「さあ運べ、さっさと運べさあ早く! 時間が勝負だぞおぬしたち、でないとあのおっかない戦術人形が襲ってくるぞ?」
S06地区に展開する鉄血兵士たちを忙しく指揮するのは愉快気に笑うウロボロスである。
目の前でせっせと動く鉄血兵には自らの声で、遠方の鉄血兵には鉄血のネットワークを通じて指揮し最終作戦の実行に向けた行動をさせている。
S06地区の鉄血領からかき集められるだけの爆薬と燃焼材を集結させ、それらを適切な位置に運ばせていく。
どこから集めたのか、手りゅう弾にダイナマイト、TNT爆薬から分解した砲弾…それに加えガソリンや灯油、ガスボンベや水素タンクなどなど…危険物と呼べるものは何でもかき集めさせたウロボロスの奇妙な行動は、戦況報告を逐一受け取っていたエージェントの目にも留まる。
『一体何をなそうというのですか、ウロボロス?』
「これはエージェント殿。今夜の祭りの締めに、一発大きな花火を打ち上げてやろうと思いましてね?」
『花火?』
「このS06地区は森林が多い……それをあちこちグリフィンのクズどもを探し回って潰すのも面倒。いっそ森ごと焼き払った方が手っ取り早いでしょう。おまけに今夜は風が強い、瞬く間に火は広がります」
『焦土作戦というわけですか…。ジャミング装置が破壊されたと聞きましたが、もはやその場所に留まる理由もありません…撤退しなさい、今すぐに』
「フッフフフフ……フフフフフ」
『何を笑っているのです?』
「いや失礼…ご心配なくエージェント殿…あなたがジャミング装置の回収のために向かわせた部隊を煩わせたりはしませんよ」
ウロボロスのその言葉を聞いた瞬間、エージェントは目を見開いた。
それをウロボロスはやはり、自分の推測が正しかったのだと確信し笑う。
「なんだか知りませんが、私は被害妄想が激しくてですね? 常に最悪の想定を頭に浮かべてしまう…それをどうにかしないと気が済まないのですよ。エージェント殿、そんなだから私は誰にも期待などしていませんでした…ハンターにもエージェントにも、自分自身にもね……故に、作戦は常にプランBプランCを用意する癖がつきました」
『なるほど、狡猾で生意気に育ったみたいですね』
「ええ、蛇ですから…ご安心をエージェント殿、ジャミング装置はあなたにお任せすることになりますが、あのコルト・コマンドーだけは私が必ずや仕留めて見せましょう」
「―――45、悪いニュースよ」
「悪いニュースはいい加減聞き飽きたわ416。まともなニュースはないのかしら?」
偵察に出した416が持ち帰ったのはやはりというかなんというか、いつも通りの凶報である。
悪いニュースには良いニュースも届けるべし、そう何度もUMP45は主張するがそんなことを言っても悪い出来事しかないものは仕方がない。
だが毎度面倒そうな顔をされるのは416も我慢ならない。
「まあいいわ…それで悪いニュースって言うのは?」
「鉄血がかき集められるだけの爆薬と燃料をこの森にばら撒いている。森ごと私たちを焼き殺すつもりよ」
「環境保護団体が大激怒しそうな作戦ね。まったく、今時焦土作戦だなんて…」
「いや、第三次大戦では軍の常套手段だったぞ? 米軍に対し我々新ソ連軍は焦土作戦で迎え撃ち、連中を物資不足に追い込んで壊滅させたんだ」
「申し訳ないけど、誰もあんたの軍歴に詳しくないからねコルト・コマンドー」
焦土作戦の単語を聞いて妙にノリノリで話題をに入ろうとしてきたXMにUMP45は全く興味ないと言わんばかりに言い放つ。
何とも言えない表情で寂しそうにするXMを、416は肩をぽんぽん叩いて慰める。
とはいえ、もしもウロボロスの目論見通り焦土作戦を敢行されれば今作戦の遂行は極めて困難になる。
ここまでの経過からウロボロスが何かをするにあたってなんの躊躇いもなくそれを実行するのは理解している、この焦土作戦もおそらくあと数十分以内に行われ、瞬く間に業火は風に運ばれS06地区の森中に広がるだろう。
与えられた猶予もなく、ウロボロスを追い詰める術もない…考えていたUMP9はハッとする。
「45姉、これって詰みってやつ?」
「あたしこんなところでバーベキューになりたくないよ。もう帰ろうよ、死んじゃうよ?」
「確かに、404小隊結成以来かつてない危機だわ。でもねG11、私たちにはたった一度の失敗も許されないのよ? 死よりも恐ろしい現実って、想像したことある?」
「う…知らないよそんなの…分かったよ45、やるよ」
「その調子よG11。生きて恥じるより、熱く死ねってね」
「どっかで見た映画のキャッチフレーズを使うんじゃないわよ…実際のところ、どうするの? G11じゃないけど、バーベキューになるのは私もごめんよ」
UMP9の言う通り、現状では打つ手はなし。
ウロボロスのいる場所については偵察などから得た情報でおおよそ検討はついているが、そこに行くには森を通過する必要があり、必然的にウロボロスが仕掛ける業火に突っ込んでいくこととなる。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず…みんな、やる気はある?」
「噓でしょ45? バーベキューどころじゃ済まないわよ?」
「成功したら修復費は私が負担してあげるわ…みんな、水はどれくらい持っているかしら」
「うぅ…45、もうはっきり言ってよ、火の中突っ切っていくってさ…」
「あらG11。出来るだけあんたが怖がらないようオブラートに言ったつもりだったけど?」
「全然オブラートじゃないよ! いいよもう、あたしはXMにおぶってもらいながら行くから」
「甘えるんじゃない」
ゴツン、と416のげんこつをうけるG11。
火の中を突っ切っていくため、高温の炎で身体を損傷しないよう水をかき集め衣服をびしょびしょに濡らしていく…そうしている間に遂にウロボロスの焦土作戦が敢行され、爆発音が周囲一帯で起こり、夜の森は燃え盛る炎で煌々と照らされる。
「時間が勝負よみんな。何があっても立ち止まらないで、でないと焼け死ぬわよ!」
仲間たちの返事も聞かず、UMP45は真っ先に走り出し燃え盛る炎の中に突っ込んでいった。
次いでUMP9、XMが…G11も悲鳴を上げながら416と共に業火に包まれる森の中へと足を踏み入れていく。
森の中はまさに火の海と呼ぶにふさわしい。
木々は燃え盛り、空気は炎で熱せられている。
唐突に起きた火災にこの森に暮らしていた動物たちが業火から逃げ惑うが、どこにも逃げ場などはない。
炎の中では散発的に爆発が起き、木々を破砕させ鋭利な木片を周囲にはじけさせる。
灼熱の炎と煙に包まれたその場所は、生物が生きていられる場所などではない。
だが、戦術人形は並みの人間よりも過酷な環境に耐えることが出来る。
ウロボロスのいるであろう場所まで足をとめずひたすらに走り続ける…。
水で濡らした衣服もこの高熱の環境下で瞬く間に渇き、炎が衣服を焦がし、彼女たちの肉体まで焼こうとする。
しかし、全員が焼け死ぬ前に燃え盛る森を突破に成功、一人また一人と火の海から抜け出る。
「ようこそ404小隊、私がウロボロスだ…歓迎しよう、そして死ね」
声がした…腹立たしいほど澄ました声の持ち主を見ることもなく、404小隊はすぐにその場を離れる。
まるで404小隊がここから現れるのを予測していたように、鉄血の伏兵が姿を見せ、激しい銃撃を浴びせてくる。
すぐさま応戦するが、敵は装甲ユニットも出撃させ何十倍もの戦力が攻め寄せてくる。
「ハーッハハハハハ!! もしかしたら炎を突っ切って来るのではと思い伏兵を仕掛けたが、つくづく私の読みは当たるな! もはや策などいらん、数で圧し潰せ!」
満を持してその姿を見せたウロボロス。
黒のセーラー服姿の彼女は、熱を帯びた風に長い黒髪を揺らしながら高らかに笑う。
これまで指揮をし策略を練っていたが、今回は自らも戦闘に参加し404小隊にその引導を渡す気のようだ。
ウロボロスのすぐそばに浮遊している二機の兵装より、小型ミサイルが発射され空高く打ち上げられたミサイルは、遮蔽物に隠れる404小隊の頭上から降り注ぐ。
「チッ…! 鬱陶しいやつね!」
なんとかミサイルの攻撃は避けられたが、あれを何度も受けてはいつかはやられる。
それに鉄血の部隊はウロボロスの命令通り数で圧し潰そうと、損害を度外視し肉薄してこようとする。
それでいて、前衛にイージスを配置し銃撃を防ぐという徹底ぶり…じりじりと詰められる距離、どんどんと少なっていく弾丸の数…徐々に404小隊は追い詰められていく。
自らが手を出すまでもなく、部下たちだけでも404小隊を仕留められる状況にウロボロスは愉悦する。
だがふとした疑問が浮かぶ…。
「あ? そういえば、あのゴリラどこいった?」
いない、どこを見てもいない。
戦場で常に存在感を発揮し、そのデカい図体で暴れまくるあの人形の姿が見えないのだ。
途端に、ウロボロスは不安を感じ、一筋の汗が頬を垂れる……不意に、視界の端に黒い影が映った時、ウロボロスは咄嗟に防御の体勢を取ると強烈な衝撃が全身を襲った。
「ぐっ……コルト・コマンドー、いつの間に…!?」
音もなく接近していたXMの打撃を咄嗟に防いだものの、ガードした腕があまりの打撃の強さによって損傷する。
このまま接近されてはまずいと判断したウロボロスは、即座に後方に飛びのくとそばにいた鉄血兵たちを差し向ける。
ただの時間稼ぎにしかならないが、鉄血兵たちがぶちのめされている隙にウロボロスは逃走する。
「あいつ…!」
それを見ていた416は遮蔽物を飛び出し、接近していた鉄血兵を思いきり銃床で殴り倒し逃げるウロボロスの後を追う。
ウロボロスがXMの攻撃を受けて一時的に指揮に乱れがあったことと、UMP45がスモークグレネードを投げたことで鉄血の部隊に隙が生じ、416は敵を搔い潜り逃げるウロボロスを追いかけることが出来た。
廃墟の中に逃げ込んだウロボロスを追って416もまた廃墟に飛び込んだ。
今までの経験からきっと何か仕掛けてあるに違いない、そう思い警戒しながら進む416であったが…。
「隙だらけだぞバカ者が!」
「ッ!?」
予想外に、ウロボロスはなんの小細工もなしに攻撃を仕掛けてきたのだ。
凄まじい速さで突っ込んできたウロボロスに向けて発砲するが、ウロボロスは多少の損傷を度外視し詰め寄ると、416を体当たりで吹き飛ばす。
「フフ、エリート人形か知らんが所詮この程度よ…おぬしらと私とではすべてが違う」
「くそ…!」
「おっと」
素早くナイフを抜き取り斬りかかるが、ウロボロスは最低限の動作で避けるとナイフを掴む腕を捻り上げその腕をへし折った。
悲鳴を上げようとする416を拘束し、ウロボロスは不敵に笑う。
「出てこいコルト・コマンドー! いるのは分かっている!」
廃墟の奥に向けてウロボロスはそう叫ぶ。
すると、奥の暗がりからゆっくりとXMは姿を見せた。
416を拘束したままのウロボロスは、彼女の銃を奪うとXMの足に向けて発砲する…片足を撃ち抜かれたXMは姿勢を崩す。
「XMゥ、足はどんなだ?」
「こっちへ来て確かめてみたらどうだ?」
「いや結構、遠慮させてもらう」
ウロボロスはなおも笑い、拘束する416の首をさらに強く締め上げる。
XMは度重なる戦闘によってボロボロだ…それでもウロボロスは油断、いやコルト・コマンドーへの恐れを薄れさせていない。
「ウロボロス、お前の狙いはこの私だろう? 416を離すんだ!」
「フハハハハ!」
ウロボロスはXMのもう片方の足も撃ち抜く。
両足を損傷したXMはついにその場に倒れ込む…恩人のそんな姿を見ていられず目を逸らそうとする416だが、嫌らしくもウロボロスはそんな姿を見せつけようとする。
だが両足を破壊されてもなお、XMは立ち上がろうとする。
「来いよウロボロス、銃なんか捨ててかかってこい! 楽に殺しちゃつまらんだろう…ナイフを突き立て、私が苦しみもがいて死んでいく様を見るのが望みだったんだろう?」
「おぬしを殺してやる…!」
「さぁ416を放せ、一対一だ!楽しみをフイにしたくはないだろう? こいよウロボロス…怖いのか?」
「ブッ殺してやる!416など知らん、こいつにはもう用はない…! フハハハハ…ハジキも必要ない、ハハハ…誰がおぬしなんか!おぬしなどこわくない! 野ぁ郎ぉぉぶっ殺してやああぁぁる!」
拘束していた416を突き飛ばし、両足を損傷しているXMに向けて襲い掛かる。
怒りに任せたウロボロスの拳はXMの顔面を撃ち抜き揺らがせる…先ほど撃ち抜いたばかりの足を執拗に攻撃して態勢を崩させると、XMの頭を掴み膝蹴りを叩き込む。
負傷したXMをほとんど一方的に痛めつけるウロボロスは、それまで抱いていた恐れとその相手を痛めつける高揚感とで一種のトランス状態に陥る。
「衰えたなXM、ハハッ、おぬしは老いぼれだ!」
XMを無理やり引き立たせ、壁に叩きつける。
「気分がいいなァ! これから死ぬ気分はどうだXMゥ!?」
XMの結った後ろ髪を掴み、壁に何度もXMの顔を叩きつける…。
壁のコンクリートにひびが入り、XMの割れた額から噴き出す鮮血で赤く染まる。
「おぬしはもう終りだぁ!」
力任せにXMの頭を壁に叩きつけようとしたとき、XMは壁を手で抑え抵抗する…そしてウロボロスに振り返り見せたその目は血走り、憤怒の形相に変わっていた。
「ふざけやがってぇぇェェ!!」
「なっ…!」
ウロボロスの顔面に肘打ちを叩き込んで吹き飛ばしたXMはよろよろと立ち上がる。
撃ち抜かれた足から血が噴き出し、内部の結線がショートし火花を散らせるが、そんなダメージを一切感じていないのか倒れ込んだウロボロスを今度は逆に引き立たせると、怒涛の打撃のラッシュを叩き込む。
倒れても無理やり引き立たせ、ウロボロスの華奢な身体を容易く持ち上げて床にたたきつけ、壁に向かって投げ飛ばす。
「ぐふっ、げほっ……ど、どこに…こんな力が……ヒッ…や、やめて…!」
「くたばれッッ!!」
「うぎゃあぁぁ!!」
這いつくばるウロボロスに向けて大きなドラム缶を叩きつけ、そばにあった工具棚を引き倒しウロボロスを下敷きにする。
倒した工具棚を避けて再びウロボロスの胸倉を掴み引き立たせる。
その時、ウロボロスは倒れた工具棚から咄嗟に拾ったマイナスドライバーをXMの首に向けて突き刺す。
ニヤリと笑うウロボロスであったが、XMには全く効いておらずドライバーを握るその手ごと凄まじい握力で握りつぶされた。
「くそ、くそ、くそったれ!! 呪ってやる!!」
「…地獄に堕ちろ、ウロボロス!」
とどめの一撃は、全身の筋肉をフルに稼働させぶち込む強烈な右ストレートだ。
XMの対物ライフルにも勝る一撃を受けたウロボロスは錐揉みしながら壁に激突し最期を迎えるのだった…。
「まだ誰か残ってる?」
「死体だけだよ45姉!」
ウロボロスが倒された時、外での戦いも終わっていた。
ウロボロスが負けた事を察知した少し頭の良い鉄血兵が蜘蛛の子を散らすように逃げたため、残りの頭の悪い鉄血兵を掃討することは簡単だった。
そして天候も変わり急な雨が降ったことで、森の火災も思ったより広がらずグリフィンの部隊も合流し残る鉄血兵の掃討も完了したのだ。
廃墟からやって来た416とボロボロのXMを見て、G11とUMP9は歓声を上げていた。
「してやられたわねXM…全部あなたに見せ場を持ってかれたわ」
「いや、UMP45。君の力が無ければ今回の作戦遂行は不可能だったさ」
「謙遜しちゃってまあ」
それからUMP45は手を差し伸べる…握手で応えたXMは小さく笑った。
「お疲れ様XM…私たち、良いチームになれそうよね」
「うん、確かに良いかもね。XMがいてくれたら、私をおんぶしてくれる人が増えて楽だし」
「黙りなさいG11」
416の言葉にG11とUMP9も賛同の意を示す…XMもその気持ちにはうれしく思っているようだが…。
「すまんなみんな…私には帰るところがある」
XMのその言葉を聞いたとき、416から途端に笑顔が消えた。
そうだ、XMは本来いる場所はここではない…家族とも言うべき仲間たちは別な場所にいるのだ。
そして404小隊という機密性の高い部隊が作戦完了後、すべきことをなさなければならない時がやって来た…最初からそれをXMが知っていたわけではないが、なんとなくわかったXMは小隊のリーダーであるUMP45にそれを促す。
404小隊との記憶の一切は作戦終了後、XMの記憶から消去されることとなる。
「それじゃあみんな…達者でな」
「待ってXM」
立ち去ろうとするXMを416が呼び止める。
気を利かせたUMP45が他の二人を連れてその場を離れていく。
「せっかく、私の事を思い出してくれたのに…」
「仕方のないことだ」
「また、逢えるわよね?」
「たぶんな」
「…逢えるって約束して」
今にも泣きだしそうな表情でXMを見上げる…。
たとえ叶いっこない願いだとしても、それが気休めだとしても、XMの言葉でそう言ってほしかったのだ。
だがXMがそんな約束できないことを言わないことを416は知っていた…だからせめて彼女のぬくもりを自身の記憶に残そうと、XMを抱きしめた。
「さようなら…XM」
そっと、XMから離れた416は仲間の元へと歩いていくが…。
「
咄嗟に振り向いた416にサムズアップを向け、XMは彼女の前から立ち去って行った。
キューブ作戦おしまい!!
続き物は疲れるぜ…。
とりあえず次回からまた映画パロディネタをメインにのんびりやっていこうかなと