読書家男と本屋の彼女   作:シフォンケーキ

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初のオリジナルです。
気に入っていただけたなら幸いです。


1話

出会いというものはいつ何処で起こるかわからないものだ。初めて彼女に会ったのは仕事帰りの本屋だった。傲慢な上司にこき使われて疲労と不満で満たされた夜の帰り道、近所の行きつけの本屋の看板を見て、そういえば今日は欲しい本の発売日だった事を思い出して彼はそのまま店に入って行った。

「いらっしゃいませ」

初めて聞くその声に彼は一瞬そちらに目を引かれた。そこには小柄で茶髪の女性店員がレジに立っていた。

(新人さん入ったんだ・・・)

そんな事を考えながら彼はお目当ての本を物色し始めた。

(そう言えば前に買いそびれたのもあったな。それもついでに買っておこうかな)

「よう、良ちゃん。いらっしゃい」

目当ての本を数冊手に取ると背後から男の声がした。良ちゃんと呼ばれた彼、赤城 良司は声のした方を振り返った。

「なんだ、千堂さんか」

振り返るとそこにはこの店の店長である千堂 勝久がいた。

「なんだとはまたご挨拶だな」

「残念ながらヤクザ宛らの面したオッサンの顔見て喜ぶような趣味は俺にはありませんよ」

「悪かったな、可愛らしい美少女じゃなくてこんな凶悪面のオッサンで」

千堂が笑って返した。彼らは長い付き合いなので顔を合わせるといつもこんな調子でふざけあっている。

「今日は新刊を買いに来たのかい?」

「はい。あと気になっていたものをいくつかね」

「良ちゃんみたいな客がいてくれるおかげでウチみたいな個人経営店も潰れずにすんでるよ。ありがとう」

「何言ってるんですか!個人経営にも関わらず大手にも引けを取らない店の広さとマニアックな作品まで仕入れている幅広い本の数!お礼を言うのはこっちの方ですよ!」

「お、おう。相変わらずだな、お前さんも」

 食い気味に言ってくる良司に思わず千堂は後ずさった。

「それより良ちゃん、リサちゃんを見てどう思った?」

「リサちゃん?」

聞きなれない名前に良司は聞き返した。

「今レジに立ってる新人さんだよ昨日から入ったんだ。見た目はいかにもギャルって感じだが彼女も結構なビブリア(本を愛する人)だよ」

「まあ、千堂さんがこの店で雇うぐらいだからそうでしょうね」

実はこの千堂という男、見た目に似合わずかなりの本好きであった。彼がこの店を建てたのも、好きな本に囲まれ、更にその本を色んな人にも読んでもらいたいという思いから始まったのである。故に彼がこの店で人を雇う条件はただ一つ。千堂 勝久が認められるくらいの本好きか否かだ。そのせいで今までこの店で働いた者はそう多くはなかったのである。

「それで、質問の答えは?リサちゃんを見てどう思った?」

「どうもこうも何も知らない状況で何を答えろって言うんですか。確かに可愛い娘だとは思いましたけど」

「やっぱり俺が思った通りだ。お前さんならそう言うと思ったよ」

「何なんですか、一体」

「いや、お前さんとあの娘ならさぞかしお似合いだろうと思ってな」

「何を馬鹿な事を・・・」

二人がそんな話をしていると件の「リサちゃん」がやって来た。

「店長、いつまでサボってるんですか?」

「おいおい、サボってるとは酷い言われようだな。大事な常連さんと話してただけだよ」

「それをサボりって言わなかったらなんて言うんですか」

「情報交換?」

「バカじゃないですか?」

(結構ガンガン言うタイプの娘だなぁ)

物怖じせずに千堂に言う彼女を見て良司はふと考えた。

「でも店長のお陰で今までいい本と巡り会えましたよ」

「ほらほら、こうやってちゃんと評価して下さるお客様がいるんだから」

「そんな店長に気を使わなくても良いんですよ。えっと・・・」

「赤城です。赤城 良司」

「舞崎です。舞崎 リサ。リサで良いですよ。よろしくお願いします。赤城さん」

「俺も良司で良いですよ。リサさん」

これが二人のはじめての会話だった。

「さて挨拶も済んだようだし、さっさとその本レジ通しちまおうか」

二人の顔を見た後に千堂が言った。

「そうですね。お願いします」

そう言って良司は持っていた本の山をレジのカウンターへと置いた。

「わぁすごい数ですね」

「最近買いそびれたのもあったので」

「と言っても良ちゃんは一度に買う時は大体こんなもんだがな」

「おお、店からしたら素敵なお客様だぁ!」

レジを済ませながらリサが笑って言った。可愛らしい笑顔に良司は思わずドキッとしたのは内緒の話。

「あれ、この本・・・」

リサが一冊の本を見るとその手を止めた。

「ん?ああ、その作品ですか」

リサが手にしていたのは去年の秋頃に新人賞を受賞した恋愛小説だった。

「知ってるんですか?『この愛の行く末は』」

聞いてから本屋の店員に何聞いてんだと良司は自嘲した。

「私も読んだんですよこの作品。でもあまり評判は良くないみたいですね」

「そうなんですか?でもまぁそれは自分で読んでから決めますよ」

「なら読み終わったらお互いに感想言い合いましょうよ」

「良いですよ」

「お前さんらすっかり仲良くなったな」

盛り上がっている二人を見てすかさず千堂が茶化す様に言った。

「揶揄わないで下さいよ。・・・お会計、6,810円になります」

「はい、なら丁度で。それじゃあまた」

代金を支払い本を受け取ると二人に挨拶をして良司は店を後にした。

「お買い上げありがとうございました」

二人だけになった店内でリサが頭を下げて言った。

「売れて良かったな。リサ先生」

「ちょっ!店長!」

「ああ違ったな。『この愛の行く末は』の作者、『衣崎 真理紗(いさき まりさ)』先生」

千堂に言われた途端、リサの顔が赤く染まった。

「絶対に他の人には内緒ですからね!店長!」

「わかってるよ。真理紗先生」

「店長!」

その日の店内はリサの怒声と千堂の笑い声で満たされた。

(これから面白くなりそうだ)

今後の展開を考えながら千堂は内心でそう笑った。




ペースは遅いと思いますが気まぐれに書いていきます。
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