毒吐 作:umber
私には姉がいる。
私の前提として、私には姉がいる。
だから私は弟である。齢十八と少しだ。
リアリストを気取るにはまだまだ寒い年頃。
姉は昔父母に兄弟をせがんだらしい。
両親はそれを承諾して、私を作った。
だから私は生まれ、私は家族の一人となっている。
そのエピソードを知って、私はふと思ったのだ。
“姉がいなければ私は生まれてすらいない”
何ともありきたりな帰結だが、私にはとても大きな問題だった。
私の存在は姉ありきのもので、姉の意思がなければ私は存在できなかったという証明だった。
虚しくなった。物悲しくなった。私は自分の意思で生まれたのではないのだと、そう実感した……したにはしたが、いやいや私よ、ちょっと待って欲しい。
確かに私の存在は姉の要望により確立したものだ。ではそんな姉は誰の要望によって存在を確立されたのか、答えは言わずもがな父母だろう。
此処まで思い至り、私は“あほらし”と笑った。
勝手に虚しくなった自分には思いっきり“ばーか!”と言ってやる。どうも私の脳はよほどネガティブかつ面倒な性質なようだ。
結局そういうものだ。誰かに願われて生まれる命があったりなかったりするのだから、自分の生誕理由が他人ありきなんて殊更珍しくはないのだろう。
あーあ、こんな事を考える暇があるなら、私は課題を片付けることに専念すべきだったかな。
私はカップ麺(チリトマト味)の蓋を開ける。
電気ケトルに水を入れ、沸騰を待った。
今日のささやかなおやつだ。
時間が有り余るのは、あまりいい事ではないのかもしれない。人間は適度に忙しい程度がちょうどいいのだろう。
だってほら、現に私みたいに面倒な人間はさっきみたいに思い悩んじゃうわけなのですから、やはり考えない時間とは大事なのだろう。
煮えたったお湯をカップに入れる。
とは言えども…今の私には時間が大いにある。家庭研修期間とかいうやつで、学校に行く必要は今の所ないのだ。その結果最近生活習慣がガバガバである。
ものの見事に不健康まっしぐら。常時だるいわ身体はバキバキだわ顔色は土色だわもう散々である。そりゃ思考もネガティヴがちになる。
「…うわ」
携帯の通知音がしたので見てみると、話が長い上に我儘で、人の話を聞かず自分オンリーな癖が強すぎる学友からのメッセージだ。
画面を開き、しかしトークアプリを開かず、その通知だけひっそりと消しておいた。彼の話は私の精神に余裕があるときに聞くとしよう。
…私も大概我儘なもんである。
私はカップ麺の蓋を開け、箸を取った。
麺をすすりながら友人のメッセージにいつ返信しようかと悩みながら、変わらないチリトマトの旨さに“これだよ、これ”と頷いた。
…何だかまぁ、結局こんな有様だが、
───私は明日も生きていけるだろう。