おはよう諸君、突然だがわたしは平穏が好きだ
……いや別に戦争ではない
本当に、一番尊ぶものは『平穏』なのだ
なぜそんなことを唐突に言い出したかと言うと。
「死ねッ!」
「ギィィィィッ!」
ソーマのバスターブレードは少年時代でなおボルグ・カムランの装甲をブチ破るほどの火力を発揮していた
膂力の向上が期待出来る青年期でとなれば、アルダノーヴァ戦での決定打となるほどの火力を出すだろう
まだシオどころかエリックも戦死していない原作前の時間軸であるはずの現在でも
わたしの甲殻を破壊することなど容易いはずだ。
わたしにとっての『死』は遠いものではないけれど、だからといって
ホイホイと身を任せるようなものではない
今度こそ、死に方くらいは自分で決めたいのです!
「ぎぃァァァァッ!」
絶叫と共に跳躍し、空中に張った足場糸へと移動しつつネルスキュラのようなカサカサした動きで空中を移動して飛び降り様に角で糸を焼き切る
同時に支えを失った足場が落下し
工事現場の鉄骨さながらの勢いでソーマに迫る
これなら行けるか?
「フンッ!」
大きなバスターブレード
ノコギリ系統固有兵装、イーヴルワンが振り抜かれ、落下してきた足場糸を粉々に破壊した
アラミド繊維や有機繊維をいろいろ混ぜて硬度を高めた足場糸が丸ごとやられるなんて!
「手間を掛けさせやがって!」
「ギァァィィいッ!」
真面目にやってもこの始末☆
になるのは目に見えているので、徹底的に逃げ回っているのだけれど……
これはどうにもならなそうだ
「……ギゥォアアィイ!」
オラクルの臨界活性、普段なら絶対に使わないそれ、多少は時間を稼げるだろう
全身のオラクルを赤熱化するほどに活性させ
同時に角に熱を収束させ、そこからビーム!
「うぉぉっ!」
装甲タワーシールドを展開したソーマが熱線をはじき飛ばし、そのまま飛び込んでくる
より前に
上に跳び上がる
ソーマがタワーシールドを展開したその時
一瞬ながら視界の半分以上を失っている
その一瞬を利用して、わたしは人間の視界構造上確認しづらい上方向へと移動していた。
「チッ!どこ行きやがった!」
ソーマが見当違いの方をキョロキョロしているうちに、わたしはオラクルを活性化させ
肉体を書き換えて
「そこかっ!」
わたしのオラクル活性を感じ取ったのか、上を見上げるソーマ
でももう遅い
「
急激に加速したわたしは足を赤熱化させ、彗星の如き鋭角軌道で地面に突き刺さるような片足飛び蹴りを繰り出す
イメージはウルトラマンゼロ!
「ぅおおおっ!」
ソーマのバスターブレードが振り抜かれ、装甲が凄まじい勢いで飛び出す
バスターブレード特殊アクション
ガギイイィッ!
金属の擦れ合う音と同時に、足に伝わる激しい衝撃
受け止められた!?
「らぁぁあっ!」
体を一回転させたソーマが大振りのアッパースイングを仕掛けてくる
掬い上げるような一撃がわたしの足に直撃し、大きな音を立てて足がひしゃげた
おそらく、そう表現するのが正しいだろう
咄嗟に跳躍していなければ足を丸ごと砕かれていたことは想像に難くない
「
「俺の名前をッ!?」
通常、振り回し切った瞬間の刀身は勢いを失い、ただの重量物へと堕ちる
しかしその勢いが止まらない
凄まじい速度で振り回され、そのまま止まらずに振られ続ける
「死ね!」
「
オラクル喪失を覚悟でやられた方の片足を自切し、そのまま爆弾へと変える
しかし爆発してもソーマの勢いはなお収まらず
そのまま突っ切ってきた
もう仕方ない、死んでも……文句言わないでよね…「…ソーマ」
「俺の名前を呼ぶなァァァァッ!」
バスターブレード2番目の特殊アクション、チャージクラッシュでの大剣状オラクル噴出
ノーモーションでチャージを一瞬にして完遂したソーマが暗赤の大剣を振り落とす
その一瞬
「ダギダン……」
一言、たったそれだけが聞こえた
響いた音は激甚に、一度
爆発のような音
鋼を叩く音、ありえないはずの音
「
剣撃が、弾かれる音
「なにぃっ!?」
「
わたしの体表に展開された超硬質の生体外骨格による装甲、
ツノの剛性を反映する硬質な脚に高熱を纏い、ゴッドフィンガー(足)を発動し
さらに全身のエネルギーをかき集めての膝蹴りを叩き込む!
「
神機の装甲を丸ごと貫通するほどの勢いでの跳び膝蹴りは刻印こそ完全ではなかったものの、強力な爆発を起こし、ソーマを吹き飛ばすことに成功する
「……」
ソーマを吹き飛ばした爆発の反動直撃で吹き飛ばされつつ、わたしはオリジンフォームへと戻り、そのままソーマから離れて逃げる
見失ってくれればそれでいい
感知されてもアラガミ特有の謎高機動がある、雪山に分け入ってしまえばこっちのものだ
それにわたしは並のアラガミよりもよほど早い
シユウの全速グライドにだって追いつけるランナー、それがわたしだ
「クソッ!……見失った!」
僅かに聞こえた声にほくそえみながら
わたしはとりあえず雪の中に隠れてソーマの帰投を待つのだった