神王、砂の国に顕現せり   作:かすかだよ

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第二話で沢山の感想、ご意見ありがとうございました。
有り難い言葉もあれば厳しいご意見もありましたが、清濁併せ呑んでこれからの糧に出来れば、と思います。
至らぬ点も多くあり、お目汚しではありますが、これからも多くの方にこの作品をご覧いただけたら幸いです。

2月13日:ルーキー、日刊ランキング1位、2月18日:週間ランキング1位、お気に入りが6000を突破しました。皆さま、ありがとうございます。


今回、オリ技があるので一応注意喚起しておきます。






第三話:神王の威光

「その程度かっ!」

 

 

 ドフラミンゴが放つ覇王色の覇気を一瞬で押し返してオジマンディアスが吼える。

 聴くもの全てが身を竦ませる大喝。手にした王笏をドフラミンゴに突き付けて己が王威こそが至上なのだと示してみせた。

 対してドフラミンゴはその顔を屈辱に染めてオジマンディアスの覇王色に耐え忍ぶ。覇王色の覇気とは生まれ持った王の素質。武装色や見聞色のように訓練によって練度が高まることはなく、人間的な成長によってのみ鍛えられるという異質なそれは、己を写し出す鏡とも言えるだろう。

 だからこそ、この勝敗は両者の格を明白に知らしめた。

 故に、ドフラミンゴも負けじと吼える。己を至上とし、他者をゴミと断ずる高い選民思想を持つ彼はこの結果を断じて認めない。この格付けの結果を覆すために晒されたその隙を突いてドフラミンゴは押されながらも攻勢に打って出た。

 

 

「──―寄生糸(パラサイト)!」

 

 

 ドフラミンゴは吹き飛ばされながらも足底を床に引き摺らせることで退く速度を落としながら目に見えない糸を飛ばして再度、将校らを自身の操り人形へと仕立て上げると即座に彼らをオジマンディアスへと突撃させた。

 迫り来る海兵たちの攻撃を時には躱し、時には錫杖で防ぎつつオジマンディアスは傍らに太陽に等しい輝きと灼熱を発する球体──小太陽とでも呼ぶべき代物を顕現させた。そして小太陽が僅かに揺ぎ──―天すら焦がすであろう光が射出された。

 その名を、蛇を殺す蛇(ウラエヌス)

 地上を焦がすだけでなく、物理的な破壊力すら宿した魔力光が周囲に漂っていた糸をも融かしながらドフラミンゴを灼き貫かんと放たれた。

 

 

 

超過鞭糸(オーバーヒート)!!」

 

 

 視界で眩く破壊光に相対するは覇気を纏い、赤熱する極太の糸の鞭。

 ドフラミンゴの翳した掌から伸ばされた糸が太陽光を穿たんと音速の速さで射出されたが、

 

 

「ファラオの威光を知るがいい。フフ、フハハハハハ!」

「──―ッ!!」

 

 

 赤熱した糸の鞭は破壊光と衝突した端から灰燼に帰していく。それを目前としたドフラミンゴは負けじともう片方の掌から超過鞭糸(オーバーヒート)をオジマンディアス目掛けて射出するも、彼が放つ覇王色の込もった熱波は糸が近付いただけで糸を熔解させ、寄せ付けない。

 ハッキリと明確化する実力差に歯噛みするドフラミンゴだったが、ふと、オジマンディアスの背後にいつの間にかまた一つ小太陽が存在していると気付いた、瞬間。

 

 

 

 旭光が斬撃の如く飛来した。

 破壊光がドフラミンゴを縦に焼き切った。その身体が二分にされて矢状面を露わにしながら膝から崩れ落ち、倒れていく。

 が。二つに別れたドフラミンゴの身体は切断面から熱が行き渡り、まるで蝋燭が溶け切ったかのように白い塊だけが床に残る。

 その常軌を逸した光景を目にしてもオジマンディアスは狼狽えることなく武装色を纏った腕を側頭部に翳す。

 その腕の先には鳥の羽を模した上着をはためかせながら空中で身を翻すドフラミンゴの姿がそこにあった。彼は滑空しながらその身を大きく捻り、落下と回転が生む遠心力に武装色を纏わせた脚撃をオジマンディアスに叩き込む。

 

 

「──―足剃糸(アスリイト)

 

 

 鉄と鉄を打ち合わせたような衝撃音が響いた。

 拮抗は数瞬。ドフラミンゴが強引に足を振り切った。その足に遅れて覇気で鋭利さを更に増した糸による斬撃がオジマンディアスの腕に傷を刻み、オジマンディアスは半円を描くように足を剃らせつつ後退した。

 腕の傷から炎が奔らせたオジマンディアスと着地したドフラミンゴの視線がぶつかる。

 オジマンディアスは傷ついた腕を興味深そうに見つめ、ドフラミンゴは口を弧に歪ませて嗤った。

 

 

「フッフッフッフッ! 先制点はおれのようだな、太陽王」

 

 

 笑いながらゆったりとした動作でドフラミンゴは立ち上がる。起きざまに彼が指を動かすと、その傍らにドフラミンゴと瓜二つの人物が虚空から現れた。

 ──―影騎糸(ブラックナイト)

 ドフラミンゴをしてとっておきと言わしめる糸の分身体が銃弾を越える糸の弾丸を穿つその五指をオジマンディアスに突き付けた。

 

 

「──―フフフフ……フハハハハハハハハハッ!」

 

 

 掌で顔を覆って天を仰ぎ、豪快に高笑うオジマンディアス。いきなり彼が取った奇怪な行為をドフラミンゴは警戒心を醸しながら訝しむ。

 

 

「良い。良いぞ、余は貴様を見誤っていた。多少はやれるようだな、天夜叉よ」

 

 

 そんな視線を気に留めることなくオジマンディアスは両手を広げてドフラミンゴを見据えて告げた。

 

 

 

 

「故に! 余は──太陽の輝きを以って、お前を焼き尽くそう。今、ここで!」

 

 

 

 オジマンディアスが吼えると同時にその背から炎が噴出した。勢いよく、不定形に現れたそれは、次第に隼を思わせる燃え盛る翼を型作る。オジマンディアスが両手を開いても半分にも届かない大きさを持った煌翼はその全貌を露わにし、翼の面に熱源を無数に収縮させていく。

 

 

 

 

 

「浄滅せよ───天翔せし隼の不滅なる煌翼(ホルス・ハルマキス)ッッッ!!!」

 

 

 

 

 オジマンディアスの号砲を合図に、先ほど影騎糸(ブラックナイト)を一撃で熔解せしめた破壊光がドフラミンゴを灼き尽くさんと連続して放たれた。

 絶え間なく翼から放射され、爆裂していく破壊光。眼前が爆煙で覆われようとも、一切躊躇うことなくオジマンディアスは天翔せし隼の不滅なる煌翼(ホルス・ハルマキス)から蛇を殺す蛇(ウラエヌス)を放ち続けた。

 そして、ついに。

 

 

 

 

 

「──―ぐおあァアァァァッッッ!!!」

 

 

 

 爆煙が閉ざしている向こう側からドフラミンゴの絶叫が耳を劈いた。それを聞いて敵の容体を確認すべくオジマンディアスは蛇を殺す蛇(ウラエヌス)の弾幕を止めると立ち続ける爆煙を薙ぎ払う為に破壊光を一発だけ発射した。

 

 

 

「ハァ……ハァ……ゼェ……ッ」

 

 

 

 外へと吹き飛んでいった爆煙。鮮明に晴れた視界には木っ端微塵に砕け散った壁と綺麗さっぱり消え去った壁や床。そして、大量に飛び散っている白い液体の中央で片膝をついて息を荒げているドフラミンゴがいた。

 先ほどまでの悪のカリスマを思わせる才気は見る影もないほどに伺えない。白地の上着についていたフラミンゴの羽を想起させる装飾は消え失せ、晒していた身体の所々に火傷が見て取れた。

 

 

 

「ほう、ほう。面白い! 余の威光から背を向けるでもなく、正面から受け、耐え忍ぶか!」

「……舐め、るなよ……!」

「だが、その傷では立っていることすらままなるまい」

「…………ッ!」

 

 

 ふらつきながら息も絶え絶えな様子で立ち上がったドフラミンゴに対してオジマンディアスの関心が高まる。それは彼が取った行動が文字通り命を賭けた賭博だったからだ。

 ドフラミンゴは嵐の如く襲い掛かる破壊光の弾幕に対して背を向けて無様な死に様を晒すよりも、骨の髄まで焼き尽くされる死を回避すべく覚醒した「イトイトの実」の能力を駆使してオジマンディアスの猛攻を辛うじて凌いでみせたのだ。

 

 

 だが、その代償は大きすぎた。

 ドフラミンゴの脇腹に出来た火傷に籠る熱が皮膚を焼き、その下にある筋肉までをも熔かし続けていた。当然、ドフラミンゴとて黙ってあるがままを受け入れているわけではない。熔け続ける筋肉を糸で少しづつ削ぎ落として火傷が広がるのを阻止しようと糸を身体に這わせているが、火傷の熱がその糸を焼き切っていた。

 その怪我と有様を眺めてオジマンディアスはドフラミンゴにそう告げた。

 ドフラミンゴはその問いに答えない。否、答えられない。今もなお、細胞の一つ一つを無数の鋭い針で突き刺すような激痛が彼に襲っていた。

 

 

 

「──―死を乞うがいい、天夜叉。貴様の気概に免じ、余が直々に死を下賜してやろう」

「……」

 

 

 腕を組み、傲然とした態度でドフラミンゴを見下してオジマンディアスはそう告げた。

 ドフラミンゴは沈黙。その顔を怒りに染めてもただ無言のまま、オジマンディアスを見据えていた。

 その遣り取りを無関心を貫いているくまは兎も角、海兵達を庇うべく見届けるしかないセンゴクと加勢しようにもオジマンディアスの熱波が強力すぎるが故に近付けないジンベエには、今にも噴火しそうな活火山のようにしか思えなかった。事実、それは正解に近かった。

 皮切りは、あたりに飛び散った真紅の飛沫。そして艶のある黒に染まった糸から滴る鮮血がドフラミンゴの覚悟を言外に語っていた。

 

 

「20人の王の一人……ネフェルタリ。その名を聞くだけで気分が悪い……!!」

 

 

 サングラス越しでもひしひしと伝わる殺意を滲ませながらドフラミンゴは今でも極稀に夢に見る、忌まわしき過去を想起する。

 自分から力を奪った愚父。人の際限ない悪意に身を晒されたこと。自分を殺そうとしてきた天竜人たち。そういった過去が起因して世界の破滅を望み、実現すべく暗躍してきたドフラミンゴが持つ情報網はとある事情によって世界政府に迫るものがある。

 世界の秘された真実を知るドフラミンゴだからこそオジマンディアスに牙を剥いた。彼にとって天竜人に成り得た(・・・・)末裔など復讐の対象の一つに過ぎない。そして、ドフラミンゴの目の敵である天竜人もネフェルタリを裏切り者と見做していた。

 ドフラミンゴと天竜人は敵同士だが、敵の敵は味方とも言う。ドフラミンゴはネフェルタリへの復讐を。天竜人は思わぬ力を得たネフェルタリの台頭を恐れて。この戦いは両者の利害が一致したからこそ発生した戦闘であった。

 当然、この場に限ってどのような結果になってもドフラミンゴは世界政府の庇護を受けれるように根回しを済ませてある。

 故に、ドフラミンゴも一切の躊躇なく戦えるのだ。

 ドフラミンゴは床を蹴り、外へと跳躍した。雲に糸を引っ掛けてゆったりと高度を上昇させていく。それに伴って糸化した建造物もまた、ドフラミンゴに追従する。

 

 

「──太陽王ッ! お前が太陽を冠した気でいるなら、おれが舞う天により高く昇ってみせろ!!!」

 

 

 虚空に身を浮かせ、ドフラミンゴはオジマンディアスを睥睨する。

 

 

「良かろう。貴様の策に乗せられてやろう」

 

 

 オジマンディアスも煌翼をはためかせ、ドフラミンゴに追随すべく天へと舞い上がった。

 飛翔は隼の如く。オジマンディアスはドフラミンゴよりも高所を即座に陣取り、その身を翻す。腕が揺らぎ、炎と化していた。

 

 

「──―盾白糸(オフホワイト)

 

 

 ドフラミンゴもまた、決着の一撃を放つべく動き出す。共に上昇する何柱もの糸の柱を二柱に統合し、オジマンディアスの攻撃を防御すべく自身の手前で交差させる。

 

 

「16発の聖なる凶弾……!!!」

 

 

 弓なりに両腕を後方に引き絞る。それに呼応するようにドフラミンゴの背を拝していた16本の糸の束が武装色によって純黒に染まりながら、その切っ先を弧にしならせた。

 

 

「───―神誅殺(ゴッドスレッド)!!!」

 

 

 神殺しを冠する凶弾が矢の如く放たれる。その何本もの攻撃は盾白糸(オフホワイト)をいとも容易く貫いてオジマンディアスを穿たんと飛び出した。

 

 

 

旭光の威光は蛇の如く(アテン・ウラエヌス)!!!」

 

 

 対するオジマンディアスは牙を剥いた魔弾に向かって炎と化した腕を引き絞り、ドフラミンゴに突き付けるかのように腕を振るった。

 その勢いに乗って拳から飛び出た炎で象られた蛇が、太陽の威光を発しながら大口を開けて16発の凶弾を飲み込んだ。

 そこで終わることなく蛇は大口を開けたまま落下しながら盾白糸(オフホワイト)ごと──ドフラミンゴを飲み込むと顎門を閉ざし、頭から尾へと順を辿って火が消えるように空に溶けていく。

 おおよそ十数秒を掛けて炎の蛇が消えたと同時に、飲み込まれていたドフラミンゴが姿を現した。彼は燃えたまま一切の抵抗、身動ぎ一つすることなく地へと墜落していく。意識を失っていることは明らかだった。

 そんなドフラミンゴの傍らに、忍び寄った男が一人。

 

 

 

 

 

 

 

「────旅行するなら、どこに行きたい?」

 

 

 

 今の今まで静観を貫いていたはずのバーソロミュー・くまが、なすがままに落ちていくドフラミンゴの隣にいたのだ。

 彼の手は黒い手袋を外してあり、掌にある肉球を露わにして、振りかぶっていた。彼が食した「ニキュニキュの実」の能力を使用しようとしているのは誰の目から見ても明らかだった。

 

 

「───なんのつもりだ、くま……!!」

 

 

 

 木っ端微塵に消え去った壁の淵に立ち、空を見上げてセンゴクが激昂してくまに問うが、もう遅い。

 くまは躊躇いなく腕を一閃。

 肉球がドフラミンゴと接触し───

 

 

 

 

 

 

 ポン、という軽快な音と共に振るわれたその一振りは、ドフラミンゴに纏わりついたオジマンディアスの燃え盛る炎を掻き消し───ドフラミンゴをマリンフォードから消し去らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




昔、作るだけ作って放置していたTwitterを動かし始めました。
https://twitter.com/Schwein1309
予約投稿やら呟いていく予定なので宜しければどうぞ。

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