異世界はネカマのおっさんと共に 作:斉藤 幸助
キャサリンはネカマでおっさん。その事実はカイトの心を深く抉った。
「あー、コンソールが開かないよ。まさかのバグ?これってもう取返しが付かないよな?
絶対に炎上してるよ……。あー、炎上で視聴回数はいつも以上に稼げるかもしれないけど、その後はどうしよう。
バイトでもしようかな……」
一方。表情が死んだカイトを無視して、コンソール画面を出そうと躍起になっていたおっさんだったが、もう時は既に遅いと諦めたようだ。
そして、ここでようやく彼は気が付いた。
「にしても、やけに足元がスースーするな……って、なんじゃこりゃ!?
キャサリンのすね毛がボーボーになってるじゃねぇか!?どうなってんだよ、クソ運営!?」
ようやく自分の状況に気が付いたのか、自分の姿に驚きを見せるおっさん。
慌てた彼は、同じ境遇であるカイトに詰め寄った。
「これって……ゲームのバグじゃないよな。
だって、すげぇ感覚がリアルだし。下半身がスースーするんだよ。
って、俺ノーパンじゃん!!大事な物を履いてねぇよ!!どうしようコレ!?ねぇ!?」
緊張感がまるでないおっさんの言葉にプルプルと体を振るわせるカイト。
そして……。
「じゃあ、パンツ持ってない!?できればトランクスがいいんだけど―――」
「うるせぇよ、ネカマの変態野郎!!」
ついにキレた。
カイトはおっさんの胸倉を思いっきり掴んだ。
「ふざけんなよ、このド変態野郎っ!!返せっ!!俺の希望と夢を返せぇぇぇええ!!」
「仕方ねぇだろ!!こっちだって、生活が懸かってるんだよ!!動画配信に命を賭けてんだよ!!
それに、騙される童貞のお前が悪いんだろうがっ!!こっちはスカートの上にノーパンなんだよ!!寒い上に大事な所をブラブラさせているんだよ!!
三十にもなって、変な趣味に目覚めそうなんだよ!!」
「テメェの下半身なんて、どうでもいいんだよ!!もうヤダっ!!運営っ!!早くこの変態を垢バンしてくれぇぇぇえ!!」
草原のど真ん中で醜いケンカが繰り広げられるが、いくら時間が経過しても運営からの連絡は彼等の元には来なかった。
★
ケンカに疲れた二人は荒くなった呼吸を整えながら、冷静になってお互いの状況を確認し合う。
「なあ、おっさん。このゲームって色々と規制が入っているよな?」
「ああ。性的なモノに対する規制な。俺のキャサリンのスカートを短くするのに苦労したぜ……。
だが……」
そこで、再び強い風が二人元に届いた。
草原の緑を大きく、なびかせた風はおっさんのスカートを捲り上げた。
「まるで機能をしていないな」
「そうだな。俺の逞しいガ〇ラが丸見えだぜ」
「見栄を張るんじゃねぇよ!!おっさんの小さな汚いイチモツと、正義の怪獣であるガ〇ラを一緒にするな!!
謝れ!!空を飛ぶ亀の怪獣と、当時熱狂した平成の子供達と俺に謝れよ!!」
「うるせぇよ!!見栄じゃねよ!!ちょっと風が涼しくて縮みあがってるだけなんだよ!!
本気を出せば凄いんだよ、俺のイチモツは!!」
「お前はもう黙れよ!!テメェの汚い汚物はどうでもいいんだよ!!
重要なのは規制がまるでなくなっている事だ!!胸倉を掴んでいた、手も痛くて風も肌で感じる!!
いくらリアルが売りの仮想現実でも、痛覚の再現なんて脳にケーブルをぶっ刺していない限り出来ないはずだ!!
だが、その技術はまだ研究中で実現していない!!つまり……」
「ここは現実って事か?」
二人は出した結論に動かなくなった。ネットに慣れ親しんだ二人は自分達がどういった状況に置かれているのかを理解する。
そして、理解した二人は現実にキレた。
「どうしてくれるんだよ、俺の夢の異世界ライフ!!
ノーパンの変態と一緒に外に放り出されてから始まる物語なんて、聞いた事ねぇよ!!」
「うるせぇよ、クソガキ!!俺だって不本意なんだよ!!
なんで、ガキの頃の夢だった異世界でノーパンで女装させられなくちゃならねぇんだ!!
俺だって異世界ぐらいはカッコ良く、生きたいよ!!魔王を倒して、ドラ〇エのアリ〇ナやビア〇カみたいな美女と結婚してぇよ!!
動画配信者から勇者に転職したいんだよ!!」
天に力いっぱい吼えた二人は、ゆっくりと地面に両手と膝を付けた。
「ちくしょう……。不安定な動画配信者から勇者に転職できると思ったのに……。
なんで俺は変態に転職してんだよ……。三十のおっさんが、可愛い女の子のアバターで遊んだのがいけないのかよ……」
「こんなのってあんまりだ……。異世界だろ?なんで女装したおっさんと召喚されるんだよ。
俺だってノーパンで女装したブ〇イじゃなくて、ビア〇カやアリ〇ナと冒険したいよ……。
童貞が夢を見たら駄目なんですか?こういう異世界で定番のご都合主義やテンプレはどこ行った?」
悲しみに沈む二人。
しばらく顔を防いていた二人だったが、ゆっくりと顔を上げる。
そして、顔を上げたのが同じタイミングだったようで、お互いに顔を見合わせて最初にカイトが口を開いた。
「街に行こう」
「ああ、街に行こう」
二人は立ち上がり、お互いに向かい合う。
「短い付き合いになるかも知れないが、俺は川口 ヒロシ。
職業は動画配信者」
「俺は九頭竜《くずりゅう》 海人《かいと》。
大学生だ」
こうして、青年は帰る手段を求め……。おっさんはパンツを求め……。
街を目指す事になったのだった。