読書家男と本屋の彼女   作:シフォンケーキ

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前回の投稿から約一年半が経ってしまいました。遅くなってしまい、大変申し訳ございません。気がついたら一年半経ってました。
この作品を覚えてくれている方々はどれくらいいるのでしょうか?
まだ読んでくれていたら良いなと思います。
では本編どうぞ。


24話

 良司と澤口が目的の本屋へ着くと開店前にも関わらず既に何人か並んでいた。

「30人くらいか?」

「まだ開店前なのに思ったより多いのね」

「まぁそれだけ人気があるって事だしファンとしては良いけどな」

「好きな子が大勢の男に見られるのが不愉快かしら?」

 澤口が茶化す様に言ってくる。

「・・・」

「黙秘は同意したのと同じ事よ」

「うるせぇ」

 せめてもの抵抗と言わんばかりに言い返した。

「何にしても何か変な気分だよ」

「何がかしら?」

「今までは普通に会ってたのに小説家としての彼女に会うのは初めてだからさ。何て言うか、反応に困る」

「どちらかと言えば向こうの方が反応に困るでしょうね」

 立場的に普段の調子で喋ろうにも周りの目がある事を考えればその通りだ。

「今日は面白い物が見れそうね」

 澤口が少し笑いながら行ってくる。

「人をおもちゃ扱いか」

 良司が言うと同時に店が開いた。並んでいた人達が店の中へと入っていく。

「さ、行きましょう。愛しの彼女の元へ」

「うるせぇ」

 またしてもか弱い抵抗で返すが、澤口は笑うのみだった。

 

 

 開店の少し前、リサは緊張しつつもワクワクしていた。

「サイン会の準備完了しました。衣崎先生、本日は宜しくお願いします」

「お、お願いします」

 サイン会前の店内でスタッフに言われ、強張った声で返すリサ。

「大変だとは思いますが、今日はファンの皆さんと楽しんで下さいね」

 そばにいた女性スタッフが言ってくるが、どうにも落ち着かない。

「ファンの人と直接関わるイベントとかこう言うサイン会が初めてなので落ち着かないですね」

「意外です。先生はこう言う場に慣れているものだとばかり」

 リサが言うと女性スタッフは驚いた表情で返した。

「私は人前に出たのは新人賞の時くらいなので」

「それって『この愛の行き末は』ですよね!私も読んでから先生のファンになりました!」

「あ、ありがとうございます」

 女性スタッフの勢いに圧倒されるリサ。

「あの、実は私も今日を楽しみにしてて、本当はダメなんですけど、終わってからでいいのでサインいただいてもいいですか?」

「はい。勿論良いですよ」

「ありがとうございます!」

 満面の笑みでお礼を言う彼女を見てリサも嬉しくなった。やはりファンの喜んだ顔を直に見るのは自分にとっても嬉しいものだ。

「改めて、今日は宜しくお願いします。えっと・・・」

「高柳です。高柳 由香理です」

「じゃあ由香理さん、今日はお願いします」

「っはぅ!」

 リサが挨拶すると突然高柳がその場に倒れた。

「だ、大丈夫ですか!?」

 慌ててリサが駆け寄ると彼女はゆっくりと立ち上がった。

「・・・すみません。推しの作家さんにとてつもない素敵笑顔を向けられた事に耐えられませんでした」

「推し?」

「・・・はい。私、先生のデビュー作を読んだ時からいつか直接会うのが夢で、今日も会えるんだと思うと楽しみで楽しみで。・・・あぁ神よ、今日という日をありがとうございます」

 そう言いながら彼女は明後日の方を向きながら天に祈っていた。

「そこまで好きでいてもらえて嬉しいです。でも自分で言うのも何ですけど見た目が派手でイメージと違いましたか?」

「?見た目のイメージとかは特に気になりませんでしたよ。可愛くて綺麗な人だって思いましたけど」

「そうなんですか?」

「はい!どんな見た目だって性格は作品に出ますから。先生の小説を読めば書いたのが良い人だってすぐわかります。私は先生の見た目を好きになったんじゃなくて先生が書いた作品が好きなんです」

 ハッキリと言い切る彼女を見てリサは嬉しく思った。自分の知らない所でもちゃんと自分の作品を読んで自分自身を見てくれるファンがいる事を実感したのだ。

「ありがとうございます。そう言ってくれる人がいるとやっぱり嬉しいですね」

 少し照れながらリサが言った。すると高柳がまたしても遠い目をしながら呟いた。

「・・・ああ、推しが尊い」

 リサはよくわからなかったので聞かなかった事にした。

「あ、そうだ。なんでしたら今先にサイン書きましょうか?」

「いえいえ!私は終わってからで大丈夫です!でないと今日来ているファンの皆様に失礼ですので」

「ファンの鑑ですね」

「いえ、当然の事です。ファンの方達は今日、先生と会ってサインを貰う為に並んでいるのに店員だからと言うだけでその人達を差し置いて私が先に貰うだなんてファンとしてあるまじき行いです!」

「す、凄い熱量!」

 リサが圧倒されていると興奮が収まったのか、最初と同じ様な雰囲気に戻った。

「兎に角、今日はお願いします」

「はい。こちらこそ☆」

 その笑顔を見て再度高柳は倒れた。

 

 

 リサ達が店内で和気藹々としている間に開店時間を迎えていた。

「やっと開いたわね」

「楽しんで行くとしますか」

「愛しの女の子に会えるのを?」

「しつこい」

 澤口の野次を適当に返していたが、実際心臓が高鳴るのを感じていた。

(もう少しで会えるのか。楽しみだ)

 そんな風に心の中で浮かれながらも良司は店内に入っていった。

 そしてそれから何人かが終わり、遂に次は良司の番となった。

(うわぁ、なんかすっごいドキドキして来た)

 止む事の無い胸の高鳴りを感じてはその度に緊張感が増す。

「次の方どうぞ」

 スタッフさんの声にハッとして前を見ると自分の番が来ていた。

「お願いします」

 言って良司は持って来た本を差し出した。

「はじめまして」

 その一言を聞いた途端胸の中でチクリとした感覚がした。

「・・・はじめまして。今日が来るのをずっと楽しみにしてました」

「ふふっ。ありがとうございます」

(・・・わかってる。あくまでも今は舞崎 リサじゃなくて小説家の衣崎 真理紗として対応してるんだ。知り合いだからって特別扱いしてたら他のファンの人達に悪い。ちゃんとしたプロとしての立ち回りだ。わかってる。わかってはいる、んだが)

 自分に言い聞かせるように良司はそう考えた。頭では理解出来ている。しかし感情ではこれを『寂しい』と思ってしまう。

(俺って思ってる以上に面倒な奴なんだなぁ)

 良い年した男のメンヘラなどタチが悪い以外の何物でもない。仮にこれが付き合っている相手なのであればまだしも、こちらが一方的に好きなだけの友人関係だ。

(好きな子の一大イベントなのに純粋におめでとうも言えねぇのかよ)

 心の中で自分に毒づく。そしてサインをしてもらった本を受け取り、列から離れる。

「お待たせ」

 良司の後に並んでいた澤口もサインを貰い、合流する。

「気になるあの子をもっと見ていたいのかしら?」

 良司の視線の先を追いながら言う。

「・・・いや、他のお客さんの迷惑になる。用が済んだら出ようぜ」

「ならいくつか買いたい作品があるからそれだけ買っても良いかしら?」

「ああ。俺も色々見たいし良いよ」

 そうして二人はそれぞれお目当ての本を物色して会計を済ませて店の外に出た。帰り際、チラッと良司はリサの方へと視線を向ける。

「名残惜しそうね」

「・・・否定はしねぇよ。でもいつまでも居るわけにいかねぇからな」

「やけに素直ね」

「今更誤魔化してもどうせ無駄なんだろ?」

 誤魔化そうとする程の心の余裕も無い良司はそう返した。

「それじゃあ出ましょうか」

「ああ」

 二人は店を後にした。去り際に領事は再度リサの方を見た。

 そこには先程と変わらず笑顔でファンに対応する彼女がいた。

 

 

「それで、どうかしたのかしら?」

 店から少し離れた所で歩きながら澤口が言ってきた。

「何が?」

「言わなくてもわかると思うのだけれど。あなた、最初と比べて表情が暗いわよ」

「そこまで露骨だったか」

「あなた、自分が思うより嘘が下手だとそろそろ自覚した方がいいわ」

「・・・そうする」

 ここまで言われてしまえば誤魔化すも何もあった物では無い。

「改めて聞くわ。どうかした?」

「ただの醜い男の独占欲だよ」

「?」

 訳がわからないと言った表情をする澤口。

「さっき俺の番になった時、『はじめまして』って言われたんだよ。それを少しだけ、寂しいって思っちまった」

「でもそれは・・・」

「わかってる。他の並んでるファンの人達の手前、特別扱いしないようにしたんだろう。公私混同せずちゃんと『作家と一人のファン』って適切な距離感を持った対応だ。プロとして、大人としてそれは間違っちゃいない」

 澤口の言葉を遮るようにして良司が言った。

「間違ってないと頭では理解してるのにそれに対して寂しいと感じてる自分に嫌気がさすんだよ」

「理解は出来ても納得は出来ない、みたいな事かしら?」

「そんなとこだな」

 先程のリサの対応を見てふといつぞやの美希の彼氏のフリをした時の事を思い出した。あの時のリサの事務的な対応も寂しさは覚えたが、今回はあの時以上だった(あの時は寂しさよりも気まずさの方が強かったが)。

「悪意や敵意が無いのが逆に堪えるのかしらね」

 光と影の様に相手に悪意の類がない分、自分の醜さが濃く見えるのだろう。

「誰かを好きになるとここまで面倒になるのね。良い勉強になったわ」

「皮肉はやめてくれ。これでも悩んでんだぞ」

「それは失礼したわ」

「んで、この後どうする?」

「あら、本命の子に相手にされないからってデートの誘いかしら?」

「お前をデートに誘うくらいなら家で本読んでる方がマシだ」

「酷い人ね。流石の私も傷つくわ」

「澄ました顔してる奴が何言ってんだ」

 軽口を叩いてくる澤口に悪態をつきながら良司が言う。

(いかんいかん、これ以上はただの八つ当たりだ)

 ギリギリの所でブレーキをかける。しかし実際問題今の良司はそれどころでは無いのだ。

(・・・どうしたもんかねぇ)

「それじゃあ、私はここで。また会社で」

 良司が悩んでいると澤口が言ってきた。

「おいおい、悩んでる知人を放置かよ」

「今のあなたと居ても碌な事にはなら無さそうだし恋愛経験の無い二人が悩んだところでまともな解決策なんて出てこないでしょう?」

「正論で責めるな。こっちは誰かに縋りたいんだよ」

「他を当たってちょうだい」

 そう言い残して澤口はその場を後にした。

「本当、どうしたもんかねぇ」

 一人取り残された良司は再度呟くしか出来なかった。

 




前書きでも言いましたが、前回から約一年半、遅くなり大変申し訳ございませんでした。以前にも言ったかと思いますが、投稿が遅くなったとしても途中で投げ出す事はしないので気がついた時にでも暇つぶし程度に見てやってください。

お気に入り登録してくださった
春はる様
バカなるもの様
ありがとうございました

誤字脱字、ご意見ご感想等有ればコメントお願いします
ではまた次回。
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