12時30分。なんだかんだ本屋で時間を潰した後、良司は駅前に着いた。と言っても約束の時間より早く来てしまったが。
(ま、遅れてくるよかマシだよな)
辺りを見渡すが、まだリサは来ていない様だ。早く来たのだから当たり前だが。
(待ってる間にさっき買った小説でも読むか)
近くのベンチに座ると、良司は先程千堂の店で買った本の一冊を取り出して読み始めた。
12時45分。リサは待ち合わせ場所の駅へと辿り着いた。本当はもう少し早く来るつもりだったのだが、あれやこれやとしているうちに時間が掛かってしまった。
(流石に良くんはまだ来てないかな?)
そう思っていたリサだったが、よく見るとそこには既に良司の姿があった。
「お待たせ〜、って何か読んでる?」
声を掛けてみたが、どうやら小説を読むのに夢中で聞こえていない様だ。
こうなるとどこまでやったら気づかれるか試したくなるのはリサだけだろうか?
試しに隣に座ってみてもやはり気付いた様子はない。
カシャッ。
取り敢えず写真を撮ってみた。スマホには良司の横顔が写されている。
(おお〜これでも気づかないんだ。なら次は何をしよう?)
相変わらず彼の視線は手にある小説から離れない。
(落書きしてみたいけどペンが無い・・・)
仕方がないので代わりに彼の頬でも突いてみようかと指先が彼に触れる直前、
「いや、何する気だよ」
その手を止めた。
「あ、やっぱ気付いてた?」
「写真撮られて気付かない方がおかしいよな?」
そりゃそうだ。
「あはは。だったら何でその時に言わなかったの?」
「あのまま放っておいたら何するのかと思って」
「ひどいなぁ。それよりいつから気付いてたの?」
「お待たせ〜の辺りから」
「最初からじゃん!」
リサのリアクションを見ながら良司は手にしていた本を閉じた。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
「それと、さ」
「ん?」
「その服、似合ってるよ」
少し照れながらそう言った。
「ふふっ。ありがとう」
リサの言葉を受けながら、逃げる様に良司は駅へと入って行った。
そして電車に揺られる事数十分。二人は映画館へとやって来た。
「映画館って久しぶり」
「俺もだよ。自分から行こうって思う事なんかあまりないからな」
「見る前に何か買う?」
「迷うなぁ。欲しくはあるけど欲しくないって感じかな」
「どう言う事?」
「映画と言えばポップコーンはいるとは思うし食べたいとも思うけど、見ている時は最後まで映画に集中したい派なんだよ。ポップコーンやジュースを口にしている一瞬すら勿体無く感じるんだよ」
「最初から最後まで映画に没頭してたいって事?」
「簡単に言うとそんな感じ」
我ながら面倒な性格だと良司は苦笑した。
「でもまぁ結局買うんだけどな」
本当に面倒な性格だ。そう思いながら二人はジュースとポップコーンを買ってシアターへと入って行った。
「ところで今日って何の映画見るの?」
席に着くとリサが聞いてきた。そう言えばまだ説明していなかった。
「衣崎 真理紗先生の『この愛の行く末は』だよ」
「そ、そうなんだ」
(あれ、気に入らなかったか?)
そう考えると同時にシアターから明かりが消えた。
良司から映画のタイトルを聞いた時、リサは驚かずにはいられなかった。それでもなるべく表情に出さなかった自分を彼女は内心で褒め称えた。
いつか見ようとは思っていたが、まさかこんな流れで自身が原作を手掛けた映画を見ることになろうとはとんだサプライズだ。
だが、今そんな事を言っても仕方がない。折角の映画だ。楽しんで帰らなければ損だ。
(まぁ話は勿論知ってるんだけどね)
だが実写化となれば多少なりとも細部の変化などはあるだろう。その辺をじっくり見させてもらうとしよう。
(そう言えば、男の人と二人きりで映画見るのって初めてだ)
始まる直前にそんな事を思い出した。
「結構面白かったな」
「うん」
数時間後、映画を見終わった二人は近くの喫茶店へと移っていた。作品を見終わった後に感想を言い合いたいのは二人共同じだった。
「キャストも悪くなかったし良かったと思うよ」
「そうだな。ここ最近の実写化した作品の中では文句無しだと思う」
良司の感想を聞いてリサは少し安心した。実写化した映画とは言え自分の書いた話が目の前で酷評されたら流石にメンタルに響く物がある。しかも彼は原作をリサが書いた事を知らない。つまり彼の感想はいつもお世辞抜きの本音と言う事になる。それに対しての称賛の言葉だ。嬉しくない筈がない。いや、嬉しさと言うよりもやはり安堵したと言う方が正しいか。
当然そんなリサの心境など良司は知る由も無いが。
「この後どうする?特に考えてなかったけど」
「ならゲームセンターに行きたいかな」
「リサってゲーセンとかよく行くの?」
「たまに、だね。暇な時に軽く遊びに行く程度だけど」
本当は小説を書いていて行き詰まった際に行くのだが、そんな事を言える訳もない。
(まぁ人が多い所に行けば人間観察にもなるし、何かネタになる事が見つかるかも知れないしね)
「なら行きますか」
「うん」
そんなやりとりをしながら二人は店を後にした。
近くのゲームセンターに移動した二人は取り敢えずあてもなく店内を歩いて見て回った。
(そう言えばゲーセンに来るのって久々だな。美希に連れられてたまに来るくらいだったし)
誰かと一緒に来るならまだしも、自分一人でなんて良司の場合は殆どなかった。
「何からやる?」
「と言っても俺あまりゲーセンは詳しくないからなぁ。リサは何やりたい?」
「ん〜、ならあれやりたい」
「あれ?」
リサが指さしたのはクマのぬいぐるみのクレーンゲームだった。
「・・・また難しそうなのを。まぁやってみるか」
止める理由も断る理由も無いので、リサと良司はその台をプレイし始めた。
しかし。
「あ、失敗した」
百円。
「また落ちた」
二百円。
「今度こそ」
三百円。
そして。
「・・・全然取れねぇ」
気がつけば二人合わせて二千円近くの金が財布からクレーンゲームの台へと瞬間移動していた。はて、いつから二人は手品師になったのだろうか?
「クレーンゲームならよくある事だよね」
クレーンゲームにおける必然。それは短時間で財布の中身が瞬時に溶ける事。故に安易な気持ちでクレーンゲームに手を出すのは悪手中の悪手なのだ。
だが、それと同時に起きてしまう人間の心理があるのもまた道理。
「いや、ここまでやって諦め切れるか!取るまでやる!」
それがこれ、コンコルド効果だ。コンコルド効果とは、時間、金銭、精神をある物に投資し続けると損をすると分かっていながら、引くに引けず、辞められない状態を指す言葉である。元々は投資などに使われる用語なのだそうだが、今回の様にクレーンゲームやギャンブルなどに置き換えてもらえばイメージし易いだろう。
皆さんも一度は経験があるのでは無いだろうか?
『こんなに金使ったんだから取らずに帰れるか!』
簡単に言えばこの状態がそれである。
それはさておき。
一度火がついてしまえば、あとは勝つか負けて燃え尽きるかの二択だ。男が取ると決めたなら、それはもう取って帰る以外に道は無いのだ。
「りょ、良くん、あまり熱くなんない方が」
「大丈夫。今ならテンション上がってるから取れる気がする」
全く根拠の無い自信だった。
「いや、それが危ないんだって」
リサの静止も聞かず、良司は百円玉を投入した。
(大丈夫。今までの動きで何となく取る算段はついた。あとはイメージ通りに俺が操作するだけ)
頭で考えながら、アームがゆっくりと動き、ぬいぐるみを捉えた。そして持ち上げ、またゆっくりとアームがぬいぐるみを掴んだまま元の位置へと進む。
だが安心はまだ早い。アームの振動で少しずつぬいぐるみがズレてきているのがわかった。
(あと少し、あと少し)
それを見守る良司とリサ。なんなら少しばかり周りに見物人もいた。
クレーンゲームとは何故かこの運命の一瞬、そして景品が落ちる瞬間、周りの動きが僅かながらにスローモーションに感じるのは良司だけだろうか?
見ている全員が息を殺して結果を見届ける。
結果は ───
「すごいね〜。まさかあれから本当に取っちゃうんだから。周りの人も盛り上がってたよね」
無事にゲットした。
「まぁな。良司さん、やる時はやるんだよ」
自慢げに言うが、内心ではとてもホッとしていた。
(良かったぁ、取れて)
そして良司は手にしていたぬいぐるみをリサに差し出した。
「リサにやるよ」
「え?いいの?」
「元々リサにあげるつもりで取ろうと思ってたからな。俺は達成感が得られたらそれでいいよ。それに、リサと遊べて楽しかったし」
「ずるい言い方するねぇ。わかった。それなら有り難く頂戴します」
そう言ってリサはぬいぐるみを受け取った。
「ねぇ良くん」
「ん?」
「ありがとう☆」
素敵スマイルだった。
「うん」
まったく。心臓に悪いのでやめてほしい。誤魔化すように返事をしたが、良司は自分の顔が赤くなってないか少しばかり心配だった。
「それより、この後はどうする?俺は腹減ったから飯食いたいけど」
話題を変える為に咄嗟にそう言ったが、実際あれから時間が経ち、いい具合に空腹にはなってきた。
「ならご飯食べに行こうよ。良くんは何食べたい?」
「今の気分的にラーメンかなぁ」
「ならラーメン食べに行こ!良くんのオススメってある?」
「ああ、ちょっと電車に乗るけどな」
「じゃあ案内よろしくね!」
そう言うとリサは良司の手を引いて歩き出した。リサに引っ張られる様に歩きながら、この時良司は自覚した。
(ああ、そうか。俺はこの子に)
─── 人生初の恋をしたんだ、と ───
小説って書いてる間は嫌な事忘れられていいよね。(お前に何があった)
てな訳でやっとそれっぽく話が進みそうな気配ですね。(お前のさじ加減だろ)
もし読んでくれている方達の中で「こんな展開が見たい」と言う案があればコメント等お願いします。もしかしたら採用されるかも。(ネタが無いならそう言えよ)
・・・今日はやたらと野次がうるさいな。
そう言えばUAが300を超えまして、ありがとうございました。
お気に入り登録して下さった
ただの麺様
アクノロギア様
ありがとうございました。
ご意見ご感想、誤字脱字等あればコメントお願いします。
ではまた次回。