれると嬉しいなぁ……チラッ


それではどうぞ!!


UW編 −1話 どんな奴に対しても救済ルートは必須だろう?[エミ○風]

 ————ゲームってのはあくまで再現なんだよ。どこまでいっても現実のリアリティを超えることができない。

 

 ノワールの言葉に確かにそうだと俺は首を振った。触れあうことで得られる情報もひどく限定的であることは俺も納得してしまうから。

 

 ————例えば嘘。このVRゲームなんか脳波を見て対応する感情を類推し、瞬間的な表情を写し込む。現実ならその脳波から表情筋にアウトプットしているからノイズが入る。多分このゲームで無愛想な奴は少ないだろ? だから、むしろオーバーになってしまう。だからこそ、微表情の時間が長くなって本音が現実より探りやすくなる。というわけでポーカーとか賭け事をするなら現実よりもフェアじゃない。

 例えば金の価値。アインクラッドではコルだがこれを定めたのはカーディナルだ。参考にして産出するための母集団は国によってクオリティーとかがバラバラだ。さらに言えば同じ国でもその時の気候とかで出来上がる環境が丸っ切り違う。だからこそ、希少性と需要プラス強いてあげて重要性に合致してないといけないけど、そいつにあってる。だからこそリアルよりもフェアだ。

 

 他にもいくらでもあるがシステムのメリットデメリットを推測・実験・理解して利用できれば一番強いと思うんだわ。例えば————

 

 

 

 

「んー……。スキルの振れ幅……どういう意味だ?」

「ねぇ、キリト! このソードスキルを教えてくれない?」

「もうそんなところまで覚えたのか、ユージオ! 勿論教えることは全部教えるぜ!」

 

 巨大な樹木:ギガスシダーを切り株にするためずっと鍛錬を続けることになった。最初は斧を用いて、次に青薔薇の剣を交互に振るって。単純ではあるけど、理想の姿ってのは必ずあるんだ。だから、それを目指して剣を振る。

 それ以外の時間はたくさんの思考とそれに伴う試行を続けた。あのデスゲームの中にいた時よりも鍛錬に近いものを続けていることになっているかもしれない。そう思えば口から照れの混ざった笑みが漏れそうだけど、このままじゃ勝てない。勝てないんだよッ、アイツに!! 

 

 職を全うしたのち、二人で旅に出たがその間もできることは全てやってきた。旅に出てからこの二年間はずっと似たようなことを一人で考えていた。ノワールに提出するための課題みたいなものだと考えていたのもある。そんな考えることが絶対必要なものだと思えば常に考え続ける。最適解とその手段を。

 

「まぁ、それに……」

 

 闘うのは決めている。互いの憧れで、友人だからこそ、最後の勝負。

 

 

 

 目を瞑れば浮かんでくるのは何度も隣にいた、そう。ノワールの姿だ。相手を煽りながらも冷静な、というか冷酷なプレイは絶対に変えないそのスタイル。それを俺にも取り込めればどれだけ良かったかと思ったことは数数えるほど多くある。開始1ヶ月でしかカウントされなかった死者の数も、同じプレイヤーを殺させないためのラフコフとの勝負も、最期の英雄的犠牲も。アイツの行動の全ては結果的に自己犠牲に近いが、プレイヤーの救済だ。

 

 だからこそ、憧れた。ネタと言ってもやってることはガチプレイ。縛りプレイと言ってもその結果からどう勝つかを懸命に思考し続けていた。だから、かっこよかった。

 

 俺の選ぶ黒いコート。それに対してそこまで長くもない白いケープが印象的な白ベースの格好。俺とは正反対と言っていいのか、黒って名前なのに白い格好なのかというツッコミもある奴。

 けれど、その格好以上に気になるのは表情だった。例えば、アイツの常に浮かべる人を馬鹿にするかのような満面の笑みと、時折見せる感情が冷めたかのようなヘェ〜とうっすら見せる笑み。

 

「分からないままアイツに聞くのは、めちゃくちゃ腹が立つ……!!」

 

 いつも浮かべる二つの表情は俺が質問した瞬間にどちらかを浮かべてくる。

 つまり俺は、アイツに憧れていた分ただムカついたんだ。

 

 

 

 

 

 俺好みの黒い剣に自らの手を馴染ませるため降り続けたのも数分くらいだろう。重さの誤差で剣技の質が落ちるのは嫌いだ。ノワールとの勝負で負けるのは嫌だから。頭の中にはイヤミな残響が常に残る。こいつはノワールなものじゃない。

 ふと休む瞬間に思い出すのだ、あの男のやって来る瞬間のニヤニヤした笑い。ノワールの顔はそこまでムカつくものじゃないけど、振り始めた瞬間に変化していた冷笑は何を考えてたんだろうなぁ。それでも俺は剣を振る。あの男を楽しませることができるように、という意味も含めるんだ。挑むのは明らかに俺なんだから。

 

 ユージオと階層を上がり続け、全ての戦闘を二人で向かい合い、俺たちと微塵も変わらない重さの歴史を持つ命たちであるAIたちを、殺すことはしないと決めている。昔から隣にいたノワールを真似た、常に分析し試行して、そうして撃破し続け足止めの神聖術を用いて上がるスタイル。

 これから開ける扉は最後の最後。アドミニストレータとの闘いだ。

 

 

 走って、躱して、突いて。走って、躱して、斬って。完全なカウンタースタイル。ソードスキルを使わない今までと同様な状況を作り上げるための分析しながら試行するスタイル。ソードゴーレムに対して一番観察するための戦闘を続けていた。相手が俺たちの動きを見ることができる以上切り札を使うわけにはいかない。ノワールさえも知らないスキルをこんなところで使うべきではないのだ。そう、俺たちのクリアすべき条件はシンプルだと再確認。

 思考を落ち着かせてプレイスタイルは丁寧に。身体の中にある邪魔は深く吐いて、周りの全てを手に入れるくらいに吸おう。

 

 アリスのソードスキルは主に二つ。シンプルに大味なものと武器の特性を解放する防御に回せそうなスキルだった。だからこそ、できると信じて頼んだこともこれまた二つ。一つは『一番観察をして俺の予測と外れた時のフォローをしてくれ』と頼んだ。俺は自分が疲れてくると無茶をやらかすことが少なからずあるから。二つ目は『相手の動きを完璧に理解できたら勝負に入ってくれ』。最初は分からなくても攻撃に対して余力を残しながらスピードを減らせば、どんな攻撃も対処は可能なんだ、と。

 逆にユージオにはアドミニストレータの気を引いてくれと頼んだ。あのアドミニストレータの優先度は一位がユージオ、二位がアリス、三位が残念ながら俺だろう。ユージオを手元に戻すつもりでいることは見てれば分かる。シンセサイズの秘儀を浅くとももう一度二人に行うことで俺たちの心理的動揺を狙うだろうし、ソードゴーレムの強さに自信を持っているらしい。つまり、現在の俺たちに勝てる手はないことが前提で、全員を回収できることが一番理想的だと考えてるんだろう。

 特にアリスは情報的な重要性で言えば重いと言える。目の封印を破っているから、自分の指示を絶対的な法に定めるためだ。他の聖号騎士にはどうしても超えられない任務に割り当てたいから。

 

 

 俺が守勢からスタートしそろそろ攻めださないといけないタイミングだと思っていた時、アドミニストレータの表情に憎しみが映った。ゴーレムと長々と闘い続けているから、自分のプラン通りに中々動かないことが苛立ってきたのだろう。

 アドミニストレータはソードゴーレムに指示を出し、自分も攻撃を始めたのだ。

 

「勝てるか、コイツ……」

 

 今度は賭けに出ないと不味いか。 解放術の準備に入るべきか。

 

 

 その時のことだった。

 

「そんなカス相手に、大技なんか使う必要ねぇすよ、キリト!!」

 

 ノワールだった。しかし、出てきたところは階段ではなく小さな窓からだ。どうやってと観察してみれば、その小さな窓が修復されていたのだ。

 

「壊したのか!」

 

 その疑問に対してノワールの答えは高笑いだ。俺はノワールのスタイルがAGI重視だと知ってる。しかし、髪は濃い青色。ALOアカウントを? どうやって? だからこその俺の知ることもない切り札を使用しての侵入かと思ったけど。どうやら違うらしい。

 俺にはそこまで向けたことのない口角の上がり切った笑みをアドミニストレータに向けた。けれど、違和感も同時に生まれた。俺に対してもその笑みを向けたから。

 

「ここを開けたのは俺の相棒のキャロルだ。ンな薄い壁だぞ? あのゴリラステなら不可能なことはねぇよ」

 

「全力で刺したら反動で落ちちゃったけど。んー、多分大丈夫でしょ」と声に出したが、彼の笑みは止まらない。この笑顔はまさか、勝負を、楽しもうとしているのか? 

 そこまで考えたが、真偽を見極める術は俺にはない。けれど、相変わらずの無茶に笑ってしまう。俺とアリスでも確認したはずの硬さで、侵入なんて完全な予想外だったのに……。

 まぁ、気圧差で二人とも放り投げられて、戻るためにユージオには頑張ってもらったけどそこら辺はどうでもいい。

 ……それにしても、初見でできると思い立ってやり切ったのか……。

 

「俺が一人であのババア相手してやるから、他は頑張れ。な?」

 

 

 

「さて、やるか」

 

 右手にいつもとは少しだけ異なるナイフをホルダーから抜き取った。脇を閉めて、半身の構え。左手は何も持たず、背中に隠す。

 

「話を聴くにあなた無茶するタイプなのかしら? 神聖なこの場所に部外者は要らないわ。死んでくれないかしら?」

 

 ほう、なんか舐められてそうだな。あの露出過多なババアから見てこの薄っぺらそうな男が弱いと見えると? いや、しかし俺の戦闘スタイルは効果的だろうなぁ。お前みたいな魔法を用いる魔術師タイプで、力を持つが故に。

 

「アハハハハァ? 舐めんな老害が。こっちも右手だけで充分だわ」

 

「あなたこそ、そこの変わった男たちの仲間なのかしら? 私の騎士を誑かした彼らの。もし、そうならあなたもそこのゴーレムに切り刻まれるといいわ」

 

「はン! 私のって言ったな? この世には誰かの手のなかにある命なんて存在してねぇんだよ。そういう考えをする輩が粗末に扱うから何よりも大事な魂が、信頼が失われる。そういう奴がカシラとはここの騎士? さん達も可哀想なもんだなぁ。

 それにメンタルは意外にガキだな。今でもおっぱい吸ってんのか?」

「ふふっ、殺す」

 

 

 そんなやり取りをし終わると露出過多の女は宙に浮き始めたのだ。1m、2mとゆっくりとしかし慣れたように。最上階での立体的中心まで浮かび上がるとそこに留まった。

 しかし、飛べるのは計算外だな。不敵な笑みを意味もなく浮かべながら射程圏内までチャラチャラと目立つように一歩を踏み出した。しかし、時の進みが遅くなったかのようにゆっくりと滑らかに、一定に、一歩ずつ。二歩目もスピードもモーションも一定で。

 

 ……動くのは一瞬だ。

 

 三歩目。右足で地を踏む瞬間に膝を曲げる。そのモーションに気づけば死を覚悟するほど非常に手強いが気付かないのなら……。

 どこを見ても変わらないただのジャンプ。しかし彼の特徴は神速とも呼べる速さである。アドミニストレータには見えることはなかった。ノワールが一番最初に狙ったのはリアルなら頸動脈のある位置。つまり、即死狙いだったのだ。しかし、アドミニストレータも強者である。第六感とも呼べるような虫の報せを感知したのか、ノワールの一撃を辛うじて避けることに成功した。

 しかし、彼にとってはダメージが通らない事など当たり前。返しの刃で右手に明確な刀傷を残すことには成功した。

 

「俺を見て追えなかったのか? 俺にとって二連撃なんて基礎中の基礎の手抜きなんだけど。そんなんで傷を負うとは……。はてはお前、ガチでザコいな?」

 

 もちろん嘘である。確かに連撃を加えることは彼にとって容易いが出したスピードは7割かつ右手だけの舐めプに見せた様子見である。攻撃の一発目はキチンと与えないと相手の心に余裕ができてしまうのだ。心理的余裕を与えないための彼にとって王道のデュエルの仕方。

 そしてノワールは瞬時に口を動かしながらでも考える。考え続ける。

 空から飛び降りて乱入した以上どんな手段があるのか、どういう戦闘タイプなのか、どういう攻撃パターンが存在するのか、俺は何も知らない。その上この煽って時間稼ぎをするスタイルを持続させなきゃならない。仕込みも相応のメリットもリスクも紛れもなくある。だからこのババアを予想通りに動かすための舐めプ。……あぁ、なんてこった。……こいつは、面白いぞ!! 

 

 

「お前気付かなかったかねェ?」

「!?」

 

 ニタァ〜、と見ながら喋る、喋る。ならばもう一度。「なァ、ババア?」

 

「俺は今、その左手に、傷をつけれたんだけど? 

 

 

 アンタ、弱い人?」

 

 あえて名前の知らないババアにとって分かりやすい場所。結果:俺が狙ったのは一本の手首にある腱。

 しかし、毒が効かねぇな。いつもなら傷をつけて10秒以内に隙が確実にできるくらいには強い毒なのに。……うーん、まぁいいか。術とか攻撃にはまだ何の変化もないだろうが

 

「心理的にはどうだろうなァ?」

 

 イヤそうな顔しやがって……。気持ち悪いわ、コイツって言ってやがる……。対等な相手以上じゃないとこんなセコいことしたくねぇよ? 

 だが、お前は俺を一つ怒らせた。ねちっこく、粘っこく、攻め続けるのは俺のスタイルだ。スタミナ的に考えれば長くても短くてもイケる無茶なスタイルでもない時間稼ぎや囮りになってヘイト稼ぎするのが役目。あの三人のために、俺が先に殺してはダメなんだ……! 

 体力的にも、手札的にも技術オンリーで長時間保たせることはできないだろう。なぜかメニューも開かないし。だから、俺は喋って喋って、喋り続けて時間を稼ごう。ゴーレムを崩し終わるまでの間だ。「……できないことじゃないな」

 

 アドミニストレータが一瞬で広げた光弾は一言喋るだけでフィールドを覆った。自分も中心から浮いたまま後ろに引き、まるで宝物投げる王様のようなイメージさえ感じた。表情には意地でも強がりな笑みを浮かべているが冷や汗は一滴、二滴と垂れているかもしれない。それほどの恐怖だった。

 だが、俺も時間稼ぎをしなければキリトたちが危ない。あの訳わからん金色巨人がどんな特性を持つのか、微塵も知らないからだ。俺が先にこの女を倒し暴走でもされた場合何をどうすればいいのか見当もつかない。

 だから、頑張れ俺!! しかし、言ったセリフには間違いなくメタルって言葉が入ってた、つまり、金属。炎で燃やしたり、水で切ったり、光で眩ませてからの物理のような手段ではなく質量を選んだ。そこは思考が熱せられても手段は冷徹。どんな結果になるか警戒しながら舐めプっぽくしなければいかん。

 しかし、これ以上密集させるのは恐らく干渉しあって悪手だ。攻撃は増えない。ババアを視界に入れる範囲の中で数カ所混ざるところがあった。結論、幾つもの一斉攻撃と準備にどれくらいかかるかが問題である、と? 問題は全ての光弾を俺に集められるかだが……。

 ここはSAOでもALOでもGGOでも仕組まれた、俺の逃げ足をスタミナ不足で殺すための物量作戦というべきか。一人で狙ってくるのは初めてだが。

 

「クソ楽なフィールドだぜ?」

 

 そんな訳ないが一言の挑発。それと同時に光弾は俺を真っ直ぐ狙いつける。条件反射的なターンを決め最小限の回避をするが次弾が来ているのは当たり前。急加速してこの狭い空間を走り始めた。

 追尾してくる切り崩せない厄介な魔法だが、追尾させるためにか俺を常に見続けている。視線は常にターゲットに無いと当たらないと? 屈折は起こるか知らないが視線誘導すら俺の十八番なのに? 

 

「俺のスキルは近接戦闘だけじゃねぇよ、なめんなババア!!」

「何ですって? ブラフかしら?」

 

「《クィックドロウ》!」

 

 そう言って投げるのは右手に持った両刃ナイフ。このナイフの良いところは麻痺毒ともう一つ。ハズレカードが存在すること。右手に用意するのはユウキにも使ったものと同じ、あのナイフだ。というより、俺自身パッと見同じナイフしか持ってない。似ているからこそ、あのナイフはもう簡単には使えない。一度使ったら投げて使いたいところだが、ブラフがバレる……。

 案の定、ババアはそのナイフを右手で取り、なめ腐るように余裕を見せて上に軽く放り投げる。

 

 しかし、それでは足りないぞ。

 

「たった一本だけで良いのかしら?」

 

 安直に優位に見えたその瞬間は俺の考えとピッタリ一致してるんだよ。俺のニヤケは止まらない。投擲からキャッチにおよそ、1秒未満。女子が物を投げ上げる高さは『肘の位置から頭頂部までの距離×2倍』の高さが結構多い。その軌道のカウントは物理基礎だ。暗算で計算可能なシンプルワールド。

 

「問題ねぇよ、雑魚。 お前に取らせるつもりなんだ」

 

 二度目に触って2秒後、そのナイフは爆発するのだから!! 

 

 

 

 案の定。手に返ってくる寸前で爆発した右肩と顔に致命的なダメージを与えられるくらいの一握りの火薬(リトルフラワー)擬き。

 

「おっと、言うの忘れてたがそいつは爆発するのさ」

 

 してやったり顔で意図通りである。そんな俺の演技と本音が五分五分。けれどもババア、お前本格的にさっさと殺したいほど腹が立ってるだろォ? 

 スタミナは結構持つぞ。ゴーレムの攻撃から俺を守ってくれてる奴がキリト君。SAO最強のプレイヤーが色んなものを吸収してまた強くなってるんだろ? 俺はそんな彼の強さを紛れもなく信じてるから。

 さて、まだ喋ろうか? 

 

「見事に右腕おじゃんだな。手を使わない術師だから言うのすっかり忘れてたわ」

「くっ! ……早く死ねば良いのに」

「アヒャヒャヒャヒャ! 俺は基本的に死ににくい男なのでェ〜。あんたが殺せるとは思えないわァ〜」

 

 びっくりジョークに本音は3割レベルだ。SAOでの俺は死ぬ死ぬ詐欺を繰り返さないといけなかったからな。ラフコフの殺人に一人も引っ掛けないように、頑張ったんです。おっと喋ってねぇ。

 あのゲームはPKに引っかかってしまっては勿体無いのだ。ワタシハせっかく面白いゲームになったSAOを余すところなく楽しんでもらうための攻略組一の詐欺師デス! そんなクソやろうからの素敵な贈り物なんだ、受け取ってくれや! 

 

 あぁ〜しかし、クソ! あの時のこと思い出したらちょっと寒気が。多分外は一生懸命の舐めた顔した笑顔の中でも『オマエ雑魚過ぎてテンション上がらん』って顔になってる気がする。だが、通じるでしょ? 想像内で喋り続ける俺の言葉が君の頭の中ではより悪質に聞こえて来ない? 

 

「やっぱり殺すわ」

「やってみろや、語彙力無し女」

 

 視線はババアにやってるが、全ての魔法は俺の背後から来る。つまり、俺をキリトくんたちが魔法から守った瞬間、優先度が変わる可能性があるってことだ。俺は魔法を切り落とせるほどリーチの長いスキルはない。ヘイト稼ぎのために今以上に前へ出ちゃうからネ! 

 しかし、それからの対処は何としても、めんどくさい! 折角ローコストで抑えた体力消費をいきなりハイコストに上げるのはただのヘビーワーク。なら、それを防ぐスタイルで。

 

「ねェ、ババア。戦い始めて一度も当ててない魔法。それのこと新参者なんでェ、俺はなんて言うのか知らないけど? 

 

 

 当ててみなよ? 当てないと俺を殺せないよ?」

 

 俺はSAOでの軽業スキルのクオリティーを思い出す。パルクールもフリーランニングもボルダリングも現実世界でできる様に練習してきたタイプの俺だ。昔っから球技はヘタクソだったからこそ、ジャグリングも大道芸人に教えてもらったし。

 コントロールされた光弾──多分個数は十数個──の良い的になるようにスピードを落として跳ね回る。その最後に、俺が跳びついたのはゴーレムの腕。

 

 自分の主人からの攻撃にはある程度、弱いよね? 

 

 それからすぐに離れることで十個の内七個が右腕に直撃した。攻めがキリトくんでよかったわ。パターンを知ってるからまだやり易い。彼が左、俺は右。破壊まではいかないために、楔がわりとして左手に持ったナイフを放つ。コイツは見事な煽りタイミングだ。よりヘイトを集めるように、少なくなった玉を頑張って切り落とす。「アッレレー、おっかしいぞー!」

 

 お前のヘイトは全て、俺のモンだ。

 

 

 

「一度も俺に当てたことのないアンタの魔法。制御できないくらいに俺のスピードに合わせるらあんな目に合うんすよ、ゴーレムくんに悪いことしてるわ!!」

 

 さて、交渉タイムだ。

 

 

「あんたもそこで死ぬ、その前にそこで死んでる二頭身ピエロ使って右手直したら? ンの方が俺とまともに戦えるんじゃね? そういうこともできるんでしょ?」

 

 

 俺の発言にキリトくんの顔は少しだけ目を見開いた。あ、生きてた可能性ワンチャン? ごめん、キリト君。微塵も動かないし壁際で出血多量レベルだから死んでるものと思ってたわ。

 けど、まぁ……

 

「あんたなんかに勝てないはずないでしょ? 雑魚に用はないわ」

「ヘェ〜」

 

 そうして俺はホルダーから一つナイフを右手で取った。一度空中に投げ、きちんと掴み、すぐさま二頭身ピエロへ投げた。2秒の後、二等身ピエロの身体は確実に消えた。脂に引火したのか、最低限の燃え方なのに見事に粉微塵。というよりなんだろーな、アレ。前にも見た覚えがあるぞ? 何だったか、アレ。………………あ、思い出した。

 

「火達磨、だったか? こうした方が俺的には非常に楽なんだよ。『嫌な存在を煽りに使って消し飛ばすチャンス』だったんだよね〜」

 

 ゴメンね、キリト君。

 

「あんなに出血してたら可哀そうだよ。後から利用されたら腹が立つし、ナイフ一本を消費して遺体を消しておいたから! 

 あ、それと俺のナイフストックあと3本だから。きちんと避けて俺を殺すんだよ?」

 

『できるかな? じゃあスタート』とそんな簡単にはいかないだろう。まず俺の言葉を信じる保証もない。けれど、実際の所本当にあと3本のナイフでハズレカードがない。というわけでもう使えそうなトリック武器はもう無いのだ。ポーションも無い、武器もない、倒すことはもっとダメ。

 後一つ右手に持つ奴だけしか使えない。もうホルダーにはあと一本だけなのだ。余裕はないがやるしかねぇ。

 

「ババア、やられっぱなしじゃん! ほら、かかってこいよ」

 

 チラリと視界の中にキリト君たちを入れると全員で攻撃を始めていた。ソードゴーレムに対してあの三人はやっと慣れてきた。故に狙いはババアの、俺を追い続けるその瞳!! 

 

 

 これで魔法を一つも発動しなくなるだろ。

 

 

「気ぃつけてこーぜ!!」

「! あぁ、分かった!!」

 

 キリトくんからの返答、あり。つまり、ここが勝負どころってことがあのパーティーにも伝わった! なぜなら、これは昔から使ってる指示だから。

 

 まず、喋るぞー! 

 

「俺のスキルの限定条件、そのいち! 同じ武器しかできない!!」

 

 壁を伝って跳び上がり、ババアの元へ。左のナイフを近寄せる。一番最初の舐めプ発言がただの嘘になっちゃったけど、まぁ仕方ない。俺のスタイルに違和感持たれるその数倍はマシだ。

 青い瞳と綺麗に目が合う。これは避けられる。しかし、仕方がねぇ! 蹴り技されかけたときが一番怖いけど、魔法使いはそこまで近接戦闘が得意じゃないのが常識! 避けてくれ!! 

 

「そのに! 手の中にしか出てこない!!」

 

 良かった! 避けてくれた。

 俺の姿はだいぶ慣れてもう見えてる。ひらりと躱せるのは、当たり前。反撃来なかっただけ儲けものだろ。そのまま間髪入れず狙うことが重要。壁を蹴り、追撃! 

 

 所でキリトくんの二刀流を使ってないってことはここではユニークは存在しないと仮定したほうがマシ。もし、剣を用意して二刀流を使い出したら俺の伏せ札も有効範囲ということなんだけど。

 しかも、現実世界に限りなく近い設定にされてる。魔法レベルの質になっているあのクィックドロウというスキル。例えばメニューからの出現が基本。あのクイックドロウが音声に反応しなかったのだから勝負に使える手持ちの手段(コンボ)はいくつか燃やされたのも一緒。

 とどのつまり、俺は太腿のホルダーから瞬間的にモーションを速くしてスキルの偽装をしているだけ。クィックドロウには本来、出現させる時に光粒が生まれてくる。それが出ないからキリトくんにも知られてる。もしくは初めから知っていたか。けれど喋るとパーティーメンバーが反応するリスクがあるから言わなかった、と。

 流石だね、キリト君。

 しかし、移動の全てが全速力だと速過ぎる。動体視力が慣れてこのトリックに気付かれてしまう可能性があった。だからこそのペースダウン。キリトくんたちよりも若干速いペースで。

 

 

 故に俺を目で追い続けることは可能。『これがあの厄介なネズミの最速か』と勘違いしている筈だ。

 

 

「そのさん!」

 

 ほら、警戒したな? 

 俺の武器はナイフだけじゃない。常にケープの内側には最低でも二つ用意してるんだよ。

 

 エナメル質のワイヤー。

 

「シックス・チェック、したらどう?」

 

 もう遅いけど。

 

 

 

 

 

 アドミニストレータはノワールが投げたナイフを触らないようにきちんと避け切ることに成功した。しかし、彼女は何か異変を感じたのかそのナイフを目で追い続けた。あれだけトリックを組み込んだ嘘つき男が相手だったのだ。背後から何か来るかもしれないとアドミニストレータは背後をノワールに対して神聖術を展開しながらナイフの行方を確認する。

 しかし、その行動こそがノワールの罠だった。

 

 なんと背後の魔法を展開した隙間から一本のナイフがものすごい勢いで飛んできたのだ。流石にその攻撃に対しては対処はできず避けることはできなかった。右目を潰すことにノワールは成功したのだ。

 

「念のため髪も落としとくね、バァバァア!」

 

 敵が誰も見ていない今、スピードだけは誰にでも勝てる男がこの絶好のタイミングを逃すはずもなかった。軽業による軽体重と壁を蹴って進むことの簡単さはいつも通り。ジャンプして近づいて逆の瞳をえぐり取る。残った()()()()()ナイフを用いて髪をできる限り切る。

 ナニよりも〜速さが足りないッ!! ってな。

 

 

 

 あの合図にキリトが反応すれば始めからあの流れであのエンドを迎える予定であり、その予定通りアドミニストレータの視界を彼は奪い切ったのである。喉にナイフを突き立てられた状態で暴れ出すほど彼女は醜いことをしたくなかった。飛ぶことをゆっくりと止め地面に膝を付けた。

 俺が落とした髪は存在しない。アイテムをMP的なものに変えられるシステムは他のゲームで味わっていたから。そしてそれが通じるのは俺の相棒だ。もう一人いるからアイコンタクトして頼みましたよ。まる。

 ……あぁー、怒られるかもしんね……。

 

 

 

「……ねえ、どうやってしたの」

 

 弱々しく尋ねてくる女性はもう戦意喪失しているようで、俺はこの脅しも必要ないと感じた。質問の内容も最後の詰めがどうやって行われたのか、という敗北した者による敗因の追及である。この質問も知る権利はある筈だ。それに俺の背後では盛大に何かが倒れた轟音が鳴り響いた。キリト君たちも倒すことができたのだ。これだけ追い詰められた状態だ。もう脅す気は俺には起こらなかった。

「ククク、敢えて答えてやろうじゃないか! 

 まず、最後のトラップを投げたのは侵入した瞬間。二本同時に右手で投げるのは昔いたところのスキルにもあったんだ、難しいことはない」

 

 はい、ごめんなさい。嘘つきました。そんなナルト世界の人じゃないから。俺クナイとかナイフ投げるの近距離ならまだしも……10メートル以上で一斉に投げてここまでの精度ってマジ忍者なれるから。イタチの手裏剣術を真似るの、マジ無理だと諦めた人だから。

 両手で同時に投げただけ。

 

「俺のナイフは基本的に赤いんだ、見てるだろ? 一つは天井の赤いライン上。もう一つは壁際の〜、そう! あんたは見ないだろう背後の壁。この世界が並大抵の物じゃないことはすぐに分かったんだ。何しろ上空は空気が薄かった。だから、もしかしたらと思って詰めをキッチリと決めるためにナイフを投げた。

 それによって疑似的な弓矢の弦を作り、その間には張りを保つためのナイフを通して天井の縁にある切れ目に被せて分かりにくくしているだけ。意図したタイミングで上手いことワイヤーを切ればその張ったナイフは飛び出す」

 

 多分ワイヤーの大体半分くらいに切れ目を差し込む感じで入れたらなんとかなる。直径1ミリ以上のワイヤー相手に鋸スタイルの回転ナイフにすれば何とか当てられる。ナイフを咄嗟に確認した瞬間俺の背後からのアサシンは見事でしょ? それに……

 

「ワイヤー自体には縮むまで時間はかかる。だから俺は、『それが終わるまで煽り続け時間を稼ぐ』。危機を感じて俺から目を離した瞬間に接近し目を潰す。100%当たるギミックじゃないが、目を両方潰すのは一太刀だ。

 

 どうせ見えないから教えてやるよ、相方はあのゴーレムが動ける時点で簡単に勝てる」

 

 

 

「そうね。硬い存在を木偶の坊のように動かさないためには、関節を壊せばいいだけだもの。これもいつも通り、ね」

 

 

 

 そう言ってキリト君たちと揃って歩いてくるのは俺の相棒のキャロルだ。デカイ槍を片手に担ぎながら小さい体で大きなため息を吐いた。階段でも全力で登ってきたのだろう。STR重視のそのステータスではキツかっただろうに……。お疲れ様です。

 パワー勝負でパリィするのはシロさんの得意技だ。シロさんが選択したスキルには投げた瞬間ダミーのような幻影を空間に写すスキルもある。

 スピードはないがその場で耐久する勝負ならそうそう負ける人ではない。本人の的が小さいのもあるけど。あの殺人ムカデとコンビで三日間戦い続けたゴリラだからなぁ。嫌な思い出だわ。

 とはいえ、ああいうタイプのエネミー相手にそうそう負けねぇだろう。

 

「というわけで簡素な固定砲台トラップだ。どうだ痺れるだろう? 物理的にも、ネタプレイヤー的にも」

 

 思わず笑っちまうぜ。この世界の魔法に代償が必要なのは壁を見れば分かる。だから、髪も落とした。眼を治すために腕を使うのは、俺と戦う上で致命的だから落とさない。

 

「完全勝利条件はそこまで難しいものじゃないのさ。()()()()

「……煽っている、だけだったのね」

「当たり前だ。不意打ちをしても殺すことは基本的にステータス関係で難しかった。だから相手をキレさせるためにひたすら煽る! その一点だけ」

 

 

「だが現状から反抗すれば、首を落とす」

 

 

「覚えてろっす!」




読了ありがとうございます!
この章間に幕間か番外編か……。名はどちらかになりますが入ることは決まってます。
理由は単純。この変態主人公に言われるんですよ、『え?頑張らないの?』と。
(煽り耐性ゼロ作者。逆に燃えてくる)

しかし、感想欄では別。ただの煽りに対して「さて、次はどいつだ?」とナマハゲ変化とスルースキルの上昇が起こります。ですので推奨はしません。質問はOK。「ここはどういうことだってばよ?」となれば説明と補足になりそうなストーリーを幕間で流します。「コイツはやらかしたわ……」となれば次の話の前書きで謝罪と中身の補足をします。

というわけで番外編は今後も二部スタイル。質問が来れば三部以上と判別可能に。
『前書き長いねん、ワレェ』となれば作者やらかしたんだなと読まずとも分かります。伏線張るかもしれないから読むこと推奨。

結論:今後もよろしくどーぞー!

オーディナルスケール編、見たい?

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