大空に咲くアルストロメリア   作:駄文書きの道化

1 / 8
第1章 夢を継ぐ子供達
Scene:01


 季節は春。出会いと別れの季節がまた巡ってきた。そんな季節、学生達には新生活が待っている。そう、例えば新たな学校への進学であったり、人生にとっても節目となる一大イベントだ。

 そんな記念すべき日。まさか初日から全力ダッシュするとは思わなかったと、口にパンを咥え、一昔前のアニメみたいに街を駆け抜けていく少女が一人。赤藤色の髪を揺らし、慌てた様子で全力疾走をしている。

 

 

「ふぇぁあああ! なんで今日に限って寝坊するかなぁー!?」

 

 

 パンを一気に口の中に放り込んで叫ぶ少女、彼女の名前は楓。彼女が纏っている制服を見れば誰もが目を見張るだろう。白を基調とした制服は、かの有名なIS学園の生徒である事を示しているのだから。

 道行く通行人をかき分けて、ショートカットの為に道なき道を行く。裏路地を抜けて、途中で朝食を漁っていた野良猫を蹴り飛ばしそうになって、慌てて避けて転びそうになったりと、楓は慌ただしく駆け抜けていく。

 そんな楓の目的地がようやく見えてくる。そこはモノレールの駅だった。よく見れば、ちらほらと同じIS学園の制服を纏っている少年・少女の姿が見られる。裏路地から飛び出して来た楓は勢いよく跳躍し、駅の前で停止。

 当然の事だが、唐突に飛び出してきた楓へと視線が集まるのは自然だっただろう。自分に視線を向けられた事に気付いて、楓は貼り付けた笑みを浮かべて、逃げ込むように駅の中へと飛び込んだ。

 荷物を抱え直して改札口を抜けてモノレールへと駆け込むように乗車。既に中では楓と同じ学生達や、他にもスーツを纏った社会人の方々の姿もある。視線を向けられたのも一瞬、すぐに自分に向けられた視線が霧散したのを確認してほっ、と一息。

 

 

「……はぁ、間に合った」

 

 

 安堵の息が吐き出されるのと同時にモノレールが発車する。登校・通勤ラッシュの為だろう。モノレールの中は人がごった煮替えしていて、座る席が無くて立っていた楓も押し潰されるように人の波に揉まれていく。

 

 

(あぁー! こうなるのが嫌だったから早く出ようと思ったのにー!)

 

 

 人の波に押されるままにドアに身体を押しつけられ、内心、怨嗟の声を上げる。だがこれも自業自得だと納得させる。何せ、これから向かうIS学園は寮生活で、事前に寮に入る事も出来たからだ。そうすればこうしてモノレールに乗る必要も無かったのだ。

 結局、自分の我が儘。もう少しで別れる事となる叔母との時間を楽しみたかったし、IS学園に入学すれば嫌でも目立つ事は理解していたからだ。それが嫌でギリギリまで粘ってみたら、本当にギリギリとなって逆に悪い目立ち方をしてしまったと後悔する。

 

 

「……まぁ、いいや。切替、切替。楓さんはすぐに切替が出来る子。よし!」

 

 

 自分に言い聞かせるように呟き、視線を上げる。目の前に広がるのは青い海。海鳥たちがモノレールに追い抜かれていく様を眺めていると、それは見えてきた。

 海に浮かぶ巨大な人工島。遠目から見てもわかる巨大な建造物こそ、自分が通う学舎となるIS学園だ。意味があるのか、妙な形状のモニュメントがでかでかと存在を主張していて、他にもたくさんのアリーナがある事が見て取れる。

 懐かしい、と胸を過ぎった気持ちに口元が緩むのを感じた。だからだろう。人知れず、誰にも聞こえないぐらいの声で呟いたのは。

 

 

「……ただいま。“フロンティア”」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 メガフロート“フロンティア”。

 拡大に拡大を重ねられた人工島で、フロンティアの敷地のほとんどが人工物の浮島である一種の理想郷。フロンティアの名の通り、ここはIS研究の分野の最先端であり、他にも宇宙開発も進められていたりと世界でもトップクラスの重要地であったりする訳で。

 つまり、それ故にフロンティアへと入る為には面倒なチェックを受けなければならないのだ。身分から何から何まで。身分を証明出来ない者はフロンティアに入る事すらままならない。

 一度入ってしまい、身分証を作ってしまえば後は比較的、楽に入る事が出来る。だから最初の我慢なのだが、楓は既にぐったりとしていた。

 

 

「それでも長いもんは長いよ……」

 

 

 列に並んで大きく溜息を吐く。今日はIS学園の入学式。今では世界一、注目度が高い学校と言っても過言ではなくて、世界各国からの留学生も豊富。世界で見て、最もグローバルな学校と言っても過言ではないだろう。

 それ故、一人一人の身分の確認などで、出遅れた分、待ちぼうけになるという事態が待っていたのだ。自業自得とはいえ、本当に長くて怠い。早く進まないかなぁ、とひょこひょこと前の列を覗くように首を出す。

 すると後ろからクスクスと笑い声が漏れた。身長が低い為、動きがせわしくなっていたのだろう。ひょこひょこと動き回る姿が可笑しかったのか、聞こえてきた笑い声にぴたっ、と動きを止めて肩身を狭くする。顔が真っ赤になっているのが自覚出来て、居たたまれなくなる。

 

 

(うぁー、こういう時、身長が伸びなかったのが悔やまれる……! ウチの血筋から考えれば背が伸びる筈なのに!)

 

 

 自分の血縁関係の人達を思い出しても背が低い筈はない。その血が流れている筈も自分もきっとこれから、と希望は捨てない。思い耽っていると列がいつの間にか前に進んでいて、慌てて前へと進む。

 案内の声を受けて前の列の生徒が次々と受付の前へと進み出ていく。そして楓の番がやってきて、楓は逸る気持ちを抑えて受付の下へと向かった。受付にいたのは女性で、ニコニコと笑みを浮かべながら楓を迎え入れた。

 

 

「ようこそ。フロンティアへ。IS学園への入学、おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

「じゃあ学生証を見せてね?」

 

 

 受付に言われるままにポケットから学生証を取り出して受付へと渡す。学生証を受け取った受付の女性は学生証を承認のタッチパネルに置く。すると楓の顔写真と共に情報がポップアップされる。

 受付の女性の目の色が少し変わる。だがそれは一瞬の事だった為、楓は気付かないままだ。受付の女性は小さく笑みを浮かべ直して、楓を入り口の横にある機械を指で示す。何かの穴があって、覗き込むような仕掛けとなっているのがわかる。

 

 

「はい、篠ノ之 楓さんね。念の為、生体認証も行うから、網膜と指紋の照合をお願いね。網膜の確認はこのカメラを覗き込んでて。準備が出来たら言って。合図がするまで目は閉じないでね?」

「こうですか?」

「はい。じゃあいいかしら? 目は閉じちゃ駄目よ?」

 

 

 指し示された穴に瞳を合わせるように楓は覗き込む。それを見た女性が手早く機械を操作し、照合を行う。結果はすぐ出たのか、女性は楓にカメラから離れても良い、と合図を出す。

 その後、出されたパネルに指を置いての指紋認証。認証の為のやり取りをこなしながら楓は相変わらず厳重だなぁ、と苦笑する。

 

 

(“昔”のデータ使えば、手続き不要なんだろうけどなぁ)

 

 

 しかし敢えて昔のデータに頼らないと決めたのは、最早意地だった。もう一般に紛れ込むと決めたなら最初から最後まで初めての気持ちでここに入ろう、と。

 そうして楓が意気込んでいると全てのチェックが終わったのか、女性が楓へと声をかけてくる。

 

 

「はい。これで審査は全て終わりよ。――じゃあ、頑張りなさい。“楓ちゃん”」

「……ふぇ?」

 

 

 軽く肩を叩かれて告げられた言葉に楓は嫌な予感がした。随分と気安げな呼び方は親しみが感じ取れたからだ。楓は慌てて受付の女性へと視線を移すと、女性はどこか優しげな視線を楓へと向けていた。

 記憶にはない。だがもしかしたら覚えていないだけで知り合いかもしれない。面影を探すようにジッ、と女性の顔を見ていると、女性は楽しげに笑い出す。まるで楓の仕草が可笑しいと言わんばかりにだ。

 

 

「おかえりなさい、って言うべきかしら?」

「……お知り合い、でしたか?」

「貴方は知らないかも、だけどね? ほらほら、後がつっかえちゃうから行きなさいな」

 

 

 楓の背を押して女性は楓に先に行くように急かす。押されるままに入り口をくぐった楓は一度振り返るも、笑みを浮かべてひらひらと手を振る女性にがっくしと肩を落とす事となる。

 自分の知名度ぐらい理解している。自分の名に何か思う事がある人間は絶対いるとわかっていても、まさか入り口の段階から知り合いがいたとなると、何とも居た堪れない。

 

 

「……あんまし騒がれたくはないんだけどなぁ、楓さんは」

 

 

 言っても無理なんだろうな、と肩を竦めて楓は歩き出す。入り口を抜ければ、路面電車の駅が見えた。

 また電車か、とモノレールで人の波に呑まれた記憶が蘇り、どこか憂鬱な気持ちで楓は路面電車へと乗り込んだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 路面電車に揺られる事、数分後。楓はIS学園の門をくぐり、自分のクラスとなる教室にやってきていた。1年1組とプレートに書かれた教室に足を踏み入れれば、遅れた事もあってか、ほとんどの席が埋まって生徒達が座っていた。

 ぐるり、と辺りを見渡すように視線を向けてみる。ぱっと見、知り合いがいなさそうな事を確認して安堵の息を吐く。席は出席番号順になっているようで、机の上には出席番号が書かれた紙が立てられていた。

 自分の席に座って鞄を仕舞う。改めて席に座ってから教室を眺めると、新鮮な気持ちが胸に駆けめぐった。新たな机、新たな学友達、そして教師が立つ事になるだろう教卓。ほぅ、と吐息を1つ吐いて、口元に笑みを浮かべた。

 

 

(ようやくここに来たよ。今度はちゃんと学生として。お母さん、お父さん)

 

 

 瞳を閉じれば、今での脳裏に両親の顔が映し出す事が出来る。

 実はこの教室に来たのだって初めてじゃない。それでもその時とは自分の立場は違う。あくまであの時はただの子供として、そして今は夢を追いかける生徒としてここに来ている。だからこそ、立場が違う自分がいる事に何よりも感慨を覚える。

 

 

(絶対に追いついて見せるから。待っててよね)

 

 

 楓の両親は、世界的に有名である。どう有名なのかと言われれば肩書きが在りすぎて、何から説明すれば良いのか迷う程だ。

 そんな両親は今、どこにいるかと言えば遠い地にいる。どれだけ遠い地と言われれば“空の上”だ。こう言えば死んだように思えるが、あの両親がそう簡単に死ぬとは思えないし、実際ちゃんと行く先も知っている。早々、会いに行けない場所だと言う事も。

 だからこそIS学園への入学を希望した。楓の目標は両親の後を追う事。その為にはどうしてもIS学園への入学が必要だった。だから自分はこうしてここにいる。

 

 

(本当はもっと楽な入学も出来たんだろうけど、裏口入学みたいで嫌だったし。……大丈夫だよね? 自分の実力で入学出来たよね? そうだと思いたい。うん、きっと)

 

 

 両親が有名すぎるとしがらみもまた多い。“篠ノ之”の名はそれだけ大きい力を秘めているのだ。普段、出来れば初対面の人には名乗りたくないと思うぐらいには。

 そんな事を考えているとチャイムの音が高らかに響いた。談笑していた生徒達が席に戻っていく。朝のSHRの時間が来たのだ。チャイムが鳴るのと同時に教室の扉を開いて入ってきたのは女性だった。

 見た目は30始めか半ば頃だろうか。何より目につくのが胸。圧巻と言う程に存在を示している豊満な姿に、思わず楓は自分の胸を撫でた。そこはまだ発展途上の胸の感触があるのみ。

 

 

(まだ……まだ! 篠ノ之の血は巨乳の血! 周りから羨まれるぐらいの血筋! その血を引く私にだって希望はある!)

 

 

 自分の胸への多大な期待を寄せつつ、改めて楓は女性の顔を見る。すると女性の視線が自分を見つめている事に気付いた。あ、と小さく声が漏れたのは仕方ない事だったのだろう。

 何故ならば女性の顔を楓は知っていたからだ。目が合って微笑まれたのも、相手が気付いている証拠だ。思わず目を逸らす。どうして自分の知り合いの人が自分の担任なのかと、どうしようもなくても叫びたくなってしまった。

 

 

(ま、真耶さん!? っていうか若いまんま!? え、この人幾つだっけ!?)

 

 

 楓は再び視線を戻して、教卓に立つ女性を見た。長く伸ばして、毛先が軽くウェーブがかかった緑色の髪。優しげな笑みを浮かべている姿は、眼鏡をつけている事もあってか、お姉さんと言う雰囲気を醸し出している。

 纏っている服もその雰囲気を損なわない。優しい色合いのゆったりとしたもので、彼女にはよく似合っている。

 

 

「皆さん、初めまして。私の名前は山田 真耶と申します。これから1年間、担任として皆さんと一緒に学ばせて頂きます。どうかよろしくお願いします」

 

 

 ぺこり、と丁重に頭を下げる姿に男子生徒の何人から羨望の溜息がこぼれ落ちるのが聞こえる。その声を耳にしつつ、楓は真耶の姿を見つめる。僅かに口を開き、感嘆の吐息を零す。

 

 

(そっかー。真耶さんはまだ教師やってたもんね。私の担任になる可能性だってあった訳かー。失念してた。……でも真耶さんで良かったって思うべきかな)

 

 

 真耶とは旧知の間柄だ。まさかこんな再会をするとは思っていなかったが、楓は真耶の人となりを知っている。見た目に違わず優しくて、面倒見が良い先生だ。思わずお母さん、と呼んでしまいそうになる。

 旦那さんとお子さんは元気かな、と楓が思っていると、真耶は生徒達を見渡して、手に持っている出席簿を開く。名前を確認しているのか、指で出席簿をなぞっているようだ。

 

 

「えーと、それでは出席番号順に自己紹介をして貰いましょうか? じゃあ出席番号1番の人は……」

 

 

 真耶の言葉に楓はドキリ、と心臓を跳ねさせる。ごくりと飲み下した唾は緊張によるものだろう。自己紹介ともなれば自分の名をクラスに晒さなければいけない、という事だ。

 喉がからからに渇いていくような錯覚。もう一度口の中に溜まった唾を飲み干して、自己紹介の言葉を考える。そう、出来れば目立つような事はせず、ごく普通の子だと思われるような自己紹介が出来れば反応はまだ違った物の筈だと楓は祈った。

 

 

「次は……はい、篠ノ之 楓さん」

「っ! ひゃい!」

 

 

 思いっきり噛んだ。文句なしの噛み具合である。しかも立ち上がろうとした瞬間に膝を強打し、思いっきり机が音を立てた。設置型の机故に自分の膝が痛くて涙目になる。それが嫌でも周りの注目を集めて、自分に視線が向くのがわかる。

 

 

「……篠ノ之?」

「なぁ、まさか、あの子って……」

「“あの”篠ノ之……?」

 

 

 果てにはそんな囁き声まで聞こえてくるもんだ。あぁ、と楓は思う。打ち付けた膝が痛くて、思わず天を仰いだ。

 

 

(楓さんの“普通の”学校生活、終わった……!)

 

 

 何とも間抜け。派手な失敗をしたもんだと、逆に自分に称賛の声を送りたい程だった。嬉しくとも何ともないが。そうして突っ立っていると、困ったような笑みを浮かべて真耶が自分を見ている事に楓は気付く。

 

 

「えーと、篠ノ之さん? 自己紹介してくれないと、先生困っちゃうかなー、って?」

「あ、すいません! えと……」

 

 

 もう破れかぶれだ、と楓は考える。とにかく自分らしくあろう、と。姿勢を整え、大きく息を吸って前を向く。

 

 

「篠ノ之 楓です! 趣味は天体観測で、特技は料理です! 夢は宇宙探索です! 皆さん、1年よろしくお願いします!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 世界から戦争という言葉が失われて何年経っただろうか。少なくとも私、篠ノ之 楓が生まれる少しぐらい前から戦争という言葉は世界から失われつつあった。

 戦争をしている場合ではなくなった、という世界の事情もあったのだ。それは私が生まれるよりも前、ある開発者が世界に送り出した存在が全ての切欠だった。

 

 

 ――IS<インフィニット・ストラトス>

 

 

 宇宙探索用のマルチフォームとして開発されていたISは、発表後は世界から注目される事はなかった。だって誰もがISの性能を信じる事が出来なかったのだから。

 しかしそんな人々の認識は最初のIS、“白騎士”によって起こされた“白騎士事件”によって覆される事となった。

 “白騎士事件”と呼ばれる事件の概要としては、当時の日本に数多のミサイルが発射され、日本壊滅かと思われた時、颯爽と現れた白騎士が全てのミサイルを撃墜したと言う話だ。

 そして白騎士を拿捕しようと出撃した当時の現代兵器をも圧倒し、被害はゼロという奇跡的な神話を打ち立てたISは世界に認知されるようになっていった。

 だが、あまりの性能から本来の宇宙開発への意義を忘れ、兵器化していた時代もあり、今もその名残は消し去れていない。でも、それは過去の話。

 

 

 ――“IS宣言”

 

 

 ISが本来の意義を忘れ去られた事で、長いこと世界から姿を消していた開発者によって為された宣言。

 ISのコアには意思がある、と開発者は語った。それはまだ幼い子供のような意思ではあったが、人類と共に歩む新たな種へと進化していると開発者は語った。

 事実、IS達には人間の姿を模す機能が付与され、人類と共に歩む意思と姿を世界に晒した。その際に掲げられた宣言がIS宣言。人類と共にISが歩む存在である事を、開発者自らが証明した事により、当時の兵器化が進んでいたIS達の処遇が見直されるようになった。

 それがもう10年も前の話。こうしてこのIS宣言から10年後である現在。世界はこぞって新たに生まれ来るIS達を自らの国へと招こうと自らの国を発展させている。ISを多く保有する国は、それだけで強国たり得るからだ。

 故に戦争が失われ、代わりに世界中で我先に国を盛り上げようと発展が進んでいる。IS達も釣られるように意識を改革させていき、今ではISは人類と共に発展への道を歩む友となったのだ。

 そんな訳で、騒がしくも平和になった世界。それもこれも全部、ISの開発者が起こした革命のお陰だと言っても過言では無い訳で。そしてその開発者って言うのが……。

 

 

「ねぇねぇ! 篠ノ之さん! 貴方ってもしかして“篠ノ之博士”の娘さんなの!?」

「え、えーと……私のお母さんは確かに“篠ノ之 束”だけど……」

「えぇっ!? じゃあ楓さんはやっぱり、あの“ISの母”たる篠ノ之博士のご息女なのね!?」

 

 

 まぁ、その。私の母親という訳でして。

 “ISの母”、篠ノ之 束。滅多に世に出る事がない天才的科学者。そしてIS達の保護と進化、世界の発展を願って活動する組織“ロップイヤーズ”の初代総帥。更に言えば現代の宇宙開発の第一人者とも、何とも長ったらしい肩書きがついている人物こそ、私の母親なのだ。

 私の母親が“ISの母”だとわかると、クラス中の視線が集まってくる。皆が皆、尊敬や期待、好奇心の眼差しで見つめてくる光景に息が詰まった。

 

 

(とほほ……やっぱりこうなるのね)

 

 

 クラスには引き攣った笑みを見せておき、心の中で自分が目の幅涙を流している姿を思い浮かべる。

 そう、どこへ行ってもこれだ。私はどうしても“篠ノ之 束の娘”という付加価値が付いてしまう訳で、どこへ行ってもこんな視線に晒されてしまう事が生涯の悩みと言っても過言ではない訳で。

 自分が憧れる“普通”の学生生活が遠ざかった事を自覚し、私はがっくりと肩を落とすのであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 これは天才兎が紡ぎ出した世界の未来のお話。

 夢を継ぐ者達の果て無き軌跡の物語。誰もが夢を抱く世界での1つの青春劇。

 宇宙<そら>を目指す少女、篠ノ之 楓と、彼女を取り巻く者達が紡ぎ出す新たな物語である。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。