異世界はネカマのおっさんと共に   作:斉藤 幸助

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4話

 カイトが上空でシリアスに浸っている頃。川口は盗賊達を見て冷や汗を流していた。

 

 (アイツやべぇよ……。マジで装備による防御力が発揮されて居なかったら死んでたよコレ。

 そして、どうしよう……。俺、三十にもなって脱糞しちまった……。

 現実は異世界でも俺はクソだった……う〇こだけに)

 

 パラシュートなしのスカイダイビングからの頭上に降り注いだ落雷。

 二重の恐怖を短時間で味わった彼はう〇こを漏らしており、彼の近くでは危険な匂いが漂っていた。

 

 「貴方には本当に助けられました……。

 是非、お礼をさせてください」

 

 盗賊達の注目を集めた以外は何もしていない脱糞野郎を命の恩人だと思ったジョンは川口にお礼を言って近づいてくる。

 

 「い、いや!結構です!!たまたま通りがかっただけなんで!!落ちて来ただけなんで!!」  

 

 これ以上こちらに来るな!と、追いつめられた犯人の様に右手を伸ばす川口。

 バレるわけにはいかないと彼も必死である。 

 

 「い、いやいや。御謙遜なさらずとも大丈夫ですよ。

 貴方のパートナーであるドラゴンは本当に素晴らしい活躍でした。

 それに、私は商人ですので、貴方の希望に沿った報酬を渡せるかもしれませんよ」

 

 助けた人間にしてはやけに怪しい素振りを見せる川口にジョンは不信感を抱いた。

 勿論。そこに転がっている盗賊達の仲間であるとは思っては居ない。

 もし、そうであるのならば口封じの為に全員を殺して居るはずだからだ。

 ジョンが気になったのは目の前の変態が、最近多発している別の事件の関係者ではないかと言う点だ。

 彼は、目の前の変態に探りを入れる事にする。

 

 そして、川口はジョンの商人と言う言葉に反応していた。

 もしかしたら目の前の人物は自分が欲して止まない【ズボン・パンツ・トイレットペーパー】の三種の神器を持っているかもしれないと思ったからだ。

 しかし、川口にとっては非常に頼みずらい状況だった。こんな頭のイカれた格好をしているのだ。

 ズボンとパンツに関しては納得してもらえるだろう。しかし、トイレットペーパーは別だった。

 何で必要なんですか?と聞かれたら答えられる自信がない。馬鹿正直に漏らしましたと言うのは当然の如く、論外だ。

 どうやって脱糞した事実を隠し、トイレットペーパーを入手するかに脳をフル回転させる。

 

 「ところで……ご職業は何をなさっておられるのですか?

 ご恰好から察するに……男性店員が女性の恰好をして接客する夜のお店ですかな?

 あのドラゴンは相当に珍しいですが……貴方が育てたのですか?」

 

 最初に口を開いたのはやり手の商会長であるジョン。

 

 「え?えっと……何でいきなり職質??」

 

 「いえいえ、お礼をする為にも相手の身分や職業を知らなくてはならないので……」

 

 突然の質問に戸惑う川口と息をするように嘘を吐くジョン。

 その姿は商人ではなく、悪質な詐欺師の様だ。

 

 「職業は【賢者】で……。この格好は不可抗力と言うか、何と言うか……」

 

 言い辛そうにしている川口の姿にジョンの目が光る。

 

 「ほう?不可抗力ですか……。もしかして、服や装備品を販売する店で男物を試着すると破裂する不可抗力ではないですよね?」

 

 「それって、どんな不可抗力!?」

 

 ジョンは確信した。この変態は事件に関わりのある人間であると。

 彼は今、巷で人気の推理小説に登場する主人公の様であると気分を高ぶらせていた。

 

 「もう、誤魔化しても無駄ですよ。

 貴方は各地で起こっている男物の衣類を時には盗み、時には試着して衣類を破壊して回る謎の盗賊団の一味ですね!」

 

 「いや!意味わかんねぇよ!!そいつらは男物の服や装備品に何か恨みでもあんの!?

 そんな、ふざけた盗賊団なんて聞いたことも見た事もねぇよ!!

 俺をそんな変態集団と一緒にするんな!!つーか、初対面の人に失礼すぎじゃね!?」

 

 突然の言いがかりに脱糞した事を忘れて反論する川口。

 実際、彼には身に覚えのない事である。

 

 「え?どこからどう見ても変態じゃないですか」 

 

 「うぐぅ!?」

 

 本当に変態にしか見えない恰好をしている川口は一瞬で言い負かされてしまった。

 まさにぐうの音しか出ないはこの事である。

 

 「それに、その盗賊団には彗星の如く現れた。女装をした変態が数頭の強力なドラゴンを使って盗賊達をまとめたと言う話です!!

 貴方が幹部の一人なんでしょう!!」

 

 「違うから!!アレは俺のドラゴンじゃないから!!つーか特徴がざっくりし過ぎじゃね!?」

 

 最近になってようやく幼馴染を彼女に出来た名探偵のお義父さんに等しい推理力で、犯人であると決めつけるジョン。

 日頃のやり手な姿は何処へやら、完全にこのシュチュエーションに酔いしれていた。

 そして、我慢していた川口もついにキレる。

 

 「ふざけんじゃねーぞ、クソ野郎!!お望み通りにしてやるよ!!ちょっと、ズボンとパンツをよこせや!!」

 

 「ついに本性を現したな!!や、止めろ!!ズボンから手を離せっ!!

 後、なんか臭っ!?」

 

 「ちょ、ちょっと落ち着けよ!!いい年何だから……って、臭っ!?」

 

 「どうしたリーダー!?本当に臭いぞ、何だこれ!?」

 

 「は、離せ!!俺は無実だぁぁぁああ!!」

 

 護衛対象であるジョンを救う為に、ズボンにしがみつく川口を引きはがそうと近付く冒険者達は風に乗って漂ってくる悪臭に鼻をやられながらも川口を取り押さえた。

 こうして、おっさんは暴行の現行犯によって逮捕されたのだった。

 

 ★

 

 おっさんの悲鳴を聞いてシリアスから現実へと意識が戻ったカイト。

 彼は下の様子を見て、驚きの表情を浮かべた。

 

 「観念しやがれ、変態盗賊団めっ!!」

 

 「いやいやいや!?確かに俺は女装してるけど、それは誤解だってば!?」

 

 「この後に及んで嘘をつくな!!あれほどのドラゴンが貴様に育てられるわけがないだろ!!

 ドラゴンも盗んだものだな!!」

 

 必死の説得もむなしく、問答無用で拘束される哀れな川口。

 その逮捕劇を見届けたカイトは事情を聴く為に、いそいで地面に降り立った。

 

 「おおっ!助けに来てくれたのか!!」

 

 家程の大きさを持つドラゴンが下りた事で、こちらを警戒する冒険者と自分の窮地に救いに来てくれたカイトに喜色満面の笑顔を向ける川口。

 

 「この変態の仲間か?」

 

 「俺はカイト。そこに居る変態と一時的にPTを組んでいる者だが、なにやら不当な扱いを受けている様なので事情の確認にきた」

 

 「何だと?」

 

 「そう。確かにそのおっさんは女装をした変態で、顔を見えないことを良い事に純情な少年達の心を弄んで、荒稼ぎをしたクソ野郎だ!!

 だが、今回の事に関しては不幸なすれ違いによるものではないかと、俺は思っている」

 

 「お、おう。君の言っている事は詐欺被害者が犯人の余罪を暴露している様にしか聞こえないんだが?」

 

 川口を助けようとしたが、途中でネカマの件を思い出したせいで逆に追い詰める形となった。

 どうやらキャサリン事件は彼にとって、酷いトラウマになったようだ。

 

 「本当は犯人を追いつめる為に来たんじゃないかと思うんだが……結局この男は犯罪者なんじゃないか?」

 

 「そうだな……。個人的には他人を騙すネカマは死刑になればいいのに、と思っている」

 

 「ちょっとぉ!?」

 

 冒険者の言葉を肯定するかの様な返事に仰天する川口。

 寧ろ、この男は自分を嬉々として処刑台へと送ろうとしているのではなかろうか?

 

 「でも、その変態がアンタ達を助ける為に体を張ったのは本当だ。

 見た目も怪しいし、臭いし、気持ち悪し、臭いけども、ちょっとは信じてくれないか?」

 

 「うむ……」

 

 「ねぇ。なんかいい感じの雰囲気になってるけど、なんで二回も臭いっていったの?

 おっさんだから仕方がないじゃん。悲しい事実だけど、人類は加齢臭からは逃れられないんだよ」

 

 立派なドラゴンに騎乗していたカイトの言葉で冒険者はようやく折れた。

 釈然としないが、川口が依頼主と自分達冒険者を助けてくれたのは事実だ。

 盗賊団の幹部である可能性は保留にし、ひとまずは川口の拘束を解くことが決定された。

 

 

 

 

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