ある日のこと、良司は自分のスマホを見つめながら悩んでいた。理由は簡単。先日知ったリサのLINEに連絡を入れるかどうかだ。あの時は流れで自分でも驚くような事をほざきながら、あれよあれよと交換出来たくせにいざとなると連絡一つ取れやしないヘタレだった。
「こんなんでよく連絡先交換出来たな」
我ながら呆れるしかない。
そう考えていると、手にしていたスマホが震えた。誰かからLINEが来た様だ。
「誰だ?・・・ってリサ?」
送り主はリサだった。まさか送るかどうしようかと悩んでいる相手から来るとは。
内容はこうだった。
『4月23日、もし来れたら仕事終わりに店まで来てくれない?良くんに大事な用があるの』
なんともシンプルな呼び出しの連絡だった。まぁ用が有ればいつでも連絡してこいと言ったのは自分なのだから別に問題も無いが。
「と、兎に角、返信しないと」
言って彼はぎこちない動きでスマホを操作した。なんとも陰キャ丸出しだ。
『わかった』
なんか素っ気なくないか?そう考えて書き直す。
『美しい君のお誘いとあらば、何処へだって向かおうとも』
・・・気持ち悪っ。テンパってたとは言え、こんな事を書くなんて自分は正気か?良司は黙ってその文を消し、新たに言葉を繋げていった。
『承知した。この赤城、必ずやあなた様の元へ馳せ参じよう』
「だからいつの時代だよ!」
そう言って良司は思わずスマホをベッドに叩きつけた。キャラが違うとかのレベルを超えてるだろ。
「取り敢えず書き直そう。あれは無い。ん?」
そう思ってスマホの画面を見るとおかしな事があった。画面が割れているわけではない。うん。それはいい。では問題は何か?そんなものは決まってる。先ほどの文がリサに送られているのだ。恐らく放り投げた時に間違って送信ボタンでも押したんだろう。
「いやいやいや!なんで送信されてんだよ!取り消しだ!削除だ!削除!削除!」
しかし世の中というのはそう上手くはいかないようで、先ほど良司が打った文の横にはっきりと『既読』の二文字が表示されていた。これでは今更消したところで既に見られているのだから意味は無い。
「あーやばい。誤魔化す案が思いつかん・・・」
悩んでいるとスマホから音がした。LINEが来たようだ。
送り主はもちろんリサだった。
『りょーかいw良くんが来るの楽しみに待ってるね☆』
取り敢えずドン引きはされずに済んだらしい。
「・・・寝よ」
そのまま良司は考えるのをやめた。
翌日、仕事へ行った良司はいつにもなく悩んでいた。それはもう仕事が手につかないくらいには。
理由は単純。昨日リサから来たLINEの件だ。
(わざわざ俺に用ってなんだ?まさか告白でもするって訳じゃないだろうし)
なんて冗談を言ってはみたが、それがもし本当なら彼だって一人の男。嬉しい事この上ない話だ。
「何ニヤついてんの?気持ち悪い」
背後から良司に向かってそんな声が響いた。振り返るとそこには同僚の縦川
「別にニヤついては無いけど」
いけないいけない。哀れな妄想一つで思わずニヤついていたらしい。気をつけねば。
「彼女でも出来たのか?」
「ふざけんな。俺にそんなもん出来るわけないだろ」
言ってて悲しくなるが、事実としていないのだから仕方がない。
「ふーん。そういや、あの約束覚えてるか?」
約束?そんなものあっただろうか?と考えていると、その表情から察したのだろう。縦川が言ってきた。
「お前、覚えてないだろ」
「おう」
「ったく。今月の23日の合コンだよ」
「あー」
そんなものもあったな。確か急にメンツが一人足りなくなったとかで人数合わせで俺が選ばれたんだったか。
「本当に頼むぜ。前から粘って何とか取り付けた可愛い女の子達との合コンなんだから。お前だってこれをきっかけに彼女くらい欲しいだろ?」
別にそこまでして欲しいと思ったこともないんだが、言ってもどうせ彼は信じないだろうから良司は適当に流した。
「本当に当日は頼むぞ!」
「はいはい」
そう言い合ってお互いに仕事に戻った。が、良司はある事を思い出した。
(その日ってリサに呼ばれてる日じゃん・・・)
面倒な事になりそうだと良司は直感で思うのだった。
一方その頃、リサはと言うと千堂の店で今日も働いていた。
「なんかいい事でもあったのかい?」
「え?な、何もないですよ?」
千堂の問いに驚きながらもリサが答えた。
(そんな顔に出てたのかな?)
本人は気づいていないようだが、店に来てからずっといつも以上に上機嫌だったら大概の人間は気づくだろう。
(あれで隠せてるつもりなのか?今時の女の子はよくわかんねぇや。今度良ちゃんにでも聞いてみるか)
そんな事を内心で思いながら、千堂はある事を思い出した。
「そう言えば衣崎先生、もうすぐ新作が発売じゃないですか」
「店長!」
千堂がからかい半分に言うと案の定リサは大声で言った。店内ではお静かに願いたいものだ。
「発売日って確か今月だったよな?」
「はい。今月の23日です」
「ああ、だから機嫌が良いのか。自分の作品が店に並ぶってのは俺には詳しくはわからんが悪くない気分なんだろう?」
「いえ、でも不安の方が多いですよ。もし売れなかったらとかって思っちゃうと」
「難儀な商売だな。小説家ってのも」
(だったら何であんなに機嫌が良かったんだ?)
どうせ聞いても答えないだろうと予想して、千堂は口に出すのをやめた。
ご機嫌な理由はリサのみぞ知る。
さて、困った事になった。つい昨日、リサから用があると言われ、会う約束をした。それはいい。何一つ文句はない。だが、問題はその後だ。どうやらこのままだと良司はその日に会社の同僚達と合コンに行かねばならないらしい。これはスケジュール管理を怠った自分のミスなのでどうしようもない。だが乗り気ではないとは言え、一度行くと言ってしまった手前、当日にいきなり行くのをやめると言うわけにもいかないだろう。そう考えて良司は他の会社の社員達に代わりに行ってくれないかと聞いて回った。だが、結論としてそれは無理だった。
「僕その日彼女とデートなので」
「合コンとか興味無い」
「彼女いるから無理です」
などと色んな理由で断られた。代役が立てられない以上、このままでは自分が行くしかない。
(でも何時に終わるかも分からん合コンに参加して途中で抜けられるとも思わん。それでリサを待たせるのは悪いし・・・)
いっそのことそのまま断れば済むのかもしれないが、以前から言われていた事もあり、あまり頼み事を断れない性分の良司はなかなかそれが出来なかった。
「おう、何悩んでんだ?」
「・・・縦川か」
「なんだ?今度の合コンがそんなに不安か?安心しろって!お前にもちゃんとパス回して悪いようにはしないからよ!これを機に互いに彼女作ろうぜ」
「別にいなくても良いんだけどね」
「そう強がんなよ!隣に誰かがいてくれるってのは良いもんだぞ」
「付き合ってはすぐ振られてばっかの男に言われても説得力ないな」
「うるせぇ!俺の事は良いんだ!お前だって誰かいないのかよ。一緒にいてくれたらいいなって思う女とかよ」
「生憎と本ばかり読んできた人生なもんでね。女の子とは無縁の人生なんだよ」
「ハァ。つまらん奴」
縦川が溜息交じりに言った。
(一緒にいてくれたら、か。いや、まさかな)
その時、良司はある人物の顔を思い浮かべていた。
(それよりも、当日どうするか考えないとな・・・)
そんな事を思いつつ、彼は窓越しに空を眺めた。
何も面倒が起きなければいいのだが・・・。そう願うばかりだった。
本当は1話分で纏めようかとも思ったんですが長くなりそうだったので続きは次回に回します。
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ワト様
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ではまた次回。