鉄血工造ハイエンドモデル【デストロイヤー】の一日はとても早い。
早朝4時、与えられた部屋で枕を抱いて眠りについていたデストロイヤーは唐突に開かれた扉の音で目を覚まし、窓を開け放たれて部屋に入り込んできた冷たい外気により一気に覚醒させられる。
それでもデストロイヤーは毛布を引っ張りこんでその中に潜り込むが、そんなしょぼい抵抗はコルト・コマンドーXM177E2によって毛布を引っぺがされる事で終わってしまう。
「もう、まだ外は真っ暗じゃん…!」
寝巻を着替えながら恨みがましく自分を叩き起こしたXM177E2に向けて文句を言っているが、相手は身長190cm筋肉モリモリマッチョな戦術人形なので、その声は小さく恐れから視線を合わせようともしない。
出来るだけ時間をかけて着替えを済ませると、XM177E2はデストロイヤーを外に引っ張っていくのだった。
無理やり外に連れ出されたデストロイヤーはまず外の寒さに身を震わせる。
だが隣に立つメスゴリラはこれだけ寒いというのにタンクトップにズボンという、季節に対してケンカを売っているような姿である。
「それで…今日は何するのよ?」
「私は食料を取って来る。お前は【ウルフィ】を頼む」
「はいはい、分かりましたよ…」
「言っておくが、逃げようなどと考えるなよ。次は…」
「分かってるってば! もう早く行ってきなさいよ!」
デストロイヤーはそう叫ぶと逃げるように彼女から遠ざかり、それから大きな大きなため息をこぼすのだった。
どうしてこうなったのか…?
先日、不運な遭遇によってAR小隊のM16と出会ってしまったデストロイヤーはあっという間に仲間たちを全滅させられてしまい、頭のいかれた彼女に戦利品扱いのように山中のグリフィン基地まで拉致されてしまったのだ。
もちろん、デストロイヤーは何度も脱走を図った。
だがそのたびに逃走にしくじって基地まで連れ戻されてしまうのだ。
ある時は山中に仕掛けられたトラップで木に宙づりにされ捕獲、ある時は巧妙に隠された落とし穴に嵌り捕獲、ある時は数十キロもの逃走経路を追跡されて捕獲、ある時は猟犬を差し向けられて捕獲…などなど、ことごとく逃走を阻止されて連れ戻されるに至る。
最後の猟犬に追い回された際には木の上に登って泣きわめいていたところを、追いかけてきたXMとそれからSOP2に写真に撮られてしまった…。
どうにかして鉄血に帰りたいが、AR小隊が手強過ぎて太刀打ちできない…エクスキューショナーやハンター、それにエージェントが何度も殺されているという話を聞いてはいたが、まさか自分がこのような目に合うとは…。
「とりあえず、あの屈辱の写真をどうにかして奪い取らないと…あんなのドリーマーに見られたら…うぅ、想像するだけで恐ろしい」
思い浮かべるのはいつも何かと絡んできてはちょっかいをかけまくってくる同じハイエンドモデルのドリーマーだ。
面倒を見てくれるふりをしていつも意地悪をしてくるドリーマーがデストロイヤーは少し苦手だ、それなら少々怖いがアルケミストの方が仲間には優しいし面倒見も良い。
そんなことを色々考え込んでいたデストロイヤーであったが、基地の一角にある犬舎まで足を運ぶとそんな考え事も吹っ飛んでしまう。
頑丈な鉄格子で広々と作られた犬舎の中には1匹の巨大な犬グレート・デーンが鎮座している。
そうだ、最後に脱走を図った時にAR小隊がけしかけた猟犬とはこのグレート・デーンであり、デストロイヤーにとってはトラウマ級の相手である。
「…どう見たって、犬じゃないでしょうこの大きさ…」
犬舎の扉の上にはかわいらしいフォントで【ウルフィ】などと書かれているが、全身筋肉質でデストロイヤーの背丈以上のデカさには毎度ビビらせられる。
さっさと済ませよう、そう思いドッグフードの入った箱をそっと開けるが、その微かな音を聞きつけてむくりとウルフィが起き上がる。
「ヒエッ……」
どんぶりにドッグフードを盛り、震えながら犬舎に足を踏み入れる。
犬舎の中に入った瞬間、まるで戦場に足を踏み入れたかのようなすさまじい緊張感に包まれる。
デストロイヤーが餌を持ってきたことに気付いたウルフィがむくりと起き上がる…起き上がったウルフィはまさに巨人、凄まじい威圧感を放ちながら近寄って来る姿にすっかりデストロイヤーは戦意喪失し足がすくんでしまった。
「あわわわわ……」
ついに目の前までやって来たウルフィ。
以前森を散々追い回された記憶がフラッシュバックし、パニックに陥りかけるデストロイヤーであったが、助かりたい一心でほぼ無意識にどんぶりを配置し、ウルフィを刺激しないようゆっくりとした足取りで犬舎を脱出する。
犬舎を数メートル離れたところで緊張の糸が切れたのか、デストロイヤーはその場で崩れ落ちる…。
「こ、怖かったぁ…」
振り返ればキャサリンがどんぶりいっぱいのドッグフードが凄まじい勢いで食べていく。
一歩間違えれば自分が餌になっていたかもしれない…そんなことはないのだが、そう妄想してしまえるほどにデストロイヤーはキャサリンが怖くて仕方がない。
数分後、立てるようになったデストロイヤーが足取り重く小屋の方まで行くと、ちょうどそこにはパジャマ姿のAR-15が朝焼けの空を見上げながら紅茶を飲んでいた。
足音に気付いて振り向いた彼女であるが、デストロイヤーを見た瞬間不機嫌そうに顔をしかめる。
「なんで朝っぱらから鉄血の顔を見なきゃならないのよ…」
「うるさい!私だってあんたらグリフィンの、しかもAR小隊の顔なんて見たくないわよ!」
「だったらさっさと鉄血に帰りなさいよ」
「あんたらがここに監禁してるんでしょうが!」
もっともな主張をするデストロイヤーだが、AR-15にとって彼女の事情などさらさら興味ないようで無視して紅茶を飲み続ける。
AR-15は元より鉄血のデストロイヤーを基地に連れて来ることに大反対をしていたが、M16が強引に押し切ったためにしぶしぶ納得した形…いや、納得はしていない。
「あ、ゴリラが帰って来たわ」
AR-15は森の方から歩いてくるXM177E2を見つけ言った。
仲間である彼女に対してひどい言いぐさであるが、タンクトップに大きな体躯の牡鹿を肩に抱えてのしのし歩いてくるデカい女を見ればそう思うのも仕方がないことかもしれない。
彼女はハンティングした牡鹿をロープで吊るしあげる…。
「ちょっと、また鹿肉? もうちょっとマシな食材はないの? それに血抜きも…」
次の瞬間、吊るしあげた牡鹿の首筋をナイフで切り裂き、素早く用意した桶にその鮮血を貯めていく。
「これで出来た。デス子、ウルフィに食事はやったんだろうな?」
「デス子言うな。ええやったわよ…ねえお願いだから、もうあの犬の飼育係から外してよ!」
「駄目だ」
「ダメェ!? そんなぁ!」
「そんなことよりもう一仕事ある。野鳥を何匹か仕留めて血抜きのために川に沈めてある、ついてこい」
「どうせ嫌だと言っても無理やり連れて行くんでしょう? はいはい、行きますよ…」
ここでの流儀を覚えてきたのか、デストロイヤーは観念した様子でXM177E2と共に車に乗り込むのであった。
~おまけのカカシ編~
「作戦はこうだ。あのメスゴリラが川に荷物を取りに来たらみんなで一斉に襲い掛かるんだ。オレが先制攻撃を仕掛け、ハンターがスケアクロウと連携して挟撃する。あとできればデストロイヤーも助けられればいいな」
グリフィン基地近くの森にて、焚火を囲み作戦会議をするのはいつもXM177E2に返り討ちにあっているエクスキューショナーとハンター、そして助っ人のスケアクロウだ。
ここ数日周辺エリアを偵察してこの森に定期的に狩りに訪れるXM177E2を発見、仲間たちを集め今日こそ因縁ん位終止符を打つべく鉄血の仲良し3人組が集まるに至ったのだ。
「エージェントのアホがいないうちにオレたちであのメスゴリラを仕留めるんだ。スケアクロウ、分かったな?この絵の通りに動くんだぞ」
「ええ、分かりましたわ……それにしてもエクスキューショナー、あなたの絵は下手くそすぎて分かりにくいですわ」
「うるさい! 気合いで理解しろ! よーし、作戦開始だ!」
3人は打ち合わせ通りの場所に身を潜めると、静かに因縁の敵がやって来るのを待つのだった。
やがて遠くから車の音が聞こえ、ハンターは草むらに隠れそっと機会をうかがう…一台の車が近くに停車すると、目論見通りXM177E2がやって来た。
助手席にはしっかりデストロイヤーもいる、あわよくば彼女も加勢しXM177E2を袋叩きに出来るはずだ。
息を潜め、不意を突き、即座に仕留める…自然界の狩人のように。
ハンターは口角を歪め、彼女が隙を見せるその時を待っていたが…。
「おら! コルト・コマンドー! ここで会ったが百年目、今日こそお前をぶっ殺してやる!」
「おいバカぁ!! 奇襲だって言っただろうがっ!!」
草むらより飛び出したエクスキューショナーが堂々と名乗りを上げる間抜けなムーブに引き寄せられ、奇襲のために身を潜めていたハンターもうっかり飛び出してしまったではないか。
「お前はバカなのか!? バカなの!? ん? バカなんだな?そうだな!? 奇襲だって言っただろうが!」
「このオレ様が卑怯な真似できるか!」
「だったら私らを巻き込むな! 一人で勝手に挑んで勝手に死ね!」
「な、なんだと…?」
「ほんっっとにお前はどうしようもないバカで、あほでつくづく救いようがないヤツだな! そんなんだからエージェントにバカにされるし、ドリーマーに笑われて、アルケミストに手を焼かせるんだからな!? もう迷惑かけるくらいなら何もするな!」
「な、なんでそこまで言うんだよぉ…いくらなんでも、言いすぎだろ…うぅ……オレだって頑張ってるってのに…ひどいじゃないかよ…」
「うっ、ごめん言い過ぎたエクスキューショナー……でも、お前には期待してるんだkら…な、ほら帰って一緒に酒でも飲もう」
「そうだな、サンキューなハンター!」
互いに笑いあい、肩を組みあってその場を去っていこうとする二人…だがそんな茶番劇に一切動じないXM177E2は片手にアサルトライフル、片手に斧を手に立ちふさがる。
「な、なんだこいつ!? オレの"お涙頂戴演技を魅せつけてさりげなく逃走する戦術"が通用しねえぞ!?」
「なんて奴だ…! コルト・コマンドー、お前には血も涙もないのか!?」
「言いたいことはそれだけか?」
「くそ、こうなったらやるしかねえぞハンター!」
「あぁ! コルト・コマンドー、いくら貴様でもハイエンドモデル3人を相手にすれば勝つ見込みはあるまい!」
「3人? ほかに誰がいるんだ?」
「あぁ!? オレとハンターと、それからスケアクロウだ!」
「今日こそお前を倒す! 行くぞスケアクロウ!………スケアクロウ?」
期待していた返事が返ってこないことに疑問を浮かべた二人は同時に振り返るが、そこにいると思っていた仲間の姿はない。
その代わり、木の枝に布切れと帽子をかぶせたへんてこなものが置いてある。
「エクスキューショナー、あれは…?」
「ただのカカシですな……って、違う違う! スケアクロウ逃げやがったなぁ!?」
どうやら作戦の失敗を予知し賢く逃げたようだ。
おまけに連れてきた部下たちの姿もない、すっかり二人だけこの場に取り残されてしまったようだ。
「くそったれ!やってやろうじゃねえか、やけくそだ!!」
言葉通りやけくそになったエクスキューショナーがブレードを手に突撃する。
並みの下級鉄血兵、そして戦術人形とは比にならない速度で踏み込むが立ちはだかる壁はあまりにも高かった。
突っ込んできたエクスキューショナーの顔面に前蹴りを叩き込むと、のけぞったところにとどめのアッパーカットを食らわせたのだ。
身体が宙に浮くほどのアッパーは、一撃でエクスキューショナーの意識を闇に沈めるのだった。
「貴様…よくもエクスキューショナーを! あんなのでも私の友達なんだぞ!!」
仲間を倒されたことに激高したハンターは即座に2丁の拳銃を取ると猛烈な銃撃を浴びせる。
咄嗟に躱したXM177E2をなおも狙うが、投げつけられた斧が拳銃を1丁破壊、動揺するハンターに一気に接近…だがハンターも負けじと接近戦で応じるのだ。
しかし接近戦はXM177E2が最も得意とする戦いだ。
武器を持っていないほうが強い、という噂が鉄血の間でまことしやかにささやかれていたくらいだ。
強烈なパンチを浴び、バックドロップで完全にとどめを刺されたハンターはすっかり伸びてしまった…。
「ふははははは! 油断したなコルト・コマンドー!」
その時、エクスキューショナーの高笑いが森に響き渡り彼女は振り返る。
エクスキューショナーはいつの間にか復活し、車に乗ったままのデストロイヤーのそばに移動していた。
「実は今回の作戦はデストロイヤーの救出だ! お前はまんまと騙されてオレたちを相手に戦ってたんだ、どうだ悔しいかメスゴリラ!」
「こいつめ…」
「よし、デストロイヤー! 車を回せ、さっさとずらかるぞ!」
「分かったわ! って、うわっ!?」
「ぐふっ!?」
運転席に移動したデストロイヤーは後方を見ながらバックするはずが、前進にギアを入れたままアクセルを踏んだことにより、車両の前にいたエクスキューショナーが轢き倒される。
「あわわわわ…! ま、間違えた…ブレーキを…うわぁ!!」
パニック状態のデストロイヤーが、今度はアクセルとブレーキを踏み間違えて…すでに車体に下敷きにされていたエクスキューショナーに完全なとどめを刺してしまうのだった。
「デストロイヤー! お前、裏切ったなぁ!?」
「ち、違うってば! これは、なんていうかその……XM、なんとかしてよ!!」
デストロイヤーの希望通り、ハンターはXM177E2の手によりなんとかされて無事にエクスキューショナーの後を追う…。
余談であるが、一部始終を陰でこっそり観察していたスケアクロウの報告により、デストロイヤーは鉄血の裏切り者として無事認定されるのであった…。
デス子「アクセルが戻らなかった…」
お久しぶりーです
登場人物みんな吹っ切れてるもん描きたいな、思ったらすでに書いてあったから更新してみました
ぼくは鉄血が大好きなのさ!
あと、書いててめんどくさかったの出、次話以降XM177E2はXMもしくはコルト・コマンドーと表記します(次話があるかは知らんけど、反響次第?