読書家男と本屋の彼女   作:シフォンケーキ

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早く書いて載せようと思っていたのに気がつけばこんな時間が過ぎてしまった。
あんまり間が空きすぎるとみんなに忘れられるから早めに書き続けなければ。
みんな前回の話覚えてる?


19話

「もしもし、柏木さん。今お時間大丈夫ですか?」

 本屋での一件から数日後、リサは柏木に電話をしていた。

『先生?ええ、大丈夫ですよ。どうかしましたか?』

「以前話したお相手を紹介するって件なんですが・・・」

『先生、詳しくお願いします!』

 柏木はリサが言い終わる前に食いついた。

「は、はい。この前柏木さんと会った翌日にその話をして一応会っても大丈夫ってなったんですがどうしますか?」

『何言ってるんですか先生!会うに決まってるじゃないですか!会います!会わせてください!今日ですか?いや、いきなりは相手にも失礼ですよね。次ならいつが良いですか!?』

 激しく食いついた柏木に押されながらもリサは会話を続けた。

「そ、そうですね。一先ず柏木さんの予定が空いてる日で大丈夫だと思いますよ。その日に来る事は私から伝えておきますので」

『でしたら明日でお願いします!善は急げ!明日は何があっても他に予定入れませんので朝からでも大丈夫です!』

「あ、朝からは向こうも都合が悪いと思うので出来れば夜でお願いしたいのですが。と言うか柏木さんも仕事ですよね?」

『あ、そうだった。失礼しました。では夜に予定を空けておきます!先生、是非ともよろしくお願い致します!』

「はい。時間はまたご連絡しますので」

『はい!ありがとうございます!』

「それではまた明日に。失礼します」

『はい。ではまた明日に。此方こそ失礼します』

 その後、通話は切れた。

「こう言う事には絶対抜かりないよねぇ。と言うかめちゃくちゃ行動的だよ、柏木さん」

 などと感心しながらも、リサは出掛ける支度をした。と言っても単純にこれからバイトと言うだけだが。

「さて、今日も元気にお仕事しますか!」

 そう言いながらリサは千堂の店へと向かった。

 

 

「店長、おはようございます」

「ようリサちゃん。今日も頼むな」

「はい。それと店長、明日の夜なんですけど予定って空いてますか?お店閉めてからなんですが」

「明日?いや、これと言って特に用はねぇな。本読んだり酒飲んだりして寝るだけだ。それがどうした?」

「いえ、前に言った私の担当さんが良かったら明日にでも店長に会いたいって言ってるんですけど良いですか?」

「おいおい、えらく急だな。まぁ別に暇だから良いけどよ。因みに時間は?」

「それは店長の都合に合わせるって言ってましたよ。流石に会いに来る側が時間まで指定するのは失礼だからって」

「そりゃそうだ。ならまぁ21時過ぎって所だな店閉める時間だし」

「そんな時間じゃなくてもお客さんそんなに来ませんけどね」

「うるせぇ」

 少し拗ねる千堂。

「なら明日、その時間にお願いしますね。私はその人を迎えに行く事になると思うのでその時だけ抜けさせてもらって良いですか?」

「構わねぇよ」

 平静を装って答えたが、内心で千堂は少し動揺していた。どんな相手が来るかも気にはなっていたが、それより気になったのはわざわざここに来る理由の方だった。

(俺何かやらかしたっけ?全くそんな覚えはねぇが)

 などと検討外れの想像をしていた。

 

 

 それから翌日。昼過ぎ。

「今日の夜だったよな?来るの」

「はい。もしかして店長、緊張してます?」

「そりゃするだろ。どんな理由で態々来るのかもわかんねぇんだ」

「まぁそうですよね」

 千堂の気持ちも分かるが、こればっかりはリサの口から言うわけにもいかない。

「どんな人なんだ?」

「えーと、女の人で、昔から本が好きな人ですよ。その影響で編集者になったって言ってました」

「リサちゃんみたいに書き手になるってのは聞くが、編集者ってのは聞かねぇな」

「作家さんが書いた作品を真っ先に触れて、それを完成に導く過程が良いんですって」

 以前柏木から聞いていた事をそのまま話すリサ。

 自分が作者になるのではなく、作者の隣に立って完成までの過程を眺める傍観者、協力者。それが柏木が自ら選んだ道だった。

「本当、そんな人が俺に何の用だろうな」

 不安が増す千堂だった。

 

 

 丁度その頃。

「よし、これなら仕事はすぐ終わる!」

 千堂との対面に胸を躍らせていた柏木はいつも以上の勢いで仕事をこなしていた。

「柏木さん、今日は張り切ってますね。何かあるんですか?」

 そう言ったのは隣のデスクの川端 明美(かわばた あけみ)。柏木の後輩だ。

「ええ、今夜ちょっと人と会う約束が有るの。だから残業なんてしてる暇無いのよ」

(あー、男の人と会うのか)

 柏木の反応からそう判断した川端。柏木の性格は社内でもそれなりに知られていた。

(・・・いつになったら柏木さんは誰かと付き合えるのやら)

 後輩にここまで思われる柏木の立場とは。

(まぁ、私も彼氏なんていないんだけど)

 あまり人の事を言えない川端だった。柏木ほど飢えてはいないが。

 とその時、柏木達の背後から声がした。

「おお柏木くん、今日はいつも以上に仕事熱心じゃないか」

「あ、阿久津編集長」

 振り返ると編集長の阿久津 博之(あくつ ひろゆき)が立っていた。

(・・・面倒な人に捕まったなぁ。柏木さん)

 そう思いながら川端は席を離れた。勿論、自分にも被害が来ないようにだ。この阿久津が態々席を立ってまで話に来た時は碌な事にはならないと噂されていた。

「柏木くん、実は君にとって良い話が出てきたんだ」

「良い話?お給料でも上がるんですか?」

「はっはっはっ。寝言は寝て言ってくれ。君の担当する衣崎先生の話だよ」

「先生の?」

「ああ。映画化した『この愛の行く末は』に続いて新作も順調に売れている。立派な売れっ子作家だ。そこで、先生のサイン会を開く事になった」

「サイン会、ですか?」

「うむ。映画のお陰で作品の知名度は高まり、作品も売れているとなれば更に話題性のあるイベントを開いて今の人気を確実な物にするべきだと話が纏まった」

「また急ですね」

 彼の言い分もわからなくは無い。人気作家のサイン。更に言えば今までリサはそう言った表立ったイベント等には殆ど出た事がない。そう言った意味でも話題性はある。何よりあの可愛らしさだ。少なくとも男性支持率は増すだろう。

 

 だが。

 

(でも何でこのタイミングで?普通に考えたら開くのは映画の公開記念とか新作の直後にするのが普通なのに。次の作品の話もまともに出てないのに)

 そこが柏木の引っ掛かった点だった。自分の担当する作家のイベントなのだ。彼女だって嬉しくない筈がない。だがその疑問は消える事が無かった。

「そしてそのイベントの打ち合わせをこれから行いたいんだが良いかい?」

「・・・わかりました」

 こちらが断れない立場だと分かった上でそんな事を聞いてくるのだからタチが悪い。しかし、こっちは早く終わらせなければならないのだ。余計な詮索はやめておこう。

「では14時30分に会議室に来てくれ」

「はい」

 阿久津がその場から立ち去ると同時に川端が戻ってきた。

「・・・何だったんですか?」

「よくもまぁ逃げてからそれを聞けたわね」

「違いますよぉ。トイレに行ってただけなんですよぉ」

 適当に流す川端にこれ以上言うのも面倒だと判断した柏木はそれ以上言うのをやめた。

「私の担当してる衣崎 真理紗先生のサイン会が決まったそうよ」

「良かったじゃないですか。作品も映画も人気みたいですし、いつかやるとは思ってましたけど」

「この話自体は私も嬉しいわよ。でもタイミングが中途半端な気がするのよ。映画の公開記念ってわけでもなければ新作の為って感じもしないし」

「確かにそう言われると変ですね」

 川端も柏木の意見に賛同した。

「でも立場的にあれこれ言える立場でもないのよね」

「雇われの身って辛いですね」

「本当にね」

 などと他愛無い話をしていると、そろそろ会議室へ向かわなければいけない頃合いだった。

「それじゃあ、行ってくるわ」

「柏木さん、死なないで下さいね」

「人を勝手に殺さないの」

 少なくとも今夜の予定を終わらせるまで死んでたまるかと思う柏木だった。

 

 

「さて柏木君。阿久津君から話は聞いていると思うが、衣崎先生のサイン会が決定した」

「急なお話でしたので驚きましたよ。社長」

 会議室に入るや否や柏木にそう言ったのは社長の神木 慎一郎(かみき しんいちろう)だ。

「いや、すまないね。こちらも色々と立て込んでいたものでな。早速だが、本題に入らせてもらおうか。阿久津君」

「はい。実はだな、柏木君。既に場所の確保は出来ているんだ。あとは日時をいつにするかだけだ」

(えらく段取りが良いなぁ)

 阿久津の口ぶりからそう思う柏木。

「こちらとしては来月中の間にしたいのだが、先生の予定が合うかを君に確認してもらいたいんだ」

「もしも来月の先生の予定が合わなかった場合はどうしますか?」

「それをどうにかするのが今回の君の仕事だ」

 選択肢など無い。つまりはそう言う事だ。

「・・・わかりました。先生と一度相談して決まり次第日程をお伝えします」

「よろしく頼むよ」

「柏木君。急な話だとは分かっているが、このイベントは必ず実現、成功させたい。その為に少しでも早い報告を期待しているよ」

「社長、質問してよろしいでしょうか?」

「言ってみなさい」

「何故この様なタイミングでのサイン会が決定したのでしょうか?」

 先程から疑問に思っていた事を素直に聞いてみた。

「実力のある作家さんの後押しをするのが我々の仕事だ。確かにタイミングで言えば中途半端に感じるだろうが、話題作りと知名度アップを考えたら少しでも早く動く事におかしな点は無いだろう?次の作品が書き上がるまで待つのも確かに手だ。だがそれはいつになるか断定は出来ない筈だ。一年後になるやもしれん。二年先になるやもしれん。そうなってからでは折角今いるファンが離れてしまうかもしれない。それは何としても避けたいと思うのは作家も我々も同じだと私は考えるね」

 柏木の目を見ながらそう答えた神木。しかしそれを聞いても柏木の中にある疑念は完全に消える事はなかった。

 しかし、社長からの命令とあれば、柏木が断れる筈がない。

(・・・絶対に何か裏がある)

 確証も何も無いが、そう思った柏木。これ以上何を聞いても満足いく答えは返って来ないだろうし、これ以上言い合っても時間の無駄だ。早々に切り上げた方が自分の為だと判断し、それ以降柏木は何も聞かなかった。

 

 

 それから会議室を後にし、自分のデスクに戻った柏木は仕事をこなしながらも今回の件について考えていた。しかし当然答えが出る訳もなく、行き詰まってしまった。

(あーやめやめ。余計なこと考えて時間と労力無駄にしたって何にもならないわ。それよりも、目の前の仕事を早く終わらせて今夜に備えないと)

 などと考えている時、またしても背後から柏木を呼ぶ声が聞こえてきた。

「柏木ー、この後飲みに行かねぇか?」

 声を掛けてきたのは同僚の芹沢 宏人(せりざわ ひろと)。大学の頃からの付き合いだ。

「ごめん、無理。この後予定あるから」

「何だよ。また合コンか何かか?」

「あんたは知らなくても良いのよ。そうでなくてもこっちはやる事が多いんだからあんたに付き合ってあげられないの」

「何だそれ。つまんねぇの」

 そう言い残して、芹沢はその場を後にした。どうやら他の社員に声を掛けに行ったようだ。

「相変わらず仲良しですね。柏木さんと芹沢さん」

 隣にいた川端が言ってきた。

「大学からの付き合いってだけよ。そんなに仲良くもないし」

「そうですか?芹沢さん、やたらと柏木さんに声を掛けるが他の人より多いと思うんですが」

 周りの事を人並み以上に観察していると周囲の人間からもよく言われる川端。そんな彼女なりに観察した結果、そう言ったデータが取れた。

「他の人より声を掛け易いってだけでしょ。多少なりとも付き合いは長いんだし」

「本当にそれだけですかぁ?」

「何が言いたいの?」

 川端の言いたい事を何となく理解していたが、一応聞いてみる柏木。

「芹沢さん、柏木さんの事が好きなんじゃないかと」

 案の定、予想通りの答えだった。

「そんな事ないわよ。それに仮にそうだとしても彼は私のタイプでもないし」

 バッサリと否定する柏木。

「誰かと付き合いたいって毎日の様に言ってる割には選り好みしますよね。柏木さん」

 理想が強いと言うべきか、何にしても行動と理論が食い違っていると思ってしまう川端だった。

「誰でも良いってわけじゃないのよ。『こんな人と付き合いたい』って言ってるだけ」

「大して変わりませんよ」

「うるさい」

 適当に返事を返し、柏木は荷物を纏めた。

「それじゃあ、仕事終わったし私は帰るわ」

「お疲れ様でした」

「お疲れ様」

 軽く挨拶を交わして柏木は会社を後にした。

 

 これから大事な戦いに向かう為に。




今回は柏木さん視点の話となりました。次も続きますので柏木さんファンの方はお楽しみに。
こりゃ当分良司の出番はないな。

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ありがとうございました。

ご意見ご感想、誤字脱字等有ればコメントお願いします。
ではまた次回。
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