AR-15を取調のために連行するヘリアントスを襲撃、車を横転させ破壊、運転手含むヘリアントスにけがを負わせ彼女を逆さ吊りにして脅迫する……満身創痍のヘリアン自身が報告書をまとめ上げ提出したものに民間軍事会社グリフィンの社長であるクルーガーは頭を悩ませていた。
この件はAR-15が取り調べのため連行されるのを不当だと主張するXMが、怒りに任せて大暴れした案件であり一応事件性はあるが誤解もありXM自身のこれまでのグリフィンの功績を鑑み、今回の件は不問にしたいというのがクルーガーの想いではあるが…。
部下の前でXMに襲われ、崖から逆さ吊りにされたヘリアンの怒りも相当なもので強い口調で厳罰を要求する彼女に、クルーガーもXMの処分を決めかねているのだった。
「――――ノリス指揮官、どうにかして引き留められなかったのか?」
『あの怒れるコマンドーをか? 無茶を言うな、彼女は私が知る限りで最強の兵士だ』
「まったく、彼女が味方で良かったとつくづく思う」
執務室にて、クルーガーが電話でやり取りをしているのはXMの直属の上司であるヂャック・ノリス指揮官だ。
ヘリアンの怒りの矛先はノリス指揮官には向いていないが、部下を抑えられなかった申し訳なさからこうしてクルーガーとの相談に乗っているのだった。
『それで…どうするんだクルーガー? XMのことは?』
「ヘリアンの事を考えれば、しばらく留置所にいてもらうしかあるまい。形式上はな…」
『どういう意味だ?』
「例の部隊…404小隊が困難に直面している。手助けが必要なほどに」
『クルーガー、君の考えは読めたぞ。だが連中とXMとではある意味水と油、相容れない存在ではないか? まあ、引き留めはしないが』
「XMを協力させることはある意味、404小隊への良い牽制にもなる……コルト・コマンドーは我々の側であることを意識させれば、こちらに害をなすことはなかろう」
『XMが新ソ連空挺軍時代に成し遂げた数々の偉業…もしも彼女が人間であったのならソ連邦英雄勲章の授与は間違いなかっただろう。だが気を付けろクルーガー…コルト・コマンドーは、劇薬だぞ?』
ヘリの機内において、黒色の戦闘服に身を包むXM177E2は自身の愛銃を足元に立てかけ、目を瞑り静かに佇んでいた。
同じヘリに同情するグリフィンの職員は時折XMの様子をうかがうが、彼女は気にも留めることはない…だがヘリが目標となる降下ポイントまで接近すると、XMは目を見開き立ち上がる。
着陸地点に向けて高度を落とそうとするヘリのパイロットに対し、XMはこのままの高度を維持し飛行するよう言った。
もちろん、パイロットは声を上げて反対するが、XMの強い口調に押し切られそのまま高度を維持し飛行することとなる。
「ドアを開いてくれ」
「まさかここから飛び降りる気ですか!? 無茶です、いくら戦術人形でも!」
「いいから開けろ!」
「どうなっても知りませんよ!?」
大柄の戦術人形に強い口調で命令されれば拒否することはとても難しい。
XMの要求通りヘリの扉を開けば、一気に冷たい空気がヘリに勢いよく流れ込み、ドアを開けたグリフィンの職員はたまらず態勢を崩してしまう…それをXMは手を取って椅子の方に誘導し、自身はこの風をものともせず眼下を見下ろした。
そして、眼下に広がる廃墟の中にビルを視認した瞬間、なんの躊躇いもなくヘリを飛び出した。
高い高度からヘリを飛び出したXMは空気の抵抗に身体をもみくちゃにされながらも態勢を整え、狙ったビルを真っすぐに見定める。
ぐんぐんと落下速度を増していったXMは、ついにビルの窓ガラスに衝突…ガラスを勢いよく突き破ったXMであったが、身体がビルの床に叩きつけられる過程で身体を捻り衝撃を各部位に分散させ、見事少ないダメージで着地に成功する。
「降下ポイントに着陸成功。これより、404小隊との合流地点へ向かう」
誰にともなくそう呟いたXM。
すぐさま行動を起こしたXMはビルのエレベーター扉の前に立つ…廃墟となり電力が断たれたエレベーターはうんともすんとも言わないが、そんなことはXMには全く関係ない。
固く閉ざされたエレベーター扉の隙間にナイフを突き入れ、わずかな隙間を開けると間髪入れずに両手を突っ込み、力任せに扉を開く。
扉を強引に開いたXMは目の前のワイヤーに飛びつくと、遥か下までワイヤーを伝い降下していった…。
降りれるところまで降りれば手ごろな扉に飛びつき、再び強引に扉を開き外へ出る、一気にビルの一階にまで到達したXMはぐるりと辺りを一瞥、建物の特徴などから自分の現在地を割り当てる。
この町が廃墟となる前のマップを頭に叩き込んだXMに現在地の確認など不要である、むしろ不必要な情報まで頭に入り込んでしまうために邪魔であった。
愛銃を手に廃墟を走りぬくXM、もし誰かがビルへの着陸場面を見ていたとしても、その凄まじい移動速度ではあっという間に撒かれてしまうことだろう…だが廃墟を走り抜けていたXMは、正面に鉄血の姿を視認すると若干走る速度を落とす…。
が、相手が下級鉄血兵数人だと視認すると、再び速度を上げて駆け抜け、足音に気付き振り向いた鉄血兵の顔面に強烈な跳び膝蹴りを食らわせて破壊した。
仲間の一人がいきなり破壊されたことに驚く鉄血兵。
だが反撃、叫び…そんな猶予すら与えず一体のヴェスピドの側頭部にナイフを突き入れ、イェーガーの首に強烈なハイキックを叩き込む。
「な、なんだおま――――ぐえっ」
残されたストライカーの喉笛を鷲掴みにしたXMはそのまま持ち上げると、勢いよく地面に叩きつける…気絶などという生易しいものではない、形容しがたいまでに破壊された鉄血兵を見下ろし、腰にぶら下げた水筒を手に取り一口飲む。
それからバックパックを漁ると、小さな方位磁針を手に取った。
「方角は…こっちか」
方位磁針から定めた方角を見据えていたXMであったが、奇妙な違和感を覚える。
クンクン、と犬のように嗅覚を働かせた彼女は目を細めながら周囲を軽く見渡す…それから愛銃を肩にかけると再び走り出す、今度は先ほどよりも速度は落とし廃墟の陰に身を潜めながらだ。
大通りを回避するために、XMは喫茶店に静かに入り込んでいったが、すぐに裏手から喫茶店を出ると複雑な裏路地を抜けて今度は古びた造りのバーに入り込む。
バーに入り込んだXMはというと、そこでようやく足を止めバッグパックを腰から外し愛銃と共にバーカウンターに置く。
それからまだ店内に残っていたウイスキーを一本手に取った。
「フッ…M16姉さんが好きそうな酒だな」
M16が愛飲するジャックダニエルではないものの、キャップを開けて嗅いだその香りは姉であるM16好みの香り。
帰ったら勧めてみよう、そう思いつつXMは店内の椅子に座り適当なグラスに酒を注ぐ…それから戦闘服のポケットに入れてあったケースより葉巻を一本取り出すと吸い口をナイフでカットし口に咥える。
ライターで火を付けた葉巻を吸い始めたXM…豊かな煙が口から吐き出され、その後にウイスキーを飲んだ彼女は至福の表情を受けべる。
「普段は、妹たちに気をつかって近くでは吸わないようにしているんだが、やはり美味いな……私を追跡してきたのか?」
XMは空になったグラスに酒を注ぎながらそう言った。
その背後には銃を構えた一人の戦術人形が、音もなく店の中に入り込み椅子にに座るXMに対しその銃口を向けていた。
「今どういう状況にいるか分かっているのかしら?」
振り返り見ずとも、自分に対し銃が向けられていることなど容易に想像できる……XMはグラスを手に取ると、グラスに反射して映る相手に向けて好戦的に笑う。
次の瞬間、XMはグラスを背後に投げつけると身を翻す…同時に一発の銃声が鳴り響き、テーブルの上のボトルが撃ち抜かれて割れる。
飛び散ったウイスキーが辺りにまき散らされ、店内に芳しい香りと火薬の香りが広がる。
突然動き出したXMに狙っていた戦術人形は後方に飛びのこうとしたが、XMの踏み込みの速さはその上を行く。
一気に壁際まで追い詰められた彼女は抵抗する間も、そして声を上げる間もなく、鋭利なナイフをその喉元に当てがわれる……ナイフの刃が首に強く押し当てられた彼女は唯一可能な浅い呼吸を繰り返し、XMを睨みつけようとするが、XMの射抜くような目に委縮する。
「二度とこの私に銃を向けるな。今度やったら、お前を殺す」
強い口調で脅しをかけたXMはゆっくりと彼女の首からナイフを離し鞘に納め、床に落ちた葉巻を拾い上げて咥える。
「鉄血には見えないな…404小隊の人形か?」
葉巻の煙を吹きだすと、目の前の戦術人形は煙たそうに手で仰ぎ、緑色の瞳にうっすら涙を浮かべてXMを睨む。
グリフィンの戦術人形は妙に嫌煙家が多い気もする…目の前の人形がグリフィンの戦術人形であるかは今のところ定かではない。
左目の下のタトゥーと黒地のベレー帽、見覚えがある気がするがXMは思い出せずにいた。
「HK416……もしかして、私の事覚えていないの…?」
「いや、知っているような気もするのだが…いまいち思い出せない」
「…そう…」
416、そう名乗った戦術人形は一瞬悲し気な表情を浮かべたがすぐにもとの表情へと戻す。
「XM177E2、あなたが来ることは分かっていたから迎えに来たのよ……まさか高度500メートルからパラシュートなしでビルの窓を突き破って着陸してくるとは思っていなかったけど……流石は元空挺軍ね」
「M16姉さんにも良く鍛えられたからな」
「チッ……」
「?」
M16、その名を聞いたとき416は微かに表情を歪めた。
だがやはりすぐに表情を戻す。
「ついて来て、コルト・コマンドー。私の仲間のところへ案内するわ」
「噂の404小隊…というやつか? グリフィンの人形の間じゃ都市伝説になっている」
「そうみたいね……でもねコルト・コマンドー、あなたが空挺軍にいた頃の伝説に比べればちっちゃなものよ。さあ、行きましょう…コルト・コマンドー」
~おまけのカカシ編~
「なんですってぇ!!??? コルト・コマンドーがグリフィンに逮捕されたですってぇ!??」
大声で叫ぶのは鉄血ハイエンドモデルのイントゥルーダーだ。
先日、XM177E2のマグナムパンチで轟沈させられ工場で復活を果たしたばかりの彼女は、部下の鉄血兵からもたらされたその情報に喚起する。
「フッフフフフ…僥倖っ……! なんという僥倖…!!」
「イントゥルーダーさん?」
「コルト・コマンドーのいないグリフィンなど、手足を捥いだカニ…あるいは卵の入っていないおでん! ウォッカを飲めないロシア人のようなものですわ!」
「イントゥルーダーさん!?」
「すぐに攻撃を仕掛けますわよ! 急いでエクスキューショナーとハンター、それからスケアクロウを招集なさい!」
「いえ、それがイントゥルーダーさん……先日誕生したばかりのハイエンドモデルいますよね? その人がなんか、エクスキューショナーさんとハンターさんを連れて行ってしまいまして…」
「なんですってぇ!!?? まったくこんな絶好の機会に…! ではスケアクロウをお呼びなさい!」
「その、スケアクロウさんも雲隠れしちゃいまして…さっき部屋に行ったら
「な、なんて役に立たないハイエンドモデルたちですか!? 不愉快ですわ!!」
思い通り事が運ばず、イントゥルーダーは地団駄を踏んで怒りを露わにするが…部下の鉄血兵たちの目は冷ややかなものだ。
「じゃあ、イントゥルーダーさんだけで攻撃しますか?」
「え?」
「いや、とりあえず絶好の機会は確かですし攻めてみましょうよ。とりあえずうちらも付いて行くんで…」
「え、あ、いや……けほ、けほっ! あーなんだか急に体が重たくなりましたわ…きっとここ最近の疲労で体調を崩したのよ、きっとそうよ……ごめんあそばせ」
わざとらしい仮病でその場から逃走していったイントゥルーダーを、呆れた目で見つめる鉄血兵たち…。
「あいつもそのうちやられ役に決まりよね」
「学習しないけど、なんだかんだ一緒に戦ってくれるエクスキューショナーさんの方がやっぱりいいな」
「みんな帰ろうぜ」
「はぁ…アルケミストさんやジャッジさんの直属部隊だったらなぁ…」
今日は誰も死ぬことがない平和な鉄血であった。
これを書きたくて本編修正しました
あと、今までさほど気には留めなかったけれどストーリー考えている段階で416がとてもかわいく思えてきたので優遇します。
あとたぶん主人公の正妻になりそw
余談だけど、鉄血下級兵たちにとって大まかなハイエンドモデルの印象はこうです
・理想の上司
アルケミスト、エクスキューショナー、ハンター、ジャッジ
・普通の上司
エージェント、デストロイヤー、イントゥルーダー
・ブラック上司
ウロボロス
・悪魔の上司
ドリーマー