神王、砂の国に顕現せり   作:かすかだよ

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作者はにわかです。
ONE PIECEの知識はエニエス・ロビーで止まっています。


第1話:神王と砂の王女

 サー・クロコダイル。

 

 “偉大なる航路(グランドライン)”の均衡を司る三大勢力の一角、“王家七武海”に名を連ねる大海賊の一人である。

 懸賞金8100万ベリーと“新世界”に跋扈する億越えの海賊と比較すると控えめな金額だが、懸賞金は政府への“危険度”の目安であり、決して“強さ”の指標ではない。

 つまり、懸賞金が億に到達しないうちに七武海に加入したという事実こそが彼が秀でた能力の持ち主であることの証左に他ならない。

 そして、その能力に見劣りしない戦闘力を誇っている。自然(ロギア)系悪魔の実“スナスナの実”の能力者であり、その能力にかまけることなく鍛え上げ、研ぎ澄ましたというその力は“鬼の跡目”ダグラス・バレットと引き分けたほどだ。

 

 それ程の大海賊が今、アラバスタ王国の砂漠で片膝を突いていた。

 全身に及ぶ重度の火傷。分厚い黒のコートを血と砂で汚し、左腕に装着している金色のフックは原型を留めておらず、ほぼ融解しかけている。

 

「あり得ねェ……! このオレが、こんなガキに……ッ!!」

 

 普段とは打って変わった満身創痍な出で立ちながらも、有らん限りの力を振り絞って立ち上がり、眼前に立つ男を睨めつける。

 

 クロコダイルの視線の先にいたのは、齢にして十代後半の美丈夫だった。

 絹のような黒髪を下ろし、砂漠地帯らしい褐色の肌と麗しい容貌。

 金を主体とした軽鎧を身に纏い、その上から純白の外套を被せている。

 金と青が交互に入り混じった錫杖を手にしており、その身から放たれる“覇王色の覇気”は青年を王の中の王と万人に言わしめるだろう。

 そして、黄金に輝く瞳は何の感慨も覚えた様子もなく、ただただクロコダイルを見下していた。

 

 その瞳がクロコダイルをイラつかせる。まるで路傍の石でも眺めているような眼は彼自身がバカだと切って捨てた連中を見ていたものと同じだから。

 そして、それは眼前に立つ青年が己をそのバカと同列に扱っていることと同義だ。

 

「舐めやがって……! この砂漠に必ずテメェを沈めてやる……ッ!」

 

 フラつきながらも掌に小規模な旋風を発生させる。

 砂地での戦闘はクロコダイルの本領だ。“スナスナの実”の能力で砂嵐を生み出せるが、砂漠であれば制御を手放しただけで町一つを半壊させることも可能となる。

 しかし、その悉くを眼前の青年に打ち破られてきた。もはや勝利は望み薄でありながら一歩も退かないのはクロコダイルの海賊としての意地なのだろう。

 そんなクロコダイルの足掻きを見て、青年が口を開く。

 

「はは! 足掻け。喚け。叫べ! 余が統べるこの国の簒奪を目論んだ貴様には死すら生温い──せいぜい踊るがいい、光なきもの」

 

 快晴な砂地に響く快活な声。

 アラバスタ王国を海賊の襲撃から何度も守り、“砂の英雄”としての地位を確立させつつあったクロコダイルが画策してきた国家転覆の計画を看破してみせた男はその抵抗すら無駄なのだと嘲笑う。

 

「上等だ。後悔しやがれ──砂嵐(サーブルス)!!」

 

 掌に生じていた旋風の制御を手放す。クロコダイルの手元を離れた途端、旋風は瞬時に周囲を吹き飛ばす砂嵐への変貌を遂げた。

 単なる砂嵐が通じないことはクロコダイルとて承知している。それ故に彼素早く次の技を繰り出した。

 

「“砂漠の向日葵(デザート・ジラソーレ)”!!」

 

 クロコダイルが万物に渇きを与える右腕を大地に押し付けた。“スナスナの実”の渇きの力が地下に点在する水脈を刺激し、青年の周囲一帯に巨大な流砂が形成され、その足を絡め取る。

 だが、それでも青年の顔に焦りはない。砂漠の脅威を以ってしてもこの男を倒せないことはクロコダイルも織り込み済みだ。

 

 ───だからこそ、致命的な一撃を叩き込む。

 

 砂嵐が青年を呑み込むと同時に砂嵐の制御を再び取り戻す。その場に砂嵐を押し留めることで青年の視界と動きを阻ませる。しかし、青年は砂嵐の中でも“見聞色の覇気”を用いてクロコダイルの位置を捉えているだろう。

 だが、全身を砂の奔流に呑まれた上に足を流砂が捕えている以上、確実に動きは鈍る。

 そして、クロコダイルも砂嵐の中に砂化させた自身の一部を仕込むことで青年の動きを捕捉しており、動きがないと知るや砂嵐へと踏み込んだ。

 

 砂嵐の中に飛び込むとクロコダイルは全身を砂へと変え、吹き荒れる砂嵐の勢いに身を任せて頂点へと瞬く間に登り詰める。

 青年の頭上を取り、実体に戻ったクロコダイルの手には旋風が。それを眼下に佇んでいる青年へと叩き付けた。

 

「この砂漠の染みになっちまうがいい……!! “砂嵐(サーブルス)(ペザード)”!!」

 

 再び全身を砂塵に切り替えたクロコダイルは砂嵐に混ざって青年の背後に回り、とどめの一撃を放つ。

 

「──“三日月型砂丘(バルハン)”!!!」

 

 クロコダイルの右腕が溶け、三日月型の砂の刃へと切り替わる。それは斬り裂いた相手の部位から水分を奪い、ミイラ化させる一撃。水源が希少な砂漠において喰らえば死を意味する文字通りの必殺の一撃である。

 クロコダイルが男を射程に捉え、その右腕をラリアットのように一閃する瞬間───

 

 

 

 ───地平を照らす日輪の如き神威がクロコダイルを呑み込んだ。

 

 砂漠を照らしていた極光が止むと、意識を失ったことで砂化が解けたクロコダイルが砂漠に倒れこんでいた。

 

「フン。この程度か、砂漠の王を騙りし者よ! だが、“神王(ファラオ)”たる太陽に平伏することを許す! ──そして己が愚かさに絶望するがいい!」

 

 

 

 この日をもってクロコダイルは露呈した数々の悪行によって王下七武海の座を剥奪。そしてインペルダウンへの幽閉が即座に決定された。

 そして、それが意味することは七武海の一角を容易く蹴散らした青年、アラバスタ王国の現国王であるネフェルタリ・オジマンディアスの名を世界中に轟かせることとなった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 戦闘が終わり、オジマンディアスが『熱砂の獅子獣(アブホル・スフィンクス)』に騎乗してアルバーナ宮殿に帰還すると廊下の向こう側から水色の髪色の少女が駆け寄ってきた。

 それを目視で確認したオジマンディアスは熱砂の獅子獣から飛び降りるとその少女に向かって歩いて行く。次第と近まる二人の距離。互いの顔のパーツがくっきりと見える程度の距離まで近付くと──少女はオジマンディアス目掛けて飛び込んだ。何の言葉もなかったが、オジマンディアスは何ら慌てることもなく、飛び込んで来た少女──ビビを危なげなく抱擁した。

 

 

「──おかりなさい、ラムセス!」

「今戻ったぞ、我が最愛のビビよ!」

 

 

 

 ネフェルタリ・ビビ。

 彼女はアラバスタ王国現女王(・・・)──つまりオジマンディアスの妃である。

 彼女とオジマンディアスの関係性などは諸々割愛するが、要約すれば許嫁というやつだ。

 

 

「あっ、ラムセス、大丈夫だった!? 怪我はしてない!?」

「当然だ。余を誰と心得る。アラバスタに君臨する太陽王であるぞ?」

 

 

 幼い頃から王家としての気質、その片鱗を持ち合わせているビビだが、そんな彼女もまだ十代半ばだ。

 オジマンディアスの能力を知っているとはいえ、愛する人が戦ってきたら心配するものだ。ましてやその相手は王下七武海の一角なのだからその心配も一倍強い。

 ビビはバッとオジマンディアスから離れると彼の黄金比の如く整った玉体をペタペタと触っていく。

 

 

 

「ふはは! 愛い。愛いぞ、ビビ!」

「──きゃっ!? ……もう……っ」

 

 

 ぐるぐると自身の身体を回りながら触診していたビビが前に戻ってきたのを見計らってオジマンディアスは躊躇いなくビビを抱き上げた。

 オジマンディアスの遠慮のない行動に可愛らしい嬌声を挙げたビビだったが、姫抱きは悪くないと感じたのか、頬を赤らめて想い人の胸元に顔を埋めた。

 

 

 そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、オジマンディアスは黙って廊下を歩き出した。

 ビビもそれ以上口を開くことなくオジマンディアスの腕の中で揺すられながら彼の顔を見つめる。

 静寂が彼らを包み込む。何度か使用人とすれ違ったが、皆、絶世の美男美女の絵画のような逢引を邪魔しまいと、そそくさと自らの業務に勤しんだ。

 オジマンディアスはどうかは知らないが、ビビはこの空気が好きだった。

 小さい頃は王族としての役目に不満を感じ、密かに城下町に繰り出して同年代の子供たちと遊んだり喧嘩をして友好を深めていた。

 当然、彼等と過ごした時間は大切なものだ。彼等との関わりが今のビビを形成したと言っても過言ではないとも思っている。

 だが、それ以上にオジマンディアスと穏やかに過ごす時間が心地よいのだ。

 王女、ネフェルタリ・ビビでなく。友達のビビでもなく。

 年下(子供)の自分を一端の大人の女性として愛してくれていると実感できるから。

 そう、昔に憧れた絵本の中のお姫様のように。

 

 

 

「……ねぇ、ラムセス。私──……」

 

 

 ポカポカと降り注ぐ日光と無性に安心できる太陽の匂いに誘われたようにふよふよと訪れた睡魔に身を委ね、ネフェルタリ・ビビはゆっくりとその意識を沈めるのであった。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ──ある日、俺は転生していた。

 

 

 元々はいい年した大人だったのに気が付いたら幼少期に逆戻り。しかも名前と顔がまったくの別人に変わっていた。

 向こうじゃ聞いたこともない国名だし向こうで言うエジプトみたいな国だったから最初は詰みじゃん、とか思ったけど日本語が通じたのは幸運だった。

 なんで自分なんだー、とか本当に自分が死んだのかー、とか考えはしたものの幾ら考えた所で結論が出るはずもなく。一先ずは自分の所為で亡くなったとも言えるこの子の為に生きていくことにした。

 どうやらこの子は相当なお坊ちゃんみたいで両親やお手伝いさんに蝶よ花よと言わんばかりに大切に育てられたから何の怪我やらハプニングに見舞われることなく生きてこれたし、父親がよく情勢やらを教えてくれたお陰でこの世界の知識は充分についた。

 

 

 

 えー何々? 食べたら不思議な力が得られる悪魔の果実に奇想天外な天気がある島々。オマケに今は『大海賊時代』で処刑された海賊王の遺産を巡って世に海賊が蔓延っているぅ? 

 

 

 

 ……どう考えてもONE PIECEじゃねーか。

 

 

 

 向こう側──もう死んだのと変わらないから前世の記憶とでも言うべきものに引っかかる言葉の数々に頭を抱える。ワンピ、ワンピースかぁ……。嫌いじゃない、むしろ好きだったけどいざ自分がその世界の住人になるのなら話が変わってくるんだよなぁ。

 そんなこの世の真理に打ち拉がれていたが、ある時、脳裏に電流が走った。

 此処は現実(リアル)ではなく、空想(ファンタジー)だという当たり前過ぎて抜け落ちていた事実に気付いたのだ。

 つまりこの世界の法則が適用されているのなら、俺にも特訓次第では覇気や六式といった超人的パワーを獲得できるんじゃないかい!? となれば話は早い! 燃えろ、俺の厨二心───!! 

 

 

 とまぁ息巻いたまでは良かったんだけどね? 取り敢えずは目に見える成果が出てきて心にゆとりが持てたのだろう。

 鏡に映った自分の顔を見て、その顔と今の自分の名前が前世の記憶と合致したのだ。

 

 

 ……おじまんでぃあす。もう一回言おう、オジマンディアス。うーん、太陽王。

 あっ、そう思えば声もすっごいテラ子安……。

 え、ということはこの身体は未来の最大最強のファラオの玉体であらせられると? じゃあこの子ってお金持ちや貴族とかじゃなくてガチの王族ってこと? うわ、下手なことできねぇ……。

 

 

 そうやって日課にしてきた訓練を熟さずに思い耽っていたことをスランプや挫折だと勘違いしたのか両親が自然(ロギア)系の悪魔の実を誕生日にプレゼント。

 わあ、すごいや。と喜んだものだが、文献によるとサンサンの実。太陽の力を獲得できるとのこと。

 名前はオジマンディアス。手元には太陽の力を獲得できる悪魔の実。ついでに此処はアラバスタ。

 神が言っている、太陽王ロールプレイをする定めにあると……! 

 

 

 

 

 

 そんでなんやかんやあって十六歳の時に初めてアラバスタ編の裏主人公とも言えるネフェルタリ・ビビと許嫁の関係だと唐突に暴露されて困惑している間に異様に良い手際でネフェルタリ家に婿入り。

 最初、コブラ様は私、不満ですって感じの態度だったけどその分家臣のみんなやビビちゃんが優しくしてくれたんだよね。だけど時間が経つにつれて俺のことを認めてくれたのか、コブラ様には色々と良くしてもらったんだよなぁ。

 …………こんなに優しい人たちが古代兵器とかいう下らない代物の情報の為だけに何百人以上も犠牲になるのは、すっごい嫌だなぁ……。

 まだクロコダイルは居ないけど、いつ来ても大丈夫なように、みんなを守れるくらい強くなろうと思った。

 そして数年経ったらコブラ王から王位の座を譲られて正式なアラバスタの国王に着任し、国が二分されるより先にクロコダイルを倒して今に至るのだ。

 此処までは何とか最善だと思える道筋を辿れていると思う。けど、今俺は過去現在未来でも史上最大の問題と対面していた……!! 

 

 

 

 

「……ねぇ、ラムセス。私、貴方と会えて本当によかった……」

 

 

 

 ──子供が夜更かしなんていけませんっ! 

 

 

 俺が無理くり王位に就いたからビビちゃんは十四歳で女王になったんだよね。まだ遊び盛りだろうに、本当に申し訳ないことをしたよなぁ。慣れない業務を任された所為で夜な夜な徹夜してることを知ってるから寝かし付かせようと思ってたんだけどとんでもないこと言い残して眠りましたよこの娘。

 わ、寝顔すっごい可愛い──とか見惚れてる場合じゃねえ。ダメだ、普段は天真爛漫なのに儚げに呟かれたのが不意打ちすぎて動悸が止まんねぇ! 

 俺は太陽王……! 俺は太陽王……!! 俺は太陽王……!!! 

 

 

 

 

「……ほんと、ずるいよなぁ若いって」

 

 

 

 宝飾品を扱うような繊細な手つきでビビを自室のベッドに寝かせてやるとオジマンディアスは誰も見ていないことを確認すると普段被っている王としての仮面を外して薄っすらと赤くなった頬を掻きながら心情を吐露した。

 

 

 

 

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