要塞化された哨戒所とはいえ所詮は急ごしらえ、それも築城の知識の乏しい戦術人形が築き上げた防御陣地など、正規軍の一員として従軍経験のあるXM177E2にとって子どもの創作物のようなものだ。
XM自身が偵察を行い見つけた防御陣地の隙…ここを突くのはUMP45率いる404小隊だ。
404小隊にはそのルートより隠密行動で接近してもらい、他の防御線からはXMと援軍として現れたグリフィンの部隊が担当する。
担当と言っても事前に打ち合わせしたわけではなく、404小隊を潜伏させるためにXMが真正面からドンパチし始めたときに、援軍としてやって来たグリフィンの部隊がそこへ合流したのだ。
「コルト・コマンドー!」
「ん?」
リロードのため、木陰に身を潜めていたところに声をかけられたXM。
素早く弾倉を入れ替えたXMがその声の主に目を向けると、そこにいたのは自身と同じくらいの背丈に筋骨隆々の戦術人形スコーピオン・キングがいるではないか。
「助けに来たよコルト・コマンドー」
「心強い増援だ、スコーピオン・キング!」
大きな体躯にVz61がとても小さく見える彼女の愛銃…一応自分好みに改造してあるようで、ドットサイトにドラムマガジンを装着した特殊仕様を二丁。
ごつごつしたポーチには予備のマガジンが大量に入っているのが伺える他、手りゅう弾もこれでもかというほど搭載している。
使用している武器は32ACP弾の小口径銃だが、もはや今のスコーピオン・キングはさながら歩く火薬庫だ。
「敵の防御線が崩れました!」
味方の誰かがそう叫んだので敵陣を伺えば、戦術人形の狙撃によって遮蔽物から応戦していた鉄血が排除され先行した部隊の一部が哨戒所の近くまで接近しているのが見えた。
しかしそこから敵は更なる戦力を投入し、装甲兵器マンティコアが姿を見せる。
巨大な装甲兵器の出現は哨戒所に接近した戦術人形を集中的に攻撃し、接近した人形たちはたちまちマンティコアによって蹴散らされる。
「仲間を助けなければ! スコーピオン・キング、一緒に来るか!?」
「もちろん!」
機関銃を装備した戦術人形たちにはその場に残り援護射撃を頼み、二人は敵の銃撃をかいくぐりながら森を突き進む。
哨戒所付近から人形たちを蹴散らしたマンティコアは2体のイージス、そして数体の鉄血人形を随伴し攻撃を仕掛けてくる。
XMが放ったグレネード弾は前衛のイージスが盾で防ぎ、攻撃に気付いたマンティコアが強力な砲撃を浴びせてくる。
「さすがに堅いな」
堅牢な装甲と強力な火力を持ちつつ機動性も十分に兼ね備えたマンティコアの存在は、グリフィンの戦術人形たちにとって恐るべき相手であった。
だがXMの記憶には、もっと強力な装甲兵器の存在がある…それに比べればこのマンティコアは模造品に過ぎない。
「前衛のイージスをまず破壊しろ!」
XMの指示どおり狙いをつけた狙撃部隊は防御の要となるイージスを狙撃、側方からの狙撃によりイージスは破壊され倒れ込む。
盾を排除し、マンティコアが姿を見せた瞬間にXMとスコーピオン・キングは二手に分かれて同時に走り出す。
マンティコアは一瞬迷う素振りを見せたが、優先的に排除すべき相手はXMだと判断し狙いを定める。
しかしXMの動きは速い。
木々を縫うように走りぬける姿をマンティコアは正確に狙うことが出来ず接近を許す、しかしマンティコアの巨体はそれだけが並みの人形にとって脅威となる。
四肢の一つを振り上げ、XMを踏み潰すべき振り下ろす…ただこれだけで並みの戦術人形なら踏み砕かれてしまうだろう、並みの人形なら…。
マンティコアにとって誤算なのは、XMがそこらの人形などと比べ物にならないほどのパワーを有している事だった。
重厚なマンティコアの脚を素手で受け止めたXM。
全身の筋肉を最大限稼働させて押し返し、マンティコアの巨体を浮かせると、大きな雄たけびを上げてその巨体をひっくり返してしまった。
装甲の薄い個所をさらけ出したマンティコアを即座に銃撃し破壊…残る鉄血兵も、そう思い振り返ると、別方向に走っていたスコーピオン・キングがそのままの勢いでフライングしてのクローズラインを鉄血兵の喉元に叩き込む。
「ひぃぃ!! た、助けてぇ!!」
あっという間にマンティコアを破壊され、ガタイの良い筋肉人形二人に攻撃されている鉄血兵は散り散りになって逃げ惑う。
しかしスコーピオン・キングは逃げることを許さず、地面にたたきつけ、木に投げ飛ばし、倒れたところにエルボーを叩き込む。
最後の一体は泣いて降伏してきたので、その脳天にげんこつを叩き込み黙らせる。
「あらかた片付いたようだ、残すはハンターだけだ…そろそろ」
XMの期待に応えるかのように、哨戒所の内側で大きな爆発が起こる。
どうやら別ルートから進んだ404小隊の特殊作戦が功をそうしたようだ…内側に潜り込んだ404小隊が高所に陣取るニーマムやイェーガーを破壊していき、厄介だった鉄血側の狙撃部隊が排除された。
攻めるには絶好の機会、XMが支持するまでもなく突撃を開始したグリフィンの部隊に交じりXMたちも哨戒所へ突撃だ。
「コルト・コマンドー!!」
哨戒所にたどり着くと待ち受けていたのはやはりというかなんというか、ハンターだった。
ただし以前までの様子と少し変わっている…エリート改造というやつだろうか?
「フフ、気付いたかコルト・コマンドー? そうだ、その通りだ! 私はあの瓦礫の中から再び蘇り、エリート改造を受けて強化されたのだ! どうだ怖いかくそったれ、当然だ! エリート改造されたハイエンドモデルに勝て―――」
ハンターが話している最中、銃声が鳴り響き、銃撃を受けたハンターは情けない声を上げて転倒した。
「死んだ?」
「ちょっ! 45!? このタイミングで撃つバカどこにいるのよ!?」
「いや、だってなんかめちゃくちゃべらべら喋って隙だらけだったんだもの。ね?」
416に責められながら現れたUMP45はどす黒いとても悪そうな笑みを浮かべていた。
「くそ、404小隊のネズミどもめ! もうやってられるか!」
その間に起き上がったハンターは悪態をこぼし哨戒所内部へと退却して行ってしまった。
流石エリート改造を受けただけの事はある、なかなかにしぶとい。
しかし任務であるジャミング装置のために、ここであまり時間をかけてもいられない…哨戒所の前まで終結したグリフィンの部隊と共に総攻撃を敢行、鉄血が築いた最後の防御線も難なく突破した。
「おいウロボロス! 増援の話はどうした!? 敵はもうすぐそこまで来ているのだぞ!」
哨戒所の奥にまで退却したハンターはすぐさまウロボロスと連絡を取る。
こうしている間にもグリフィンと404小隊がここまで突破してこようとしているため、ハンターの焦りは尋常ではない。
何度もその名を呼び、ようやくウロボロスがモニターに映る。
眠そうにあくびをしている姿に一瞬殺意が沸くハンター。
『ええい喧しいわ…何時だと思っておる?』
「まだ21時だ! 404小隊には【夜はまだ始まったばかり】とか言っておきながら、なんだその言いぐさは!?」
『チッ……なんだ?』
「だから、増援はどうしたと聞いている!?」
『増援? 部隊ならもうすぐそこまで向かわせておるぞ?』
「なに!? だったらなんで…!」
『まあ落ち着け、ビールでも飲んでリラックスしておれ。後の面倒は私が見てやるから…とりあえずえーっと、検証コード――――』
「おい、ちょっと待っ―――」
鉄血の抵抗を排除し哨戒所の奥にやって来た404小隊が見たのは、機能を停止させられ硬直したままの姿で立ち尽くすハンターの姿だった。
自分からこのような事をするわけがない…これをやったのはより上位の権限を持つ鉄血に違いない。
「こいつから情報を抜き取るのは難しそうね……9、何やってるの?」
「え? あぁ、ほんとに動かないのかなぁ?って、えへへへへ」
動かないハンターの顔に落書きしている9を見て小さなため息をこぼすUMP45。
だが悠長なことをしてもいられない、外の様子を見ていた416がその場へ息を切らせながらやって来た…。
「悪いニュースよ…鉄血の物凄い数の部隊がここに向かってきている」
「へぇ、それで良いニュースの方は?」
「そんなもんあるわけないでしょう? 強いて言うなら、ここが守りやすい要塞ってことかしらね」
「なるほど、分かったわ。それじゃあグリフィンの部隊をここに引き入れて迎撃の準備よ」
ハンターら鉄血がこの哨戒所を守りのために要塞化したことはかえって好都合だった。
404小隊の潜入工作によって比較的少ない損傷で攻略したため、防御のために使えるものは十分に残されている…おそらくこれから来るであろう鉄血の部隊は予想外の反撃に驚くはずだ。
「UMP45」
「あら、コルト・コマンドー。どうしたの?」
「良いニュースと悪いニュースがある」
「ほら聞きなさい416、こういう風にニュースは良いものも用意するのがマナーってものなのよ?」
「うるさい」
先ほどの会話を揶揄してからかうと、416は不機嫌そうに顔をしかめる。
「それで、ニュースはなに?」
「ああ……良いニュースはこことおさらばできること…悪いニュースはここに時限爆弾が仕掛けられていることだ」
~おまけのカカシ編~
「ハンターを倒したと思わせてグリフィンのバカどもを哨戒所に引き入れて、大部隊の存在を匂わせて守りのために哨戒所にグリフィンを集めさせて、予め哨戒所内に仕掛けた時限爆弾を起動させて一網打尽…散らばったグリフィンを後詰の部隊で叩きのめす……あら、もしかしてこの子けっこう優秀なのかしら?」
鉄血支配地域の某所にて、S06地区の戦況報告を見ていた鉄血ハイエンドモデルのエージェントはウロボロスの予想外の策謀ぶりに目を丸くしていた。
既に哨戒所の起爆は済み、部隊で生き残ったグリフィンの部隊を掃討させているという…気がかりなのは404小隊の生死、そしてコルト・コマンドーが死んだかどうかだ。
「そこらへんはどうなのですか、ウロボロス?」
『はいエージェント殿…完璧なタイミングでの起爆でしたが、何人かの生き残りはいた模様です。ただいま部隊には掃討を命令しているところですが……今のところ404小隊、及びコルト・コマンドーの死体は確認できていません』
「なるほど…では?」
『はい、死体が確認できない以上奴らが死んだと断定するのは尚早でありましょう……ですので、連中が生きていると仮定したうえで今後の作戦を立てたいと思いますが、よろしいでしょうか?』
「ええ、あなたの好きなようになさい…ウロボロス」
『御意』
通信を終え、モニターからウロボロスが消える。
静かに操作を終えたエージェントは小さな笑みをこぼす。
「これは、まさかもしかしてコルト・コマンドー死んじゃうパターンでしょうか? フフフ、あまり期待してませんでしたがウロボロス…けっこう使えるではないですか!」
エージェントもまたXM177E2には何度か破壊された恨みがある、無残にくたばってくれたらと願わない日などないくらいにだ。
S06地区にXMが現れたと聞いたときは終わったと思ったが、意外にもウロボロスが策略家として苦しめている嬉しい誤算があった。
そんな風に喜んでいるエージェントを、同じ部屋でリラックスしながら酒を飲むアルケミストが窘める。
「勝負は最後まで分からないものだ、気を抜かないほうがいいぞ」
「今すぐにでもあなたも送り込んで勝利を確定したいところですがね」
「あたしは疲れてるんだよ…ま、ウロボロスにはXMを甘く見るなと伝えてやりなよ…でないと、痛い目を見るよ」
アルケミストは自身の眼帯に覆われた右目を指さしながらそう言った。
彼女のことはエージェントも一目置いている…そのアルケミストが油断するなと言うのだから、そういうことなのだろう。
エージェントは引き続き、S06地区の戦況に目を向けるのだった。
書いていると楽しいけど、そろそろ続き物は疲れてきたよ
キューブ作戦はあと2話くらいで終わろうかな?