今まで読んで下さった方も過去の話を忘れてる事でしょう。
もし覚えてる方がいましたらこのまま読んでやってください。
では本編をどうぞ。
リサが良司に秘密を打ち明けてから数日後、サイン会を翌日に控えた前日である。
今は昼休み。良司はその日、朝からそわそわしていた。勿論理由は決まっている。
(明日は遂にサイン会当日か。早く仕事終わんねぇかなぁ)
仕事が終わらないかとちらちらと時計を確認するが、当然それで時間の流れが速くなるわけがない。
「落ち着かない様子ね」
「ま、まあ色々とな」
「好きな作家に会えるのだから気持ちもわかるわ」
事情を知るはずも無い澤口が言ってきた。
(実は何度も会ってんだよなぁ)
「おいお前達、少し良いか?」
二人が話しているとそこに部長である生瀬 純三郎が来た。同時に二人は思った。
((絶対碌な話じゃない))
そして二人の予想は見事に的中していた。
「明日の休み、お前達暇だろ?今度の取引先の方との接待ゴルフに付き合ってくれんか?」
「用があるので嫌です」
「お断りします」
仮に明日が暇だったとしても選択肢があるのなら断るに決まっている。
「お前達な、大事な接待なんだぞ。謂わば仕事だ。それ以上に大事な用があるのか?」
そんな物より大事な物などこの世には腐る程ある。
「明日僕等は休みですからね。仕事はしませんよ」
「それに仮にそれが仕事だったとしても大事な仕事を前日にいきなり相手の確認も取らずに言ってくるのはどうかと」
大体、人を暇である前提で言ってくる上司の話など誰が耳を貸すか。
「何だ上司に向かってその態度は。・・・もしかしてお前達二人でデートか?」
「違いますよ。何ですぐそう言う話に持って行きたがるんですか」
「暇そうなお前達が揃って用事があると言われれば誰だってそう考えるのが自然だろ」
「それってあなたの感想ですよね?」
「え?」
「僕等だって生きてる人間である以上それぞれ休みの日に予定を入れるのって至極当然なんですよ。それをあなたの一方的な考えてあれこれ言われても正直知らないですよ」
普段以上のペースで反論する自分に喋りながらも驚く良司だった。
「そんな口を聞いてタダで済むと思ってるのか?」
「脅迫ですか?お好きにどうぞ。その時は法廷で会いましょう」
「何?」
「今の会話、全部録音してあるので」
そう言ってスマホを取り出す。
「このご時世、パワハラだけで社会的に問題だと言うのはご存知ですよね?」
「俺を脅す気か?」
「いいえ。何をするのも個人の自由ですから。でもそれをしたらどうなるかを考えてくださいと言ってるんです」
「チッ。話にならん。もうお前等には頼まん」
生瀬はそう吐き捨ててその場を去っていった。
「・・・意外ね。貴方があそこまで言い返すなんて」
「自分でも驚いてるよ」
明日の事で必死になったのか、日頃の無理難題に我慢の限界が来たのか、どちらなのかすら分かっていなかった。
「まぁそんな事はどうでも良いや。何にしても明日だ」
くだらない事はさておき、大事なのは明日のサイン会なのだ。
「取り敢えず今日はさっさと仕事終わらせて明日に備えて帰るさ」
大事なイベントには万全のコンディションで臨むのだ。
「ところで明日は駅で待ち合わせでいいかしら?」
「ああ。朝9時集合で。サイン会の前に何か食ってから行こう」
「良いわよ」
「サインしてもらう本、忘れてくるなよ」
「貴方もね」
「さて、そうと決まればさっさと仕事終わらせて帰るとしますか」
「ええ。仕事でミスでもして部長に難癖つけられるのも嫌だものね」
そして二人はその日一日、滞りなく仕事を終え無事に帰宅した(途中何度か部長に嫌味を言われた気がしたがそんなものは知った事ではない)。
そしてその日の夜。リサは今日も今日とて千堂の店で労働に明け暮れていた。
「悪いね。明日サイン会があるってのに」
「良いですよ。元々シフトが入ってたんですからちゃんと仕事しますよ」
「真面目だねぇ」
「そりゃ店長に比べたら誰だって真面目ですよ」
「言ってくれるじゃねぇの」
そんな雑談を繰り広げながらも二人は仕事を進める。
「で、実際サイン会を明日に控えて今の心境は?」
「どうでしょうね。今は落ち着いてますけど明日会場に行ったら緊張してると思います」
「そんなもんかね。俺はサイン会なんざした事ないからわからんが」
「怖さ半分、楽しさ半分って感じですね」
その言葉に嘘はない。両方の感情が湧いてきてリサ自身何と表現して良いかわかっていないのだ。
「まあ、明日は楽しんで来な」
「はい☆」
そして遂にやってきたサイン会当日。良司は朝からそわそわしていた。
「財布と携帯、それにサインしてもらう本。よし、全部あるな」
この確認も朝起きてから5回目である。
「・・・落ち着けよ。俺」
自分に言い聞かすが、それでも落ち着いていない自覚はあった。
「・・・別にリサと会うのなんて珍しくないだろうに」
確かにリサと会うのは珍しくはない。しかし『尊敬する小説家』に会うのは初めてなのだ。少なからず緊張するのも無理はない。
しかしこんな事を永遠と繰り返すわけにもいかない。そろそろ家を出る時間だ。
「・・・行くか」
最後に一度荷物や戸締りを確認して良司は家を出た。
待ち合わせの駅に行くと既に澤口がいた。
「お待たせ。早いな」
「集合時間前に来るのは社会人の基本よ」
「手厳しいねぇ」
そんな他愛も無い会話を続けながら駅を後にした。
「どうする?近くの適当な喫茶店とかでいいか?」
「ええ。落ち着ける所ならどこでも良いわ」
そして二人は近くにあった喫茶店へと入って行った。それから数分後、運ばれてきたコーヒーを味わっていると澤口が口を開いた。
「そう言えば貴方に聞きたかった事があるのだけど」
「珍しいな。答えられる範囲ならどうぞ」
「貴方、衣崎 真里紗先生と知り合い?」
思わずコーヒーカップを持っていた手が止まる。
「・・・何でそう思う?」
「この前縦川君達と飲みに行った時に貴方の話になったの覚えてる?」
「そんな事もあったな」
「今まで浮いた話がなかった貴方が見た目の派手そうな子と一緒にいたと聞いてまず初めに似合わないと思ったわ」
「まあ妥当な感想だな」
見た目が派手なギャルと地味な男がセットなどというのはドラマや小説くらいだ。
「でもそれから暫くして考えたら確か衣崎先生もそんな印象だったと思い出したのよ」
淡々と続ける澤口。どうやら彼女も以前ネットで調べた事があるらしい。
「それで何となく俺に鎌をかけてみたってわけか」
「ええ。その様子だと当たっているみたいだけれど」
「突拍子も無い推測にしては良かったんじゃね?まあ衣崎先生と知り合いだってのは認めるけど」
「でもそうなると貴方は衣崎先生の事が好きって事になるわね」
「ッ!」
良司はコーヒーを吹き出しそうになるのをギリギリ堪えた。
「だってそうでしょう?貴方が会っていた人と衣崎先生が同一人物であるなら必然そうなるわ。最近の貴方の態度から考えれば会いに行くのが想い人で尚且つそれが好きな小説家のサイン会と言う特殊な場であるなら尚更。その人の事が気になっていると言う縦川君の言い分が正しければ、ね。まあその反応からすると間違ってないようだけれど」
「今日はよく喋るな」
「私も人間よ。こう言う事を面白くも思うわ」
澤口はそう言うが、良司からしたら意外だった。
「・・・俺ってそんなにわかりやすいか?」
「少なくとも貴方自身が思っているよりはわかりやすいわね」
そう返事をしてコーヒーを飲む澤口。
(だとしたらその内リサにもバレるんじゃねぇかな。最悪もうバレてる?)
そんな事を気にしても彼に確かめる術は無い。
「そう言う澤口はどうなんだよ。浮いた話ってか気になる相手の一人でもいねぇの?」
「生憎と無いわね。そもそも私が求めていないもの」
「ふーん。なら求めるようになったら教えてくれよ」
特に深く触れる事も無く良司が流した。
「・・・珍しい人ね」
「何が?」
「大体私がこう答えると『そんな筈が無い』『嘘だ』って言う人が殆どだったから」
「別に本人がそう言ってんだからそれを他人が嘘だとか決めつけるのなんざおかしな話だろ。そいつが超能力者で相手の心が読めるなら話は別だが」
良司が吐き捨てるように言った。それは自分にも同じ経験があったからだ。最近まで恋愛に興味が全く関心が無かった為、学生時代の友人達からそう言われていた。
「自分自身に対しての言い分に周りがゴチャゴチャ言ってくるのって正直迷惑とすら思ってるよ。何で自分の事なのにそれを嘘だなんだって周りに決めつけられなきゃならねぇんだ」
「やっぱり貴方変わってるわ。でも全くもって同意見よ」
確かに澤口の言うように良司の言い分は珍しい方だった。彼が周りにこの考えを言っても毎回の如く真面目に受け取る人間はいなかったからだ。
「恋愛なんて言ってしまうと酒やタバコと一緒だと思ってるからさ。やりたい奴がやれば良いし、やらなければならないなんて法律も無い。だから恋愛してないからなんて理由で引け目を感じる必要も無いし、それで周りから文句を言われる筋合いもないんだよ」
「恋をしている人が言うと説得力が違うわね」
「人を好きになった事が無い頃にこれを言ったら毎回『負け惜しみの言い訳だ』って鼻で笑われてたからな。今なら少しは聞く耳持たせられるかもな」
笑いながら答え、コーヒーを飲む。
「そろそろ出ましょうか」
スマホで時間を見ると確かにそろそろ向かうのに丁度良い時間だ。
そこで良司はとある事を思い付き、伏せて置かれていた伝票に手を重ねて言った。
「澤口、ちょっとここの代金を賭けてギャンブルしないか?」
「賭け事は法律違反よ」
「その場の食事代やジュース代程度なら賭博罪にはならねぇよ」
「それで、何をするの?」
「俺達二人の合計金額の十の位が奇数か偶数か。お前が選んで良いよ。俺はその逆だ」
お互いに伝票を見てもいなければ正確な金額など知りもしない。
「・・・奇数で」
「なら俺が偶数だな」
なんだかんだで参加する澤口だった。そして二人はそのままレジへと向かった。
「澤口、ご馳走さん」
「勝負の結果だもの。仕方無いわ」
結果として勝負は良司が勝った。
「それじゃ、今回のメインイベントに行きますか」
「ええ」
そのまま二人は目的の本屋へと足を進めるのであった。
前回の投稿から約一年。長すぎる間を開けてしまいました。
これは決して自分が小説を書くのが嫌になったとか飽きたとかそう言うのではありません。
仮に飽きが来ていたとしても一度始めた以上、最後まで書き切る事はこの場を借りて宣言しておきます(どこで言ってんだ)。
単純に手をつけていなかっただけです。ごめんなさい。
先程も言いましたが、一度載せた以上はどれだけ時間が掛かっても最後までやり切りますのでもし良かったらその時までお付き合いいただけたらと思います。
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ありがとうございました
誤字脱字、ご意見ご感想等あればコメントお願いします。
ではまた次回。