異世界はネカマのおっさんと共に 作:斉藤 幸助
仮想現実の世界で冒険を繰り広げるDMMORPG『ドラゴン・ファンタジア』
今も増え続ける1000種類以上に進化するドラゴンを育成し、共に冒険して戦うだけではなくドラゴンに乗ってゴールを目指すドラゴンレースやドラゴンのカッコよさ、美しさ、可愛さなどを競うドラゴンコンテストなど幅広い種類のゲームを楽しめるソフトだ。
全てのプレイヤーは誰もが同じ龍の卵を羽化させて幼龍『ベビードラゴン』を育てることから始まる。
ドラゴンはリアルタイムに対応しており、プレイヤーとの接触時間やドラゴンの生活環境によって変貌して進化する。
つまり、意図的に同じドラゴンには成長させる事が不可能なのだ。
自分だけのオリジナルドラゴンを育成し。
ライバルとなる世界中のプレイヤー達と競い合いながら、モンスターや悪人であるNPCが跳梁跋扈するファンタジーの世界を駆け回る。
このようなゲームがヒットしないはずがなかった。
発売して数日。人気は想定していた中高生の学生以外にまで広がり、マスコミの煽りを受けて異常人気にまでなった。
そして、当然の流れであるが日本以外にも世界中でリリースされ、アメリカやアジア各国でも大流行となり、発売して数年が経過した今も世界中の人々を熱狂させているのだった。
★
ドラゴン・ファンタジアの草原地帯に、二人のプレイヤーが立っていた。
カイトという名前が頭に表示されたプレイヤーである青年とキャサリンと表示された金髪の美女だ。
ここは、ゲームのプログラムによって作られた仮想現実の中である。
カイトはポケッ〇モンスターやドラ〇エなどの育成系RPGを愛する大学生で、発売初期からゲームをしているプレイヤーだった。
アバターは古参プレイヤーとは思えないほどの簡素な物で黒い軽鎧に長いズボンにロングブーツ。
後は、ドラゴンの紋章の入った指抜きグローブだけだけであり、武器の類は装備していない。
見た目は黒い髪に紅の瞳をしたイケメンだった。
そんな彼の近くに立っているのはいかにも魔導士な格好をした女性プレイヤー。
彼女のアバターは、キラキラと輝く紅の宝石が埋め込まれた首飾りに黒いマントと規制ギリギリのミニスカートを装備していた。
「こんにちは、キャサリンさん。
今日のイベントはよろしくお願いします」
「カイトさんもこんにちはでーす!私の方こそ、よろしくお願いしまーす!!」
頭を下げて挨拶をするカイトに、キャピキャピと返事をする女性プレイヤー。
彼女は動画サイト【Me tube】で活躍するドラゴン・ファンタジアの人気実況プレイヤーである。
そんな人気実況プレイヤーであるキャサリンとカイトが共に居るのは今回のイベントの為に行ったPT募集の選考で、彼がキャサリンに選ばれたからだ。
故に、これから二人はもうすぐで開始されるイベントのプレイ動画を撮影する為に集まったのだった。
「でも、あの有名なカイトさんとイベントに参加できるとは思えませんでしたよ!」
「そ、そうですか?」
口の動かないアバターから聞こえてくる可愛らしい声に、緊張しながらも照れたように返事を返すカイト。
そんなウブな反応を見せるカイトにふふふ♪と笑いながら、キャサリンは楽しそうに話を続ける。
「そうですよ!カイトさんは有名な《ドラゴン使い》ですからね!!
貴方に強化されたドラゴンはまさに最強ですから!!」
「あ、ありがとうございます!」
人気実況プレイヤーである彼女に自分が手塩にかけて育てたドラゴンを褒めてもらえた。その事実に、とても嬉しくなるカイト。
しかし、不安要素を思い出してしまい、浮かれた心は少しだけ陰ってしまう。彼にはプレイヤーとして致命的な弱点があるからだ。
当然、募集に応募する為に彼のステータスデータは彼女にメールで送ってある。だが、それでも不安に思ってしまったカイト。
彼は生放送の最中で、彼女に迷惑を掛けないようにする為、自分の致命的な弱点について報告をする為に声を掛けた。
「た、確かに、俺のドラゴンは強いです。そこには誰にも負けない絶対の自信があります。
でも、その強さに比例して俺のアバターは……」
「大丈夫です!!カイトさんのアバターはドラゴンの強化と補助を目的としたビルド構成であることは知っていますので、私が魔法で守ります!!
禁止エリアでは任せてください!!」
「そうですか……なら、安心ですね」
彼女の言葉に安堵の息を吐くカイト。
そう。カイトの職業は戦闘職でない、育成職と呼ばれる職業【ドラゴンライダー】。
ドラゴンの育成とドラゴンの操作をメインに楽しみたいプレイヤーの為に用意された上位職である。
ステータスはドラゴンを操作する為の【器用】とドラゴンのステータスを一時的に強化・補助するための魔法をに必要な【知識】と【MP】に特化している。
その為、ドラゴンが傍に居れば無類の強さを発揮させる事が出来るのだ。
しかし、この職業には致命的な弱点が存在する。アバターの【筋力】【防御】が非常に弱い上に武器や盾などを装備する事が出来ないのだ。
そして、ドラゴン・ファンタジアにはドラゴンの種族によっては先へと進む事の出来ないエリアが必ず存在している。
つまり、ドラゴンを連れて歩けない禁止エリアの中では育成職であるカイトはただのお荷物に過ぎないのだ。
「じゃあ、そろそろイベントに参加する為の登録をしましょうか!!」
「はい!」
キャサリンに励まされ、元気が出たカイト。
彼はPTのリーダーであるキャサリンの隣に並び、彼女がイベントに参加する為に必要な登録をコンソール画面で操作している姿を見守る。
(声も可愛くて、性格も優しいなんて……キャサリンはマジで最高の女性だっ!!
中の人も、きっと美人か美少女なんだろうなぁ……。そうでなくても、付き合いたいと思っちゃうよ。
これを機会にフレンド登録して、オフ会で会えないかな?
いや、ゲームの世界で知り合ったグラビアアイドルとゲームオタが結婚できた事例もあるんだ!!
これは、神様が童貞である俺にくれた人生で最大にして最高のチャンスかもしれない!!
イケるっ!!イケるって、コレっ!!イベントクリアと人生初彼女ゲットっ!!
やってやる!!絶対にこのチャンスを物にしてみせるっ!!)
カイトが、ゲーマーの意地と下心を燃やしている間にキャサリンは最後の確認ボタンをタップする。
すると、二人の目の前にイベント参加の通知画面が表示された。
『イベント【ドラゴンキングダム】の参加を確認しました。
これより、イベントを開始いたします』
数秒程だろうか?通知画面が表示された後、強い風《・・・》がカイト達の頬を撫でた。
「うおっ!なんだこれ!?もしかして、イベントの演出ですか……ね?」
突然の強風に驚いて、隣に居るキャサリンに声を掛けるカイト。
しかし、彼は隣を見た瞬間にポカンとした表情を浮かべた。
「一体何が起こったんですかね?あれ?何で、声が……」
彼が固まってしまうのも無理はない。
そこには人気実況のキャサリンの姿はなく、彼女の居たはずの場所には……。
死んだ魚の様な瞳と無精ひげを生やした……おっさんが居た。
草原を強く撫でる様に吹いた風と共にカイトの隣に現れた、謎のおっさん。
無精ヒゲに濁った黒い瞳と漆黒のマントに紅の宝石が埋め込まれた首飾り。
下半身にはボーボーのすね毛が生えた汚らしい生脚と、運営が規制するギリギリの丈で設定されたミニスカート……を履いたおっさんだ。
「カイトさん。一体何が起こったんですかね?あれ?何で、声が……。
やっべっ!!変声機が壊れた!?イベント登録の前に生放送のアプリを起動させちゃったよ!!マジでやっべっ!!
急いでログオフしないとっ!!今月の広告収入が!!」
不思議そうにカイトを見たおっさんはかなり焦った様子でコンソール画面を開こうとしている。
その姿を見て、カイトの純情な感情と表情筋が死んだ。