近すぎるキミ、遠い始まり   作:沖縄の苦い野菜

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第六話 兄妹のような幼馴染

 

 

 薄暗い部屋の中に、窓から光が差し込んだ。

 雲の分け目から顔をのぞかせた太陽が、窓辺とベッドに光をおろす。まだ部屋の奥まで照らせるほどではないが、そこには確かに温かい光が、希望の彩りを作っている。

 

 そんな中、まだ光の当たらない勉強机の椅子に腰かけていた彼は、机の上に置いたハンカチを横目に見ていた。暗いとあまり目立たないが、光に照らすとくすんだ白が露わになる。まるで不注意を戒めるように主張してくる。

 過去にケチをつけられているようで好きになれない汚れだが、嫌いになり切ることもできない。それを嫌いになれば、過去を反省できない愚か者になってしまう気がした。

 

 文句を言える相手がいない。代わりにため息を吐くと、彼はハンカチをポケットに、部屋を出ていった。階段を下りて、靴を履いて、家の外に出てみれば――

 

「……微妙な天気」

 

 太陽はもう隠れていて、灰色の雲が空を漂っている。遠くを見れば、色鉛筆を粗末に走らせたような薄い雲――鈎状巻雲――が空にへばりついている。

 

 鍵を閉めて、門を出たところで風が吹き抜けた。まるで運び屋のように、冷たい空気が彼の体に行き届き、思わず体を震わせた。

 

「さっむ……」

 

 ぼやきながらも、彼は足を動かして前へ前へと進んでいく。

 その途中、ふと彼は自宅の方に振り返る。

 

「………」

 

 電気の消えた家。誰もいない門の前をしばらく見つめると。

 彼はまた前を向いて歩き出した。

 

 

 

 待ち合わせのファミレスに入ってからすぐ、ウェイターが席に案内しようと出てきたのを「待ち合せているんで」と手で制して、良悟は店の中を一度見まわした。昼時少し前ということもあり人は比較的少なく、こちらを見つけたエレナが席から手を振ってくるものだから待ち人はすぐに見つかった。

 

「待たせて悪い――」

 

 エレナと恵美の待つ席まで来てみれば、テーブルの上にはまだお冷とドリンクしか置かれていなかった。それを見た瞬間、良悟は決まり文句を引っ込めて、ニヒルを気取って肩をすくめた。

 

「――ってこともなさそうだな。お待たせ」

「えー、ちょー待ったよ?」

「そうそう。すっごく待ってたんだヨ?」

 

 ここぞとばかりに、恵美とエレナがニヤリと隠す気のないイタズラ心を含ませた笑みを浮かべて言葉を合わせる。一体どういう冗談なのか、と良悟は眉をひそめて二人の様子をうかがいながら、エレナの隣の席に腰を落とした。

 

 念のため、チラリとテーブルに置かれたフォーク、スプーン、ナイフの入った籠の中を確認するが、いじった様子も数が減っていることもなさそうだ。

 

「どういう冗談か知らんけど……とりあえず、注文するぞ」

「あり? メニュー見なくていいの?」

「ここに来たらドリアしか頼まない」

「えー、せっかくいろんなメニューあるのにもったいないなー」

「外食なんて、気に入ったモノ食えればそれでいいから」

「ふーん……あっ、じゃあさ! アタシはパスタ頼んだから、シェアしようよ!」

「……まぁいいけど。やっぱそんなに待ってないだろ」

「ありゃ、バレちゃった」

 

 にゃはは、と軽いノリで笑いかけてくる彼女を見て、良悟は小さくため息を吐いた。

 

「で、エレナの昔話だっけ?」

「うんうん。いつ頃からの付き合いなの?」

 

 場は温まった、と恵美は滑らかに良悟に質問を投げかける。話の導入としては、まずまずの結果だった。

 

「エレナが日本に来てからすぐ。だから……11年か」

 

 えぇ!? と恵美は思わず声を上げた。幼馴染だのファミリーだのと聞いていたが、まさか十年を超える付き合いだとは思っていなかった。

 

「すっごい長い付き合いじゃん! 生粋のってカンジ。じゃあさ、エレナの子どもの頃ってさ、やっぱり明るかった? こう、引っ張ってくれるようなところあった?」

「……明るかったっちゃ明るかったけど、引っ張るって感じじゃないな」

「昔はリョーゴがワタシを引っ張ってくれたかナ」

「えっ、そうなの? じゃあ今よりもリョーゴくんがやんちゃだったとか?」

 

 エレナの補足に恵美は目を丸くして、ジッと確かめるように良悟のことを見つめた。彼は「ないない」と手を横に振って否定する。

 

「そもそも、親同士が話してる時に、子ども同士で遊んでなさいって言われて、サッカーを一緒にやって。それで一緒にサッカーやるようになったってだけだから」

「そのあとも、リョーゴはよくサッカーに誘ってくれたんだヨ。日本語で喋れなくて、一人のワタシを心配してネ」

「いや、そりゃあんな捨てられた子犬みたいな様子されたら気に掛けるっての」

 

 良悟とエレナの会話には「気安さ」があった。お互いがお互いのことを理解しているからこそ、素の自分を出して言葉を口にする。初めから打ち解け合っている二人の会話は、陽だまりの老夫婦のような和やかな雰囲気だ。

 

 エレナは嬉しそうにニコニコと。

 良悟は遠慮なしに呆れたような視線を向けながら、どこか楽しそうに口元を緩めて。

 

 そんな二人の様子を、恵美はどこか「うらやましい」と思った。

 

「へぇ……あっ、そっか。エレナってブラジルから引っ越してきたんだったね。――あれ? 日本語喋れなかったって……え、エレナ大丈夫だったの!?」

 

 日本語が喋れなくて一人だった、というエレナの過去を理解した途端、恵美は目を白黒させ、髪が風に靡く勢いでエレナの方を見た。

 エレナがこれまでずっと寂しい思いをしてきたんじゃないのか、一人の時に何か辛いことがあったんじゃないか。そんな想像が膨れ上がり、反射的にとった行動だった。

 

「うん。リョーゴがいつも一緒だったからネ!」

「いつもか? ……あぁ、まぁいつもか。というか、いつもってのはエレナの方からチョロチョロついてきたからだろ? 気に掛けたのはサッカーに誘った時くらいだっての」

「そうだっけ? ……うーん、リョーゴといつも一緒にいた気がするから、よく覚えてないかも」

「そりゃあ、家同士で上がり込んでホームパーティーくらいしたけど。学校じゃ大休憩と昼休憩に遊ぼうって誘ったくらいだぞ」

「あれ……? うーん、ワタシはリョーゴといっぱい話した気がするけどナー」

「子どもの時にポルトガル語が分かるわけないだろ。あれ会話か? ほとんどボディランゲージだったけど」

「でも話したいコトは伝わってたでショ?」

「……いや、半分以上わからなかったぞ」

「そうなノ? でも、ワタシは伝わってたと思うヨ。だから、会話できてたってコトだヨ」

「暴論すぎるだろそれ」

 

 遠慮のない会話に、恵美の入り込む余地はなかった。ただ、聞いているだけでエレナたちがどんな学校生活を送っていたのか、頭の中に映像が浮かび上がるようだった。

 

 教室の中。理解できない言語が飛び交う中でひとりぼっち。言葉が通じない。話しかけられてもうまく答えられない。話しかけても、わかってもらえない。そうして自分の机でポツンと落ち込んでいる。

 そんな様子が浮かぶだけで、胸が痛くなる。寂しかっただろうな、と漠然とした思いと共に、想像するほど心に空虚な隙間が生まれてくる。想像していた過去は灰色に染まっていき、背筋に寒気が走る。そんな孤独、耐えられない。そばにいるなら、すぐにでも駆け付けてあげたい。

 

 でも、灰色に染まっても色はすぐに戻ってきた。

 サッカーボールを持って近づいてきた少年が話しかけてきて、世界が一気に色づいた。

 

 話しかけられたことに花咲くように明るい表情が浮かび、話しかけられた内容に首を傾げて、サッカーボールを指差されれば嬉しそうに頷いた。

 そうして、子どもたちが言語の壁を越えてボールを蹴り始める。得点、失点、パスをつないで、ドリブルで切り込んで。

 

 グラウンドに、輝く笑顔が咲いた。

 

 そんな一連の想像だけで、胸がいっぱいになる。本当に良かった、と安心からつい肩の力が抜けて、ソファーの背に体を預けた。

 

「大体、最初にサッカー誘った後は、何だかんだでうまくやってただろ。気に掛けたことなんて、ほんとに両手の指で足りるぞ」

「でも、サッカーやるときにはいつも誘ってくれてたヨ? 両手と足の指を足しても足りないヨ」

「他の奴らにも声かけてたから。あれ、気に掛けるうちに入るのか?」

「ワタシは誘ってもらって嬉しかったナ」

 

 遠慮のない会話の節々に、二人の性格がにじみ出ていた。きっかけさえあればエレナは誰とでも仲良くなれて、良悟はそんなエレナを陰ながら見守っている。

 それは恵美の妄想かもしれない。本当はもっとずっと、子どもらしい気まぐれだったのかもしれない。それでも、気の置けない二人の今を見ていると、心温まる子ども時代がドラマのように頭の中に流れ込んでくる。

 

 ――ブラジルから日本にやってきたエレナは、独りじゃなかった。

 

 そのことが分かっただけで、胸がいっぱいになる。鼻の奥からツンと熱くなって、それが目頭にまで伝播する。目の前が霜の張った窓ガラス越しのようにぼんやりと映る。

 

「……大丈夫か?」

 

 気遣うような柔らかい声を掛けられた。目の前が霞んで見えなかったが、それが良悟の声だということは理解できた。

 

「――メグミ? どうして泣いてるノ?」

 

 少し遅れて、エレナからも聞かれた。二人に心配をかけている。そのことに慌てて涙を拭いながら、「何でもない! 何でもないよ!」と震えた声を元気と一緒に飛ばした。

 

「いや、でもな……目にゴミでも入ったのか?」

「んにゃ、違うって。……ほら、エレナが独りぼっちじゃなかったんだって、そのことが嬉しくて、さ。胸がいっぱいになって、感動しちゃって」

 

 涙を拭いながら話す恵美に、良悟はエレナの方を一度見て、恵美を見て、もう一度エレナを見て顔を見合わせた。

 

 エレナは誇るように得意な表情だ。

 そんなエレナを見て、良悟の口元も自然とほころんだ。

 

「良い友達だな」

 

 うん! と、力いっぱいに頷いたのはエレナだった。

 満開の笑顔が咲き誇る対面で、恵美は赤くなった目元を指で拭うようにして隠しながら、はにかんだのは恵美だ。幸せそうな泣き笑いをみせている。

 

「もー、エレナはまたそーやってアタシを泣かそうとしてっ」

「あれ? ワタシ、何かメグミにおかしなコト言ったかナ?」

「ううん、おかしくないけど。たださ、すっごい嬉しくってさ。こんなにステキな友達がいるんだなぁ、って」

 

 その言葉に、その表情に。

 良悟はついつい笑顔になった。

 

「そりゃあ、なんたってエレナだからな」

 

 まるで自慢の家族でも誇るように、鼻高々と断定した言い口だった。

 

「ほんとさ。リョーゴくんって――」

 

 ――エレナのお兄さんみたい。

 あまりにも堂々とした言い方に、今回聞いた話を総括して。恵美は心の底から「兄妹」のようだと思った。だから、それを口にしてやろうと良悟の顔を見つめたときに、飛び込んできた。

 

 

 

 ――それは年上の笑顔だった。

 おおらかで、包み込むように柔らかい父性の顔。

 

 ――されども、彼は小僧のように幼い口元だった。

 白い歯をみせつけるように笑う姿は、実年齢よりも幼く彼を映した。

 

 

 

 ――新田良悟の笑顔は、小憎たらしくも大人びた、透き通る青春のようにキレイだった。

 

 

 

「―――」

 

 言葉に詰まる。不意打ちのように飛び込んだ目の前の笑顔に、二の句を継げなくなった。鼻の奥や目頭だけじゃなくて、顔全体に熱が広がった。

 

 友達のキラキラとした楽しそうな笑顔じゃない。

 親しい仲でみせる悪戯っぽい笑い方でもない。

 大人のように疲れた愛想笑いでもない。

 

 その笑顔はきっと、誰かのために浮かんだものだから美しい。

 そんなキレイな笑顔、恵美は知らない。父親に近いけど、それよりも幼くて。母親のように身近にはなくて。手を伸ばせば届きそうなのに、決して届かない距離を感じる、触れられない笑顔。

 

 胸に、灯火のように小さな熱が点いた。

 中心は温かいのに、体の外側は冷えたまま。そんな微熱に心を揺さぶられる。どうしてかはわからない。だけれど、揺れ動く。やり場のない感情が、うねるようにつま先から頭のてっぺんまでのぼってくる。恵美はそれがプラスの感情だとは思えなかった。それでも、嵐のように体の中を渦巻いている。

 

 名前の付けられない感情の奔流に呑まれて、恵美は固まってしまった。

 

「メグミ? ハトみたいにボーっとしてるヨ?」

「……お前、友達の顔を鳩って」

「でも、ちょっと気の抜けたカンジがカワイイでショ?」

「おーい。そりゃ親しみは持てるけど。それ可愛いって、ペット感覚……」

 

 良悟の言葉は尻すぼみになっていき、ついには言い切る前にうなだれた。彼女特有の感性に、ツッコミを入れるだけ無駄だということは、今までの経験からよくわかっていた。

 

 顔を上げてみてみれば、恵美はまだ心ここにあらずといった様子だ。

 仕方なし、といった具合に良悟は緩慢な動きで恵美の方に手を伸ばし――

 

「おーい? 大丈夫か?」

 

 ――彼女の目の前で、手をゆらゆらと振ってみせた。

 

「……ふぇ?」

 

 きょとん、と寝ぼけているような透き通った瞳が、虚空を見つめる。出てきた声は、何とも気の抜けたものだった。猫の気まぐれな鳴き声どころか、あくびよりも緊張感に欠いていた。

 

「――っ!」

 

 消え入りそうなほど小さな声だったが、それを聞いた良悟は笑いをこらえきれず咄嗟に俯いて口元を手で押さえる。肩を時折震わせながら、彼は何とか声だけは押し殺していた。

 

「――あれ? えっ、リョーゴくんどしたの?」

「うーん、メグミがボーっとしてたのがおかしかったのかナ?」

「えぇ!? 何それひっどーい!」

 

 違う、と言葉にしようとすれば笑いが吹き出しそうだった。何を言われても、笑いを堪えるために口を閉ざすしかない。

 反論すら許されず俯いて悶えている良悟に、恵美はジトっと責めるように視線を向ける。

 

「ふーん? まだ笑うんだ。……ねぇねぇエレナ。リョーゴくんの恥ずかしい話って何かない?」

「リョーゴの恥ずかしい話? うーん……あっ、それならリョーゴって実はすっごい怖がるものがあるんだヨ」

「おま、エレナにそれ聞くのは反則――!」

 

 そんなこと暴露されちゃたまらない、と良悟は笑いを引っ込めて顔を上げた。

 

「にゃはは! どう、焦ったっしょ?」

 

 恵美はしてやったり、と口元に弧を描いていた。茶目っ気と幼さに満たされたその表情は、小憎らしさと茶目っ気にあふれている。

 

 はめられた、と良悟は天を仰いだ。薄いオレンジ色の照明が目を焼かれて、思わず目をつむり余韻に浸る。こんな馬鹿らしい遣り取りが、縁側で日向ぼっこをするように心地よかった。

 エレナと楽しいを共有するわけでもなく、秀一と馬鹿話で気安く頭を空っぽにして盛り上がるとも違う。

 

 久しく忘れていたその感覚を、長く感じていたかった。手放すのがもったいない、と思ってしまった。

 

「リョーゴは、お化けが怖いんだヨ」

 

 ピキリ、と浸っていた世界にひびが入った。壊れかけたブリキの人形のようにぎこちなくエレナの方を見てみれば……満面の笑顔だ。人の弱みを暴露しておいて何でそんなに笑顔なんだ、と良悟はうなだれて肩を落とした。

 

「えっ、そうなの? へぇ、ぜんぜん見えないなぁ」

「暗い道と、誰もいない広い場所に……あと、夜に一人でトイレに行くのも苦手――」

「やめろ! マジでやめろ! 大体、俺がホラー苦手なのって八割ぐらいエレナのせいだからな!?」

「エー、何のコトかわからないナー?」

「おまっ……このやろ、自分のこと棚に上げて……!」

「あ、その反応ってことは、ホントなんだ? へぇー」

 

 ニヤニヤと、面白そうに笑みを浮かべながら良悟を見る。

 そんな恵美の視線に耐えられず、良悟は視線を天井に逃がして「呆れた」といった様子を気取ってみせる。だが、視線が止むことは一向にない。

 

「別に霊的なものは怖くないからな? ピエロとかチェーンソーとかナイフ持ったストーカーとかが怖いだけだ」

「チェーンソーとストーカーは誰でも怖いっしょ。ピエロは人によるだろうけど」

「だろ? だから俺は普通だ。そんな変な視線向けられるいわれはない」

「えぇー? でも、夜にお手洗いに行けないのは普通じゃないかなー?」

「いや、戸締りしても家の中に知らない誰かがいるかもしれないって思ったら怖いだろ。それが刃物持ってたらなおさら怖いだろ」

「そりゃ現実にあったら怖いけどさ……フィクションじゃん」

「フィクションだろうと、怖いものは怖い。だから俺は普通だ」

 

 良悟は天井を向いて意地でも視線を合わせない。視線を合わせてにやけ顔を認識した途端、途方もない敗北感を覚えることが想像に難くなかった。

 

「ヘソ曲げちゃったかナ?」

「いや、そもそもエレナが原因――」

 

 ――お待たせしました

 

 恨みがましい視線をエレナに送ろうとする手前で、店員が料理を運んできた。パスタのお客様、と呼ばれると恵美が「アタシでーす」と元気よく手を挙げて返事を。ピザのお客様、と呼ばれればエレナが「ワタシだネ!」と店員と視線を合わせながら言った。

 

「……あー、注文いいですか?」

「はい。少々お待ちくださいませ――どうぞ、ご注文をお伺いいたします」

「ドリアとドリンクバーでお願いします」

「かしこまりました。ドリアとドリンクバーですね? それでは、少々お待ちくださいませ。ドリンクバーはセルフサービスとなっておりますので、予めご了承くださいませ」

 

 失礼いたします、とメモを取っていた店員はお盆を小脇にさっそうと去っていった。良悟は「飲み物とってくる」と言葉を残すと、店員を追うように席を立った。

 

 コップを手に取り、どれにするかとドリンクの種類に目を走らせていたところに、「おっさき」と横合いから声を掛けられる。自分のコップを手に、手慣れた様子で恵美が良悟の前を通り過ぎた。

 

「……マジか。混ぜるって」

 

 思わず目を見開いて、恵美の行動に瞠目する。三種類のジュースを混ぜて生まれた小汚い茶色の液体を見て顔が引きつった。

 

「ん? アタシは友達といつもやってるよ。意外とおいしいよ、これ。飲んでみる?」

 

 そんな微妙な表情の良悟を気にした風でもなく、恵美はカラッと混じりけのない笑みを浮かべてコップを揺らして見せた。

 恵美の様子に、良悟は「いやいい」と首を横に振ると、先ほど恵美が混ぜたジュースを確認して――ただのオレンジジュースをコップに注ぐだけに終わった。

 

「試し飲みくらいしない? いけると思うんだよね」

「それ以前に飲食店で立ちながら飲むとかないわ」

「あー、それもそっか。リョーゴくんって、実は結構育ちがよかったりする?」

「育ちってなんだよ」

「だってさ。あのハンカチだってすっごい高そうだったじゃん。あれオーダーメイドっしょ? なんか、アタシたちと住む世界違うかもなーって」

「ないない。住む世界が違うならこんなファミレス来てもオロオロしてるっての」

「あー、それなんか説得力あるね」

「自分で言っといてなんだけど、あるのか? ……戻るか」

 

 他愛のない話でドリンクサーバーの前に立ち尽くしていたところ、良悟は自分の席の方を見て切り出した。

 席の方では、ひとりほったらかしにされているエレナがほっぺを膨らませて羨ましそうに、恨みがましそうにこちらを見ていた。

 

 良悟の視線を追って事態を把握すると、さんせー、と軽い調子で恵美はさっさと席に戻っていった。そんな彼女の後を追うように、良悟もまた自分の席に戻る。

 

「ごめんねエレナ。ひとりで待たせちゃって」

「うん。でも、次からは気を付けてネ? あ、それとリョーゴと何話してたノ?」

「世間話? このスペシャルジュースのコトとか。育ち良さそうだなー、とか」

「ふーん。リョーゴのコトなら、ワタシに聞けば、何でも教えちゃうヨ」

「おいこら。何でもってのはやめろ」

「えー? でもリョーゴって自分のコトは話さないから、代わりにワタシが話さないとでショ? お話ししないと、わかってもらえないヨ」

「そんな急に距離詰める必要ないだろ。縁があれば自然とお互いのこと話すし、敢えて言うことでもないっての」

「リョーゴだってワタシのコトしか話してないヨ?」

「そりゃ今日の主題はエレナの過去だから当然だろ」

「でも、メグミはリョーゴのコトほとんど知らないから、ワタシのコト話すならリョーゴのコトも話さないと、伝わりにくいかナーって」

「だからって俺のことばかり話さなくても――」

 

 あーだ、こーだ、と恵美をそっちのけで他愛のない言い合いが始まった。お互いに、お互いのことを話すと主張して譲らない。それが鏡映しのようで、姿形は違えども、双子のようだった。

 

 そんな様子がとにかく、エレナと良悟の人柄を表しているように思えて。

 

 所恵美は、微笑みを浮かべながらその様子を見守るのであった。

 

 

 

 今日の太陽は、雲に隠れることもあったけど。

 概ね、「晴れ」といっていいだろう。

 

 

 





まずは一つ。
更新が遅くなってしまい、大変申し訳ありません。

文章の書き方、特に地の分をどのような雰囲気で書くか、試行錯誤をしていくうちについつい、遅くなってしまいました。あと、百花月下イベントと古戦場で割と筆が遅くなってしまいました。

これからも、週一以上の更新は目指していきますが、クオリティ維持のため、何卒ご理解いただければ幸いです



それでは、また次話か感想欄でお会いいたしましょう
感想、評価、ご指摘、コメント、お気に入り登録などなど、心よりお待ちしております
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