楓と楓が連れてきたISの少女は応接間に通されていた。そこで待ちぼうけとなっていた二人。それにしても、と楓は呟きながら少女を見る。
初期化された印持ちのISには再教育の為の教官がいるものだが、彼女の教官がマリーだったと知った時は驚いたものだ。何かしら縁があるものだなぁ、と楓は思わず感心してしまう。
「まさか貴方の教育を担当したのがマリーだったなんて、狭いものだね。世間って」
「彼女にはよくして貰ってる。教育の時は厳しいが、為になる」
「あははは……。確かにマリーは煩そうだよね」
「誰が煩そうですって? 姫」
げ、と楓は呟きを零す。入り口が開き、投げかけられた姿を見せたのはマリーだ。その後ろからはアンフィニィが続いて姿を現し、ひらひらと手を振っている。
「さっきぶり。姫。さすがIS誑しだね。もうパートナーを見つけて来るなんて」
「IS誑しって……まぁ、良いですよーだ。この子を一目見て気に入ったの」
「大方、ハルさんに似てるからでしょ? 相変わらずファザコンだねぇ」
「……むぅ」
アンフィニィの言葉に楓は眉を寄せた。それでも否定をしないのは自覚があるからだろう。ジト目でアンフィニィを睨んでいた楓だったが、手を叩いて自分に注目を集めたマリーに視線が向く。
マリーは自分に視線が集まった事で、まずは楓が連れてきた少女へと視線を向ける。
「名前はもう頂きましたの?」
「まだだ。色々と考えてくれているそうだ」
「そうですか。とりあえず、おめでとうと言うべきかしら?」
「いや、適正次第では断ろうと思っている。彼女の足を引っ張るお荷物にはなりたくないからな」
「適正も傍に居続ければ、いずれは解消されるものではありますが……まぁ、それも1つの選択でしょう」
少女の返答を受けたマリーは溜息を吐いて、今度は視線を楓へと向ける。楓は笑みを浮かべてマリーに視線を返している。そんな楓の様子を見て、マリーは悪戯っぽく笑って問いかける。
「パートナーはまだ確定じゃないみたいですけど、随分と自信がありげですね」
「えへへー。多分ね。この子の心配は杞憂になるよ、きっと」
「ではその自信、確かめさせて貰いましょう。付いてらっしゃい、二人とも」
マリーの先導に合わせて応接間にいた皆が部屋を後にする。道すがら、マリーは楓に適正についての説明を補足する。
ISコアの適正には様々な項目が存在する。例えば単純な人とコアとの同調率や、ISと人との傾向による相性の良さ、ISの得意分野と搭乗者との得意分野の一致など、挙げればキリがない程だ。
しかしこれはあくまで目安でしかなく、長い時間をかけていけば解消されるものであるとされている。ISの感覚で言えば、人が占いの結果を信じるようなものだと言う。
だが、それでも互いの為と考えれば、最初から相性の良い相手を選びたいと思っても何ら不思議ではないだろう。その為の判断基準となるのが適正率のチェックである。一般的には適正チェックと呼称されている。
「適正チェックは様々な方法がありますが、分類に別けて大きく2つ。まずは人格的な相性と、ISとしての搭乗時の適正があります。前者は、一般的に今日みたいな大規模の顔合わせがメインですね。国に帰属しているISであればお見合い、という形もあるのですが……貴方たちの場合は前者は良いでしょう」
「うん。私が確認したいのは、搭乗者としての適正チェック。これには“共有領域”で教育担当の認可がいるんだよね」
「はい。ここに来た以上はわかっていると思いますが」
くすくす、と笑いながらマリーは頷いて見せる。
「ISコアは、最初は傾向は決まっていないものですが、徐々に“自我領域<パーソナル・エリア>”が固まる事で得意分野や、好む傾向が変わっていくのはご存知ですね?」
「うん。知ってるよ」
「ですが、それによって教育担当のISが同じ傾向を持つ者になる、という事までは知らないでしょう?」
「それは、初耳かな。じゃあ、この子をマリーが教育を担当したって事は……」
「はい。彼女に適正があるのは、我が“オルコット”が誇る“BT兵器”です」
BT兵器。それはオルコット・カンパニーの特色の1つである遠隔誘導型兵装である。通称“ビット”と呼ばれるこの兵装は、搭乗者に高い適正が求められる事で有名な兵器である。
他にもデュノアや、日本の“倉持技研”などでも遠隔誘導型兵装は存在しているが、精度だけを言えばオルコットには一歩譲る。それだけに優秀であり、同時に人を選ぶ兵装として見られているのだ。
一見、使用している姿が派手だと言う事も注目を浴びる事が多い。それ故、オルコット・カンパニーのIS武装は優秀であるが人を選ぶ、という評価を受ける要因ともなっている。
「ビットか。私の知り合いだとマドカさんだよね? あのびゅんびゅんって、羽根みたいに飛ばしてる奴」
「“ラーズグリーズ”ですか……。確かに我がマスターと比肩しうるBT兵器使いだとは認めますとも。えぇ」
(……あ、やば。マリー達はライバル視してたんだっけ。失敗しちゃった)
楓が知り合いの名を出すと、途端に不機嫌になり出したマリーに楓は冷や汗を流す。自分の叔母の1人であるマドカ・C・織斑。ロップイヤーズのIS機甲部隊に属する、世界の調停役として有名だ。
“織斑夫妻”と列べられ、“ラーズグリーズ”の異名を冠している。マドカの異名は彼女の姉の異名だった“ブリュンヒルデ”を準えて与えられた名前だ。
世界的にも優秀なBT兵器使いであり、羽根のようなビットを無数に扱いこなす様は正に戦乙女として、高い人気を誇っている。
楓が“高天原”で生活していた頃は良く世話をしてくれた、少し不器用で天然だけど優しい叔母だった。最後に会ったのは高天原を下船した時以来だ。元気にしているだろうか、と楓は思う。
ちなみに不機嫌になった所からわかると思うが、マリーと、マリーのマスターであるセシリアはマドカと、彼女のIS“黒羽”をライバル視している。お互い優秀なBT使いである事からか、意識しあっているのだと言う。
「まぁまぁ。今は楓とこの子の話の方が先じゃないかな? マリー」
「……そうでしたわね」
事情を知っているアンフィニィがすぐさま宥めるようにマリーを落ち着かせる。深く溜息を吐き出しながら気を落ち着かせたマリーの姿に楓とアンフィニィが揃って溜息を吐く。
気を取り直したようにマリーがわざとらしく咳きをする。さて、とマリーは楓へと視線を向け直す。引き締めたマリーの表情に、自然と楓の表情も引き締められる。
「ISは、在りようによっては強力無比な兵器となる事はご存知ですね?」
「……うん」
「今でこそ人類と歩む友として認められたISですが、一昔前は当たり前のように兵器として扱われていました。私も、アンもその例に漏れません。その形質は今でもISに受け継がれています。元々、宇宙開発が視野にあった以上、外敵との遭遇も考えればそれも1つの進化の結果とも言えますが」
そこで言葉を一度区切り、マリーは首を振る。マリーの言葉を引き継ぐようにアンフィニィが言葉を紡ぐ。
「悲しい事だけど、全ての人がISを友として受け入れてくれる訳じゃない。中にはこの力を悪用しようとする者達もいる。だからISは、人間社会で過ごす上で必要な知識を“共有領域”で学んでから旅立って行くんだよ。
自分と一緒に歩み、護ってくれるパートナーを。自分を庇護し、成長の糧をくれる国を求めて、ね。人と共に歩み、役立つ事こそが僕たちの宿願にして存在意義だからね。だから自衛の力を持つのは義務とされてる」
それは授業で真耶にも言われた事だ。楓はアンフィニィの言葉を受け止め、頷いて見せた。それは承知しているという事を示すように。
「ISは、誕生と同時に当時の現代兵器を淘汰する程の性能を秘めていました。使いようによっては人類に甚大な被害をもたらす事さえ容易いまでに。それを預かるという事の意味を、今一度考えてくださいね。楓。貴方には今更な話でも、何度でも心に留めておいてください」
「うん。わかってる」
「よろしい。では……早速、適正のチェックと参りましょう。どうします? 今のところ、この子の装備は我が社の基本モデルのままですが?」
「マリーの言う基本モデルって事は、“ティアーズ”って事だよね?」
「えぇ。我がオルコットが誇るISフレーム、“ティアーズ”ですわ。搭乗者に合わせたカスタマイズが容易な事で人気ですわよ?」
IS達のボディとなるフレームは世界各国で汎用型フレームとして様々なものが公開されている。それぞれ国の特徴が現れているフレームであり、ISコアの中には好みだからと、国からのスカウトを望むコアだっている。
イギリスはオルコット・カンパニーのISフレーム“ティアーズ”を世に送り出している。世界的にもシェアが高いフレームであり、マリーが語るように個人に合わせてのカスタマイズが容易な事で有名である。
「まぁ、その分ピーキーで人を選ぶっていうのが評判だけどね」
「お黙り、アン」
「いたっ!? い、一般的な評判を言っただけなのに……」
「んー……特に希望するフレームがある訳じゃないし、この子と相性が良いなら、そのままティアーズで良いよ」
「了解です。貴方もそれで良いかしら?」
「楓がそう言うならば、私からは特にない」
「了解です。では、着きましたよ」
マリーが向かった先で、彼女の認証を終えて扉が開いていく。進んだ先にあったのは円を描くように広大なアリーナだ。恐らくISのテストの為に用意された場所なのだろう、と楓は予想する。
「では、楓。データ取りは私達が行います。思うままに飛んでみてください」
「はーい」
マリーに言われるがままに楓はアリーナの中へと足を踏み入れる。そして振り返って未だ名無き少女へと手を伸ばす。少女は瞳を伏せ、僅かな間を置いてから楓の伸ばした手を手に取った。
「ISモード、スタンバイ。新規名称、未設定。汎用名称“ティアーズ・BTモデル”、展開を承認」
少女が呟くと同時に、光が発せられる。光に包まれた楓は瞳を閉じる。身を抱き上げるように包む感触に身を委ねる。
急激に脳裏に情報が駆けめぐっていく。まるで生まれた時から知っているように、当たり前の情報として自身に刻み込まれていく。そして目を開いたとき、世界は激変していた。
「――あははっ」
思わず笑い声を零してしまった。視線を手に落としてみれば、鋼鉄の腕が目に入る。何度か握りしめるように感触を確かめる。
一歩足を前に踏み出して、膝を曲げる。屈み込むようにして背に意識を広げる。そこにはアンロックユニットのスラスターが浮いているのがわかる。自らの意思のままに動かせると、だからこそ楓は地面を蹴り抜いた。
宙に飛び出した楓は空に身を投げ出す。アリーナの中を縦横無尽に飛び回りながら感覚を確かめ、鋭敏なものへと変じさせていく。もっと自由になれば良いと、どこか自由にならないもどかしさを感じる。
『――楓』
「行こう。飛ぼうよ。飛べるんだよ、私達」
脳裏に響く声は彼女のものだ。楓はまるで誘うように告げて、速度を上げるようにスラスターの出力を上げる。彼女の飛翔を邪魔するものなどいない、ただ隔てているアリーナの壁が少し残念に思うだけだ。
どこまでも行けそうなのに、と思う程に口惜しい。まぁ、テストなのだから仕方ない、と諦めて楓は武装のデータをコールする。現在搭載されている武装はビットのみ。まぁ、基本から何も弄っていないのであればそれも当然か、と。
『使うか?』
「試すよ。――ほら、飛んでけ!」
がちゃん、と音を立てて4つのビットが楓から離れて宙を舞った。楓もまた身を倒すように飛翔し、ビットと戯れるように飛び回る。
『……随分と器用だな』
「そう? そんなに難しい事じゃないよ?」
楓はイメージする。ビットを操る際の感覚はこのアリーナという空間に星を配置するようにイメージする。点と点を結んで星座を描くように。その軌道をなぞるようにビットを飛ばす。そう、今やこのアリーナは楓オリジナルのプラネタリウム。
自分がどこで何を見ているのか、ISのハイパーセンサーによって広がった感覚で楓は思い描くのだ。自分という星を中心として、ビットはそれを回る衛星。そうイメージすれば動かす事はそんなに難しい事じゃない、と。
そう、ただ自分を中心に世界を描いていけばいいだけ。器用、と言われても出来てしまうのだから楓にとっては不思議でしかなかった。そんな楓の心を感じ取っていたISの彼女は心底、恐ろしいものを楓に感じていた。
「……マリー? 適正率、もう出た?」
「……IS適正“S”。BT適正も“A”。まぁ、予想していましたわ。思っていたより、ティアーズとの相性も良いみたいですし。あの血筋は特化する分野になれば、化け物じみた結果を叩き出す事は目に見えていましたとも」
一方で、地上で縦横無尽に飛び回る楓とビットを目にしていたアンフィニィは隣でデータを一心不乱に集めているマリーへと声をかける。マリーは表示された空間ディスプレイを睨み付けるように見ている。
ISを動かすための肉体的資質の適正が“S”。これはあの血筋にしてこの子あり、と考えれば納得も出来る。彼女の父親も、叔母である箒も並ならぬ高適正を誇っていた事から血筋的なものなのかもしれない、と。
そしてBT兵器には適正率。BT兵器を明確に操る事の出来るイメージ力と高い空間把握能力。これがBT兵器に求められる能力だ。実際にビットを操り、その稼働率からBT適正を計る事が出来る。
世界で最も高いBT適正を持つのがマリーの主であるセシリア・オルコットと、ロップイヤーズのマドカ・C・織斑。そして楓が叩き出した適正の結果は“A”。これは現時点で既に歴代の高適正を持つ者達と並んでいる。まったく、と呆れたように二人は溜息を吐いた。
「しかし、ベーシックモデルでこれですわ。彼女専用にカスタマイズすれば……ふふ、これはマスターに連絡せねばなりませんね」
「うわぁ……セシリアさんがフロンティアに飛ぶのも時間の問題かな」
「……しかし、複雑ですわ。彼女の適正を見るからに、導き出されるISの理想型に近い機体が“コレ”なんですもの」
空中ディスプレイに表示されたのは一機のISのデータ。それを見たアンフィニィが表情を歪ませる。IS達は蓄積されたデータから類似する機体のデータを呼び出す事も出来る。そして結果、現時点で楓に最も適合する機体に近いもの。
蝶のようなスラスターとビットを備えた機体がそこに表示されていた。その姿にマリーとアンフィニィの表情が曇る。かつて相対した敵にして、呪縛に囚われていた哀れなIS。その成れの果て。
「……皮肉、というよりは運命なのでしょうね、最早。ねぇ、そうでしょう――」
――“サイレント・ゼフィルス”。
ディスプレイに表示されたその名を撫でるように触れ、マリーはかつて“姉妹機”であったISの名を小さく呟いた。
今はもう、その名を失った哀れな姉妹に、マリーは何か思いを馳せるようにそっと目を伏せた。
* * *
「――マリー! アンフィニィ! 適正どうだった?」
満足するまで飛び終わり、マリーからもデータは充分に取れた事を伝えられた楓は高度を下げていく。同時にISが解除され、楓と少女が地に降り立つ。
お疲れ様、と声をかけながらマリーとアンフィニィが楓の傍へと歩み寄ってくる。満面の笑みを浮かべて楓は二人に問いかける。そんな楓の様子に笑みを零しながらマリーは答える。
「問題なく高適正でしたわ。正直、今すぐスカウトしたい、と思うまでには」
「う、うーん。それはちょっと考えさせて貰って良いかな? 私、夢があるから! それよりも、ね! 言ったでしょ? 杞憂だって!」
「あ、あぁ……」
楓は少女の手を取って満面の笑みで微笑みかける。一方、手を取られた少女はどこか戸惑ったような表情を浮かべて楓を見ている。
「これで私と契約してくれるよね! もう名前も思いついたんだよ!」
「あら? どんな名前を思いついたんですの?」
「“ミーティア”!」
マリーの問いかけに楓は元気よく、考えた名前を告げた。あら、とマリーは笑みを浮かべる。へぇ、と感心したようにアンフィニィも声を上げる。楓に手を取られた少女は、楓が告げた名前を反芻するように呟く。
「ミーティアは流れ星を意味するんだ。ティアーズのティアって雫とか、涙って意味だよね? 流星が落ちるのって、涙が落ちるようにも見えるから良いかなー、って。どうかな?」
「……ミーティア、か」
そっと、少女は楓に握られていた手を握り返す。じっ、と、楓の瞳を覗き込むように見つめる。今までにない真剣な表情を浮かべた少女に、楓は微笑みを返す。
「……本当に、私で良いのか? 後悔しないか?」
「しない。絶対に。……貴方は、私じゃ嫌?」
「……嫌じゃない。むしろ……その名前を貰えるなら、嬉しい」
「じゃあ、決定だね! じゃあ、今から呼ぶよ? 貴方のことを、ミーティアって!」
楓が嬉しそうに名を呼ぶ。ミーティアと名付けられた少女は、僅かに唇を震わせる。一度、瞳を伏せて笑みを浮かべた。心底嬉しそうに微笑み、ミーティアは口にする。
「ありがとう、楓。本当に……出会えて良かった」
「うん!」
ミーティアからお礼の言葉を貰った楓は勢いよくミーティアを抱きしめる。突然、抱きしめられたミーティアは目を丸くするも、すぐに表情を崩して受け入れるように楓を抱きしめた。
そんな二人の光景を微笑ましそうに見守っていたマリーとアンフィニィだったが、マリーがこほん、と咳払いをして二人に歩み寄る。
「さて……楓。貴方の時間も迫っているでしょう? さっさと“契約”を交わしてしまいなさい」
「あ、そっか! そうだったね! ミーティア!」
「あぁ、わかってる」
楓は思い出したようにミーティアを離し、ミーティアに向かい合って笑いかける。ミーティアもそんな楓の様子に慣れてきたのか、笑みを浮かべて一歩、楓から距離を取る。
互いに手を伸ばせば届く距離、二人は向かい合うように立っている。すぅ、と息を吸い、ミーティアは目を閉じる。
「篠ノ之 楓。貴方に問う。今日というこの日、私達は出会い、互いにパートナーとなる事を望んだ。これに偽りは無いか?」
「うん」
「共に育ち、共に歩み、共に飛躍する事を約束出来るか?」
「約束する」
「ならば契りを交わそう。この契りが破られない限り、私は貴方の翼となり、貴方の力となり、貴方の友となる。苦楽を共にし、時に迷い、悩んで、それでも尚、貴方の手を離さずにいよう。この契りを望むならば……手を」
「はい、どうぞ」
楓は笑みを浮かべて右手を差し出す。ミーティアは目を開いて、楓の差し出された手を取る。僅かに身を掲げるようにして手を握り、その手の甲に唇を落とす。
すると、ミーティアの身体が僅かに発光する。その光が楓へと伝わり、光が二人を包み込む。発光している時間は短く、あっという間に光は霧散して消える。
「君がくれた名前に、ミーティアの名に誓おう。楓、貴方と共にある事を」
「うん。私も、篠ノ之 楓の名に誓うよ。これから一緒に歩いていこう、ミーティア」
“契約”を交わして、二人は笑い合う。新たに一組、世界に羽ばたく比翼の翼が生まれた光景を目にして、マリーとアンフィニィは顔を見合わせて笑みを浮かべ、祝福するように拍手を送った。